ウルトラワールド:Scramble Engage 作:おろさん
03からの続きです。
同時刻。アニメショップ・マルチバース。周辺で地鳴りが起き、足元が立て続けに響いている。
「地震……?いや、それにしては……」
O.R.は眉をひそめて、首を少し傾ける。
だが、カウンターの奥にいた2人の反応は違う。
「……嫌な予感がする。」
「と言う事は、またクレイジークロック……なんだろうけど……」
メリーの背筋に、冷たいものが走った。彼女が感じ取った悪寒は、蓮子の肌にも即座に駆け抜けた。
「気のせいかな、何かすっごくやばそうな感じが……」
「ど、どうする蓮子?真っ先に向かうべきだけど、よりにもよってまたバイト中に来たのよね……」
「で、でもまた勝手に出たらそろそろマズいような。そもそもさっき怒られたばっかりだし……」
「う……た、確かにいい加減減給の話とか出かねないけど……」
「ま、まあこういう時は真っ先にイリヤちゃん達も向かってるはずだし?一旦連絡入れてなんとか……」
引きつる笑みを浮かべたまま、蓮子は思考を打ち切ろうとする。つい先ほどまでフランの氷の視線を浴びておきながら、また平然と現場へ赴くのは、どう考えても自ら進んで嵐に飛び込むのと同じ。
「し、仕方ないから、とりあえず店長に電話する許可貰って説明を……ん?」
そう結論付けようとしたその時。店の窓を介して、向こう側の街並みを2人は見つめる。
視界の奥、明るい空を、黒いものが飛来している。およそ五つ。目を凝らすと、それはヒトデのような造形の機動兵器『トーラス』のようだ。
「れ、蓮子、アレってまさか、確か話に聞く『モビルドール』とかいう……」
「多分だけど、それっぽいような……」
冬木市に、モビルドールが飛び交う。その推測に行きついた瞬間、二人の視線が、ただ静かに絡み合う。
「・・・」
その瞬間。フランに叱られる恐怖すらも霞むような強い悪寒と、胸の内で抱いていた嫌な予感が、2人を突き動かした。
***
「れんこ、めりー、つぎは……あれ?」
数分経ち、フランが蓮子とメリーを呼ぶべく店の裏手へ立ち入る。しかし、2人の姿はない。
「まさか……」
廊下付近と、誰もいないがらんとした部屋を見渡し、彼女はひとつの事実に行き着いた。
二人はまたしても、勝手に外へ抜け出したのだと。
「・・・あーいーつーらァァァァァ!!!!」
沸点に達した怒りから、彼女の堪忍袋の緒は限界を迎えた。
ちなみにその様子を物陰からこっそりと覗き見ていたジュカインは、彼女のあまりに苛烈な怒りのオーラに、冷や汗を流しながら秘かにドン引きしていた。
*****
場所は変わって、冬木市、都市部。
「あれは……!!」
リリーナを空港へ送るため、ヴァイスは付き添いで、空港へと向かう車中にいた。
しかしその道中、ふと足元を伝う微かな振動に異変を感じ取った。窓越しに外へ視線を向けると、数体もの無人機が、こちらへ急接近していたのだ。
複数の無人機トーラスが、一斉にビームライフルを構える。その瞬間、熱を帯びた閃光がこちらへ迫る。
運転手の咄嗟の判断で直撃は回避できたが、ビームはタイヤにかすって破裂。
車は大きくブレーキ音を鳴らして、そして停止。それと同時にヴァイスは勢いよく車から跳躍し、瞬時に地面に降り立った。
「こんなところにまで追って来るなんて……!」
リリーナも後部座席から身を乗り出し、無人機たちの姿に目を凝らす。この場に展開しているソレは、5機のトーラスだけでない。
周囲に、黄色い四足歩行の無人機動兵器『バッタ』の姿まで紛れ込み、不気味に陣取っているのだ。
「モビルドールどころか、木連の無人兵器までいるなんて……こうなった以上、まずは逃走ルートを確保しなければ……!!」
リリーナを逃がすために、ヴァイスは視線を走らせた。しかし今いる場所は高速道路。とても脱出に使えそうな場所はない。
そうこうしていると、トーラスの何機かが再びビームライフルを構える。銃口が向いているのはリリーナではない。周囲にそびえるビル群だ。
様子を見るに、どうやら市民にまで牙を剥くつもりのようだ。
「なっ……ん?」
だが次の瞬間。トーラスの一機が、鋭い一閃とともに真っ二つに両断されていた。
ソレが爆ぜると、宙を舞う煙を切り裂くようにして、一人の男が地面に着地した。トラヴィスだ。
「っと……何かお偉いさんがヤバいだとか言ってたけど、マジで危ないところだったみたいだな。」
「貴方は……?」
見知らぬ男と相まみえ、ヴァイスとリリーナは困惑を隠せず首をかしげる。
「あのとき言ったでしょ、依頼の件で協力してくれる人。とりあえず今のうちに行って。」
それと同時に、その一言。いつの間にか、リーゼロッテが2人の横にぽつんと立っていた。
「あ、ああ、彼が……そういうことでしたら感謝します、リーゼロッテ殿。行きましょうドーリアン外務次官殿、こちらです!」
彼女そう呼びかけるのと同時に、ヴァイスはリリーナを誘導しつつ、足早にその場から脱した。
その様子を一瞥した後、トラヴィスとリーゼロッテは視線を前に向ける。視線の先には、トーラスやバッタなどの機動兵器が計10体。
「無人機……モビルドールと木星蜥蜴だったか?また急だな、時計頭の次は機動兵器か。つかまだあんなの残ってんのか。」
「前に押さえた闇市で、モビルドールのデータが出回ってたって話をゼニア・ヴァロフから聞いた。そういうところから量産された可能性もある……」
「マジでか……ったく、革命戦争の後でもまだ戦争したい馬鹿がいるのかよ。」
トラヴィスは呆れたように息を吐き、鬱陶しそうに頭を掻きむしりながら毒づいた。
「馬鹿?それは違うんじゃないのかいトラヴィス・タッチダウン。」
上空から、そんな声が聞こえるまでは。その瞬間、彼の顔には一段と深い呆れの色が浮かんだ。
怪しげな大きめのカプセルが、2人の目前に墜落する。やがて舞い上がっていた砂煙が収まると、その中から何かが姿を現す。
それは、全身を白い機械で覆う不気味な男。トラヴィスにとって嫌というほど見覚えのある人物の姿だった。
「おま……なんっっっでいるんだよ、デストロイマン!!」
「デストロイマン……?それって、貴方が過去に倒したっていう殺し屋……」
「ああ、何ならNH2でもシノブに切り刻まれたはずだ。」
「NH2って何……?」
リーゼロッテの困惑を余所に、未だ呆れた素振りを見せるトラヴィスの目前にいる『デストロイマン』。かつての殺し屋ランキングにて戦い倒したハズの男だ。
だがしかし。かなり様変わりしているが、今ここにいるのはデストロイマンその人。二度も葬られたと思われていた人物は平然と生きていて、何食わぬ顔で今ここに立っている。
「つーか、後ろの機動兵器はお前の仕業かよ!?人生上手くいかな過ぎてテロリストにジョブチェンジしやがったのか!」
「再会の一言がソレとは聞き捨てならないなぁ……それに、テロリストだと?ハッハッハッハ、またそんな冗談を!私は世界の悪をデストロイするために戻ってきたのだ!この無人兵器たちは、そのための手段の1つというわけさ!」
デストロイマンは、これ見よがしにポーズを決めながら、わざとらしく芝居がかった口調で語り出した。
「……あの人、遂に頭おかしくなったの?」
「俺に聞くなよ……」
当然、2人には彼が何を言っているのか、全然分からないようだが。
「リリーナ・ドーリアンは逃がしたが、まさかこんなところで君と出会うとはねぇトラヴィス・タッチダウン!それと、緋目の人形遣いのリーゼロッテ・アッヒェンバッハだったか。さぁ、正々堂々と勝負しようじゃないか!」
と、デストロイマンはゆっくりと近づいて、右手をこちら側に伸ばす。握手を要求しているようだ。
それに対するトラヴィスは、その態度に呆れを隠さない。
「しねぇよんなもん。」
トラヴィスは吐き捨てるように手を振った。
「何故だ?三度目の正直って言うじゃないか!私と君の中じゃないか、ほら、良いライバルじゃないか!」
「誰がだよ、笑わせるな。そもそも何故かシリーズ毎に復活してるだけのやつのどこがライバルなんだよ。」
「握手をしないと何も始まらないじゃないか。そもそもこっちも忙しいから、早くしてくれないと無人機を暴れさせることになるんだけれどね?」
「もうその時点で包み隠してないのが尚更信用できねぇ」
「この目を見ろ、さぁ……!」
デストロイマンと長々と会話し続けたが、引き下がる様子も無い。
「……ったく、まあいいか――」
そうため息をつきつつ、トラヴィスはその手を握る。
「よろしく頼むよ」
「があっ!!?」
その途端に、凄まじい電流『デストロイスパーク』がトラヴィスに駆け巡った。
「っーアーッハhッハhッハッハハハッハハハ!!マジか!!?マジでひっかかりやがったチョー受ける!!HAAHAHAHAHAAAA!!ああ死ぬ、笑い死ぬ!!!」
地面にへたり込んだ彼を、デストロイマンは腹を抱えて笑った。
一方のリーゼロッテは、豪く呆れたように冷ややかな視線を向けている。
「アhッハ・・・ん?あ、ああ、そう言えばすっかり忘れてたね……トラヴィス・タッチダウンは死んだ!次は貴様だ――」
「んなわけねぇだろ」
その時、彼の真後ろには、トラヴィスが立っていた。
「え」
振り返った刹那。デストロイマンの身体は真っ二つになり、そのまま爆散。あっという間に粉々になった。
「……弱すぎるぜ。」
ビーム・カタナを携えたままのトラヴィスの元に、リーゼロッテは涼しげな足取りで歩み寄る。
「後は、無人機をさっさと潰しましょう。あれくらいなら生身でも何とかなるわ。」
「まあ、それもそうだな――ん?」
未だ動きを止めたままの無人機に視線を向けた矢先、2人の背後に、再びカプセルが墜落する。それも今度は3つ。その中から姿を現したのは――
「さぁトラヴィス・タッチダウン、正々堂々と戦おう。」
全て、デストロイマンだ。しかもいずれも全く同じ外見であり、丁寧に握手まで要求している。
「増殖した……」
「マジか……ああったく、仕方ねぇ、纏めて相手してやるよ!!」
リーゼロッテはトランクの取っ手を握りしめ、トラヴィスはビーム・カタナを構える。二人は、いつでも敵を斬れる間合いに入った。
***
場所は変わり、大きな立体駐車場にて。その頃ヴァイスは、既にリリーナを安全な場所へ送り終えたところだった。
「……念のため周囲を探ったが、これ以上ドーリアン外務次官殿を追う影はなさそうだな。後の護衛は、ラーゲルクヴィスト司令官のご指示通り引き継いだ。ならば次は、残っている敵兵を――」
リリーナの護衛を部下に託した後、ヴァイスは周囲へと鋭い視線を走らせた。どうやら既に、彼女を狙う影は潜んでいないらしい。
しかし、かと言って脅威が去ったわけではない。そう警戒をした途端、背の気配を悟ったヴァイスは、滑らかな足さばきで背後へと向き直った。
「ジリリリリリッ!!」
耳に響くその声と共に、ウォークロックが10体ほど、スタスタと歩いてこちらに迫って来る。
「話に聞く時計頭……本当に現れるとは――っ!!?」
迫り来る軍隊に対し、ヴァイスは鋭く操剣を構える。しかしその瞬間、横合いから突如として飛来した何かが、横側の壁を深くえぐり爆発。
間一髪でバックステップを踏み回避した彼女の視線の先には、トーラスとバッタがそれぞれ二体ずつ佇んでいた。
「まだ無人機がいたか……そうなると分が悪い……!!」
今度は自分が危機的な状況。息をつく間もなく、ウォークロックたちが一斉に銃口を向けてきた。
その瞬間だった。
「らああああああああああっ!!!」
勢いのある掛け声と共に、ウォークロックたちの真後ろから一台のバイクが跳び上がった。
「
【UNCOVER THE SECRETS:GUARDIAN『メモリア』!!!】
そのバイクを走らせる二人……蓮子とメリー。蓮子がクロステライザーを掲げ、彼女たちが一つに重なる瞬間、指輪はめ込んで変身。
バイクことライドシューターの姿を銃形態へとスマートに収縮させると、メモリアは容赦なくウォークロックへ銃撃を浴びせた。
「間に合った……って事で良いのかしら?」
「あ、貴方は……じゃなくて、一体何者だ!聖女ではないようだが……」
状況が飲み込めず困惑するヴァイスだったが、不意に割り込んできたメモリアを警戒する。
「え?あ、そ、そこは後で説明するので……とりあえずアレ私達にとっても敵だから協力するわ!」
「は、はぁ……」
ヴァイスが釈然としない表情をしているが、メモリアはあまり気にせず撃ち始める。
その最中、飛来する一機のトーラスが、ビームライフルを此方に向けてきた瞬間だった。
「らぁっ!!!」
「消えろっ……!!」
その掛け声と同時に、上空から急襲したトラヴィスがトーラスを一刀両断。
間髪入れず、リーゼロッテが跳躍してバッタ一機に乗る。その影から現れた闇のアルカナ『ギーァ』が、巨大な顎でバッタを噛み砕いた。
すぐに駐車場のコンクリートに着地した2人は、ヴァイスに視線を向ける。
「高速道路にいた無人機を片付けたばっかだってのに、まだいやがったのか……!」
「大丈夫だった、ヴァイス?」
「リーゼロッテ殿……少々危機的状況ではありましたが、問題ありません。ドーリアン外務次官殿も避難済みです。」
「そう……でも安心するのは早い。アイツが来る。」
そんな言葉を零しながら、リーゼロッテは呆れたような流し目を向ける。
「まったく、こんなところにまで誘い込むなんてどういう了見なんだ。」
そこには、1体のデストロイマンが迫っていた。
「アレは……?」
「無人機を仕掛けて来た張本人、デストロイマンだよ。あ、俺はトラヴィス・タッチダウンな。アンタは?」
「え、わ、私はヴァイスと言います……しかし、あれが?人には見えませんが……」
「あー、それもそれで後で説明するから。」
ビーム・カタナの刃を輝かせながら、トラヴィスはヴァイスへ(デストロイマンに関しての)軽い解説を口にした。
「さぁ、追いかけっこは終わりだトラヴィス・タッチダウン……私はデストロイマン!悪の殺し屋、トラヴィスをデストロイする!!」
そんな当のデストロイマンは、ビシッとポーズを決めながら、どこかズレた大口を叩いていた。
*****
「奴を追って、日本まで来たが……まだモビルドールを使っている連中がいるか……!」
ビルの屋上に佇む、とある機動兵器。そのコックピットから、青年はその光景を見下ろしていた。
「今の世界は間違っている……だが、弱い者を戦いに巻き込む者を、俺は許さない……!」