ウルトラワールド:Scramble Engage   作:おろさん

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目覚めし伝説とワンダフル・ガールズ 02

 

 

 一方、アインツベルン邸。イリヤのベッドに腰掛けたまま、凛は話を切り替える。

 

「『守護者』っていうのは、クロスタルリング絡みで、想定外の事態が起きた時に現れる指輪のこと。そして、その指輪に選ばれた人間が変身できる戦士の総称ね。異常事態に対処して、問題になった指輪を回収するのが使命……って感じみたい」

 

「もしかして、図書館が一瞬で元に戻ったのも、怪人に巻き込まれた人たちが何事もなかったみたいに復活したのも……」

 

 思い当たったように声を上げた蓮子に対し、彼女は頷く。

 

「守護者の力の一環のようね。指輪絡みの異変を解決すると、ああいう風に元通りにされるみたい――……っ!!」

 

 説明中の凛は突然ベッドから立ち上がり、窓の外へ視線を向ける。すると携帯機器の形をしたアイテムを取り出し、思わず二度見した。

 

「……ごめんなさい。どうやら、説明はここまでね」

 

「えっ……?も、もしかして……侵蝕世怪人?」

 

 息を呑んだイリヤに顔を向け、凛は静かに頷いた。

 

「ええ。新たな『侵蝕世怪人(ワールドロイド)』が、冬木に接近しているわ。到着予測時刻は、深夜3時頃……」

 

 レーダーを見つめていた視線を蓮子とメリーに向け直し、淡々と告げる。

 

「……宇佐見さん、ハーンさん。今夜、侵蝕世怪人を待ち伏せしましょう。本当なら、無関係の人間を巻き込むわけにはいかないけど……守護者の指輪を持つ以上は手伝ってもらいたい」

 

「……わかりました!」

 

 2人は、少し考えるような表情で互いを見合わせ、静かに承諾した。

 

「……」

 

 一方のイリヤは今の話を聞いて、胸の奥が少しだけ冷たくなるのを感じていた。

 

 図書館を好き放題に荒らした、あの怪人のような存在。それがまた冬木に現れる。

 

 イリヤは、指輪を持っていない。無理に関わる必要はないし、そもそも、こんな非日常にまともに関われる自信もない。

 

 あの時点で、心の許容量はとっくに限界を超えている。ついて行けば、普通に足手まといになるだけ。仮にそうならなくても、自分に何かが出来るとは思えなかった。

 

 それでも、どうしてだろうか。

 

「(このままじゃ、ダメな気がする)」

 

 図書館の時(さっき)みたいに、あっという間に怪人を倒した蓮子さんとメリーさん。きっと、二人なら大丈夫だと頭では分かっている。

 

 だがそれはそうと。出会ったばかりの不思議な年上の二人のことを……どうしても放っておけなかった。

 

 

*****

 

 

 時が経ち、誰もが寝静まった深夜。

 

「……行こう、メリー」

 

「……ええ」

 

 丁度いいタイミングで目を覚ました蓮子とメリーは、足音を忍ばせて客室を抜け出した。玄関まで辿り着くと、そっと扉を押し開けて、二人は夜の闇へと歩き出す。

 

「(やっぱり……気になる……)」

 

 二人の背中を追うように、イリヤもそっと動き出す。

 

 忍び足で玄関へ向かうと、二人にも気づかれないよう細心の注意を払いながら、そっと扉を押し開けて外の世界へと飛び出した。

 

 

*****

 

 

 冬木市の薄暗い夜道を歩く、蓮子とメリー。

 

 そしてその後ろを、イリヤは一定の距離を保ちながら追う。

 

「(思い切って、ついてきちゃった……)」

 

 自分の行動に、彼女は今さら疑問を抱いている。

 

 来いと言われたわけでもない。 脅迫状のようなものを突き付けられたわけでもない。

 

 気になるのは確かだが、本来なら踏み込むべきではない領域のはずなのに。

 

「……ねぇ、メリー」

 

 ふと立ち止まった蓮子が、口を開いた。

 

「……言わなくても分かるわ。私たちが今いる、この世界について……でしょ?」

 

 同じくメリーは、少しだけ苦笑しながら返す。

 

「(……何の話してるんだろう?)」

 

 物陰に身を潜めながら、イリヤは耳を澄ます。

 

 蓮子は、少し言い淀みながら口を開く。

 

「……流石に、メリーも分かるよね。私たち、イリヤちゃんの家の前で倒れてて……自分の名前と、お互いの事以外、ほとんど何も思い出せなかった。それで、色々調べてみたけど……」

 

 蓮子は、渋い表情のまま言葉を継いだ。

 

「多分……ううん、明らかに。私たちは『この世界の住人』じゃない」

 

「……!?」

 

 その言葉に、イリヤは思わず息を呑む。 声が漏れそうになり、慌てて両手で口を押さえた。

 

 今の蓮子の言葉に、メリーが冷静に補足するよう会話する。

 

「指輪に限った話じゃない……冬木市を含めて、初めて知ったと感じる物事や用語、カルチャーが多すぎる。」

 

 次に、蓮子が指を折りながら挙げていく。

 

「高度な知能を持つ『メダロット』。『346プロ』や『765プロ』みたいなアイドル事務所。『聖霊』という超常的存在が見える『聖女』。それに、『四季庁』や『聖霊庁』みたいな組織。『ネルガル』という企業……」

 

 メリーも続ける。

 

「他にも、『木星蜥蜴』、『革命戦争』に『ガンダム』、『移民船団』、『オーラ・マシン』、『殺し屋ランキング』、『始祖連合国』、『トイズ』、『幻の星』、『黒い幽霊』……ネットニュースやオカルトサイトで見かけたものを含めれば、数えきれないほどあったわね」

 

「……でも私たちは、それを何一つ知らなかった。『思い出せない』というより……初めて触れる感じが、どうにも強すぎる……考えられるのは――」

 

「ここは、私たちにとって未知の世界」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

「そんな世界に迷い込んで、同時に多くの記憶を失って……

 そして、『指輪』を手に入れた」

 

「……これが、何を意味しているのか」

 

 言葉が途切れ、二人は黙り込む。 それを聞きながら、イリヤもまた、物陰で俯いていた。

 

「……とは言っても、流石に、1日目で答えが出る話でもないよね。というか、1日で起きた出来事の量が多すぎるっていうか……」

 

 沈黙を破ったのは蓮子は軽く首を振り、

 

「……まあ、今は目の前の事に集中しよっか。」

 

 その言葉にメリーは小さくため息をつきながらも、

 

「それも、そうね」

 

 そう返し、二人は凛との待ち合わせ場所へ向かっていった。

 

「(別の世界から来た……)」

 

 一方のイリヤ。

 

 その会話を聞いて、二人の存在がますます気になってしまう。

 

 悪い人たちではない……それは、間違いない。でも。

 

「(もし、本当に別の世界の人たちだとしたら……あの人たち……ううん、私たちも含めて……私が思っているより、ずっと大変な事に巻き込まれている。っていう事なのかな……)」

 

 

*****

 

 

 少しして、蓮子とメリーは待ち合わせ場所に辿り着く。

 

「……!! 待ってたわ。来てくれてありがとう」

 

 そこは、イリヤや士郎たちが通う『穂群原学園』。二人の姿を見つけると、凛はすぐに駆け寄ってきた。

 

「(うそ……ここ、学校……!!?)」

 

 思いもよらない場所に連れて来られたイリヤは、驚きつつも物陰に身を隠し、遠くから様子をうかがう。

 

 彼女の視線の先の、蓮子が周囲を見回しながら首を傾げる。

 

「ところでなんで学校の校庭なの?待ち伏せにしては、ちょっと不自然というか……」

 

 その疑問に、凛はすぐ答える。

 

「クレイジークロックの怪人たちは『時計』を媒介にしたワープが出来るみたいなの。」

 

「時計?」

 

「ええ。どういう仕組みかは知らないけど、壁掛け時計でもデジタルなやつでも、時計として成立していれば、そこから唐突に現れるわ」

 

「じゃあ、図書館の時も……」

 

「そうでしょうね。」

 

 蓮子とメリーは、興味半分、納得半分といった表情で頷く。凛はそのまま話を続けた。

 

「まあ厄介なんだけど……色々あって、敵のワープを探知する機械を作ったのよ。」

 

 そう言いながら、凛はポケットから携帯電話に似た道具を取り出し、二人に見せる。

 

「これが『クロスタルプロテクター』。

 時計塔が開発した特別な魔術礼装で、そのワープ準備の魔力反応を感知できるの」

 

「ああ、さっき取り出してたやつ。で、その反応が、この学校に集中してた、と」

 

 興味津々な蓮子に、凛は頷く。

 

「そういうこと。だから、ここで待ち伏せして叩こうって判断したわけ。ちなみにこのクロスタルプロテクター、私から見てもかなり使いやすくてね。他にも便利な機能が――」

 

 ――その時だった。

 

 校舎の時計から、『ゴーン』と古時計のような重い音が、何度も鳴り響く。

 

「あら。どうやら、お出ましのようね」

 

 一同が校舎の時計へ視線を向ける。

 

 すると、時計の文字盤が歪み、その奥から空間が裂けるようにして――大量のウォークロックが溢れ出す。

 

 そしてその先頭には、侵蝕世怪人が1体姿を現している。

 

「本当に、時計を通してワープするのね……」

 

 呆然としつつも、蓮子は侵蝕世怪人の姿に目を凝らす。

 

「……ん?」

 

 てるてる坊主と画材を無理やり混ぜ合わせたような外見の侵蝕世怪人『ヒダマリ世怪』。

 

「(あの侵蝕世怪人……どこかで……)」

 

「ギギギ……!!」

 

 警戒する二人に対し、機械音混じりの不快な唸り声が鳴り響く。

 

「相手はやる気満々みたいね。早速、始まるわよ」

 

 ウォークロックたちが、魔法の杖のような構えで銃型武器を向けてくる。

 

 凛は即座に、二人へ戦闘開始を促した。

 

「おおっと、早速来たね。……行こう、メリー」

 

「え?……ええ、そうね。早く変身を――」

 

 蓮子はクロステライザーを、メリーは指輪を取り出す。その瞬間、二人の身体が光に包まれる。

 

 右目が蓮子、左目がメリーの色をしたオッドアイ。長めのツートンカラーの髪。神官のような意匠の衣装を纏った、ひとりの少女の姿。

 

 二人は、再び融合した。

 

「そういえば……肝心の融合、どうするのかって一瞬考えたけど、意外とあっさり出来てよかったわ……」

 

 凛は少し拍子抜けしたように呟く。内心かなり安堵しているようだ。

 

 それを他所に少女は、すぐさまクロステライザーに守護者メモリアの指輪を装着する。

 

変身(エンゲージ)!!」

 

【CLAP YOUR HANDS!!!】

【UNCOVER THE SECRETS:GUARDIAN『メモリア』!!!】

 

 8bitとギター、ピアノが混ざり合った音楽に合わせ、手拍子。そうして、少女は『守護者メモリア』へと変身を遂げた。

 

「AAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

「ジキキキッ!!!」

 

 変身と同時に、ヒダマリ世怪とウォークロックたちが一斉に襲いかかってきた。

 

 ウォークロックの銃弾。 ヒダマリ世怪が放つ、魔力の込められた絵具。

 

 メモリアは右へ、左へと軽やかに身を翻し、それらを避けていく。

 

「これくらいなら……なんとか――」

 

「IEEAAAAAAAAAA!!!」

 

「っと!!」

 

 ヒダマリ世怪の放った絵具が、メモリアの足元に付着した直後、爆散する。

 

 メモリアは高跳びのような跳躍で、辛うじて爆風を回避した。

 

「危ない危ない……なんとなくそんな気はしてたけど、本当に爆発するとは」

 

「AAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 怪人たちは、間髪入れずに距離を詰めてくる。

 

「ハッ!!」

 

 その時、横合いから凛が飛び込み、ウォークロック一体を掌底で真上へ吹き飛ばした。

 

結界(プロテクト)……起動ッ!!!」

 

 クロスタルプロテクターの大きめのボタンを叩くと、校庭全体を覆うように、半透明の結界が展開される。

 

「(こ、これ……!? 周囲を守るタイプの結界……!?)」

 

 校門付近でそれを見たイリヤは、慌てて校庭へ忍び込み、近くの大きな木の陰に身を隠した。

 

 足元に転がっていた、仮面のような形の指輪に気づかないまま。

 

「り、凛さん……? 今のは、何を?」

 

 メモリアが問いかける。

 

「クロスタルプロテクターの別機能よ。周囲に魔術結界を張ったの。守護者の力で修復できるとはいえ、例外はどうしても出るからね。念には念を入れておいたってわけ」

 

「要するに心置きなく戦える、ってわけね」

 

「そういうこと! ちなみに私にも適応されるから、生身でも安心して戦えるわ」

 

 ウィンクしながら、凛は加勢する意思を示した。

 

「AAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

「ジリリリリリリリ!!!」

 

 ヒダマリ世怪とウォークロックたちが、再び絵具と銃弾を放つ。

 

「っと!!」

 

 メモリアと凛は左右に散開。結界に触れた飛び道具は、火花を散らして消滅した。

 

「今度はこっちのターン!!」

 

 迎え撃つ二人。

 

 銃身で殴りかかる攻撃をクロステライザーで受け止め、押し返す。隙を突こうとする相手には回転斬り。さらに銃弾を刀身で受け流し、逆に撃ち返す。

 

「IIII……!!!」

 

 次にヒダマリ世怪が、絵具を集め、サッカーボールほどの塊を形成した。

 

「っと……ええと。たぶん、こうね」

 

 メモリアはクロステライザーに装着されたクロステラノベルを押し込む。

 

 鼓舞するような音楽に合わせ手拍子を軽く行うと、黒と紫のバイクを思わせる銃が顕現する。

 

【『メモリアライドシューターU』!!】

 

「おお……こんなのも出せるのね。じゃあ、こんな感じで!!」

 

 左手のハンドルを捻り、エネルギーをチャージ。

 

【『メモリア』RIDER SHOOTING!!!!】

 

 ヒダマリ世怪の放つ絵具の砲弾に対し、メモリアも銃を構え、チャージショット。車輪状の弾丸が真っ直ぐ進む。

 

 衝突したエネルギーが爆風と煙を巻き起こした。

 

「A……AAAAAA!!」

 

 そのまま、メモリアの一撃が押し勝ち、ヒダマリ世怪へ直撃――

 

「待った!!!」

 

 する直前。横合いから放たれた魔法弾が、エネルギー弾に命中し、相殺された。

 

「ここからは……私も、お相手してもらいましょうか」

 

 姿を現したのは、銅色のウォークロックだった。

 

「また出てきたけど……色が違うし、喋った!?」

 

「我が名はクレイジークロック隊員『インテリー・デデーン』。」

 

 銅色のウォークロックは、芝居がかった口調で名乗る。

 

「敬愛するドクターのため、そしてクレイジークロックの野望達成のため……守護者を排除してみせましょう」

 

 そう言って、二つのアイテムを取り出す。

 

 一つは、『仮面ライダーゼロワン』のクロスタルリング。

 

 もう一つは、クロステライザーに酷似しながらも、『侵蝕世怪譚』のクロステラノベルが装着されたメタリックな武器だった。

 

「指輪と……クロステライザー!?形は大分違うけど、なんで――」

 

「これぞ侵蝕世怪人(ワールドロイド)生成装置『ワイルドライザー』……その力、見せてあげましょう。」

 

『衛星ゼア』→『ゼロワン』

『ライジングホッパーのライダモデル』

 

侵蝕生成(ワイルドクラフト)

 

 クロステライザーに似たアイテムを目にして、凛たちは驚きを隠せない。しかしインテリーと名乗る銅色のウォークロックは、それを意にも介さず、ゼロワンの指輪を『ワイルドライザー』へと装着した。

 

 次の瞬間、インテリーの身体は、禍々しいエネルギーと、モザイク状に文字化けした物体に包まれる。

 

繧シ繝ュ繝ッ繝ウ(ゼロワン)

 

 バッタに似ていなくもない、歪なシルエットの怪人。侵蝕世怪人『エーアイ世怪(ワイルド)』へと変貌したのだ。

 

侵蝕世怪人(ワールドロイド)に……変身、した……!!?」

 

「その通り。我がクレイジークロックの技術で、こう言う事も出来るのさ!!」

 

 エーアイ世怪はそう言うと、次の瞬間にはメモリアの目前へと移動していた。

 

 メモリアは咄嗟に防御態勢を取ろうとするが、反応が一瞬遅れた。

 

「っ……!!!!」

 

 アッパーカットを受け、身体が宙を舞う。それでも空中で体勢を立て直し、地面へと着地。すぐさまメモリアライドシューターUで反撃の弾丸を放つ。

 

「フフフフ……」

 

 しかしエーアイ世怪はその場から一歩も動かず、上半身をわずかに動かすだけで、すべての車輪上の弾を回避してみせた。

 

「それなりではあるが……其方の動きはすでに()()()()()した。故に、こちらの勝機!!!」

 

 その合図と同時に、ウォークロックたちが再び出現。侵蝕世怪人二体と共に一斉に攻撃。

 

 メモリアに銃弾が数発命中し、怯んだところをヒダマリ世怪の絵筆で叩きつけられる。

 

 さらに、跳ね上げられた上空から、エーアイ世怪のキックが脳天に叩き込まれた。

 

「っ……!」

 

「私にかかれば朝飯前というもの。では、終わりにしましょうか。」

 

 エーアイ世怪は、大きなダメージを受けたメモリアに接近しつつ、右脚に力を溜め始める。

 

「(こ、これ……どう考えても、完全にピンチじゃない!?)」

 

 物陰からその光景を見ていたイリヤは、思わず息を呑む。

 

「(で、でも……どうすればいいの?私が止められるわけない……けど……)」

 

「こんな……ことをやって……何を、するつもりで……っ!!!」

 

 メモリアは拘束を振りほどこうとするが、蓄積したダメージのせいで力が入らない。

 

「我らの目的、か?……フン。残念ながら、答えるわけにはいかない。」

 

 エーアイ世怪は、冷たく言い放つ。

 

「『冥土の土産に教えてやる』などというのは、敗北フラグ……故に、何も知らぬまま死んでいけ!!!!」

 

 エーアイ世怪は高く跳び上がり、メモリアへと突進を開始する。

 

「何、も……」

 

 イリヤの足は、完全にすくんでいた。このままでは、メモリアが倒されてしまう。それでも、自分には立ち向かう術が――

 

『――……―え――』

 

「……え?」

 

 その時、不意に声が、直接頭の中に響く。同時に浮かぶのは、学校の友達、先生、冬木の街の人々、そして家族の姿。

 

『戦―……―え――』

 

 彼女の思考は、その瞬間だけ、異様なほど冴えていた。

 

 記憶をほとんど失い、何も分からないままこの世界に放り込まれた、あの二人。

 

 本当は不安で仕方ないはずなのに、それでも彼女たちは、必死に立ち向かい、戦っていた。

 

 その二人が、何も知らないまま死んでしまうかもしれない。

 

 世界中の多くの人々は、今起きている事態を何も知らない。そんな人々を、何も知らない二人が守ろうとしている。

 

 では、自分はどうなのか。

 

 危険なことが起きていると、この目で見た。それを、見て見ぬふりをするのか。

 

 それで、良いのか?

 

 見て見ぬふりをすれば、セラも、リズお姉ちゃんも、お義兄ちゃんも――

 

『戦え……抗え……』

 

 良いわけが、無い。

 

「だ……め……だめ……」

 

 そして気が付けば、幼い少女は――

 

「だめええええええええええええええええええええええええっ!!!」

 

『戦え……抗え……そして――』

 

 守護者にとどめを刺そうとする化け物の、真正面へと走り出していた。

 

「えっ!?」

 

 立ちはだかるイリヤの姿に、その場にいた全員が凍りつく。

 

『そして……掴み取れ……お前自身の『願い』を、掴み取れ!!『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』よ!!!』

 

 

 

 

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