ウルトラワールド:Scramble Engage 作:おろさん
少し時間が経った頃。
「……。」
どこかのビルの屋上。くりあベンチに腰掛け、物思いにふけっていた。その手に、テニスラケットをぎゅっと握りしめたまま。
「そのテニスラケット、君の?」
「……中学の頃、母親がプレゼントしてくれたもの。」
そこに近寄って来る、鈴夜の姿を一瞥もせず、何となく来ると思ってたようにそう返す。
「……あの時ちゃんと戦ったからかな、何となくだけど、少しだけ君の事が分かったよ。覚悟は本物だけど、やっぱり無理してる。配信動画に映る君は随分と楽しそうなのに、過去の為に戦おうとしてる君は逆に辛そうだよ。」
「それは……」
「身体能力を取り戻して、どうしたいのさ。家族との復縁も考えてるのなら、あんまり感心できないし……いやまあ、アタシは家族がどうとかあんまり分からないから偉そうなことは言わないけど。でも、才能を失ったからってすぐ縁を切る家族とよりを戻したって、得でも何でもないよ」
「それを望むには、時間が経ち過ぎてる……」
「それならいいけど……それって、君が叶えようとしてる願い自体にも言えることじゃないの?」
「……。」
彼とのやり取りに、次第にくりあは返事に詰まる。
「君がテニスが好きなのは分かるよ。何度か動画見たことあるし、それでテニスゲームにかなり力入れたり、テニスを熱弁していたしさ。逆に、指輪の戦士として戦う君は、そのために戦っているように全く見えない。」
「そんなこと……」
「本当にそうなら君は今、俯いてないで真っ先に怒ってるハズだよ。」
「う……」
「敢えて何にとは言わないけどさ、やっぱり悩んでるみたいだね。それもずっと前から。」
「……うん」
そして、沈黙。
「……ちょっと待て、何故そこで沈黙するんですか」
そうなった矢先、沈黙を破るように、二人の元に千夜が現れた。
「……え、いつからいたの?」
「割と最初からです。鈴夜さんは他含め気づいていたでしょうが。」
くりあは何故かこの場所にいる千夜に対し、少々驚いた様子を見せる。
なお物陰に何名か(奏海とちとせ、ツクモwithクオン)が様子を窺っているが、くりあは全く気付いていなかった。
「……隠れて黙って聞いていましたけど、仮にも透明人間……というより透明になれる貴方が、これくらいに気づかないでどうするんですか。」
「い、いや、話してた最中なんだし……」
そうため息をつく千夜に、くりあはそう反論する。しかし千夜が続けてグイグイ問いただしてくる。
「まあ、そんな事はどうでもいいんです。貴方があまりにも無様に、尚且つ無理しているように見えたので、私も色々言いたいことが出来てしまいましたよ。」
「い、いや、別に無理なんて……」
「していますよ。話を聞いて分かりました。貴方は変化を受け入れられていないのですね。」
その言葉に、再びくりあは黙り込む。対する千夜は、こう続ける。
「指輪を得て五年間、貴方はずっとVtuberを続けてきた。そしてそれに対し生きがいと楽しさを覚えていたんですね。だからこそ、過去と板挟みになっている、そしてムキになって動いている。違いますか?」
「それは、そうかもしれない。でも、だとしても……」
「貴方は……一年前の私に、似ている所があります。失った過去に囚われて、今の変化を認めきれない。」
「……貴方も、そうなの?」
「私の場合は、正確には自棄になっていた……もっと言えば、それ故に持つことを恐れていたのですがね。私にとって、お嬢様が世界の全てだったもので、そのためだけに生きていた。ただ、当時は様々な理由から酷く焦って……そのせいで、危うく死にかけた。その後すぐにあの男……
「そう、なの?」
「ええ……ま、まあ話を戻しますが……要は贅沢なんですよ、貴方は。」
何故か照れるように一瞬視線を逸らし、不自然に咳払いを挟む千夜。すぐにいつもの澄ました顔に戻すと、改めてくりあを射抜くような視線を向けた。
「転落人生の最中で、元から綺麗な自分自身とほぼ瓜二つのモデルと名前でVtuber配信をして、瞬く間に人気になって。その上有名企業にスカウトされて、マネージャーも周囲も貴方のために尽くしてくれる……そのような奇跡のような人間が自分自身だということを、貴方は分かっていない。」
「い、いや、いやぁ、そんな大げさな……」
「大げさなら、貴方は今照れてなどありませんし、まず人気のベテラン配信者なんかになっていませんよ……まあ、確かに貴方は最初こそ、本当に才能を取り戻すつもりだったとは思います。ですが……」
千夜は言葉を区切り、こう告げた。
「……貴方は、貴方が言っている願いのために、心から笑う事は出来ているのですか?」
「えっ……」
その言葉に、くりあは再び黙り込む。ただし先程のように透明化して立ち去る事はなく、ただ座り込んで俯いていた。
「……途中から割り込ませてもらったが、お前はお前で何が言いたかったんだ?」
「まあ、そこは何と言うか……」
そんなくりあを一瞥しつつ、千夜は鈴夜に視線を向ける。
「エマージェンシー!!エマージェンシーなのです鈴にぃ!!」
その途端、地中からセンリツが慌てるように飛び出してきた。
「せ、センリツ!?そんな慌てて……いや、もしかして……!」
「そうなのです!!さっきの侵蝕世怪人が出てきおったのです!!しかもよりにもよって冬木に!今イリヤちゃんたちが、美遊ちゃんたちと合流して向かってるようなのですが……」
「……!!」
かなりあたふたしているセンリツの説明を聞き、一同の間に激震が走る。特にくりあは、激しく動揺していた。
*****
「ドコダ!!!ドコナンダアオハルウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!キサマヲコロシテワタジガサイキョウニナルノポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ慈江shxgてゅ2ン3図!!!frc戯ふん4い!”!!!」
同時刻、冬木市の工事現場。理性をとっくに手放したその怪物は、両腕の刃をぶんぶんと振り回し、あたりかまわず斬撃を乱れ飛ばしていた。
「み、見つけた!あれが……!!」
そこへイリヤが駆けつける。後から合流した蓮子とメリー、美遊も一緒だ。
「TGERWEWEFX$G%G%C$$G"C%G"V"GVXG"%"GV"GV%#ツブス!!!オモイドオリニナラマイヤツゼンブコナニスルウウウウウウウウウ!!!」
「嫉妬に囚われるあまり、テニスプレイヤーの矜持どころか人間としての己を捨て、挙句手段が目的にすり替わり、終いにはただ快楽の為に力を振るう……どうしようもないな、アレ」
喚き散らすレベルアップ世怪を一瞥しながら、コロモはハルカスと共にウォークロック数体を率いて、イリヤ達の元へと足を向けてきた。
「コロモさん……それと……」
「もう一人いる……まだ見ぬ幹部ってわけね。」
「その通り。私は『ハルカス=C=セリカアリス』。クレイジークロックの『執行人』……とでも。」
美遊と蓮子の視線の先の、灰色目の少女ハルカスは自らを名乗ってきた。
「……随分ととんでもないものに見えるけど、あの侵蝕世怪人を使って何をするつもりなの?」
「どうもこうもない。諸事情により放任されてる実験体なだけだ。」
メリーの問いかけに対し、コロモは少し鬱陶しそうに、不満混じりなため息をつきながらそう述べた。
「REZFZFQF$#XGRG$%X$G%X%!!!アハハハッハハハハハywyヒュアh1ク!!!」
「……お前達はさっさと逃げた方が良いぞ。アレはとっくのとうに戻れない境地を超えているし、下手をすればもっと取り返しのつかない事になる。」
「……嫌だって言ったら?」
真意の読めないコロモの警告に対し、イリヤは真っ直ぐ視線を返して言い放つ。
「……忠告はしたぞ。」
彩度ため息をついたコロモは、タイムスナイパーと『狩人アイズ』の指輪を取り出す。
「
【HUNTER SYSTEM『EYES』】
タイムスナイパーに指輪をはめこみ、狩人アイズへと変身。間合いを詰めようとしたその時。
「ミgチttケタタタタア!!!アオhqフエ……アオハルッックリリリ委リアアアアア!!!!」
「……そうだよ、私は此処にいる。」
レベルアップ世怪が咆哮する。その目の前には、くりあがいる。透明化を使ったのか、いつの間にかその場に佇んでいた。
「あ、あの子って、Vtuberの青春くりあだよね……って、え、というかVの中身ってやつだよね!?殆ど瓜二つなんだけど!?」
「よく分からないけど……それより、ここにいるって事は……」
イリヤや美遊が、くりあの姿を見て驚く様子を見せる。そこに、鈴夜と奏海が駆けつけてきた。
「あの、これって……」
「話せば長くなるから後で説明するけど……要するにあの子、ケジメをつけるつもりなんだ。あの子自身の、過去と因縁と。」
首を傾げるメリーに、鈴夜はそう返す。
「ニクイ……ネタマシイ……ネタマシイ!!オマエミタイナサイノウノカタマリガイルカラ!!!コッチノハードルガイッツモタカクナル……ユルセナイ……ユルセナイアアアアアアアアアアアアアアjjyzd2」hンgyf928b73イ!!!」
「……もう私には、五年前みたいな才能も栄光も無い。貴方のお陰で……しかも、暴れてクラブを壊した挙句、仲間や先生すら殺して……結局、貴方自身はテニスプレイヤーどころか人ですらなくなった。なのに今でも私を、テニスプレイヤーだった『
「ハア?ダマママアミオレ!!!ダマレダマレダミs2アm8ア2メウウェウイ!!ワタシガタダシイインダヨ!!!ンwニモシランクエニtkytッ、クチギタエルスナンzナナナナ!!」
「……活舌がぐっちゃぐちゃで、もう何言ってるのか分からないよ。」
数時間前のパニックが嘘のように、今のくりあは落ち着いてレベルアップ世界を受け入れている。だがその横顔には、どこかやり切れない複雑な感情が浮かんでいた。
「そんなに私を許せないのなら……せめて、この手でケジメをつける。」
『ライブマンの動物のエンブレム』→『レッドファルコン』
『スーパーライブロボ』
「
【CROSSTAL RING!!!】
「ユルサネネネg3jmmjcネネネエエンaeeecA!!!!」
クロステライザーに指輪をはめ込んだ瞬間、レベルアップ世怪がくりあに迫る。
「ハッ……セイッ……!!」
相手の斬撃を、くりあはクロステライザーで防ぎつつ、クラップを繰り返す。
【『ライブマン』!!!】
そして、パラレルファイター『レッドファルコン』へと変身した。
「行くよ……!!」
=登場人物・用語補足=
『白雪千夜』
出典:アイドルマスターシンデレラガールズ
346プロ所属アイドルの1人。同じく346プロアイドルになった『黒埼ちとせ』に付き添う形でアイドルになった身。
両親を喪った彼女にとって、自らを引き取った黒埼家のお嬢様であるちとせは生きる意味(同時にそれ以外に無関心な精神)だったが、ちとせ本人の寿命が長いとは言えない事を、薄々察しているように見られる(千夜自身がアイドルになったのはちとせが勧めたからだが、ちとせ自身は『自分の死後でも居場所を持てるように』という願いがある)。
担当プロデューサーの奏海の事を『お前』呼ばわりしており、割と毒を吐きがち。原作だと虚無になりたがる・自嘲気味でかなりトゲトゲしているが、本作だと(様々な事情から)初登場時点でそこら辺のネガティブ面がこれでもかなり抜けている。
アイドルになって少し経った頃の、革命戦争など様々な出来事やその裏で起きる異変の多発で内心かなり焦っていた。そのため、かなり無理をして命の危機に陥ったところを奏海に救われ、彼に本気で説教をくらった過去があるそうで、トゲトゲしさが抜け始めたのは(アイドルとしての活動もあって)その時からとされる。
パートナーポケモンは『エルレイド』。