ウルトラワールド:Scramble Engage 作:おろさん
私とメリーの2人で1人の守護者が誕生した次に、イリヤちゃんも守護者に!でもどういう条件で変身できるのアレ?謎だなぁ何というか。
だけど、肝心な事は……クロスタルリングが、本来どういう目的で使われるのか。それに、あの時呼び出せた巨大ロボ『クロステラカイザー』も気になるのよね。そこら辺が一番謎だけど……近いうちに分かるかしら?」
芸術少女ケミストリー 01
守護者や指輪を巡る一連の騒動から、約二週間が経過した頃。
「ほんっ!!」
「いだっ!!?」
剣道の掛け声のような一声と同時に、丸めた教科書で頭を軽く叩かれ、机に突っ伏していたイリヤは勢いよく顔を上げる。
「授業中に、堂々と居眠りしないようにィ!!」
「ご、ごめんなさいぃ……」
穂群原学園初等部、教室内。
授業中、うっかり眠ってしまっていたイリヤは、担任の『藤村大河』に叱責されていた。
***
「はーい、それじゃあ授業終了! 日直ー!!」
時間が流れ、昼休みのチャイムが鳴る頃。
クラスメイトたちと給食を囲み、イリヤはいつも通りの、のんびりとした時間を過ごしていた。
だが最近、イリヤは授業中に居眠りをすることが増えており、その様子はクラスでも珍しがられている。
「最近どうしたの?浮かない顔をしてるけど……」
「何か、悩み事……?」
那奈亀や美々に心配されることもあったが、本人としては明確な悩みがあるわけではない。
ただ、考え事が多くなっていただけだ。
「(改めて考えると……)」
「そんなことより、ボールをドッジしようぜ!」
コッペパンを頬張りながらそう言い出す龍子と、喋った拍子にパン屑を飛ばされて怒り、コッペパンを龍子の口に押し込もうとする雀花。
そんなその一連のやり取りに苦笑しつつ、イリヤは自然と二週間前の出来事を思い返していた。
あの時、自分は不思議な力を得て『守護者』になった。状況は今もまだ完全には理解できていない。それでも、確かに自分は、怪人を倒したのだ。
その後、すっかり平和な日常に戻った。とはいえ、あの日の出来事は、いまだにイリヤの中で整理しきれないままだった。
『事実は小説よりも奇なり』とはよく言ったものだ。
突然、空から年上のお姉さんが二人も降ってきたかと思えばどちらの記憶喪失で、図書館では車のような怪物が暴れ、義兄の同級生から規模の大きそうな話を聞かされる。
わずか二日ほどの間に、これでもかというほど情報が詰め込まれた。
特に印象に残っているのは、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが、自分たちのことを『別世界の人間なのではないか』と推測していたことだ。
突飛に思えるが、正直ありえない話とは思えない。
この世界の常識に疎いどころか、そもそも空から降ってきた時点でただ者ではない。どこかの星からやってきた宇宙人……なんて可能性もあるにしろ、二人が特殊なのは明らかだ。
そんなことを考え込んでいるイリヤを、友達は不思議そうに見つめていた。
「(あ、そう言えば……)」
ふと、イリヤは思い出す。セラの紹介で、あの二人が最近アルバイトを始めたという話だ。
その店の店長は色々と融通が利くらしく、一週間も経たないうちに働き始めていたらしい。収入も悪くなく、仕事内容も無理のないもの。
ただ一つ懸念があるとすると……そのバイト先に対し、セラが少々複雑な感情を抱いていることだった。
「(蓮子さんとメリーさん、上手くやってるかなぁ。どんな仕事してるのかも気になるけど……まあ、私も知ってる場所だし、大丈夫かなぁ)」
そう考えてイリヤは、二人の事を一旦頭の片隅に追いやった。
*****
「いらっしゃいませー!」
一方その頃、蓮子とメリーは、セラの伝手で紹介された職場でアルバイトに励んでいた。
「新発売のアクリルスタンドの予約で来た」
「漫画の新刊はどこですか」
そんな客の声に応え、商品を用意し、売り場へ案内する二人。
店内には漫画やグッズ、DVD、CD、トレーディングカードが所狭しと並んでいる。
比較的新しいアニメのポスターや、可愛らしいキャラクターの等身大パネルも目立つ。
ここはいわゆる『アニメショップ』だ。
特撮、アニメ、ゲームなど、新旧さまざまなコンテンツの商品を扱う、そこまで高さは無い。そんな冬木市にある、小規模な店『マルチバース』。
バスに乗れば数分で到着できるこの店は、イリヤも時折(リズから貰ったお小遣いを持って)訪れる場所であり、結果的にアインツベルン邸や衛宮家とも面識があった。
セラは、イリヤたちがアニメコンテンツにのめり込んでいること自体に複雑な感情を抱いており、この店への出入りにも渋い顔をしていた。
とはいえ、店長は(胡散臭さは否めないが)気配りの行き届いた人物で、履歴書すら用意できない二人のために、携帯電話や銀行口座の手配までしてくれた。そう言う感じで手回ししてくれるので、セラはこの店でのバイトが最適だと判断したのだ。
「いやはや、ちょうど人員増やしたいと思ってたところでね。何ともベストタイミングというか。」
レジで会計をしながらそう話す、青いパーカーに眼鏡の男性。『O.R.』というニックネームを名乗る彼が、この店の店長だ。
「じゃんじゃん働けやー。その分、給料はがっぽりにしてやっから」
「お客さんいる前で言う台詞じゃないと思うけど……まあ、稼ぐけどさ」
O.R.の軽口を二人は軽く受け流しながら、店内を移動し、接客や荷運びを続ける。
「てんちょー。なんか、そとがさわがしい」
カウンター裏から顔を出したのは、ピンク寄りのツインシニヨンにダウナーな雰囲気の少女。角やボルトなど変な装飾を持つ、『フラン』という名の彼女は、二人より前から働いている従業員だ。
「んあ? どうしたよ。確かに変な声は聞こえるけど――」
O.R.はそう言いながら、近くの窓から外を覗く。
「FAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
すると凄まじい騒音が、店内に流れ込んできた。
「きゅ、急に何事!?」
慌てて窓へ向かう蓮子とメリー。
「JIGAGAGAGAGAGAGA!!!!」
「のわあああああ!? 何事だ!!?」
外を見下ろして見えるのは、逃げ惑う市民を追うように暴れる、奇妙な存在。
ブロックを組み立てたような角張った身体と、ツルハシのような右腕。
「(うそ、侵蝕世怪人!? ど、どうしよう蓮子!?)」
「(お、落ち着いてメリー……とりあえず、上手い事抜け出して……)」
小声でやり取りする二人。その間にも、ケンチク世怪はブロックを生成し、無差別に投げ続けている。
「FAAAAAAAAA――」
「うるっさいなぁ、さっきから」
「GI?」
その時だった。ケンチク世怪の背後に、いつの間にか誰かが佇んでいる。
絵具やペンキで汚れた、ぶかぶかの白いアトリエコートを羽織る、赤目と緑色の髪を持った小学生ほどの背丈の少女。その少女が、気だるげに歩いてくる。
怪物を前にしても恐れる様子はなく、むしろ騒音に苛立っている様子。
「GIIII……」
「はぁ……新しいインスピレーション探しで、せっかく遠くの街まで来たのに。
まさか噂の怪物に遭遇するとはね。……まあいいや、ちょうど暇してたし」
ケンチク世怪が右腕を向ける。しかし威嚇の動作を気にせず少女は淡々と呟き、ポケットから何かを取り出す。
「えっ、あれって……!?」
窓越しに見ていた蓮子とメリーは、少女の手にある『指輪』に気付き、息を呑む。
『ケミー(レスラーG、スケボース、ライデンジ)』→『ガッチャード』
『ホッパー1とスチームライナー』
「
右手に装備された武器。『大激突パラレルファイターズ』というノベルが装填された、銀色のクロステライザー。
そこへ、指輪をはめ込む。
【CROSSTAL RING!!!】
8bitとギター音が鳴り響き、手拍子。円を描くように手を合わせ、三角形を作るポーズと同時に。
【ガッチャーンコ!】
途中で別の音声が割り込みながら、変身が完了する。
【『ガッチャード』!!!】
【スチームホッパー!】
オレンジ色の左右矢印の複眼、水色を基調とした装甲を纏う戦士『仮面ライダーガッチャード』が、そこに立っていた。
「GI……!!」
「さぁて……このぼく、『アルテ・クリープ』及び『仮面ライダーガッチャード』。
冬木市での、はつへんしーんってね」
警戒するケンチク世怪に向かって、ガッチャードへと変身した少女は、あっさりとそう名乗った。
「ガッチャード、か」
その様子を見て、客や通行人が何事かと騒然とする中。先ほどまで沈黙していたO.R.がぽつりと呟く。
「え、知ってるんですか?」
蓮子がそう尋ねると、店長は肩をすくめた。
「まあな。有名な『仮面ライダー』の一人だし。ただ、見た目は完全に『仮面ライダーガッチャード』だが、少し違うな。装着しているベルトが『ガッチャードライバー』じゃない」
その言葉を受け、蓮子とメリーはガッチャード(アルテ)の腰元に視線を向ける。
卵のような形状で、鋭い爪を思わせる手の意匠を持つバックル。
通称『ツメガバックル』守護者たちが使用しているものと、まったく同じデザインのソレが腰に巻かれている。
「(ねぇ蓮子、これって……前に凛さんが説明を省いた、あの……)」
「(指輪を手にして、競い合う人達……ってことになるね)」
察したように、小声で言葉を交わす二人。その間に、ガッチャード(アルテ)が動き出す。
「お前、指輪使って作られた怪物だって、巷の噂で聞いたけど……まあ、倒せば分かるか。れっつらごー」
驚くほど軽い調子でそう言い放ち、ケンチク世怪へと突撃する。
「NNNAAA!?」
ケンチク世怪は、恐怖を感じる様子もなく、黒く硬そうなブロックを五つ生成。
それらをツルハシで砕き、上空へと打ち上げると、隕石のようにガッチャード(アルテ)目掛けて落とす。
「早速いい素材あるじゃん」
そう言いながら、ガッチャード(アルテ)は一枚のカードを取り出す。
「『
気だるげな口調のまま、クロステライザーらしき武器に装着された指輪が光ると同時に、カードを砕かれたブロックの方へ投げる。
するとブロックはカードに吸い込まれ、ガッチャード(アルテ)の手元へ戻ってくる。
先ほどまで何も描かれていなかったカードには、隕石を思わせるキャラクターのような絵柄が浮かび上がっていた。
「あとは……そんじゃ、コレ」
対してガッチャード(アルテ)が取り出したのは、銃型武器『ガッチャージガン』。
先ほど生成したカードと、さらに取り出した別のもう二枚のカードを、銃身へスライドさせる。
【ゴキゲンメテオン!】
【ディープマリナー!】
【エナジール!】
「……バァーン」
【ガガガガッチャージバスター!】
淡々と引き金を引くと、溜め込まれたエネルギーが、ケンチク世怪のやや上空へ向けて放たれる。
放たれたエネルギーは空中で静止したかと思うと、ソレが魚雷に変形し、隕石のように射出された。
「GGIAAAAA!!??!!!」
ケンチク世怪は、慌ててブロックを作り、魚雷へ向ける。
しかし、衝突するはずだった魚雷は液状化し、ブロックをすり抜けた。そのまま魚雷は一直線に迫り、全弾命中した。
「GILTU……GIAAA!!!」
致命的なダメージを受けたケンチク世怪。地面にツルハシの先端を叩きつけ、地中へ潜ることで瞬間移動し、そのまま撤退していった。
「って……あーあ。判断早い」
変身を解き、周囲を見回すアルテ・クリープ。怪物の出現と戦闘を目の当たりにした通行人たちは、未だ騒然として彼女を見つめている。
「……記憶消去っと」
そう呟いた瞬間、ガッチャードの指輪から奇妙な光が放たれ、周囲一帯を包み込む。
「ひゃっ!?」
思わず腕で顔を覆う蓮子とメリー。再び目を開けた時には、少女の姿はどこにもなかった。
「な、なんだったんだろう……今の。……あれ?」
店の方へ視線を戻した蓮子は、首をかしげる。さっきまで騒然としていた人々が、何事もなかったかのように買い物や移動を再開していた。
「この人たち……もしかして、さっきのこと覚えてない……?」
「これは……そうなるねぇ……」
他の人々とは違い、蓮子とメリーは覚えていた。突然現れた少女が変身し、侵蝕世怪人と戦った一部始終を。
「いまの……やっぱり、ほんかくてきにうごきだした……のかな……」
――いつの間にか店の裏へ回っていたフランは、そんな言葉を紡いでいた。