Fate/Scramble U World ~秘封トラベラー・メモリアル~ 作:おろさん
「空間が……ひび割れてる……」
イリヤたちのいる場所から少し離れた、先日に流星が落ちた地帯にて。メリーは空を見つめ、そう呟いていた。
「……やっぱり、この前のユミカさんの件の影響……だよね。」
蓮子の言葉に、メリーは静かに頷く。
クレイジークロックとの激闘を潜り抜け、ソウクレイザーを幾度も撃墜してきた。
そうして集まったノベルの数に比例するように、蓮子とメリーの記憶は徐々に、且つ着実に戻り始めていた。
取り戻した記憶の一つは、メリーの目のこと。正確に言うなら、彼女の持つ『結界の境目が見える程度の能力』。それを活かし、自分たち『秘封倶楽部』が何らかの神秘……もとい幻想へと足を踏み入れる活動を行っていたこと。
そして冬木に転移して間もない頃には、メリーがわずかながらも境界を操れるようになっていた。その確かな記憶が今、二人の脳裏に刻まれていた。
やはり自分たちは違う世界の住人なのだという思いが、日を追うごとに確信へと変わっていく。そうした複雑な感情を抱えながらも、二人はただ黙々と調査を続けた。
「……あの装置自体がどういう構造なのか分からないのもそうだけど……どっちにしろ、ああいう不安定なものは、下手をすると砕けてしまいそうなのよね。」
「……小さくても?」
「小さくても。」
「やっぱりそうよねぇ……ってなると、とりあえず、イリヤちゃんや凛さん達が言ってた流星が何なのかを、先に調べた方が良いわね。」
調査が行き詰まったのを見計らい、蓮子は一旦区切りをつけてそう提案した。メリーもそれに同意して小さく頷く。
「で、イリヤちゃんはこの辺りの地面に直撃したらしいけど……」
クロスタルプロテクターに共有された計測データを頼りに茂みをかき分け進み、流星の落下地点と思われる場所へ辿り着いた二人は、周囲を見回し始めた。
「……む」
やがて視界が開け、異様なものが目に飛び込んでくる。それは、青々と生い茂る草木にはおよそ不釣り合いな、鮮やかなピンク色の物体だった。
「これまたなんだこりゃって感じの……」
恐る恐る距離を詰め、その未知の物体に指先を触れてみる。それは拍子抜けるほど、柔らかい。指を押し返してくるような、奇妙な弾力があった。
「……何か、ぷにぷにしてる。」
「ホントだなんかすごい。ちょっとクセになりそ……とりあえずどうする?引っこ抜く?」
「んー、気をつけながらやってみますか。」
話し合いを終え、蓮子は地面にめり込んでいるピンクの物体を掴むと、ぐっと力を込めて引っ張り始めた。
「……ん、あれ、何か変なとこ引っ掛かってる?思ったより抜けな――」
その瞬間だった。激しい爆発が巻き起こり、その勢いでピンクの物体がスポンと抜けると同時に、二人の身体は軽々と後方へ吹き飛ばされた。
「こ、今度は何事!?……あ、何気に抜けたけど結局なんこれ……」
「れ、蓮子、あれ……!」
メリーの指さす方角、今の爆発に吹き飛ばされるようにして、プリズマとサファイアが後退してきた。
「えっ、蓮子とメリー!?こんな所で何してるの!?というかバイトは!?」
「い、イリヤちゃんに美遊ちゃん!?な、なんか昨日凄い流星だとか何だかって聞いて気になって……バイトは今日休みだったから丁度良いかと――」
【SLASH STYLE】
「ごちゃごちゃ何話してんのよっ!!」
そうしている間にも、イリヤに似た少女が短刀を生み出し、躊躇なくこちらへ投げつけてきた。
「えっ、イリヤちゃんがもう一人……にしては褐色肌だけど、どなた!?」
「っ、下がって!!」
蓮子とメリーが驚く横で、咄嗟にサファイアがプリズマを庇うように飛び出し、短刀を激しく薙ぎ払う。
「……フフッ!!」
その隙を逃さず、少女は一気に間合いを詰めた。次の瞬間には、サファイアの両腕を掴んでいた。
「ッ――」
サファイアがその手を振り払おうとした瞬間、少女はクスっと微笑った。その瞬間だった。
チュッ
「ん”ッッ!!?(byサファイア」
「ん!?(byプリズマ」
「え?(by蓮子」
「へ?(byメリー」
少女は、唇を重ねてきた。まるで、ストローでジュースを吸い上げるかのような強引さで、こちらの呼吸を奪った。
「ふぅ……ごちそうさま。」
「あぐ」
そのまま引き離されると、サファイアの変身は強制解除され、美遊はその場にぐったりと倒れ込んだ。
「え、あ、ひおああああ!?いやちょっ、ミユー!!?しっかりしてミユー!!」
「イ……イリヤ……ごめんね……」
「NOOOOOOOOOOOO!!!?」
そのままガクリとなった美遊の姿を見て、プリズマは震えた。
「っ……よくも……よくも私と同じ顔でっ、乙女の唇を……そんなことしたら余計に誤解されるでしょーっ!!」
「え、そっち?(by蓮子&メリー」
「(そういう怒り……!?)(by美遊」
プリズマはそのまま勢いよくクロステライザーの斬撃を飛ばすが、
「へいストラーイク」
「意味ちがオウっ!!?」
野球のボールみたいに跳ね返された。
「な、何か圧されてる……というかイリヤちゃん、まさか弱くなってる!?」
「とりあえず援護――」
「邪魔しないでよ、お姉さん達は勝手が違うんだから。」
【CREATE STYLE】
少女がナックル武器のダガーを地面に突き立てると、地響きとともに硬質な装甲板が這い出し、蓮子たちの前に高く分厚い防壁を築き上げた。
「蓮子、メリーっ――」
「他人の心配してる場合っ!!?」
【『プリズマアックスセイバーU』!!!】
再び少女の凶刃がプリズマを急襲する。それをセイバーで辛うじて受け止めるプリズマだったが、このままでは押し切られてしまう。
「(ふ、普段から振るってるけど、剣って間近で見るとすっごい怖い……これを何とかしないと、だけど、何度も斬撃飛ばして弾かれるし……ん?)」
ふと、彼女は何か閃く。
「(そうだった……飛ばして駄目なら……)やぁっ!!」
セイバーをアックスモードへと変形させ、渾身の力で押し込む。激しい衝撃と共に、両者は勢いよく後退した。
「まったく、抵抗しても苦しくなるだけ!大人しくしてれば優しく殺し――」
直後、少女が浮かべていた余裕は霧散する。すでに眼前にまで、プリズマが迫っていた。
「え?」
「(飛ばして駄目なら……それだけじゃない。塊を飛ばすんじゃなくて……もっと意識して、薄く……)」
【『プリズマ』SABER BURST!!!!】
「(鋭い……刃を!!)」
魔力を宿したその刃。それは、空間ごと少女を切り裂くように突き進む。
「やばっ――」
完全に不意を突かれた少女の細い身体へ、容赦のない斬撃がまともに直撃する。次の瞬間、彼女は凄まじい衝撃とともに後方へと吹き飛んでいた。
「やった――って……」
「いったぁ……やるじゃないイリヤ。ちょっと予想外だわ」
砂煙の向こうに、少女は平然と立っていた。ダメージは与えたはずだが、斬り裂かれたのは彼女の装甲だけだった。
「え、裸っ!?……いや、効いてはいるのかな服しか斬れてないけど」
「というか、これじゃあちょっと戦えないわねぇ、残念。まあいいや、今日は貴方の頑張りに免じて、見逃してあげるわ。」
困惑するプリズマに、少女はそう言葉をかけた。
「な、何を……というか貴方結局なんなの!?薄々気づいてたけど、それ守護者の力だよね!?」
「え?……ああ、そうだったっけ。ってなると、一応戦士としての名前が必要ね……んー……ああ、そうだ。」
指を唇に当て考え込んだ少女は、こう名乗った。
「……『
裏守護者グレイル。そう名乗ったイリヤ似の少女は、微笑みながらイリヤに視線を向け、
「まあ、そんなわけだから。これからも気を抜いちゃダメよ?油断してたら殺しちゃうからね……お姉ちゃん♪」
そのまま、跳び去って行った。
「え、お姉ちゃん!?――いや、というかまずその顔と裸で街に出るなああああああああ!!!」
プリズマの必死の呼びかけをガン無視したまま。
***
「……とりあえずは、何とかなった……んだよね?」
少し経って、美遊がイリヤの元へ。イリヤは随分と疲れている様子だ。
「う、うん……でもなんか、もうすっごい疲れた……グレイルって名乗ってたけど、それだけであって何も解決してないし……」
「まあ、うん……」
イリヤはため息をつきながら、地面に座り込む。
「あーあ……かに座は今日は運勢最悪だって本当だったわー……命狙われたわけだし……」
「え……」
その言葉に、美遊は少し驚いた様子で問いかけた。
「イリヤ、かに座なの?」
「ん?うん……」
「……私も、かに座。」
「おおう……そっか、ミユも最悪だったよね……」
「う、ううん、そんなに悪くは……」
「ゑ」
そう話していると、
「おーい!」
蓮子とメリーが、二人の元へ駆けつけて来た。
「蓮子にメリー!?あ、ごめんほとんど忘れてた……」
「そういえば、さっきの壁どうしたんですか?結構面積広かったと思いますけど……」
「あ、それなんだけど……」
先程の壁をどうやって攻略したのかと首を傾げる美遊に対し、蓮子は何かを見せる。
それは、さきほど引っこ抜いたピンク色の物体。
「……ハァイ!」
その球体には、可愛らしい顔と、手足がついている。そして、意思を持っている。
「・・・え、あの、何コレ」
「よく分からないんだけど……急に動いたと思ったら、周りの木の実とかを食べて……そしたらそのあと板のいくつかを吸い込んでくれたのよ。」
「あ、そうなの?いやでもそういうことじゃなくて……」
「まあ、うん……宇宙生物よね。」
「……?」
その球体は、困惑するイリヤを見つめたかと思えば――
「あ、ど、どうもはじめ――」
「(大きく口を開ける)」
イリヤを、強い吸引力で吸い込みだした。
「え、あ、ちょ」
「待って待って待ってストップストップストッーーーーープ!!!?」
イリヤが球体に吸い込まれそうになり、美遊は必死にその手を引っ張る。一方、蓮子とメリーはどうにかして球体を止めようと、その周りで大慌てで手を尽くしていた。
真上の空に生じた亀裂が広がり始めていることに、気づかないまま。
――次回へ続く。
=NEXT=
美遊「裏守護者グレイルを名乗る、イリヤにそっくりなあの子。次はその子の捕獲大作戦を実行するわけだけど……
不思議な丸い宇宙生物に続くように、突如冬木に現れる人達。暴走するポケモン、荒廃世界のサイボーグ、そして魔法少女……!!?
様々な知らない存在、更にはかつての戦争の戦士と昆虫兵器などが現れて……挙句の果てには、新たな敵まで増えていく。一体全体何が起きるっていうの……!?
第17話『イリヤとイリヤ、世界が
・今サブタイトルの元ネタ:光戦隊マスクマン
原作第1話サブタイトル『美しき謎の逃亡者』