ウルトラワールド:Scramble Engage 作:おろさん
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夕方。アインツベルン邸。
「話を聞く限り……指輪の戦士が、冬木に現れたのね。」
窓からイリヤの部屋に入ってきていた凛は、イリヤと共に、昼間の出来事を蓮子とメリーから聞いていた。
「前に省いてた、『競う』ってことに関係してる人、だよね……」
イリヤの言葉に、凛は頷く。
「前にも少し言ったけど……クロスタルリングは、本来『持ち主同士で戦うこと』を目的に作られたものなの。そしてその理由が、『自分の願いを叶えるため』だそうよ。」
「え、それってどういう――」
思わず声を上げる三人を、「待って」と制し、凛は続ける。
「詳しい仕組みまでは分からないけど……各地に散らばった指輪を手にした人間は『パラレルファイター』となり、『願いを叶えるための契約』を結ぶことになる。パラレルファイター同士が戦い合い、勝って指輪を奪い、そしてすべての指輪を集めた者が、自分の願いを叶えられるんだと。」
「あ、じゃあ質問。そんな戦いがあちこちで起きてたら、凛さんの言ってた魔術協会とかに気付かれないんですか?」
イリヤの疑問に、凛は少し困ったように笑う。
「気づかれない事はないでしょうけど……普通そんな易々と奪えるものじゃないでしょ。それに、一連の出来事が終わると、一般人には指輪に関する記憶を消去されるケースもある話も聞くし。」
「記憶消去……じゃあ、図書館の時も、侵蝕世怪人が逃げた時にも……」
「とりあえず……その、アルテさん……だっけ?クレイジークロックとも戦ってくれそうだし、協力してくれたり――」
「……それなんだけど、そうもいかないと思うわよ。」
続けてそう言ったイリヤに、凛は少し苦い表情で遮った。
「指輪の戦士同士はライバル同士。守護者だって、指輪の力の悪用を防ぐための『抑止力』であると同時に、指輪の戦士にとっては競争相手でもある。人によっては、意地でも指輪を奪いに来る可能性があるわ。」
「あー……そっか。侵蝕世怪人を倒して指輪を手に入れるわけだし、結果的に指輪をたくさん手に入れることになるから……」
「それぞれ理由があって、『願い』を叶えたい人達からすれば、守護者は厄介な存在なのよ」
その説明を聞きながら、蓮子は手元の『炎神戦隊ゴーオンジャー』と『ひだまりスケッチ』の指輪を見つめ、静かに納得していた。
「クレイジークロックが割り込んで、指輪を無理やり奪い始めたから、私達が守護者になって……でも、侵蝕世怪人を倒すから指輪を手に入れることになるし……」
イリヤもまた、『わんだふるぷりきゅあ!』と『仮面ライダーゼロワン』の指輪を見つめる。
願いを叶えるために集められるクロスタルリング。
それを奪われるということは、戦いから脱落するだけでなく、指輪の力で願いを叶える資格を失うことでもある。
願いを叶えるには、すべての指輪が必要。つまり、クレイジークロックが奪った指輪も、守護者が回収した指輪も、いずれは争奪の対象になる。
要するに、クレイジークロックも守護者も、指輪争奪戦に関わっている点では大差ないのだ。
「……とりあえず、全員が協力してくれる、なんて考えは捨てておきなさい。アルテって子がどう出るかは分からないけど……どちらにしても、軽々しく指輪を使わない方が良いと思うわ。」
***
凛に何度も念を押されてから、約1時間後。夕食の時間になった頃だった。
「ただいまー」
学校から帰ってきた士郎を、玄関でセラが出迎えている。イリヤはリビングから顔を出し、その様子を見ていた。
「お帰りなさい、士郎さん。ちょうど夕飯が出来ましたよ」
「お兄ちゃん、おかえり!」
「ああ。ただいま。思ったより遅くなるかと思ったけど、ちょうどいいタイミングだったかな。……あ、そうそう。明日の課外学習のことなんだけど。」
そう言いながら、士郎は鞄から一枚のチラシを取り出してひらりと見せる。
「あら、これは……?」
「有名な芸術家が急に来日したらしくてさ。その人の絵が、急遽明日行く美術展で展示されるらしいんだ」
「芸術家……あら、本当に有名な方ではありませんか。イリヤさんと同じくらいの年齢で、しかも絵の才能が桁違いだと評判の……」
「そんなにすごい人なの?どんな人なんだろ」
チラシに載っている顔写真を見て、思わず声を上げるセラ。その様子が気になり、イリヤもチラシを覗き込む。
写真に写っているのは、赤みがかった瞳に、緑を基調とした髪色の少女。
小学生ほどの背丈に見えるその人物。
「『アルテ・クリープ』……本当に私と同い年くらい……ん?『アルテ』?」
その名前を見た瞬間、イリヤは何度も顔写真と名前を交互に見比べる。
「イリヤ?どうかしたのか――」
「えっ!?い、いや、何でもない何でもない!あ、ちょっと夕飯のこと、蓮子さんとメリーさんに伝えてくる!!」
士郎の問いかけを遮るようにそう言うと、イリヤはチラシを持って、慌てた様子で二階へと駆け上がっていった。
「お、おい、チラシ後で返せよー?……急にどうしたんだ?」
首をかしげる士郎。その背後で、セラが小さくため息をつく。
「最近のイリヤさん、何か隠しているように見えるのです。学校でも居眠りが多いと聞きますし……それに、いつの間にかあの二人にも、ため口で……」
「ま、まあ、その年頃になれば、色々あるんじゃないか?」
そんな彼女に呑気にそう返す士郎だったが、
「そういうお年頃にしてもです!最近は『すいっちつー』だとか『さぶすく』だとか、すっかり俗世に染まってしまって……このままでは、留守を任せてくださった奥様方に顔向けが出来ません!」
「え、いや、そこまで気にしなくても――」
「何を無責任な!!大体、義理とはいえ兄である貴方が、きちんとしていないからこんな事になるのです!!」
「え、俺!?いや、何で急にそんな話に……」
「そもそも、貴方は私の家事まで全部やってしまうではありませんか!そんな事をされては、私の立場が完全になくなってしまいま――」
セラは勢いそのままに士郎へ詰め寄り、半ば泣きながら延々と小言を続けていく。
「……セラ、ご飯、冷めちゃうけど大丈夫?」
そんな二人のやり取りを、リズはリビングからひょっこり顔を出してそう呟いた。
*****
場所も分からぬ、奇妙な空間。繫華街のようなその場所の周囲には、様々な技術で組み立てられたと思しき装置や残骸が無秩序に並んでいる。
「BURURURURURURURRRRRR!!!」
ドクター・エビテンは、ケンチク世怪の再構築を行っていた。
一度完全に分解し、クロスタルリングを抽出。それをワイルドライザーにもう一度装着し、組み上げ直すという手法である。
「まったく……作製して早々、深手を負わされるとはな。だがまあいい。以前から目を付けていた指輪の契約者が冬木に来ただけでも収穫だ。」
「『アルテ・クリープ』。フランス人。小学生にして突出した絵の才能を持つ天才芸術家であり、指輪の戦士『仮面ライダーガッチャード』」
低く呟きながら作業を続けている彼の元に、ある人物が歩み寄ってくる。
「風景画、人物画を問わず名作揃い。私も彼女の絵は大好きですよ。……で、能力的にも厄介そうですが、侵蝕世怪人とは相性が悪そうですね。その辺りの対策は?」
「対策済みだ。気になるなら、実際に見た方が早い……で、久々に出てきたと思えば、何の用だ。『瑠璃川ダイヤ』」
エビテンはちらりと視線を向けた先にいるのは、白いニット帽にパーカーが特徴的で、長い金髪と紫の瞳を持つ青年。『瑠璃川ダイヤ』は、不敵な笑みを浮かべる。
「何の用も何も。私も一応、クレイジークロックの一員ですから。顔を出すくらい、悪くはないでしょう?」
「裏で何をやっているか分からん奴が、このタイミングで現れて冷やかし、というわけでもあるまい」
「簡潔に言いますよ。ドクター・ベノディアが引き入れた21号――目処が立ったので『ナメック星』に向かいました」
「……ナメック星、か。十中八九、あの願望機だな」
「普通に『ドラゴンボール』って言ってもいいんじゃないですか?どうして貴方、そういう物を一括りに『願望機』って呼ぶんです?」
「気にすることでもない。願いが叶えば、それは願望機でしかない」
「……そんなものですかねぇ」
「それより、お前自身の件はどうだ。アイツらは今どうしてる。」
「ああ、そこも問題なく。元気に仕事してくれてますよ。報告書もあります。」
そう言って差し出された研究資料に、エビテンは目を通す。
「……こっちからすれば複雑な気分だが……まあ、彼女らが決めた事だ。小言を言う筋合いも無い。」
「そういうわけなので、私も失礼します。まだまだ試したい事も沢山ありますからね。」
そう告げたダイヤがその場を後にしてすぐ、エビテンは資料を読み返しながら、何かを思案するように黙り込む。
「……さて、お前は行け」
「GGIAAA!!!」
命令を受けたケンチク世怪は、生成されたワープホールへと吸い込まれていった。
「私も私で、次の準備を進めるとするか」
そう呟き、彼もまた、その場を後にした。
*****
翌日の土曜日。冬木市で開催されている美術展会場にて。
穂群原学園高等部の生徒たちは課外学習の一環として集まり、展示された絵画や彫刻といった美術品をそれぞれ鑑賞していた。
「(アルテ・クリープが来て、作品の公開が始まるのは……確か昼頃だったわよね……)」
「お、遠坂」
同じく穂群原学園に通うため、課外学習に参加している凛。美術品を眺めながら、アルテ・クリープの来館予定時刻を頭の中で確認していた。そんな彼女に声をかけてきたのは士郎だ。
「お前も、今日来るっていうアルテって子が目当てか?」
「……って、士郎じゃない。まあ、そんなところかしら。有名な芸術家が突然冬木に来たって聞いたら、気になるのも普通でしょ?それにしても、ここも随分独特な作品が並び始め――え?」
話を合わせつつ、凛は何気なく周囲を見回す。するとその時だった。
「(・-・|」
「(・v・|」
「(・m・|」
視線を感じて目を向けると、そこにはこっそりとこちらを見ている三人の姿が見える。
言うまでもなく、宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーン、そしてイリヤである。
「ん?どうしたんだ、遠坂――」
「え?あ、い、いやいや、何でもないわよ何でも!ほら、あっちとかも良さそうじゃない?おほほほほ」
「え、な、何だよ急に」
一瞬固まっていた凛だったが、士郎が三人の存在に気づきそうになったため、我に返って全力で士郎の背中を押し、別の展示エリアへと強引に移動する。
「(ちょっとちょっとちょっと!?何であいつら普通にいるのよ!?それに、あの二人はバイト中のはずじゃ――……あっ)」
不自然さに首をかしげかけたところで、凛は昨夜の出来事を思い出す。
―――
『……ああ、そうそう。指輪で思い出したけど、これ』
クロスタルリングやパラレルファイターに関する忠告を一通り終えた後、凛はもう一つ、指輪を取り出していた。
『あら、またクロスタルリング?……持ってたのって、わんぷりのだけじゃなかったのね』
『別に、時計塔で倒した侵蝕世怪人が一体だけとは言ってないもの。まあ、それでもこれで全部なんだけど……どっちにしろ、私には使えないものだったしあげるわ。ちなみにこれを元にした侵蝕世怪人も、倒すのは苦労したみたいよ。何しろ、『宝石から分身を作る能力』を使ってきたみたいで――』
―――
「(アレだー!!絶対あの指輪の力を使って、バイト抜け出してきたでしょこの感じだと!!いや、侵蝕世怪人が出た時に行動しやすくなるのは便利だけど!というか、明らかにアルテ・クリープ目当てじゃない!?安易に近づくなって言ったのに!!?)」
「と、遠坂?おーい、遠坂ー?」
どうやら、凛が渡した指輪の力で、蓮子とメリーはバイトを抜け出せたらしい。イリヤに関しては、大方セラに「マルチバースに行ってくる」とでも言ったのだろう。
三人の行動を察して、完全に渡すタイミングを間違えた、という感じで頭を抱える凛。一方の士郎は、理由も分からないまま背中を押され続けられるのであった。