不死(弱)の転生者が頑張って生きているだけのお話。

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旅は続く

 まず目が覚めて、浮遊感を感じた。

 なんだなんだと、驚いて、次に首が動かないのに気付き、その後手足が丸っこくなったのに気付いて、

 最後に自分が今落ちているというのを理解した。

 

 学校に行って、教室で謎の光を浴びたら次の瞬間にはこの始末。

 自分が一体何をしたというのか。

 ある意味で「夢のような状況」に俺は涙を流し、運命を呪った。

 あわやもう直ぐ潰れたトマトになるというところで、突如飛来したカモメみたいな鳥に攫われる事で九死に一生を得た。

 

 なんて幸運助かった。

 と思ったのも束の間、鳥は何処までも飛んでしまって、気付いたら海にいた。

 それまで何があっても離さなかった鳥はそこで自分を手放しおって、海にダイブ、今度こそ終わったかと思ったが、驚くことなかれ、自分は生き残ったのだ。

 

 いやまあ、自分でも驚いたよ。

 だって溺れないし腹が減らないんだもん。

 ここまでくると流石に色々おかしいだろとは考えだすのだけど、しかしどうする事も出来ないので、ひたすら雲を眺めては暫く海を漂っていた。

 

 波に流され、嵐に襲われ、鯨に食べられて。

 それでもなんでか生き延びて、最終的にどこかの海岸に流れ着いた。

 助かったこれで自由だ、とはならない。

 なにしろこの時の自分は生後幾らかの赤ん坊。

 あんよが上手すら出来ない生きた置物である。

 餓死や低体温症とかで死ぬ事もないので、何も出来ないまま、大体3日くらい干物になっていると、ようやく誰かが通りかかって、そのまま施設に引き取られる事になった。

 ここまでが自分の幼年期。

 

 かくして自分は引き取られ、名を「カイン」と名付けられ育てられました。

 施設の人達は優しくて、そこまでお金があった訳じゃないけれど、みんな笑顔で健やかに暮らす良い場所で、実際自分もめちゃくちゃ世話になったし、第二の実家だとも思ってる。

 その実家燃えて無くなっちゃったけど。

 

 14の時に施設は火事で消滅。

 家族は自分を除いて全滅……なんてことは無く全員生還。

 頑張って救助しましたよ。

 命は助かったけど、それは言い換えれば宿無し職なしの大量発生ということでもある。

 うちの施設は個人運営かつ、前述の通り金がない。

 建て直すのはもってのほか養う事さえも厳しいという現状。

 働けるのは施設運営者であるシスターさんを除けば自分くらい。

 という訳で齢14にして働く事になったのです。

 

 働く、と一口に言っても学も力もないガキを誰が雇いたいんだという話。

 背に腹は変えられないと一発奮起して冒険者になるも収入が安定しないわ出来る仕事が少ないわでうまくいかない。

 そもそも冒険者で稼げるのはごく一部のみで、それ以外は生活費に消えていくのだとか。

 このままだと施設の再建設が出来る頃には皆お爺ちゃんになってしまうと頭悩まして一年と少し、それなりに名前が通り始めたのか、とある場所からスカウトが来た。

 

『火山に落ちたのに、死ななかった冒険者がいると聞いたのだが』

 

 ってのが初対面時の台詞、この時点でもう怪しさが溢れんばかりだが、この頃には自分に何かしらの力があって、何やっても死ねないというのがわかってたし、割と安請け合いでスカウトに乗った。

 かくして自分は未開拓地や古代の遺跡等を探検する『開拓員』となったのだ。

『開拓員』というの誰かに言う時に分かりやすく理解してもらうためのあだ名みたいなもの、実際の名称は無駄に長いから『開拓員』で通してる。

 環境は良いか悪いかで言えばゲロカスだが収入が良いので長続きしている。

 これが「カイン・ハルモニクス」の半生だ。

 もう他に話す事なんてないし、開示できる情報もない。

 だから、そろそろこの縄を解いていただけないだろうか? 

 

 ◇

 

 両手両足を縄で拘束された状態で、カインはそう懇願するが、その言葉が聞きいられる事はない。

 彼の眼前には部族的衣装をした少女が立っている。背格好からカインと年齢はそこまで遠くないだろう。

 

「jehcrdixwvbyusnx!」

 

 話し相手の少女はそう答えるが、カインにはその言葉が何を意味するのかはまるで理解出来ない。

 何しろ少女が話すのはこの大陸の言語でも、ましてや地球の言語でもない。

 彼女達はナベフ族と呼ばれる未開の民だ。

 アステリオン大陸の南側に位置する『熱森林』と呼ばれる地帯に生息している。

 カインは森林開発の一環として調査に繰り出されては、調査の途中にてナベフ族の襲撃を受け、今に至る。

 

「ははっ何言ってるかわかんねー」

 

 ある種舐めた様子で少女を眺めるカインであるが、現状脱走する術を持ち合わせていない。

 彼は別に死なないだけで特別な能力や技巧を持たないので、拘束を受ければ只の人間である。

 それでも平静を崩さないのは、彼がこういった状況に慣れてしまったからであろうか。

 

「なあ頼むよ。この縄を解いてくれるだけでいいんだ。そしたら何もせずに帰るから」

 

「stvytjysucshbdhosO!」

 

「何でそんなに怒ってるの?」

 

 人とはなんと繊細な生き物であろうか、言語一つ異なるだけで何一つ噛み合わない。

 次の仕事までには、他の言語を学習しよう。

 カインは心の中でそう決意した。

 

 ◇

 

 カインの決意から数時間後の夜。

 カインは村人達によって運ばれ、彼らの住処、村の広場に連れてこられた。

 村人達は踊りにご飯に大盛り上がり。

 広場の中央には大きな焚き火があり、その近くには祭壇らしき物も置いてある。

 カインは祭壇らしきものに括り付けにされた。

 手を上げた状態で縛られ、地に足は付いているが、カインの筋肉ではロクに動く事は出来ない。

 状態としては世界一有名な天然パーマの最期の瞬間がイメージしやすい。

 その状態で村人達からよくわからない物を塗りたくられては勝手に飾り付けられる。

 ここまで御膳立てされれば、自分がどの様な状況かは察しがついてしまう。

 

 ──よく映画とかで観たから知ってるけど、まさか自分がなる側に思わなかったな。生贄。

 

 などと、呑気なことを考えていると、遠くからナイフを持った少女が近づいてきた。

 数時間前、カインが一方的に話しかけたあの少女である。

 止まることなく少女は近づいて、カインの前にまで立つとそのナイフをカインの首先に近づける。

 

「いや、ちょ、待て待て待て待て待て!!」

 

 必死の言葉も虚しく、カインの喉元に一瞬、冷たい感覚が奔る。

 そしてぱっくりと、首から血がこぼれ落ちた。

 

「ゴフッ、ガフッ」

 

 首が熱い。

 血がだらだらと流れ落ちているというのに、不思議なことに意識が落ちない。

 何よりも、()()()()()()()()()()()という事に一番驚いている。

 カインはこれまで、様々な死地にて致命傷となる傷を負う事はなかったが、それは別に傷を負わなかった訳ではない。強引に言えば、死なない程度の傷なら、彼は普通に受けるのだ。

 それはつまり、彼女の先程の斬首は、首を狙った斬撃であるにも関わらず、命を奪わないようにされていたのだ。

 人間工学的にそれは出来るのか怪しくなるが、現にそうなっている。こうした閉鎖集団特有の極まった奇術と判断する他ない。

 

 首からは血が流れ続けており、失血死する事はないが、大分気分が悪い。

 首を斬った少女は何をしているのかというと何処からか受け皿を用意してはそこにカインの血を注いでいる。

 大方、儀式に使うのだろう。

 

「ctftftidixif sbugzdrezvtd」

 

 部族の少女が何かを言うと、近くにいた部族の男達がカインを持ち上げ、運び始めた。

 辿り着くは巨大な焚き火の前。

 ふいにカインの脳裏に先日食べたローストチキンが過ぎる。

 

「やめ、ろ」

 

 開かれロクに喋れない喉を酷使して()()を発するが、その言葉が聴きいられる事は無い。

 彼等からすればこれは死に瀕した者の命乞いにしか聴こえないのだから。

 普通の人間でなら思いもしないだろう、

 彼の言葉が、相手を思って言っているなどとは。

 

 男達によって持ち上げられ、まもなく火の中に投げ込まれる、まさにその瞬間であった。

 

「Guoooooooooo!」

 

 遠くからあまりにも強大な鳴き声が聴こえた。

 部族の者達はその声に驚き、そして恐怖で顔が真っ青になった。

 どうやらこの鳴き声の正体を、彼等は知っているようだ。

 

 それは森の中から現れた。

 木々を薙ぎ倒す程の巨体、

 長い首と、太い尻尾。

 二本の脚と、羽と一体化した腕。

 そして最後に内面の凶暴さを映し出す凶悪な相貌。

 彼はその魔物の名を知っている。

 それは伝説の一端、力の象徴。或いは街を焼き尽くす暴虐の使徒。

 飛竜──ドラゴンである。

 

 一瞬の静寂が辺りに満ちる。

 先程まで祭りを催していたのが嘘だったかのように、まるでここには誰もいなかったかのように、静まりかえる。

 ばちばちと鳴る焚き火と飛竜の低く重い鳴き声だけが耳に入ってくる。

 永遠のような一瞬とはこのような状況を言うのだろうと、

 カインは何処か他人事のようにそう考えた。

 そしてその奇妙な時間は誰かの悲鳴によって終わりを告げた。

 

「zqー!」

 

 そこからの状況は想像に容易いものであった。

 暴れる怪物、焼かれる家、逃げ惑う人々。

 もはや予定調和とも言える惨状が目の前に広がっている。

 その光景を見て、カインは心を痛める訳でもなく、ただ呟く。

 

「だから言ったのに」

 

 彼の喉の傷は、既に塞がっていた。

 

 ◇

 

 ある時カインは自身が持つ異常な生存能力の他にもう一つ。特異性がある事に気付いた。

 彼は並大抵の事で死ぬ事は無いが、それは常人の範囲での話であり、常人ではどうにもならないような状況──これをカインは確定死と呼んでいる。確定死に直面した時、彼の『悪運』が発生する。

 現状の危機を大きく上回る新たな不運が発生して、確定死をキャンセルさせる。

 新しく発生した不運によって確定死が起きれば、より大きな不運が連鎖を起こし、カインが確定死から逃れるまで続く。

 発生する不幸の内容はカイン自身には決められるものではなく、周囲を巻き込む可能性が存在する。

 故に、彼は部族の者に警告していた。

「自分を殺そうしたら、酷いことが起きるから」と。

 

 ◇

 

 大混乱の中、カインの動きは、実に落ち着いたものであった。

 混乱により投げ出され、自由を得た彼は、地を這う虫の如くうねうね動き、偶然ナイフが落ちているのを目撃すると、それをどうにか手に取り、両手両足の拘束を解いた。

 立ち上がり、あたりを見回せば一面が火の海、死体の山である。

 幾ら自分を殺そうとした連中であろうとも、このような末路は同情せずにはいられなかった。

 

 それはそれとして、ここから離れなければならない。

 これ以上事態が悪化すれば、上司に怒られる。

 詰められるまでは構わないが、減給だけは避けたい。

 なるべく火の手が当たっていない場所を探し、脱出を図る。

 地面をうねうねと這いずっている間に、大勢が死亡したのか、人の声はあまり聴こえない。

 遠くから一つ、それ以外には何も無い。

 逃げるか隠れるかしていないのなら、この村は壊滅したという事になる。

 大して残念という訳でも無いが、やはり些か哀れだと、カインは憐憫を感じると同時に、そう思った自分に嫌気がさした。

 数分前まで自分は殺されかけたというのにも関わらず、彼等に憎悪することも憎むことも出来ない。

 当事者意識が無いのだ。

 アクションゲームで無敵チートを使った時、感じるものは人それぞれであるが、カインはそうしたものに虚しさを感じるタチである。

 自分だけがズルをしているようで、自分という存在が認められなくなってくる。

 死地を潜り抜けるたびに彼の中で何かが薄れていく。

 それが何かはわからない、ただ薄れていく何かが完全に擦り切れた時、同情も関心も憐憫も何もかも、残ることは無いだろうと、彼は思っている。

 

 崩れた家屋を抜けて、開けた場所に辿り着く。

 辺りには木々が生い茂り、家屋は見えない。

 カインは直感で、ここを抜ければ村から出れると確信する。

 そして、そうした時こそ油断がならないのだ。

 

「avhstbyiaosrv!」

 

 騒音にも似た、ここ数時間で聴き慣れた声が聴こえる。

 部族の少女だ。

 まだ生きていたのかと驚き、彼女のいる方に目を向ける。

 そして再び驚く。

 ドラゴンだ。

 少女とドラゴンが相対している。

 尻餅をついた少女に、ドラゴンがにじり寄るという構図だ。

 彼女の手には幅足り幾らかのナイフが握られているが、それで竜を殺すにはあまりにも心許ない。

 このまま見過ごせば彼女は見るも無惨な死体となる事だろう。

 悲しい事ではあるが、カインにとっては好都合でもあった。

 このままドラゴンが少女に集中していれば、難なくこの場から離れられる事だろう。

 そう、少女を一人見殺しにすれば……

 

 ◇

 

 これは天罰なのだろう。

 ヤシュエンナはそう思った。

 ナベフ族は代々、竜に生贄を捧げる事で生きてきた部族であり、ヤシュエンナは本来なら生贄になる筈であった。

 彼女は自身が生贄となる事を嫌がり、使える限りの手を使い、儀式を遅延させてきた。彼女らの部族が住む森には危険も多い、瀕死の者でも現れればそちらが生贄になる筈だ。

 そうした希望的観測から儀式を遅らせ続けたが、部族としては幸運、ヤシュエンナとしては不幸にも誰も大怪我を負うことはなかった。

 あらゆる遅延行為も限界を迎え、彼女は遂に最後の手段をとる。外部の人間にこの部族の情報を伝えたのだ。

 我が身可愛さのあまり、村を危険に晒す行為だというのは理解している。それでも彼女は自身に与えられた生に固執する。

 そこから間も無くして現れた男を拉致し、彼を生贄とした。

 男に恨みなどない。寧ろ申し訳なささえも感じている。

 胸中に落ちる罪悪感を押し殺し、男の首を斬り血を皿に注いだ。

 

 そして今、ヤシュエンナはその罰を受けている。

 彼女の眼の前にいるのは、今まで崇められ何人もの人間捧げれらた部族の守り竜。

 永らくご飯を与えられず、随分と御怒りのようである。

 手にあるのはナイフのみ、竜を殺すにはあまりにも足りない。

 自分が助からないということに疑う余地はない。

 何よりも彼女自身がそう理解している。

 何人もの命を踏みつけにして生き残ることは、あまりにも罪深い。

 彼女の理性は終わりを悟った。

 そして彼女の本能はそれでも生きたいと、そう叫んでいる。

 

「aa……、Ahaaaaaaaaaaaaaa!」

 

 声を上げる、出来うる限りの。

 ナイフを持つ、落とさぬように。

 竜を見る、殺す為。

 何処までも愚かなヤシュエンナ。

 彼女は最後の最期まで命が恋しい。

 

 遂に竜が動きだす、竜は顔を上に向けて大きく空気を吸い込む。それは火を吐く動作の前行動である。

 今度こそ彼女は終わりを悟った。

 立ち上がり、そこから逃げるにはもう遅い。

 竜の口が開かれ業火が吹き荒れる、その炎によって自分は灰となる。

 それでも、彼女は目を閉じることは無かった。

 故に、ヤシュエンナは目にする。

 彼女と火の間を何かが割って入ってきたのを。

 

 ◇

 

 熱い、炎が自分の身体を掠め、熱気を帯びていく。

 焼けるような熱さとは裏腹に自らの身体に火は燃え移らない。()()()()炎が彼に当たらない様な軌道になったようだ。

 炎が自分を避けたという事は、自分の後ろに炎は届いていないという事になる。

 後ろを見つめて安堵の息を吐く。

 そこには五体満足の少女がいた。

 

「……間に合ったな、ヨシ!」

 

 自分は急いで彼女の手を掴む。

 

「!?」

 

 驚いた様子ではあるが、肉体に傷とかはないようで、即座に立ち上がった。

 そのまま思いっきり手を引いてドラゴンを背にして走り出した。

 

「!?!?!?」

 

 何が何だかという様子の彼女だが、自分もわからない。

 あの時彼女を見捨てれば難なく逃げる事が出来ただろう。

 しかし実際のところは彼女の手を引いてドラゴンに追われている。

 これでは何の意味も無い。

 ……いやなくはない。

 彼女を助けたのはちっぽけな道徳心からくるものだ。

 偽善も偽善、大偽善もいいところの考えなし。

 けれどもそんな偽善の心さえも自分は失いかけていた。

 そんな情けない自分と比べて、彼女は凄い。

 彼女は命が尽きようとするその最後の瞬間まで抗おうとした、それは自分には枯れて久しい生存に対する欲求。

 その輝きに思わず手を伸ばしてしまっていた。

 きっと彼女を見捨てれば、その輝きを自分がもう放つ事は出来なくなる、そう思って。

 

 飛竜の歩行スピードはそこまで速くない。

 より上位種のドラゴンならば話は変わるが、ここにいるのは年老いた中堅種。

 ブレスはさっきのが限界で、羽根は大分使っていないようでまず動かない。

 あの巨体で障害物を弾く事は出来ない。

 だから自分が執るべき選択肢は、

 

「森に、突っ込め!」

 

 少女の手を引き森林の中に突入する。

 正しい逃げ道からは逸れるが逃げ切るならこれが正解の筈。

 実際逃げる速度が落ちているのにも関わらず、ドンドン距離が離れていく。

 

「じゃあな老いぼれドラゴン!」

 

 聴こえるかもわからない距離で捨て台詞を吐く。

 やがてドラゴンは見るからに遠くに見えていき、視界の奥で点となった。

 

「はぁ、はぁ」

 

 夢中で走る事などいつぶりであろうか、自分に対する命の重みを失ってから全てが希薄になっていた。

 そして今、自分の手には命が繋がっている。

 横で咳混じり息を吐く彼女からは確かに生きている人間の重みを感じた。

 

 これからどうすればいいのだろう、二人生き残ったのはいいが、帰り道はわからない。

 帰ったとして上に何と言えばよいのやら。

 何もかんもがわからない。

 頭を抱えたくなったが、片手で少女の手を握り締めていたのに気づいて、慌てて思わず手を離した。

 

「……」

 

 急に手を離された少女は何処か寂しそうな、悲しい顔を見せた。

 ハッとした。いくら文化の違う人間といっても、さっきまで命の危機が迫っていて、家族知り合い全員死んだような人間にするようなことではない。

 しかし謝罪の言葉を使うことは出来ない、伝わらないのだから。

 再三、自身の無教養を悔いるばかりだ。

 言葉が通じないので、行動に移すことにする。

 彼女に向けて、もう一度手を差し述べる。

 今度は強引にではなく、相手の意思を問う。

 

「一緒に来るかい?」

 

 意味が伝わらないのは理解している、けれども、この行動が、この思いは伝わると信じている。

 彼女はそれを見て、少しだけ逡巡しその手をとった。

 

「そんじゃあ、行こうか」

 

 何処へなどとは決めていない、けれどもここにいては何も進まない。

 仕事も、施設の再建も、この子を安全な場所に送り届けるのも、全てが道半ばだ。

 何だか気が遠くなってくるが、楽になるには早過ぎる。

 やるべきこと、やりたいことを全部して初めて腰を落ち着かせられる。

 それまでは歩いて歩いて歩いて歩いて、

 旅を続けなくては。


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