艦これ戦争終結RTA   作:poox

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ここすきで皆さんの嗜好が分かっておもしろいです。
前回は山城がちょろいところにいっぱいついてて笑いました。


山城 - 朝焼け

 

 

 艦娘としての私は呉鎮守府の工廠で生を受けたが、艦としての私は横須賀の造船所で生を受けた。

 あのスリガオへ赴く前、戦艦山城が最後に補給を受けたのがブルネイの泊地だったという。そんな私が今は、過去を辿るようにして本土方向へ舵をとっている。おぼろげに残った艦としての記憶が、数奇な運命を感じ取っている。

 

 朝もやのマルゴーマルマルに出撃した艦隊は、私の船速に合わせて進軍した。ブルネイから東沙島までは一七〇〇キロある。作戦出撃は近海、せいぜいがセレベス海までだった私たちにとっては未知の距離の遠征だが、不思議とやれる気がしていた。元より艦は、長い間海を往くものだ。

 鎮守府正面海域は本当に制圧が完了しているようで、警戒網には一隻の深海棲艦もかからない。

 初めての会敵は、航路の中ほど、出撃から十八時間が経過した深夜に、パラワン島北西部で起こった。

 

 

 

「航空隊より入電。磁気探知に感ありです」

「了解。やっとお出ましだね。各艦、対潜戦闘用意」

 

 川内が号令をかける。用意と言っても、偵察機の目も使えない夜間に私ができることはない。龍鳳と共に大人しく輪形陣の中央に収まると、時雨のソナーがさっそく敵艦を探知した。

 

「二時の方角、距離一二〇〇くらい、深度六〇から八〇、いや八五、九〇かも。三隻か四隻」

「リンクよし。各駆逐艦、最大戦速。面で制圧して」

 

 艦隊の通信装備を介して敵の位置予測が各艦へリンクされる。時雨たちは二時の方向へ突っ込み、予測位置付近へ爆雷を投射した。

 しばらくして、脚部艤装の裏で海がびりびり震える。予定深度で炸裂した余波だ。

 

「ソナーより圧壊音らしきものを確認。敵潜の反応、消失っぽい」

 

 伏兵の存在もない。海は静かだった。

 

「……終わった?」

「なんか、その……あっけないわね」

 

 うっかりそう漏らしてしまうと、艦隊の皆も引きつって頷いた。

 

「装備だけでこんなに違うんだ……」

 

 時雨が呆けたように言う。漣も自らの艤装を眺めながら同調した。

 

「度を過ぎた節約をしないでいいのも、ですね。前の提督は一発一殺なんて無理ゲーを要求してきましたし」

「磁気探知で早期に警戒できたのも大きいです」

 

 艦隊は念のためにその場で警戒を続けたが、杞憂に終わった。あの投射で本当に撃滅してしまったらしい。

 正面海域に一隻の潜水艦すら見つからなかったことも今なら納得できた。これまでの苦労への徒労感が募り、それに倍する希望が艦隊に広がる。もう今までの私たちではないのだ。艦隊は意気を新たにして進軍した。

 

 

 

 

 時折行動食を補給しながら海を進む。先の戦闘を皮切りに潜水艦との遭遇が増えた。一度は雷撃が艦隊の至近を通過することもあったが、おおむね順調と言っていい。やはりまともな装備のおかげだろう。九月の海にはまだモンスーンが残って、私たちを加速させる追い潮だ。出撃前の想定より早く着くかもしれない。

 

 ルソン島と同緯度に差し掛かるころ、龍鳳航空隊が針路上に敵水上艦を認め、艦隊はこれと交戦した。敵は軽巡擁する水雷戦隊で、この程度ならブルネイの周りで何度も戦ったことがある。その後立て続けに二度会敵するが、いずれも大した障害ではなかった。ブリーフィングで言及のあった量産軽空母とも遭遇していない。

 これならいける。艦隊にそんなムードが漂い始めた夕暮れ時、烈風が墜ちた。

 

 

「敵の戦闘機です、直掩出します!」

 

 艦隊は戦闘態勢に入る。傾く陽のきらめきを受けながら龍鳳が弓を構えた。

 射かけた矢は弾けて烈風に変じる。続々と発艦された機体たちは編隊を組み、速度を増して橙色の空に舞い上がった。

 

「道中にちらほらいる、ってご主人様が言ってた軽空母ですかね」

「まだ道のりは長い。あまり消耗したくないわね」

 

 ややあって、龍鳳が敵機の排除完了を告げる。あっさりとした決着に艦隊には再びの弛緩した空気が流れた。

 

「龍鳳さんがいれば余裕っぽい!」

「ちょっと緊張したけど大した事なかったね。この分なら母艦も小さそうだ」

 

 駆逐艦の子たちの顔には緩い笑みが浮かぶ。龍鳳の顔は青ざめていた。

 

「敵は、一機でした。後続もありません」

「じゃあはぐれた機体だったんですね」

 

 いえ、と重苦しい返事だった。

 彼女の懸念にようやく思い至る。全身の毛穴から冷や汗が噴き出した。前を往く川内の表情も厳しいものに変わっている。

 

「おそらく敵主力機動部隊の警戒網です。既に本隊へ連絡が行ったでしょう」

 

 発見されることは想定の内だ。しかしだからといって、こんなに離れた場所で。

 

「見つかるのが早すぎる。作戦海域までまだ六〇〇キロ近くもあるのよ!?」

 

 呑気なことを言っていた駆逐艦たちにもようやく、焼けつくような焦燥が伝染した。

 台湾-ブルネイ間が、我が方にとっての重要航路であるにもかかわらず、長らく敵占領下にある理由。その一端を私たちは今、身をもって思い知らされている。

 

「忌々しいけど、それだけ敵の索敵半径は広かったってことだよ。あの人が言ってた通りだ。もっと聞き入れるべきだった」

 

 発見の連絡が行ったのなら、じき全力の航空攻撃が来る。私が向こうの立場ならそうする。それを理解しているからこその艦隊の焦燥だった。

 

「ど、どうするの。空襲なんて受けたら辿り着けるかも怪しいよ」

「龍鳳。今の空戦を鑑みて、敵航空隊との勝算は?」

 

 川内が訊ねる。龍鳳は唇を噛みながら「厳しいかと」と答えた。

 

「制空状況を拮抗に保てるかどうか、でしょうか。爆撃機や攻撃機の対処まではとても手が回りません。悔しいですが」

「じゃあ引き返したほうがいいです! もう進むの無理っぽい!」

「そうです。馬鹿なことは言いません。帰りましょう。ご主人様なら許してくれます」

 

 果たして敵は許すだろうか。航空機の足は私たちの何倍も速い。離脱してもいずれは捉えられ、凄絶な空襲を受けるだろう。誰かが囮にでもならない限り艦隊の生還は見込めない。

 

 不意に悲鳴が漏れそうになった。この中で最も速力が小さいのは誰か。私だ。

 

 ふうっ、と震える息をついて神経を落ち着ける。口の奥の方で歯ががちがち鳴り出していた。

 編成の段階からおかしいと思っていたのだ。調子のいい言葉であっさり乗せられてしまったが、榛名でなく私が選ばれた理由は、つまりこういう状況に備えてのものだったのだ。

 ああ、万全の態勢だ。新しい提督は有能なのだろう。

 しかし気分よく出撃させておいてこの仕打ちは、あまりに人の心が無さ過ぎる――!

 艦隊の皆も馬鹿ではない。このまま離脱しても空襲は避けられないことに思い至り、やがて四つの蒼白い顔が向けられた。

 

「分かってるわよ。私がやる」

 

 わざとらしく腕を組む。震えがばれていないだろうか。

 

「違うの山城さん。夕立は、ちがっ、そんなつもりで言ったんじゃ……」

 

 何の意味もなさない弁解を無感動に眺める。世界の色が急速に褪せていく。思考だけがぐるぐると回った。

 海の大半を侵された厳しい戦況では、撤退にすら犠牲が伴う。いざという時、旧式戦艦を切り捨てる提督の選択は正しい。誘引できる時間を見ても、後に残される戦力を見ても、最も合理的なダメージコントロールだ。たった今確信した。あの人は、海域の奪還を成し遂げる可能性を持っている。あの人は正しい。

 ――だから胸の内で暴れ狂う悔しさも、怨みも、全部、真意を質さなかった私のせいなのだ。

 

「一緒に帰ろう。帰ろうよ。僕たちが絶対守ってみせるから!」

「そうです。時限信管の使用許可だって下りてます!」

「無理なことは、言ってるあんたたちも理解してるでしょ。それとも他に名案でもあるわけ?」

 

 そう言うと時雨も漣も唇を噛み締めて黙り込んだ。「……すみません」龍鳳も俯く。

 呉の扶桑姉さまに言伝を託そうと思ったが、私が囮になって沈んだと聞いて、何を思うだろう。

 感傷は私たちを救ってくれない。残された時間を奪われる前に、私は声を上げた。

 

「今は一秒でも惜しい。川内、この子たちを頼んだわよ」

「山城!」

 

 決意が鈍りそうで時雨のほうは見たくなかった。

 すべてが無感動に感じる。あれほど溢れそうだった嗚咽も、何の役にも立たないことを知ってか引っ込んだ。

 顎に細い指を添える川内の決断を待つ。彼女が口を開く瞬間、私も覚悟を決めた。

 

 

 

 

「――いや、退かない。針路このまま、全艦、山城の最大戦速に合わせ」

「えっ?」

「今は一秒でも惜しい。いいから黙って早く!」

 

 気圧されて頷く。艦隊はうなりを上げて増速した。大きく噴き上がった飛沫は夕陽を受けて、砕けた宝石みたいに輝いた。

 

「どういうことか説明しなさいよ」

「背水の陣なんだよ、これは。あの人はどうしても早く海を取り戻したいらしい」

「ああもう、私たちにも分かるように!」

 

 川内は肩越しに艦隊へ語りかける。夕陽の影が落ちて表情はよくうかがえない。

 

「もうじき夕暮れだ。ここからブルネイまで一一〇〇キロ近くある。今退けば、夜の間はなんとかなるけど、日が昇った後で山城の言う通り確実に狩られる。私たちに帰る場所はひとつしかなくて、こんなにたやすい針路予測なんてないからね」

「だから、私が囮に――」

「違うよ、山城。あの人が私たちにして欲しいのは、海域の奪還なんだ」

 

「はあ?」と不機嫌な鼻声が出たが、彼女は構わず続けた。

 

「東沙島から私たちの現在地まで、敵機はおおむね一時間要するだろう。さっき報告を受けた敵機が来る頃には日は沈みきって、私たちは宵闇に紛れられる。そこから薄明までのリミットは十一時間だ。山城の最大戦速だと、こうして全力で東沙島に向かっても、日の出には間に合わない。用意を整えた航空隊に全力の攻撃を叩き込まれるだろうね」

 

 立て板を水が流れるような、淀みない語り口だった。

 

「じゃあ駄目なんじゃない」

「普通なら、の話ね」

 

 彼女はにいっと犬歯を光らせて笑う。

 

追い潮(・・・)だよ。季節風が連れてくる潮のおかげで、今の私たちはカタログスペックより二、三ノット速い。これを勘案に入れると、なんと艦隊は薄明ギリギリで東沙島に到達できる計算になる。払暁戦なら多少は優位に立ち回れるだろうね。あの人はここまで作戦に入れていた」

 

 聞き終えた艦隊は絶句していた。

 これに従えば、敵の航空攻撃で消耗するリスクを最小限に抑えることができ、かつ、それと両立する範囲内で最も有利な会敵状況を作り出せる。

 退くことは許されない、ただ勝利のみを見据えた、最大効率・最速の作戦。

 ぽつりと漣が言った。

 

「なんつーシビアでドSな調整なんですか……」

 

 いったい何のために?

 決まっている。一刻も早く海を取り戻すためだ。

 

「こんな劣勢でここまでお膳立てしてくれたんだ。勝てなかったら、艦娘の恥だよ」

 

 灯火管制を改めて確認する。提督に言われた言葉がよみがえった。対艦戦闘の主力は、山城と川内――。

 

「……やってやろうじゃない」

 

 じりじりと日が沈んでいく。一刻も早く、敵機動部隊と会敵しなければならない。

 

 

 

 




予定より伸びちゃいました。
明日も更新します。
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