晴れ空と錆びた虹   作:うらしるちみん

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本編を期待していた皆さん。
すみません、一旦閑話挟みます。

<追記>
・初期と趣旨が乖離しているのを感じたので、小説情報を変更しました。
・本話をチャプターの先頭に並び替えました。


ディス・デカグラマトン編
閑話:虹の源流


 

物心ついた頃には、騎士に憧れていた。

 

一帯に鉱山が連なる24区に翼を拡げる、Xenite(ゼナイト)鋼鉱エンタープライズ...この大企業お抱えの『採掘騎士団』。

 

摩訶不思議な材質のオーパーツと恐ろしき怪物が眠る、24区の魔窟。この迷宮の脅威に立ち向かい、坑路を拓く精鋭部隊。

彼らの任務は発掘だけではない。巣を脅かす巨悪が現れれば、その鶴嘴をもって問題を“掘削”していく。

 

巣の最北部に生まれ、実際に騎士団を見かける機会が殆どなかったがために...俺の憧憬はなおさら大きかったらしい。

段ボールの鶴嘴を手作りしては、イタズラを働いた近所の悪ガキへ制裁を加えに突撃していったのはいい思い出だ。

 

 

俺の価値観が塗り替えられていったのは、中坊の時だった。

 

その日は大剣術の特訓を終え、友人と帰り道で駄弁っていた。

 

「クゥ〜ッ、何度やっても上達する気配がないや。どうすりゃお前みたいに強くなれるんだろうな?」

 

「だからさ、君は無意識に突っ込みすぎなんだって。大剣のリーチっていうアドバンテージを自ら潰してどうすんのさ。」

 

その友人は、俺より遥かに大剣の才能に恵まれていた。

大剣術を習い始めてすぐに年上の先輩を打ち負かし、その後1年で初段まで登り詰めた。

劣等感から嫉妬を覚えない筈もなかったが...俺の腕前がある段階で横這いになった事による自身への焦燥感はそれ以上に強く、結果として友人へ強く当たらずに済んでいた。

 

「...何も言い返せねぇ。このままじゃ採掘騎士団にとても入れねぇよ...」

 

「まーまー、そうイジケなさんな。苦手なことも地道にやってきゃいいさ。

僕も完璧じゃないから、実際に武器を引っ掛けられて取られっぱなしだった時期もあったし...」

 

「俺の場合、地道にやるべきことが多すぎんのが問題なんだがなぁ...!」

 

溜め息を突く俺が目を閉じると──

 

「危ない、マックス!」

 

友人の張った声と共に身体が横に押され、重力が横へと傾く感覚に襲われる。

 

頭を上げれば友人が大剣を構え、巨大な何者かの攻撃を防いでいる様子が見える。

巨大な()()の方へ目をやると──人型の黒い岩石が、友人へと棍棒を振り下ろしていた。

 

岩石は前にのめり込み、友人の大剣へもたれかかる。

 

「援護する!」

 

俺は友人の背後に立ち、共にそれの棍棒を受け止める。

 

「...!」

 

押しつぶすことが叶わないと判断したのか、岩石は棍棒を支点にして自身を持ち上げる。

それはそのまま巨体に見合わぬ軽やかさで天高く打ち上がり...轟音を立てて俺達の背後へ着地した。

岩石には悪魔の顔のような裂け目が走り、溶岩が煮えたぎるようなけたたましい発泡音を上げる。

 

 

この岩石...恐らくは魔窟から抜け出してきた怪物だ。

24区の禁忌に、魔窟の存在は30分以上魔窟外に滞在してはならないというものがある。

そのおかげで普通、浅い層の怪物は外まで出ることを好まない。ここらの採掘団は、コイツが禁忌の恐怖を忘れるほどブチギレて、外まで追ってくるようなヘマをしでかしたらしい。

 

「不覚をとった。逃げるぞ──」

 

「...そうもいかないみたいだね。」

 

先程の咆哮は、岩石の怪物が仲間を呼び出す合図だったようだ。

地中から羊サイズの土塊が無数に飛び出し、俺達を挟みうちにする。

 

周囲に人影はない。見えるのは山道と...目の前の敵のみ。

 

友人は大将の方を、俺は軍勢の方を。

俺達は背中合わせになり、ひとまず目の前の攻撃を耐えることに集中する。

 

土塊の一体が俺に突進してくる。

重心を落とし、鉛直に大剣を構えると...土塊が衝突し、反動で微かにヒビが入る。

 

衝撃で腕が少し痺れる感触がするが、この隙を逃す訳にはいかない。

大剣を前方に突き出すと...土塊は後方へ吹っ飛んでいく。

 

突き飛ばした土塊は他の個体に着地するも、そこが転倒するだけで包囲網は崩れない。

 

「逃げる隙はなさそうだ...タイムリミットまで耐えれそうか?」

 

「できるかどうかじゃない、やるんだ。じゃないと僕らの命はない。」

 

俺らは怪物が帰っていくのを...あるいは騎士団の禁忌刑執行部隊が来るのを待つことにした。

 

X社製合金でできた大剣は粗性でも頑丈だ。稽古用で攻撃力はほぼ皆無でも、防御に使って敵の攻撃を凌ぐくらいにはなるだろう。

 

 

俺は三方から迫り来る土塊を、友人に届かぬよう打ち捌き...

友人は親玉の攻撃を、俺の背を利用しながら防ぐ。

互いの受ける衝撃の余波で、全身の骨と筋肉が悲鳴を上げるも...友人にも唯一劣らない()()()防御する術で、なんとか15分程を凌ぎきる。

 

(ツヴァイ*1の中位以上はこれを何日も続けられるって聞くが...バケモンだな、改めて...!)

 

自身の矮小さを実感するが、無力さに打ちひしがれる余裕はない。

 

「...マックス。親玉がニヤニヤ笑い出したぞ。

何か仕掛けてくるかもしれない、そっち側も警戒してくれ!」

 

背後を振り向くことはできないが、岩石の怪物が愉悦に浸っている様子が容易に想像できた。

 

このまま禁忌に触れるギリギリまで甚振ってやるって事かよ、趣味悪ィ。

それでも、15分は限界を迎えることなく持ちこたえてきた。持久戦を制するのに十分な勝機は...残っているだろう。

 

しかし、怪物の思惑は...俺の予想より遥かに残酷なものだった。

 

 

土塊の突進が、突然止まったかと思えば──

 

 

グチュ

 

 

俺の背後で、最悪の音が聞こえた。

 

「......ぁ」

 

岩石から発せられた訳がない、しかし人体からも聞こえてはならない音。

 

「...ッ!おい、しっかりしろ!」

 

友人からの返事はない。

 

堪らず振り向くと、友人は大剣を貫通され...胸部を()()()突き刺されていた。

 

(採掘団から奪った鶴嘴...コイツ、今の今まで隠し持ってやがった......ッ!!)

 

怪物は、訓練用(おもちゃ)程度なら容易く破壊できる実器(ほんもの)を隠していた。

 

全ては俺達を掌上で転がすために。

希望が見えてきた所で絶対的な絶望を叩き込む、この瞬間のために。

 

 

背後より地鳴りがする。

背中への信頼を失った俺に、無数の土塊達が覆い被さる。

 

岩石は今までで、最()に憎らしい笑みを浮かべて溶岩をふかす。

動けない俺と友人へすぐにとどめを刺すでもなく、じっくり甚振るでもなく...ただひたすらに嗤い、眺めている。

 

(クソッタレ...俺は騎士志望失格だ。人一人護れねぇ。

奴は引き際になったら俺を殺すかもしれねぇし、俺だけ生かして屈辱を味わせるつもりかもしれねぇ。どちらにせよ、もう友人(こいつ)は...)

 

冷たくなってゆく友人のことを思い、うなだれる。

 

「俺よりも才能のあったお前が...俺なんかよりよっぽど採掘騎士になるべきだったお前が、どうして...」

 

 

 

 

 

「そう悲観するでないぞ、少年よ。」

 

 

重厚な声が、どこからともなく響く。

 

土塊の圧で首を上げることも適わず、声の方向を向けずにいると──

 

白銀の閃光が、岩石の怪物を貫くように走り...

怪物は閃光の向かう方向へ溶岩を撒き散らし、粉々に砕け散った。

 

閃光の通った跡は、九つの異なる色の束にばらけ、霧散していった。

 

それと同時に、俺を拘束していた土塊も...一斉に塵となって消えた。

 

 

 

瞬きする間もなく、目の前に人が現れる。

 

先程の閃光のように光る槍を持った、壮年の男だった。

東部の“袈裟”にも似た装いをしており、筋骨隆々なその背には...多数の龍を象った刺青が、それぞれ異なる色で光っていた。

 

男の姿に度肝を抜かれている間に、友人の患部には包帯が巻かれていた。

 

「再生力の(ワン)を染み込ませた。完治までは保証できぬが、この少年は一命を取り留めるであろう。」

 

「あ、あんたは一体...?」

 

「吾は史進(シーツィン)と云う。通りすがりし一介のフィクサーに過ぎぬよ。」

 

名から思うに、やはり東部の出身らしい。

 

「って、フィクサー!?って事は、依頼料とか用意しなけりゃ...」

 

フィクサーと言えば、金の話にうるさい集団だと両親から聞いていた。

中には先ほどのような危機的状況での保護を建前に、依頼料という名目で強制的に見返りを払わせようとしてくる連中もいるとか...

 

「対価には及ばぬ。ただ、吾が恣意に路傍の石を蹴飛ばし、樹上の巣より転げた卵を戻したのみよ。」

 

ところが、シーツィンという男は自ら報酬を断った。

一眼も受け取らないというのは、それはそれで変人な気がしなくもないのだが。

 

「老師〜?あっ、いた。

まーた無償で人助けですか?私達も一応フィクサーなんですから、形式上一眼でも対価ってものを求めた方がいいでしょうに...」

 

新手の方を向けば、弟子...もとい部下と思わしき若年の人が、俺が思っていたことをそのまま代弁してくれた。

 

「言っておるだろう。吾の独断を仕事と看做すなとな。」

 

「すみませんね。老師は気まぐれのために、フィクサーであることを放棄しちゃう人でして。

そうだな...西部で包子(パオズ)に似たものを対価として頂きましょうかね?老師の好物でして。」

 

 

 

彼らの所属こそが、錬銀事務所。

 

やがて、俺が工房に勤めるまでの間世話になる、傭兵業専門のフィクサー事務所だ。

 


 

「...代表、帰んないんスか?」

 

猫頭の部下に声をかけられ、回想が途切れる。

 

「ああ。片付けをしておきたいから、鍵はそのままにしておいてくれ。」

 

「最近の代表、学園からえらい頻度で呼ばれるじゃないスか。

寝なくて良いとはいえ疲れも溜まるでしょうから、どうかご自愛くださいよ?

つまらないもんですが、良かったらどうぞ。」

 

そういって彼から差し入れられたのは、指関節にも満たない小さな板だった。

リラクゼーション用の嗜好チップか。キヴォトスにも、それも手土産に丁度良い手頃さで出回っているとはな。

 

「どうもありがとう。君もお疲れさん。」

 

 

退室する部下を横目に、首筋へチップを差し込む。

都市ではとんだ贅沢品だったから手を出さないでいたが、回想にふけるほど疲れた今ばかりは味見したい気分だ。

 

血の巡らないはずの手足が脈打ち、全身が仄かに温まる感触がする。

全身から老廃物を絞り取ったような爽快感。これが長らく忘れていた、“ととのう”という感覚か。

 

通気性のある椅子に身をもたげ、安息と共に再び過去を省みる。

 

 

師匠、今の俺は道を失わずにいられているのでしょうか。

 

 

 

*1
ツヴァイ協会。護衛や治安維持を生業とする。西部支部支部の所属フィクサーは騎士同様に甲冑を纏い、衝撃を吸収する大剣を用いた防御を行う。




・シーツィン
元ネタは水滸伝の同名人物。
H社よりさすらってきた。マックスからの謝礼として渡されたマウルタッシェにどハマりした。
名前の日本語表記がリンバス本編の登場人物と酷似していたので、しれっと変えたのは内緒。

・友人
この後無事完治。
最終的に採掘騎士団の近衛兵まで登り詰めた模様。

・岩石の怪物
実はそこまで強くなく、6級フィクサーくらいなら普通に対処できるくらい。
寝ている時、一般採掘団の連中にケツの穴を鶴嘴でつつかれた。
腹いせにギリギリ禁忌にならない間地上で暴れてやろうと飛び出すも、ぽっと出のデスエンカに理不尽にも吹き飛ばされる。

・弟子
自由奔放な師匠に振り回され続けて4年。
今後再登場するかは未定。

・とある採掘団
本話の元凶。
軽はずみな行動で魔窟から怪物を脱走させたので、生き残りも当然権利剥奪済。

・X社
本小説におけるX社はドイツのルール炭田がモチーフ。
マックスの元ネタはドイツ関係ない?思いつきで始めた二次創作なんで細かい所は水に流してください。

先生の外見的ビジュアルについて

  • 甘いマスクの太郎系♂(アニ先似)
  • 色気漂うダウナー系♂(便利屋先生似)
  • 筋骨逞しいガテン系♂(ゲ開部先生似)
  • 趣味を狂わせる男の娘系♂
  • 女子の憧れレディ系♀
  • 色気漂うダウナー系♀
  • ガチ恋生徒量産漢女系♀
  • 庇護欲促進合法ロリ系♀
  • ミステリアス性別不明系⚲
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