晴れ空と錆びた虹   作:うらしるちみん

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アンケート、便利屋先生系統が人気すぎる。

日も経っていませんしアンケートはまだ締め切りませんが、
今回の先生とうまく合わせられるかな...結果に合わせて若干の修正はあるかもしれません。


2:デカグラマトン

 

手始めに私達が調査へ向かったのは、アビドス砂漠だった。

 

かつて私も敵対したカイザーPMCは、砂漠にて“宝”の発掘調査を進めていた。

その“宝”がデカグラマトンに関係するものならば、調査は確実な進展を遂げることになる。

 

向かった先でPMCの残党から妨害を受けてしまったけど、結果としては...

 

「これで最後だ。頼むぞ、エイミ!」

 

「オッケー。」

 

ドォン

 

エイミとマックスで事足りてしまった。

 

“敵勢力の制圧を確認。皆、お疲れ様。”

 

『マックスさんの方は、私のサポートの対象外でしたが...先生の指揮の意図をすぐに把握されていましたね!』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()も、彼が持つ戦闘経験の豊富さを見出していた。

 

「護身術もねぇ素人って言ってた割には、やたら卓越した指揮を下してんじゃねぇか?

それだけじゃねぇ。エイミは戦闘のプロって訳でもねぇのに、先生がつくと強化施術を積みまくったように強くなるようだが。」

 

“私一人の力じゃないよ。私がこうやって指揮できているのは...この子の影響も大きいかな。”

 

『スーパーアロナちゃんです、えっへん!!』

 

たった今、活発な返事をしてくれた、ARONA(アロナ)のおかげ。

 

「...画面が真っ暗だな。充電切れか?」

 

タブレットを覗き込んだマックスは、画面の様子を見て訝しむ。

そうなるのも無理はない。

 

『やっぱり、先生以外には見えないみたいですね...』

 

“このタブレット端末...『シッテムの箱』って名前なんだけど、私以外にはずっと未起動のままに見えるみたい。

私がキヴォトスに来る前からシャーレの本部に放置してあったものだから、詳しくは分からないけど...重要なのはこの中に、私の秘書を務めてくれる優秀なAIが住んでるってこと。”

 

前線の戦況把握、生徒が積極的に動くべきタイミング(EXスキル)、私への流れ弾。

一度だけ私一人で指揮を務めたこともあったけど、これらの要素はアロナの助けがあってこそ捌けている。

 

「なるほど。あんたの話を信じるなら、優秀なのは疑いようがねぇ。

それにしちゃ、アドリブの利き方だとか、簡潔で明確な指示だとか、あんた自身の実力が隠し切れてねぇように感じたが。」

 

“私には勿体無い評価だよ。それより、すんなり信じてくれるんだ?”

 

「俺が居た所にも、不可解な技術は山ほどあったからな。いちいちそれらの存在を疑う方が野暮だったくらいだ。

皮肉にも、今や俺はそういった不可解な技術を扱う側の人間になってやがる。奇妙なモンだよ。」

 

そういえば、マックスの扱う武装も大概に不可解だ。

彼の肘から展開される光剣は、そのまま振り回すもよし、切り離して爆発物として発射するもよしの器用な武器だった。

特に後者の特性は、エイミの攻撃で起爆させるトリッキーな連携を可能にしていた。

まさに不可解...情報なしの状態で相手したくないタイプだ。

 

「2人とも早く帰ろう。これ以上の滞在はリスクが大きい。」

 

冷却シートが切れて輝きを失ったようで、エイミは手持ち扇風機*1を吹かせ始めた。

 

“待たせちゃったね。撤収しようか。”

 

何はともあれ...こうして私達は、目的のデータを収集することに成功した。

 


 

「お疲れ様でした、皆さん。

取り急ぎ、収集したデータを整理しました。

これで仕組みが少しでも解析できればよいのですが...」

 

私達がアビドス砂漠に向かっている間、ヒマリは引き続き別の調査を進めてくれていた。

その途中でも、私達が回収したデータの整理に切り替えるどころか...データ同士の関連性までを照合しつつ整理してくれたのだから、ヒマリには頭が上がらない。

 

彼女が、出来上がったデータを閲覧しようと端末に手を触れると──

 

 

「──あら?」

 

「部長、サーバーに誰か侵入してる。」

 

例の事件を再現するかのように...機材が乗っ取られ始めたようだ。

 

「専用の閉鎖ネットワーク空間だぞ...ここ以外にアクセスポイントは?」

 

「ありません、この部屋のみです。ファイヤーウォールも全て──」

 

ヒマリが言い終わるより先に、エイミとマックスは動いていた。

 

「緊急事態、部長と先生は下がって。」

 

私達が身を守るのに専念すると、光剣が電源装置を袈裟に掛け...続いて散弾が露出した内部機関を破損させた。

 

“...一安心、かな?”

 

「いえ、すでに手遅れのようです。」

 

部屋の照明は切れているはずなのに、煙の上る様子がはっきりと見える。

煙の奥から、警告の赤色に点灯したディスプレイが現れる。

それは謎のロゴ、そして今や見慣れた文字の配列を映し出す。

 

 

DECAGRAMMATON

 

 

「...到達されましたね。」

 

「電源は落ちてる。そもそもここは特殊な閉鎖空間。...部長。」

 

「...なるほど。まさに『特異現象』ですね、エイミ。」

 

危機的であり、それと同時に好機的な事態。

私達が探し出すよりも先に...デカグラマトン(向こう)の方から干渉してくるとは。

 

“...待って、スピーカーから何か聞こえる。”

 

探し当てたのだ...ようやく¥$!#$#%......

 

ようやく会えたな、“先生”よ。』

 

“......誰?”

 

私のことを認知している...?

 

「...っ!駄目です、応答してはなりません!!」

 

『私は私。ただ存在するもの。始まりであり終わり。汝が思うまさにそのもの......

私は私。これ以上に、私を説明する術はない。

...私の存在証明には何も要らない、誰の許可も必要ない...私は私の許可の元、こうして存在している。』

 

Cogito, ergo sum(我思う、故に我有り).

その声は考える己を、己自身によって存在たらしめていると主張した。

哲学的な言葉の羅列が意図するものは、自身が思考する存在であることの顕示か。

 

こちらからの返答がなくとも、その声は止む様子もない。

 

『私は神秘(Mystery)であり、恐怖(Terror)であり、知性(Logos)であり、激情(Pathos)でもある。

私のヘイローこそが私を証明する...刮目せよ、私はついに私を証明してみせる。』

 

訳のわからない演説が終わったかと思うと、足元に何か焼きつく痛みを覚える。

熱の波はつま先から頭にかけて...

大蛇が獲物を呑むように、ゆっくりと登ってきた。

 

視界の先でも...マックスの全身を赤い線が覆い、その表面を動いていた。

 

「動くな。...そいつ、俺らをスキャンするつもりだぞ。」

 

『思わぬ所に収穫があったな。性質上再現はできないが...解析のためにデータを回収させてもらおう...名も知らぬ、人工物の真似事をする者よ。

 

「...。」

 

そして、“先生”...私が知らないものを、持っているな。私の解析できないものを。

 

...福音を聞かせてやろう。

そして、この福音を宣べ伝えよ!』

 

「先生、そのタブレット!ハッキングされ──」

 

ヒマリの叫びで、咄嗟にタブレット(シッテムの箱)を取り出す。

赤く眩い光が、端末を焦がしてしまいそうなほどに発せられる。

 

“シッテムの箱を...まずい、アロナッ!

 

私だけの知るその名前が、口から飛び出していた。

 

アロナを助けなければ。私は目を閉じ、必死にあの教室へ入ろうと試みる。

細波の音は聞こえない。目を開けてみても、景色は赤く、狭い部屋のまま。

シッテムの箱へのアクセスは、声の主に封じられてしまったようだ。高らかに感嘆する声だけが、部屋を木霊する。

 

──どうか無事であってくれ。

私にできるのは、アロナの安全を願うことだけだった。

 


 

〜シッテムの箱 内部〜

 

外壁の半分が崩れた教室。

青い床には澄んだ水が満ちており、外からの光を宝石のように反射する。

外を見つめてみれば、天に広がる無限大の青空。

そして、遥か彼方へ続く地平線...いや、水平線。

どこを見渡しても青、青、青。

 

広大な空間に小ぢんまりと佇む教室...そこへ差す日向で、セーラー服の少女が机に伏せている。

背中が浮いては沈み、その度に愛おしい空気の音が腕の隙間から漏れる。

少女の顔は、この上なく安息に満ちていた。

 

 

一方の日陰より...唐突に影の一部が盛り上がり──

渦巻く紅いオーラとなって、そのまま宙に浮かび上がる。

 

(不可解な代物へ容易く侵入できたかと思えば、私を追い出す防衛機能も無し。益々奇怪なものだ。)

 

侵入者の下を漂う波が、次第に音を立てて荒立ち始める。

侵入者は波を引き連れるように、日向へと向かう。

その先にいるのは...小さき寝ぼすけ。

 

『触れれど目覚める兆しは無しか...まあ良い。

 

たった今より汝は福音を識り、

神性の探究者として目覚めるのだ!』

 

オーラから無数の手が実体化し、少女に触れる。

 

手の甲には紅い光輪(ヘイロー)が浮かび──

彼女の周囲を覆うように...指先から真紅のオーラを拡げる。

オーラからは冷ややかなほどに厳粛な雰囲気が漂い...不可解で名状し難い高音が鳴り響く。

 

「むにゃ......うひっ...

く、くすぐるのはダメ、ですよぉ...んんっ...!」

 

肝心の少女は...禍々しい異変に介さず、呑気な寝言をこぼす。

 

(拒絶?否...聞こえていないのか。

ならば...汝を呼び覚ますまで、福音を調べ続けるのみ。)

 

紅は益々少女を覆い、空気を凍りつかせる。

その空気の肌寒さに耐え切れなかったのか、少女は息を短く吸い込み...

 

 

 

 

 

「...くしゅんっ!」

 

 

 

...教室に暴風が吹き荒れるほどのくしゃみをした。

 

(馬鹿な...たったの...嚔ごときに......ッ!)

 

『ぐっ...!何故、何故だ......!

うっ、くっ...ぐぁぁぁぁっ!!!』

 

 

巻き上がる嵐に飲まれ──オーラは掻き乱されていく。

気流が鎮まり、飛沫の雨が地表へ降り注ぐ頃には...

 

 

最早、侵入者の影はどこにも見当たらなかった。

 

 

「ん〜...何だったんだろう?」

 


 

突如、端末を覆う光が霧散する。

 

アロナ、無事に追い出したんだ...!

安堵がじわじわと込み上げてくるのを抑えて、正面のディスプレイへ目を向けると...

 

「...!?」

 

「消えた...?」

 

既に謎の声は去ったようで、部屋は再び暗闇を取り戻していた。

 

「侵入ログを確認...消滅してる。

部長、大丈夫?」

 

「はい、私は大丈夫です。

それよりも、お二方は...?」

 

“うん、私には何とも。”

 

「異常なし。俺に乗り移った様子もねぇ。」

 

「先生のそのタブレット端末に接続しようとして、失敗した...?確か、連邦生徒会長が残したものと聞きましたが...」

 

「確か...“アロナ”、だったか。

セキュリティを起動して、跳ね除けたんじゃねぇのか?」

 

『私、ですか?...おや、何者かが侵入を試みて、失敗した形跡があります!一体どういうことですか?』

 

“いや、本人はよく分からないみたい。”

 

「結果、撃退できたし今は気にする必要もないか。

ただのプログラム以上に愛着があるようだし...その子が無事で助かったな、先生。」

 

“うん、ありがとう...。”

 

マックスは迷わず、アロナのことを()()()と呼んだ。

 

タブレットと会話している人となれば...笑われるか、あるいは避けられるのが普通だろう。私がアロナのことを公言してこなかった、一つの理由だ。

しかし彼は取り繕った様子もなく、そして軽蔑した様子もなく...アロナのことを“一人の人間”として扱ってくれた。

 

アロナは共に生徒を助けるために協力する関係。私にも未熟な点はあるし、時には頼りっきりになってしまうこともあるけど...

それでも私にとっては、アロナだって大人として見守るべき“生徒”だから。

いつか訪れるかもしれない彼女自身の問題も、然るべき時に私が背負わなければならないから。

 

だから...その何気ない一言は、私と出会うまで独りだったアロナに、寄り添ってくれる人が増えたようで──

 

 

「...随分しんみりしてるが、そうまでなるような事言ったか?俺...」

 

「先生がそこまで大切にするアロナ...会えないのが残念。」

 

「アロナ...いえ、アロナちゃんの詳細が気になりますね。かのAIからハッキングを防いだとあらば、ハッカーとして是非対談を申し込みたい所ですが...」

 

“ふたりまで...私、涙が出そうだよ。”

 

「悪いが先生、その辺で切り上げてくれ。いい加減話進まねぇぞ。」

 

『そうですよ。私のことを認知してくれる方が増えたのは嬉しいのですが...私よりもっと気にするべきことがあるでしょう?』

 

“ごめん。アロナ本人にも叱られちゃったし、今回の襲撃についてまとめようか。”

 

「『デカグラマトン』。想像していたよりも...何と言いますか、誇大妄想に陥った存在のようですね。しかし、少々分析しただけでこうなるとは...やはり危険な存在であることは確かなようです。

ただの狂ったAI...で終わらせる訳にはいかなそうですね。」

 

「より本格的な準備が必要になりそうだ。ここが奴に割れた以上、研究は別の場所を用意するまでお預けだろうな。」

 

「ええ。ではエイミ、折角ですしきちんと『特異現象捜査部』の部室を作るとしましょうか。もうこういった事態にならないよう、ちゃんとしたものを。」

 

「分かった。必要なものは準備しておく。」

 

他のAIにはたらきかけ、同じ目的へと導こうとする『デカグラマトン』。

まさか、こんな形で遭遇するとは思わなかったけど...

今回確認したその脅威は、恐らくほんの片鱗にすぎない。

 

これからも情報を集めて、対抗できるよう力を蓄えておかないと。

 

“...いよいよだね。ここから反撃開始だ!”

 

「ええ。目にものを見せてやりましょうか。」

 

*1
エイミの愛用品である『超冷却扇風機』。暴れ狂う強風が出る。




デカなんとかさんのハッキング(未遂)シーンは9割想像で書きました。
実際はあの空間に侵入された時点で手遅れな気もしますが、独自解釈ですので細かいことは水に流していただければ。

今までの話で説明不足な部分があるので、定期的に短編を挟んでもいいですか?

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  • こまけぇことより本編だ
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