晴れ空と錆びた虹   作:うらしるちみん

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普通に納得いく構想ができなかったり、操作ミスでデータが消し飛んだり...
言い訳は色々ありますが、本来の予定よりかなり手前で区切って投稿を優先します。

※今回から「Lobotomy Corporation」のネタバレ注意です。


3:備えあれど憂いあり...?

 

デカグラマトンの襲撃後──

 

特異現象捜査部はより安全性を高めた、新たな部室を用意した。

 

私を含めて4人*1のみが知る、至上機密(トップシークレット)の空間。

 

ヒマリの開発した最高性能のファイアーウォール(電脳的防壁)、そしてマックスが実装した空間秘匿設備(空間的防壁)のおかげで、アジトとしては会心の出来に仕上がったらしい。

 

拠点が整ったところで、次に私達が調べることになるのは...

 

“『預言者』、だったよね。”

 

「はい。というのも、人工知能に定義されるデカグラマトンを取り巻く存在...それらが本体より独立し、さらに『預言者』と命名されています。

この呼称には未だに謎が多い...それに、デカグラマトン本体を追うよりも『預言者』の情報を探る方が、遥かに現実的でしょうから。

 

これまでに観測された『預言者』は3つ。

『ビナー』、『ケセド』、そして...『ホド』。

先生から伝え聞いたこと、そしてこれらの名前を照合するに...古代の伝承である『生命の樹』との関連性が浮かびます。」

 

『生命の樹』。現在のキヴォトスでは忘れ去られてしまった伝承で、ミレニアムでその存在を知るのは『全知』の学位を持つ自分くらいである、とヒマリは説明した。

 

「神の摂理へと至る道」を意味する『生命の樹』。

その構成物である10個の(セフィラ)の名は、先程の『預言者』達にも合致する。

このことは、あと7体もの『預言者』が存在する可能性と...10のセフィラを通し、デカグラマトンが神の領域へ至る行程とを示唆する。

 

「『生命の樹』...キヴォトスに来る前に聞いたな。」

 

そして、なぜかマックスは『生命の樹』を既に知っているらしい。

 

「...これは奇妙ですね。天才幸薄美少女ハッカーの私以外に、キヴォトスではそうそう知る者もいないと推測される伝承なのですが。」

 

「仕事の関係で流れ込んできた話ではあるが、とあるエネルギー会社が部署に“セフィラ”の名を採用してたらしい。

その企業()潰れ(折れ)ちまったし、詳しく聞く相手もいねぇだろうけど。」

 

その企業にとって、何らかの意図があった命名だったのだろう。

企業が「神の摂理」へ至るという比喩、あるいは...

 

「ま、無理くり関連付けない方がいいぞ?

収斂進化だっけ、アレのようにたまたまよく似た伝承ができただけかもしれねぇし。

俺も『生命の樹』については小耳に挟んだ程度だ、あんまりアテにすんなよ。」

 

「...余計に不確定要素が増えちゃった。

それで部長、どうやって調べるつもり?」

 

「...探し出します。」

 

エイミへヒマリが返した答えは単純明快。

直接預言者に接触し、振る舞いを分析するというシンプルな手法。

 

「観測済みが2つ、確認すらできてねぇ奴が1つ。これらの2倍以上は影も形もねぇから、相当骨が折れそうだな。」

 

「やれることから手をつけていくしかありません。そのうちに他の方法も見つかるかもしれませんし。」

 

“それじゃ、始めようか。”

 

「うん、異論なし。」

 

私達の調査はまだ始まったばかり。

 

「うし、まずは『ビナー』と『ケセド』からだな。」

 

前途の遠さを気にしていても始まらない。

 

「それらデータの大元を探しましょう。『特異現象捜査部』、あらためて始動です。」

 


 

『ビナー』と『ケセド』。私達がまずターゲットとしたのは、『ビナー』の方だ。

 

この前調査したように、ビナーの出没区域ではカイザーPMCが発掘調査を進めていた。

PMCのデータベースを利用することができれば、確かな情報が集まるはず。

 

もちろん、PMCに直談判したところで、ビナーのデータを貰えるはずもない。

不本意ではあるけど、天才ハッカー(ヒマリ)の力を借りて盗み見ることにした。

 

私の立場としては、生徒には明らかな犯罪へ走ってほしくないんだけど...今回ばかりは他の当てが見当たらなかったので、形跡を残さないことを条件に渋々許可。

 

しかし...ミレニアム最高峰の頭脳が相手とはいえ、カイザーのセキュリティも甘くない。例によってアビドスから回収してきたデータはもぬけの殻で、暗号化された情報が本社へと送信された形跡だけが残っていた。

 

本社のデータベースはより堅牢。

しかし流石はヴェリタスの天才、ヒマリは危なげなく侵入に成功し、ビナーとの戦闘記録を引き出すことに成功した。

 

「発掘地において、ビナーは不定期的に出現していたようです。

PMCはビナーの妨害から現場を防衛していたようですね。」

 

「ひとまずビンゴってとこだな。

しつけぇくらいのセキュリティからして、よほど外部に漏らしたくなかったであろう文書だ。有用な情報はありそうか?。」

 

「ビナー自体の性質が記載された項目を発見しました。確認します。

 

ビナーの体表を覆う外骨格は最低でも鋼鉄の250倍を超える強度を有しているようで、カイザーの有する兵器の8割程に高い耐性を持っていたようです。

最も有効打を与えた重機関砲でさえも、目立った外傷を与えるには至らなかった...装甲に関する情報は、先生の報告と多くが一致しますね。」

 

相手にしてみた時、ビナーは今までのどんな敵よりも丈夫に感じた。

撤退する際に純粋な火力で怯ませるのは、あまり有効な手段ではなさそうだ。

 

コーヒーの冷めも気にかけず、セキュリティを抜け続けるヒマリ。

ふと、打鍵音が止み、白雪のような彼女の眉が微かに吊り上がる。

 

「おや...先生の報告書にはなかった情報ですね。」

 

ヒマリが辿り着いたのは、

ビナーに関連するものの中でも、一際セキュリティの厳重なファイル。

 

今から一週間前、ビナーが発掘現場に出現した時のこと。

地形を荒らされぬよう、PMCの勢力が対処していると──

突如としてビナーが苦痛を受けたかのように悶え、地中へと退避していった。

この瞬間、現場からは...ビナーと異なる、巨大なエネルギー反応が観測されていた。

反応は一定の暗号となっていたようで、カイザーが解読した結果、ひとつの短い文章が浮かび上がった。

 

 

 

鎖を断ち切り、その眼で恐怖に向き合え

 

 

 

“指令?いや、デカグラマトンって預言者に命令なんてするっけ?”

 

「違う...デカグラマトンが行っていたのはAIへの“感化”。

命令を目的とするならば預言者を“支配”するのが効率的...預言者の独立性を利用する理由があるはず。」

 

「それに記録を見る限り、ビナーは焦燥して退散した様子。この現象が、当者にとっても予想だにしなかった事態とするなら──

 

デカグラマトンとは異なる別の力が、ビナーに作用したと考えるのが妥当でしょう。

 

ここに来て判明した、デカグラマトンを取り巻く別の厄介事。

 

「...面倒が増えたか。ビナーと接触する重要性が上がったな。」

 

始めから、規模の大きい仕事になりそうだとは察していたけど...

私達は既に、底なき深淵へと足を踏み入れてしまったのかもしれない。

 


 

その後...ヒマリが最新のファイヤーウォールに対抗心を燃やしたようで、調査と関係性の薄いデータまでハッキングしようとしたため...3人がかりで阻止にかかった。

 

しゅんと肩を落とす彼女だったが、後日にセキュリティへ挑もうと意地を張っていた。

 

「...エイミ。分かりましたから、そんな目で見ないでください。仕方ないですねぇ。」

 

「それはこっちの台詞。」

 

主導のヒマリが暴走すると、エイミが前に出てカバーしにかかる。

最初はエアコンの温度で揉めていた二人の間に、いつの間にか持ちつ持たれつの関係ができているように感じた。

 

“不思議な関係性だ...”

 

遠巻きに二人を見ていると、ついそんな一言が漏れた。

 

「ああ、だが悪かないだろ。

ああも支え合いがうまくいってりゃ、安心して任せられるってモンよ。」

 

マックスの人となりもある程度見えてきたけれど、

彼は時折、私以上に彼女達を遠い目で見ているように感じることがある。

 

“私達も、私達なりの役目を果たさないとね。”

 

「俺らなりの役目...。無論、やる時はやるつもりだ。

ああいう輝きが目の前で尽きるのを、見殺しにしないためにもな。」

 

部屋の光が反射した彼の横顔は...相変わらず視線の先が掴めない。

 


 

カイザーから()()()()()データを元に、ヒマリが資料を作成してくれた。

これにより、90%以上の確率でビナーと遭遇できる座標、及び時間帯を割り出せたのことだ。

 

後の準備は食糧や装備くらい。

...それだけなら良かったのだが。

 

“もっと戦力が欲しいな。流石に私達だけだと心許ない。”

 

カイザーは発掘計画にて、ビナーの襲撃を食い止めていた。

そう、あくまでも()()()()()()()だけ。データにあった襲撃の頻度と戦力の消耗を鑑みれば、大幅な損失を考慮してでも短期でビナーを無力化した方が能率的だ。

PMC規模の戦力でそれが叶わないのがビナーなのだ。いくら三人が頼りになるとはいえ、少数精鋭と言い張るにもこのメンバーだけでは厳しい。

 

「有意に効果を示したのが重機関砲くらいなのを考慮すると、貫通力のある兵器を運用できる人員を集めるのが合理的。

...私はショットガン以外の銃は殆ど扱った経験もないし、あんまり火力面での活躍はできなさそう。」

 

継戦能力は優秀だけど、アタッカー気質ではないエイミ。

 

「先生の指揮で能力が跳ね上がるのって、俺は含まれなかったよな?

経費のお陰で電力はそれなりに確保できるが、俺の装備もどこまで通用するか...」

 

私の指揮下にある生徒は、なぜか単に指揮官が増えただけでは説明がつかないくらい強くなるけど...その恩恵を受けられないマックス。

 

“シャーレの権限で人を集めることはできるけど...ヒマリ、何か不都合な点は?”

 

ヒマリは私の問いかけを予想していたようで、1秒と経たずに口を開いた。

 

「シャーレの任務という体で召集して頂けるのであれば、特異現象捜査部(われわれ)。本作戦で何らかの不祥事が起きた際のアフターケアも、先生の仲介をお借りできる分、容易でしょう。

しかし...有力で名のある組織を招くことは避けたいですね。デカグラマトンを取り巻く騒動が大々に外部へ知れ渡った場合、混乱はもはやミレニアムに留まらない事態となるでしょう。

由々しき噂とは、瞬きにも満たない刹那のうちに広がっていくものですからね...天から八百万の才を賜わった稀代の美少女が『全知』となった当時、クロノス*2の報道を待たずしてその名を轟かせたように。」

 

キヴォトス中を巡っても、噂が立たない組織か。

 

記憶を掻き混ぜ、組織という組織の澱を浮かび上がらせてみる。

現地付近には丁度、私が依頼を受けるまで名も聞かなかった学園があった。

その学園付近は、度々砂嵐に襲われていた。今回私達が追うビナーも、砂嵐との関連性が疑われていたよな...

 

 

“...ひとつ、心当たりのある組織がある。

しかも、今回の作戦に乗ってくれそうな子達がね。”

 

 

*1
※念のため、アロナには部室付近で位置情報を取得しないよう伝えている

*2
クロノスジャーナリズムスクール。キヴォトスのマスメディアとして、ニュースや雑誌を通して報道の役割を担っている。

今までの話で説明不足な部分があるので、定期的に短編を挟んでもいいですか?

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  • こまけぇことより本編だ
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