思い当たる原因を色々考えてみても
結局真実が永遠に分からないのが辛い所です。
“──という事で...今回私と共同することになる、特異現象捜査部の面々だよ。”
不毛の大地から運ばれてくる砂も、ここには未だ積もらずにいる。
規模に反してやたら閑静なこのアビドス自治区にて...俺らは先生が呼んだ「助っ人」と邂逅することとなった。
「初めまして、アビドス廃校対策委員会の皆さん。
私がミレニアムサイエンススクールのヴェリタス兼、特異現象捜査部の部長...
そして、ミレニアムにただ一輪として咲く高嶺の花...天才の中の天才たる薄命の美少女ハッカー...明星ヒマリです。」
前回のアビドス遠征の時は多忙につき、別行動せざるを得なかったヒマリだが、
今回はシャーレのヘリに搭乗し、現地に赴いた。
経緯はどうあれ...相変わらずヒマリは、初対面の人間に対しても自己肯定感に溢れた挨拶を欠かさない。ここまでの自画自賛が間違いでもないから余計にタチが悪い。
...そら見ろ、相手側の
「ごめん、うちの部長が...
同じく捜査部の1年、和泉元エイミ。今日はよろしく。」
凍りついた空気が、エイミの一言で溶けていく。
空気が溶けたのは良い事ばかりでもないようだ。アビドス生徒会の斜に構えた猫耳の少女が、沈黙に堪えかねたのか口を開いた。
「...ちょっといい?
...何であんたの服装に誰もツッコまないのよ!?
いくら何でもはだけすぎでしょ!
あとその胸のファスナーは何!?いかがわしい事に使ったりしないわよね!?」
...まぁ、何となく予想はしていた返事だ。
都市において、刺青などで敵を威圧したり、所属を顕示したり...それ以外に、あえて身を防護する繊維を削ぐ選択肢を取る
神秘が防御手段の大半を占め、肌の露出がファッションとして充分に機能する当のキヴォトスですらこの言われようだ。
耐暑というやむ無き理由はあれど...健康面でも周囲の視線という面でもよろしくないというのは、先生も常々気にしているのだが。
「排熱の面で合理的な着方をしているだけ。
こうでもしないと、私が蒸し焼きになっちゃうから...」
「いくら暑がりだとしても、もうちょっと肌を隠しなさいよ...乙女として恥じらいはない訳?ほら、ラッシュガードとかで...」
気遣いの裏返しなのは伝わるんだがな。
「エイミは室温を3℃くらいに下げて、やっと快適になるそうだ...本人にとっちゃ、なりふり構ってられないほどの死活問題だと思ってくれよ。」
「そういった事情でしたか。
とはいえ、アビドスは砂埃も激しい地域ですから、エイミさんもお体は大事にしてくださいね...」
赤縁の眼鏡をかけた、生真面目そうな少女にも心配されている。
これでも
「──そうそう、俺も名乗らなきゃあな。捜査部の臨時顧問、マックスだ。普段はちょっとした街工房をやってる。」
「...一目見ただけでも、そこらの兵士と装備の質が全然違う。
本当にただの街工房?」
先程からこちらに眼差しを向けてきていた、空色のマフラーが特徴的な銀髪の少女は、どうやら俺の義体を見る目があるらしい。
「前職が
「ん、道理で強そうだと思った。」
彼女が膝に置いた手がピクピク疼いている。
...闘争心が抑えられないタイプなのか?直前まで彼女が手入れしていた撮影用モデルと思わしきドローンにも、ちゃっかりミサイルが取り付けられていたしな。
「便利屋の方でしたか。
シロコちゃんが認める方がいるのは心強いですね!」
クリーム色のカーディガンを羽織った、ふんわりとした雰囲気の少女や、
「頼もしいね〜。これはおじさんも気楽にいけそうかな〜?」
これまた、マイペース
「ご紹介を頂いたことですし、次は私達の番ですね。
対策委員会の書記、
「会計の
「
「
皆さんの力になれると嬉しいです!」
「私が最後だね。委員長の
そして...問題のホシノ。
こちらまで気の抜けてしまいそうな立ち振る舞いの裏に、睨みつけるように冷たい視線が見え隠れする。
素性の分からないこちらを、見定める心理。
それも、害寄りの存在として有事には容赦なく切り捨てるつもりの、冷酷な心理。
裏路地で飽きるほど見てきた、自衛の為に持ち合わせざるを得なかった警戒の姿勢。
この少女から感じていたのは...紛れもなくそういった視線。
治安は都市と五十歩百歩でも、死の概念が希薄なキヴォトスで過ごしていれば嫌でも平和ボケが付き纏う。
そういった空気に生きてきたそこらの学生と比べ、ホシノが仮面の下に隠した世への猜疑心が一線を画することは火を見るより明らかだった。
ブラックマーケットでもここまで荒んだ眼を向けられたことはねぇ。間違いなく訳アリだ。
極論、俺だけならいくら嫌われようが問題ない。
重要なのは、行動で自身の無害を証明することだ。俺の為すべきは彼女達の力になることであって、絆の輪に土足で踏み入ることではない。
「アビドス復興の上でも貴重な機会だからね。
おじさんも張り切っていっちゃうよ〜?」
それはそうとして...先生が対策委員会を呼んだのは、彼女達の為でもあった。
〜ヒマリとアヤネの対談〜
『皆さんに提示できる支援活動についても話しておきましょう。今回の作戦に参加して頂ければ...特異現象捜査部は、アビドス砂漠における砂塵現象を主題とした研究論文を作成する事を約束します。
ビナーより回収したデータ、及び“全知”の私が識る叡智の数々...そして、ミレニアムに属する優れた人材。
これらをもって、先行研究では調査することのできなかった側面を重点的に研究すれば、今なおアビドス自治区に打撃を与える災害への対策にも役立つことでしょう。』
「えぇっ!?しかし、それでは捜査部の皆さんにとってのメリットがあまりに少ないのではないでしょうか...?」
『現代科学を超越した不可解な現象は我々の専門分野...デカグラマトンとは別件と仮定しても、我々が調査するには格好の題材といえるでしょう。寧ろ、我々にとっては是非とも取り組ませていただきたいプロジェクトです。』
「先生のおかげで借金問題は無事に解決しましたが、砂嵐という根本的な原因は手付かずのままですからね...
自治区復興のため、全会一致でオファーを受け入れることを決定しました。」
先生には対策委員会との浅からぬ縁があるが、信頼と立場だけを交渉材料にして利用することを好かないようだった。
対策委員会に巡ってくるメリットを考慮しつつ...さらには捜査部という人脈に繋がるよう誘導する。
損得の中心を自身ではなく、生徒達自身に据える。
どこの都市であろうと蔓延る、己の利益を至上とした集団とは対照的な立ち回り。
これが連邦生徒会より、キヴォトス全体の問題解決を任された大人ということか。
その後のブリーフィングでも言及されたが、今回の作戦人員は既に編成を取り決めてあった。
先生・ヒマリ・アヤネの三人でオペレーションを行い、2組の部隊に分かれてビナーを挟撃する。
ホシノ・セリカ・ノノミのアルファ隊。
俺・エイミ・シロコのブラボー隊。
「シロコちゃんを頼んだよ〜。エイミちゃんと、十字顔の人?」
ホシノからは最低限の信用こそされているが、まだ信頼を寄せられるには至っていない。心理的な距離が開いているのを感じる。
「よろしく。作ってもらった
対照的に、当のシロコが乗り気なのが救いか。
隊長として、そして大人として...責任を果たすべきは俺だ。
「さて、いよいよ実行に移ります。
有力なビナーの戦闘データを回収しましょう。」
果てなき砂地を蛇行する、アスファルトの一本道。
「現在時刻、キヴォトス標準時で14時26分。
いよいよビナーとのご対面だね。」
俺らブラボー隊は、アルファ隊と司令部より離れた位置で、
回遊するビナーの接近を待っていた。
『─!ビナーが急旋回。
現在、司令部へ接近中です!』
『“やっぱり狙いは私か。総員、プランAを実行するよ!”』
預言者の暫定的な目的は、神の証明に有用と判断された情報の回収...戦闘データが欲しいのは、お互い様ということ。
ビナーは今、先生の分析を始めようとしている。
ブラボー隊の方が距離的には近いにも関わらず、奴の眼中にすらない。
──もしもこの瞬間、新たな餌が垂らされたのなら?
「お伝えした通り、ビナーは地中への潜伏能力を有しています。逃走能力が高い以上、完全な討伐は難しいでしょう。
加えて、出現地域も広大...閉鎖的な場所に追い込むことも困難です。
以上の理由から...充分な戦闘データを回収するには、ビナーが1秒でも長く交戦を継続する...“積極的に戦わなければならない理由”を作らせるのが効果的です。そのために...」
──興味を引かせた上で、すぐに逃げる選択のメリットを奪ってやりましょう。
「シロコ、用意はできてるな?」
「全機異常なし。確実に当てられる。」
シロコのドローンは両部隊の中継地に配置されている。
『“アルファ隊は目標へ前進!
ブラボー隊、撃ち方用意...”』
地鳴りと共に巻き上がる砂の飛沫が、ドローンの手前へと差し掛かった瞬間──
『“...始め!”』
ドローンの撮影口に偽装した発射口より、表面を淡い虹が伝うミサイルが発射される。
ミサイルは飛沫の消えた地点を囲うように着弾し...爆発することなくその地点に留まる。
着弾音を察知したのか、その中央より純白の何かが浮き上がる。
機械仕掛けの巨大生物の頭部...ビナーだ。
蛇と鯨類を同時に想起させる頭部。燃え盛る橙に光る四つの眸。
そして、奴の額には...土星のシンボルを中央に刻まれた、円形の紋章と──その下に埋め込まれている、金色の宝玉のようなものが。
『“宝玉!?今まであんなのなかったはずなんだけど...”』
『考察は後回しです、先生。今は動向の観察を。』
ビナーは直進を止め、目の前の
急ピッチで改造し、虹漿を詰め込んだシロコの兵器...
ビナーがスルーせずその場に留まったということは、奴にとって虹漿は分析に値する代物であったと断定できる。
『着弾を確認。マックスさん、お願いします!』
「見慣れねぇモンに釣られたな...その一瞬が命取りだぜ、ビナー!」
腕のスラスターから虹の煙を噴かし、その勢いで手元の手榴弾を前方に投擲する。
この速度では潜ることも間に合うまい。
現にビナーが再び頭を沈めようとするが、手榴弾はそれよりも先にミサイルの一つに着弾する。
それと同時に圧縮された空気が砂に打ち付けられ、こちらまで轟音を響かせた。
「遠投でソニックブームを起こすって何...?」
〜!?
手榴弾が破裂し、爆炎が拡がる。
手榴弾の爆風を受けたミサイルは急激に膨張し...
地面に向かって虹の爆風を起こした。
先刻撃ったミサイルは不発弾にあらず。
元よりビナーの注意をひく為に、単体では爆発しないよう仕込んだ擬似餌だ。
爆風は神秘の装甲を傷つけるには至らなかったようで、ビナーは混乱した様子で首を露わにするだけだったが...
奴の大部分を隠していた道路沿いの地盤は、容易く瓦解してクレーターを形成した。
いくら地表が瓦礫まみれとはいえ、いずれビナーは瓦礫を破砕して地中へ逃げ帰っていくだろう。
だが...それは“逃げる余裕があれば”の話。
『こちらアルファ隊、ビナーと交戦を開始。
そっちも準備しててね〜。』
隙を与える間も無く、アルファの隊員達がビナーへ攻撃を始める。
「さて、俺らも行くか。」
接敵前の実験は済んだ。
ここからは──ぶつかり合ってお前を理解するパートだ。
アビドス組のエミュレート、出来てるかなぁ...
先生ってどのくらいの頻度で「大人のカード」使ってるんでしょうか。
今回は使わない方針で話を進めました。ゲーム内だったら対ビナーでアビドス組を統一採用する理由はないです。
今までの話で説明不足な部分があるので、定期的に短編を挟んでもいいですか?
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OK
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こまけぇことより本編だ