晴れ空と錆びた虹   作:うらしるちみん

8 / 20
憎しみちゃん、ボイス実装おめでとう...

今回は先生にご執心なあの人が登場します。


3:A doddy in black suit

 

全身義体の人間は飲み食いを必要としない。

強いて言えば燃料や電力がそれにあたるのだが、補給する頻度は生身の人間が食べるそれよりも遥かに少ない。

 

こちらで工房を持ち始めて以来、動力源すらマトモに得られない程稼ぎに困った時期はないが…

 

それ以外にひとつ、現在に至るまで一切確保できていない必需品がある。

 

 

──そう、脳髄だ。

 

 

俺は中枢神経を除き、生命維持に必須である器官を全て失っている。

脳にはそれ単体で十分な潤いを保つ機能がない以上、適宜補給する必要があるのだ。

 

キヴォトスにおいて、少なくとも全身を機械にできるほどの義体技術は存在しない。クローン技術がある訳でもない。

人間の脳髄が売買される場所は…ここの倫理基準から考えてもまずないだろう。

 

現在はここに転移する前、次元鞄に入れておいた予備で繋いでいるが…

脳が乾いてロクに思考がまとまらなくなるのも時間の問題だな。

 

深夜のブラックマーケットからミレニアム自治区へ帰還したとこだ。

 

ワンチャン狙っていろいろ巡ってはいるが…やはりお目当ての品にはありつけないな。

 

今日の開業準備を始めようと、工房へ入ろうとしたその時...

 

 

奇妙な足音が、突如として背後に響いた。

 

脳髄の補給量をケチりすぎたか、はたまた勘が鈍ったか…

その者の気配を察知するのが、幾分か遅れてしまったようだ。

 

街が寝静まった影響で、周囲に他の人影は見られない。

──この時間帯にわざわざ訪ねてくる人物だ。奇襲し返したところで問題もあるまい。

 

 

目立たない程度にブースターを起動し...

 

フッ

 

背後に回りこむと同時に全身を拘束し、

起動したブレードを首筋に掛ける。

 

「クックック...勘付かれてしまいましたか。」

 

招かれざる客の正体は、黒いスーツの男だった。

 

石のような皮膚に、白い亀裂が走った顔。

頭頂からは、闇よりも深い煙が漏れ出している。

まるで都市に出始めていた“ねじれ”の風貌だ。

 

奇襲への反応速度から見るに、戦闘手段は持ち合わせていない様子だ。

にも関わらず、この男は命を握られたこの状況において余裕を崩さない。

何者なのか...まずは尋問といこう。

 

「俺の与えた質問に答えるためにのみ、舌を動かす事を許可する。

ひとつ。名と所属を名乗れ。」

 

「私のことは『黒服』とでもお呼びください。

『ゲマトリア』...この地において神秘を探求する組織が一員です。」

 

「素直な返答で助かるね。

ふたつ、目的は何だ?わざわざ営業時間外に、それも深夜に訪ねてくる輩だ。ロクな要件ではあるまい。」

 

「何も後ろめたい意図はありません。ただ、あなたへ素晴らしい取引を提案しに来たのですよ。」

 

余計な行動を起こす兆候は見られない。戦闘経験がないだろうに、明らかに手慣れているからなおさら気味が悪い。

敵意はない以上、拘束を解くのが先決か。

 

「...客席を用意する。

だが己の立場は考えておけ。お前が挙動不審者であることに変わりはない。

 


 

「このような時間帯での訪問、ご容赦ください。

...つまらない物ですが、こちらを。あなたにとっては、菓子類よりもこちらの方がお気に召されるかと。」

 

黒服からは小型規格のバッテリーを渡された。

俺の知る限り、市販品として出回っているものではない。高級品か、彼の組織が独自に開発したものか。

 

「どうも。あんたが信用に値する訳ではないとはいえ、先制攻撃を仕掛けたことは詫びよう。」

 

「敵意のないことが伝わったようで幸いです。我々としてもあなたと敵対する事態は避けたいものでして。

さて...本題へと移りましょうか。

あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。

 

黒服は自信に満ちた様子で手を組む。

決して拒めない...よほど完璧な提案のようだ。

 

「あなた...最近思考が回らない時がありませんか?」

 

「...悪質セールスの言い草だな。あそこまで露骨な訪問の仕方じゃなかったら追い払っていた所だ。」

 

「言い方を変えましょう。脳髄が不足していませんか?」

 

「...!」

 

俺が完全な機械ではないと知っている人物は、ごく一部のミレニアム生だけのはず。

加えて、全身義体に脳髄が必需品であると伝えた覚えは一度もない。

どこまで知っているんだ、コイツは。

 

「そこで、です。脳髄の一部を提供して頂けませんか?

我々『ゲマトリア』であれば、あなたの脳髄を培養することなど造作もありません。

あなたの要望に応じて補給致します。いかがでしょう?」

 

「俺の脳髄を資源化した所で、使い道の狭さなどたかが知れているだろうに。

俺から支払うべき対価はそれだけじゃないだろう?」

 

「そうですね...。

では、あなたからは技術の一部も同時に提供して頂く。これでどうでしょうか?」

 

「工房の技術を盗ろうってか?お生憎様、うちには企業秘密が多いものでね。提供できるものは少ねぇな。」

 

「私の望むものはただ一つ、この石の加工技術です。

これの扱いについては、あなたの方が長けていることでしょうから。」

 

そう言って黒服が取り出したのは、輝く鉱石だった。

虹陵石。虹漿を精製する機構の素材であり、俺の義体にも当然使用されているもの。見間違えるはずもない。

 

「あんた...なぜその石を...!

お前も都市の出身なのか!?」

 

「私が元々属していたのは別の領域です。

虹陵石が我々の領域にも存在していた...ただそれだけのことですよ。

文化の色が異なる全くの異国同士であろうと、どちらにも政治を握る者が存在するように。

 

それと...貴方は何か大きな勘違いをされているようで。

我々は貴方に目を向けてはいますが、貴方の有する技術そのものを欲している訳ではありません。」

 

「...何が言いたい。」

 

「我々の目的は神秘を解析し、崇高へと至ること。

技術は手段であり、崇高へ至るための道標にすぎません。

 

あなたからの技術提供の話は、我々に利益のある取引の対価として挙げたほんの一例です。

提供して頂けないのであれば、我々が手ずから代替となる手段を研究するまで。」

 

彼は姿勢を崩さず、しかし雄弁に組織の矜持を語る。

我々の技術力ならお前のメソッドなどいくらでも再現可能だ、って訳か。

 

「加工技術に替えが利くんなら、なおさらあんたらにとってのメリットがねぇ。

先程、俺に目を向けていると言ったな。

ここまで俺だけに都合の良い提案なんだ、何か裏があるんだろう?」

 

「クックック...やはりあなたの目は誤魔化せませんか。

 

あなたには、いずれ神の賜物を宿す可能性が秘められています。

正確に言えば、あなたの転移元であったあの“都市”の住民に、ですが。

 

私共としては、あなたのその可能性を分析する...それだけでも相応の利益があるのですよ。

 

...これ以上は、期待される返答にはなり得ないでしょう。

現時点では、あなたには知る由もないことです。時が訪れれば、あなたも全ての真実を目の当たりにすることでしょう。」

 

端からずっと胡散臭い男だが、嘘をついている様子は一度たりともない。

きっとコイツも、単に研究に取り憑かれた狂人にすぎないのだろう。

少なくとも、取引そのものはクリーンなものだと信用して良い。この手の人間はグレーゾーンに潜伏こそするが、ブラックな方向に突き抜けはしない。

 

 

それからも黒服の素性を詮索するために、(はなし)を続けた。

この男との会話は、却ってある種の安息感をもたらすものだった。

キヴォトスでの出来事という甘く儚い夢の合間に、都市という現実へ引き戻されたような...そんな気分だ。

 

「魅力的な提案ではあったが...やはり即決はしかねる。

あんたらの“探求”とやらの行き着く終着点は理解できはしたが、その過程は一切信用ならねぇ。」

 

「今日のところはほんの挨拶。即決なさる必要はありません。

気が向きましたら、いつでもご連絡を。正式な契約書もご用意してお待ちしております。」

 

黒服は懐からとある施設に関する資料を取り出す。恐らくこれがゲマトリアの所有する仮拠点の一つなのだろう。

 

「最後にひとつ。

 

ゲマトリアは、ずっとあなたのことを見ていますよ。

 

そう言うと、黒服は部屋から抜け...

靴と地面を何回か擦り合わせたのを最後に、足音もろとも気配を完全に消した。

 

 

 

奴の溶けていった闇は、未だ深く立ち込めていた。

 

都市要素が薄いですねぇ...

  • 他の都市民を転移させろ!
  • 翼の勢力をキヴォトスにも!
  • L社由来のアレコレを放つのです
  • 市民をねじれさせればおk
  • 語録差し込む程度でええんちゃう?
  • んなもん持ち込むなオイ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。