女義賊が、婚約者争いをぶっちぎる話   作:埃っぽい心

15 / 46
 遅くなってすみません。

 残虐な表現をするには語彙力が貧弱すぎて、なんか迫力ない気がする。

 最初の方に少し嘔吐の描写があるので苦手な人は注意してください。


15話 救出作戦

 クロを捕まえたテファニー・フォレスご一行は、貧民街の地下に作られた道を進んでいた。

 

 今のクロは魔力封じの首輪に加え、手枷や足枷をつけられいる。着いていくだけでも、一苦労だ。

 

 周りは貴族が目を光らせており、とてもじゃないが抜け出せそうにない。

 

 地下を進む度に来た道を崩落させて消しているため、追跡はあまり期待できそうにない。

 

「どこに連れていかれるのか、気になりますか?」

 

 テファニーが、肩を落とすクロの顔を覗きこむ。その顔は、こちらの恐怖を期待するような嗜虐心をうかがわせた。

 

「……さてね。さっき飲み込んだ土の塊が腹で悪さをしていて、それどころじゃないんだ。話しかけないでもらえないか」

 

 土を飲み込んだのはさすがにまずかったのか、クロのお腹はさっきからぎゅるぎゅると音を立てていた。

 

 思い返せば、幼いころに困窮して腐った物を食べたことはあっても、土を食べたことはなかった。

 

「あら、それは大変ですね。あなたはリア様の所有物となるのですから、土なんて飲み込んではいけませんよ」

 

 そういって、テファニーはクロを地面に引き倒す。

 

「っ……! 痛いじゃないか」

 

 拘束されたクロはなすがままにされながらも、抗議の声を上げた。

 

 テファニーは、見下ろしながら口角を上げる。

 

「飼い犬が誤飲をしたのなら、吐き出させないといけません。躾も兼ねてここで吐き出させましょうか。『土の槌(ソイル・ハンマー)』」

 

 テファニーが魔法を打ち込み、顔ほどの土の塊がクロのお腹にめり込む。

 

 吐き気がこみ上げてせき込むのもお構いなしに、魔法は執拗に繰り返された。

 

 思わずうつ伏せになって防ごうとするが、横から魔法を撃たれてひっくり返されてしまう。

 

 赤く滲んだ吐瀉物に土が混ざって出てきた頃、ようやくクロに対する魔法が止んだ。

 

 内臓が損傷しているのか、腹部に尋常ではない痛みを感じる。

 

「やっと吐き出しましたか。ごめんなさいね、強くしすぎてしまって。ほら、治療用の魔法薬ですよ」

 

 そういって、テファニーは地面に魔法薬をぶちまけた。

 

 素直に飲ませるという選択肢はないようだ。

 

 苦痛に顔を歪めるクロは、仕方なく這いつくばって魔法薬を啜る。

 

 ここで抵抗したら、もっと酷い目にあうかもしれない。今は黙って従っておくべきだ。

 

 思わず吐きそうになりながらも、魔法薬をなんとか飲み込む。

 

 お腹の痛みが、少しマシになった気がする。

 

「汚らわしい。貧民街の犬には、品性というものが備わってないのかしら」

 

 テファニーは相変わらず、意地悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

 周りの仲間と思わしき貴族も、少し引いていた。この苛烈な虐めは、貴族の間でも異常らしい。

 

 どうやら徹底的にこちらの尊厳を折るつもりのようだ。

 

 連れていかれた先でもっと過酷な事を強いられるかもしれないと考えて、クロは少し震えていた。果たして自分は耐えられるのだろうか。

 

 恐怖に負けそうになるクロだったが、こんなことではいけないと恐怖を振り払う。

 

 原作『ブラックムーン』ならどんな苦境であっても、活路を見いだすに違いない。

 

(耐え続ければ、きっと逃げ出す機会はあるはずだ)

 

 折れそうな心を奮い立たせて、テファニーの侮蔑の視線に晒されながらも立ち上がる。

 

 細い地下の道をかなりの時間歩いたクロは、ようやく終着点についた。

 

 目の前には広めの地下空間が広がっており、明かりをつける魔道具によって地下とは思えないほどに明るい。

 

 中央にある檻に連れられたところで、周りの貴族たちは撤収していった。

 

 一人が屈んで入るのがやっとのような檻に、クロは放り込まれる。

 

 檻の外から、テファニーはボロボロの布のようなものを投げ渡す。

 

 服のようだ。今着ている服は汚れているので、ありがたい。

 

 手枷と足枷が魔法で解かれたクロは、素直に服を着替えた。

 

「ウィンの時と違って気前がいいんだな。ゲロまみれで寝るのかと心配してたんだ」

 

 クロはテファニーに話しかけた。

 

 なんでもいいから情報がほしい。

 

 機嫌を損ねればどんな目に合うか分からないが、怖気づいていてはいつまでも牢屋の中である。

 

 逃げる機会を探るためにも、勇気を出さなければ。

 

「吐瀉物にまみれた服では、かわいそうですからね。大人しく道中をついてきたご褒美です。しかし、言葉遣いがなってないですね。人の言葉は、許可が無ければ話してはいけませんよ」

 

 テファニーが檻に手を当てると、檻の鉄格子から鉄の棘が生える。

 

 四方から体を刺されて、クロは苦悶の声を零した。

 

 満足したのか、テファニーは治療用の魔法薬を傷口へとかける。

 

 先ほども、怪我を治すために魔法薬を使っていた。向こうは、あくまでも精神的に追い詰めることに拘っているようだ。

 

「表面上は素直に見えますが、心の底では助かる望みを捨てていないですよね? 無駄ですよ。ここは教育係の私しかいません。貯蓄もあるので、出入りもほとんどありません。なので、安心して壊れてくださいね?」

 

 牢屋の外では、テファニーは恍惚とした笑顔を浮かべている。

 

 どうやらこのテファニーという少女は、相手を支配することに喜びを見いだす性質(たち)なのだろう。

 

 この檻といい、悪趣味にもほどがある。

 

 一通りこちらに言葉を投げかけて満足したのか、テファニーは地下室から出ていった。

 

 狭い檻の中に取り残されたクロは、身を捩ってなんとか横になる。

 

(絶対に屈したりするもんか)

 

 少し寒くなった地下で、身をさすって目をつぶる。

 

 不安に押し潰されそうになりながらも、疲れ果てていたクロは意外にもあっさりと眠りについたのだった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 レインが兄のオルターに捜索を依頼してから、15日が経過していた。

 

 グラント家派閥の息のかかった者は多い。

 

 今のところクロの救出に動いている話は、フローレス家の信頼できる人間にのみ伝わっている。

 

 テファニーたちが使ったと思しき地下通路からの追跡は、断念せざると得なかった。

 

 貧民街の広範囲で崩落が起きており、地上でも建物の陥没などの問題が起きるほどである。

 

 道がふさがってしまっている以上、通れないので仕方ない。

 

 頼みの綱のオルターとワーグは、共同で『ブラックムーン』の捕まっている位置の割り出しに専念している。

 

 『紋章』を利用することで、『ブラックムーン』の方角を探知する魔道具を作るのだという。

 

 レインの『紋章』は、クロとの盟友関係の影響を大きく受けている。極端に言えばクロとの関係に何かあれば輝きにも変化が現れる。

 

 クロが攫われたことで、レインの『紋章』も輝きが弱まっている。逆に言えば、クロを取り戻す未来に近づくほど、以前の明るさに近づくとオルターは推測した。

 

 ただし、『紋章』の未来予知も万能ではない。

 

 無数の未来を束にして観測しているため、ちょっとやそっとの変数では変化しないのである。

 

 未来に大きな変化があると確定させる──つまりクロの居場所の辺りを付ければ、『紋章』が反応することにも期待できる。

 

 まず、二人は方角を絞った。

 

 方角さえ分かれば、その方向に進みながら『紋章』の反応を見るという手段が取れる。

 

 二人が今作っているのは、人を乗せて長距離を一直線に飛行する魔道具だった。

 

 魔道具で飛行するなど前代未聞だが、ウィンの魔法を参考にすれば理論上は不可能ではないと二人は踏んでいた。

 

 ふんだんに貯蓄していた資源を惜しみなく使っているので、機会は一度きり。

 

 一見あとがないこの状況は、偶然にも都合がよかった。

 

 何回も繰り返せるのなら、この作戦だけで未来が大きく変わることはない。

 

 故に、この作戦を最初で最後の賭けとすることで、乗り物の行く先に婚約者候補としての全ての未来を委ねる。

 

 未来を自ら限定することで、『紋章』による未来予知を利用するのである。

 

 方角が定まれば、あと残っている課題は飛行距離のみ。

 

 『紋章』を見て飛行距離を決めるには、魔道具にレインが搭乗するのは必須だった。

 

 となると、乗る人員はおのずと決まる。

 

「──というのが、今回の作戦よ。ウィン、私と一緒に新魔道具の実験台になる覚悟はある?」

 

 レインは、ウィンにそう問いかける。

 

 ワーグの屋敷に集まった、クロの身を案じる者たち。

 

 その中で白羽の矢が立ったのは、飛行が可能なウィンだった。

 

 水属性魔法の使い手であるレインは、空を飛ぶことはできない。

 

 空で何かあったときに対応できるのは、ウィンだけだろう。

 

「当たり前です。クロを助けるためなら、私がためらうことなどありはしない」

 

 ウィンの目は、覚悟と決意に満ちていた。

 

 今日までしらみつぶしの捜索は、全て無意味に終わっている。

 

 日を重ねるごとに、焦りが募っていく。

 

 フォレス家の悪辣さをその身をもって知っているウィンは、心配で夜も眠れない日が続いている。

 

 レインから助言を受け、ワーグから睡眠薬を貰っているほどだった。

 

 レインとウィンが作戦内容を知らされて、一週間後。

 

「ウィン、待たせて申し訳ない。ついに完成した」

 

 クロを案じる日が続いていたウィンは、オルターのその知らせに食いついた。

 

 案内されたのは、フローレス家の例の孤島だった。

 

 孤島に着くと、先に待っていた『スカーレットムーン』がワーグに声をかける。

 

「それで、これが完成した魔道具ですの? こんなでかいのが本当に飛ぶというのは、信じられませんわ」

 

「理論上は飛ぶとも。こう見えて結構軽いんじゃよ」

 

 孤島の開けた中央の平野に鎮座していたのは、人が乗り込める大きさの青い魔道具であった。

 

 湖に繋がる大きな管が魔道具が置いてある土台に繋がっており、どうやらオルターとワーグの水属性魔法によって制御されているようだ。

 

 周囲にはなにやら大人数の人間が集まっている。

 

「この人たちは?」

 

「魔道具の起動に協力してもらう者たちだ。水を噴射して勢いで飛ぶ魔道具だからな」

 

 集まっているのは、全員フローレス家派閥の者らしい。

 

 この規模で合体魔法となると、かなり大がかりだ。

 

「急造なので安全性は妥協したが、ウィンがいるなら大丈夫だろう。飛行するための重量も考えると、二人しか乗り込むことができない。ウィンの風属性魔法ありきでなんとか形になった」

 

 オルターに案内されたウィンとレインは、早速その魔道具に乗り込む。

 

 理論上の最高速度は、普段ウィンが飛行する速度の数十倍の速度で飛行できるらしい。

 

 回転する土台を巨大な方位磁石のように機能させて、クロのいる方向を特定するのだそうだ。

 

 魔道具の土台を回転させながらレインの『紋章』を確認すると、とある方角に強い反応があった。

 

「この方角に強い反応があるな」

 

 オルターがレインの『紋章』を見ながら微調整をするのを横目に、ワーグはウィンに追加で説明の補足をする。

 

「この魔道具は片道だけのものじゃ。二人が行った方向を確認次第、残りの者たちも追う」

 

 オルターやワーグ、『スカーレットムーン』も後から合流する組に入っているらしい。

 

「向こうで待機したほうが?」

 

「いや、この魔道具を発射する時は、かなり目立つのでな。フローレス家周辺にグラント家派閥の者がいたらまずい。敵に勘づかれて逃げられるやもしれん。合流前でも、二人で先行できそうなら先行してほしい」

 

 ワーグの言葉にウィンが頷く。

 

 レインの『紋章』の輝きも、日に日に落ちている。

 

 クロのことを考えても、時間をかけるべきではない。

 

 ウィンとワーグの間に、にゅっと緋色の小さな影が割り込んでくる。

 

「この爆弾を渡しておきますわ。威力は小さいので、陽動や鍵を壊すのなんかに使ってほしいですわ」

 

 『スカーレットムーン』はそう言って、レインに小型の爆弾を渡す。

 

 やや物騒なものに顔を引きつらせながらも、レインは使用用途を聞いて胸を撫でおろした。

 

 作戦を共有して手短に必要なやり取りを済ませた二人は、魔道具によって飛び立つ準備が完了させる。

 

「では行ってまいります。私は『紋章』を確認していますので、ウィンは空中の制御をよろしくお願いします」

 

 湖の水が勢いよく土台から噴射して、魔道具は凄まじい勢いで射出される。

 

 孤島がみるみるうちに小さくなって、やがて雲の上へとたどり着く。

 

 ウィンは空気抵抗の軽減や風による推進力の維持に集中しているため、どこまで進むかの判断はレインに任せている。

 

「ここまでの高度なら、見張りがいても視認されることは無いでしょう」

 

 この魔道具は青空に溶け込むことができる。雲の上を飛んでいるので、曇り空ならでも問題ない。

 

 安定して飛行できていることに安堵する二人だが、かなり飛んでいるのに一向に反応がない。

 

「この距離では、合流に何日もかかってしまいます。先行は必須かと」

 

 ウィンの言葉に、レインは頷いた。

 

 距離にしてかなり進んだところで、レインの『紋章』に反応が現れる。

 

「ウィン、反応がありました。もう少し先で降りて、徒歩で引き返します」

 

 言われた通りに、魔法によって魔道具を着陸させるウィン。

 

 辺りは草原であり、人の住んでいるような痕跡は一切ない。

 

「王都周辺から、だいぶん離れましたね。この辺境にいては、見つからないのも道理です。おそらく、ここから少し引き返したところの地下に『ブラックムーン』がいます」

 

 レインはそう言いながら、ウィンに水を差しだした。

 

 魔道具の飛行を補助し続けていたのもあって、疲れが顔に出ていたのだろうか。

 

 水を飲みながら、ウィンは反応のある方角に歩き出す。

 

「でも、どうやって地下に潜るんですか。場所を特定できても、私たちは穴を掘れませんよ」

 

「あなたならここに雲を呼べるでしょう。休憩が済んだら雨を降らせて。水がしみ込めば、魔法で穴を掘ってみます」

 

 雨を降らせろという、普通の貴族が聞けばひっくり返りそうな注文に、ウィンはなんてことのないように頷く。

 

 一人で飛び回って雲を集めると、土砂降りの雨が草原を襲った。

 

 器をひっくり返したような雨に、レインが呆れたような目で見てくる。

 

 誰がここまでやれといったのだという非難の目を、ウィンは軽く受け流した。

 

 レインが、『紋章』の反応に従って慎重に掘り進める。

 

 すでにここは敵の陣地だ。

 

 レインの背中に、ウィンは黙ってついていく。

 

「ここまで水があれば、探索も容易ね」

 

 レインは大量の水を使って、人が通っていたらしき地下の空間を探し当てた。

 

 狭い地下の空洞に出た二人は、声を潜めながら様子を確認する。

 

 ウィンが空気の流れを調べたところ、一応周囲に人はいない。

 

 ぽつぽつと明かりが灯されていることから、ここは通路のようだ。

 

「ここからは二人に別れましょう。隠密行動において、きっと私は足手纏いになる。ウィンは、『ブラックムーン』を救出してきて。地上から掘ってきた穴は、私は隠しておく。何かあればここに戻ってきて」

 

 そういってレインに送り出されるウィン。

 

 ウィンが通路を進んでたどり着いたのは、広めの地下空間だった。

 

 物が乱雑に置かれていることから、倉庫のようなものかもしれない。

 

 調べていると、荷物が置かれていない場所へとたどり着いた。

 

 中央には檻のようなものがあり、中には横たわった人らしきものが遠めから確認できる。

 

 近づいて確認しようとしたところで、ウィンの来た通路から風の流れに変化が生じたのを感じて近くの物陰に隠れる。

 

 現れたのは、テファニー・フォレス──ウィンの因縁の相手であった。




 水の勢いで飛ぶ魔道具はペットボトルロケットみたいなかんじです。

 冒頭の部分は、自分でも書きながら少し引いてました。

 「前回の話でクロが土を飲み込んじゃったけど、大丈夫かな。何とかして吐かせないと。仕方ない、テファニーに吐かせよう。」となった結果です。

 初投稿ゆえ自分でもあまり表現のラインが分かっていないので、不評ならマイルドにします。

 クロが影の魔法を使えたら、自分で胃の中のものぐらい取り出せるんですけどね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。