女義賊が、婚約者争いをぶっちぎる話   作:埃っぽい心

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 遅くなってすみません。

 今日は力尽きたので誤字はまた明日か明後日に直します。

 追記:直しました。


第五章 クソデカ矢印を向けられる女義賊
24話 『土竜商会』


「海、楽しかったな」

 

 フローレス家の本邸から貧民街へと向かいながら、クロはここ数週間の療養生活を思い出す。

 

 水着のルージュが凄まじい勢いの小舟に乗って登場したり、オルターとの模擬戦を仕切りなおしたりなど、なかなか刺激的な毎日だった。

 

 ウィンとオルターをくっつける作戦はうまくいかなかったが、距離は縮まったようで一先ず満足である。

 

 海賊は尋問されているらしい。 

 

 だが、肝心の船長が持っている情報も曖昧なものであった。

 

 火属性魔法を扱う人物から雇われて、立派な船を与えられたからフローレス家派閥の港を攻めた。

 

 情報は、これ以外は得られていない。

 

 今回の事件の規模は国内で治まるとは限らないため、調査はあまり進んでいないのだとか。

 

 『勇者の遺物』については、クロが保管し続けることになった。いや、保管せざるを得なくなったというべきか。

 

 影に入れている内に、『勇者の遺物』が取り出せなくなってしまったのである。

 

 オルターが言うには、光属性の魔力によって魔法に何かしら誤作動が起きている可能性があるという。

 

 仕方がないのでそのまま放置である。オルターから、ワーグに相談してくれるらしい。

 

 こちらに戻ってきたのは、グラント家派閥が弱体化したとレインから知らされたというのもある。

 

 グラント家派閥は、ほぼ壊滅状態だそうだ。派閥を見限る貴族も、日に日に増えているとか。

 

 それに伴ってクロの『紋章』の輝きも、落ち着いている。グラント家との契約の価値が下がったのだろう。

 

 相変わらず眩しいが、魔法を使えないほどではない。

 

 クロがここ最近のことを振り返っていると、だんだんと見覚えのある景色になってきた。

 

「ここも随分と久しぶりだ」

 

 貧民街が近づいてきたようだ。

 

 崩落によって貧民街がボロボロなのは、すでに耳にしている。日を追うごとに崩落が進み、住処を失った人もいるのだと。

 

 ところが戻ってみれば、そのような情報はクロの頭からすぐさま吹き飛んだ。

 

 なんと貧民街があったところには、すでに立派な街が出来上がっていたのである。

 

 所々に立ち並ぶ立派な家屋は、貴族が好みそうな派手さが少し混じっておりどこか悪趣味さを感じさせるほどである。

 

 そこに貧民街の面影などどこにも残っていない。

 

 クロは、様変わりした道のど真ん中で立ち尽くしていた。

 

 帰り道を間違えてないか何度も確認したが、そこは確かにいつも通っていた道だった。

 

 もはや復興どころの話じゃない。

 

 どこかの誰かが、資金投入でもしてくれたのだろうか。

 

 混乱したクロがとりあえず向かったのは、以前まで教会があった場所だった。

 

 元々住んでいた住処の方には、遠目からでも分かるほど大きくて一番目立つ建物が建っている。

 

 この様子では、クロの寝床は残っていない可能性の方が高い。

 

 ずっと留守だったから、無人の廃墟と勘違いされたのだろう。

 

(住処にあった物の一部を、教会へと移しといてよかった)

 

 全てを失ったわけではないと、前向きの考えることにしたクロ

 

 とはいえ、かつて書き記した原作『ブラックムーン』の写しは住処に置いていた。

 

 それが紛失したのを想像すると、気持ちは沈んでく。

 

 目的地にたどり着いたクロは、不格好ではあるが以前と同じように修復されている教会を見てほっとした。ここは無事らしい。

 

「おや、クロではないですか。戻るのが遅くなって申し訳ない」

 

 教会に入ったクロを出迎えたのは、ブラウン神父だった。

 

「お帰りなさい、ブラウン神父。教会も崩落に巻き込まれてたんですね。修繕を手伝えなくてすみません。それでその……貧民街の方は一体何が?」

 

「話せば長くなるのですが……」

 

 事態が飲み込めていないクロに、ブラウン神父がこれまでの経緯を説明する。

 

 なんでもブラウン神父が戻った頃に、とある組織が頭角を現したという。

 

 その名を『土竜商会(もぐらしょうかい)』。

 

 最初は住民に反感を持たれていたようで、暴力沙汰になることもあったそうだ。

 

 しかし崩落で混乱する最中、復興を掲げる『土竜商会』は徐々にその名を轟かせていった。

 

 地盤が弱くなった土地の補強や建物の修繕、さらには住処を失った住人への面倒に至るまで様々な側面から復興に寄与。

 

 そうして復興が完了した結果、この街は『土竜商会』に牛耳られている状態だという。

 

 そして支配された町の住人は、『土竜商会』に逆らえない。

 

 立派になった家屋に住まわせてはくれるものの、高額な家賃を要求されるのだとか。

 

 元々貧民街にいた腕に覚えのある乱暴者たちが、取り立てに来るらしい。

 

 そのため、ほとんどの者が泣く泣く従っているようだ。

 

「最初は反抗する者もいたそうですが……。今となっては、この教会が支配の及んでいない唯一の場所になってしまいました」

 

 ブラウン神父は、悲し気な表情でそう語った。

 

「よく無事でしたね」

 

「ここは自力で直すから貧民街の復興を優先してほしいと、向こうの提案を突っぱねていたのが功を奏しましたね」

 

 ブラウン神父は暴力沙汰に巻き込まれていないようだ。

 

 荒事を貧民街のチンピラに任せているなら、教会に出入りしていたクロの存在を恐れたのかもしれない。

 

(ここが無事なのは良かったけど、この街の様子は見過ごせない)

 

 復興を手助けしたといっても、『土竜商会』による弱者からの搾取は見過ごせない。

 

「様子を見てみたいんだけど、どこに行けば『土竜商会』に会える?」

 

「『土竜商会』はこの町で一番目立つ建物なので、一目で分かりますよ」

 

 クロの住処付近を飲み込んでいた建物が、『土竜商会』の本拠地だったようだ。

 

(潜入のついでに、『ブラックムーン』の写しも探そうかな)

 

 教会を出たクロは、今夜中に忍び込む算段をつけるのだった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 数人の男たちが談笑する声が、薄暗い廊下に響き渡る。

 

 この『土竜商会』の建物も、夜はがらんとした雰囲気であった。昼間に仕事を貰いに来た労働者で賑わっているのが嘘みたいだ。

 

「はぁー、だりぃ。警備なんてしなくても誰もこねぇよ。親分に逆らうやつなんているもんか」

 

 男たちは『土竜商会』に雇われた用心棒の元チンピラであった。

 

「正面から逆らわなくても、忍び込むかもしれねぇだろ。ここにいるだけで、お金がもらえるんだ。いいことじゃねぇか」

 

「まったく、良い世の中になったもんだぜ。にしてもクロの野郎もどこに消えたんだろうな? 俺らからしたら大助かりだがよ」

 

 この用心棒たちはクロが街に目を光らせるようになってから、ずっと窮屈な思いをしていた。

 

 それが今となっては、恐喝していたときよりも稼げている。

 

「クロのやつ、崩落の穴にでも落っこちたんじゃないか。ざまぁみやがれ」

 

 用心棒の一人の言葉に周りが同調して、声が大きくなる。

 

 相当、クロに煮え湯を飲まされてきたようだ。

 

 男たちが愚痴を吐いていると、そこへ一人の女性がやってきた。

 

「ちょっとあなたたち、見回り中に喋りすぎよ。上の階まで騒がしい声が聞こえているわ」

 

「すいやせん、リア様。以後気を付けます」

 

 用心棒たちが頭を下げたのは、リアと呼ばれる少女に対してであった。

 

 そそくさと去ろうとする用心棒たち。

 

「待ちなさい。最後尾のあなた、手を怪我していますの? 先ほどはしていなかったようですが……」

 

 リアは、用心棒たちの一人一人を常日頃から観察して記憶している。

 

 最後尾の一人は、手の甲に包帯など巻いていなかったはずだ。

 

「……これですか。実は用を足しにいったときに、何処かで切ったみたいで」

 

「なら、傷を見せてごらんなさい」

 

 周りの用心棒たちは、なぜこんなにもリアが追及をするのか不思議がった。

 

 追及されている用心棒は、返事することなく黙りこくっている。

 

「なあ、おい。どうし──」

 

 仲間の用心棒が肩を掴んだ瞬間、辺りに黒い煙が充満した。

 

「……っ! 曲者よ! 私の周りを固めなさい!」

 

 リアの周りを、用心棒たちが言葉のとおりに守る。

 

 緊張しながら固唾を飲み込むリアと用心棒。

 

 煙が晴れてくると、目の前には黒い衣に身を包んだ人影が佇んでいた。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「『ブラックムーン』、で間違いないかしら」

 

 リアが人影に声をかける。

 

「いかにも。よくぞ我が正体を見破った。参考までにどう見破ったのか伺っても?」

 

 クロは素直に驚いていた。

 

 包帯はそこまで目立つものではない。変装も完璧だったはずだ。

 

「ただ疑り深いだけですわ。あなたの復讐を恐れていた、というのもありますが」

 

 そう話すリアの目には、怯えの感情が浮かんでいる。

 

「復讐? 失礼だが初対面では?」

 

 クロは全く心当たりがないが、向こうはそれを揶揄っていると捉えたようだ。

 

 リアは、きっとした目つきでこちらを睨んだ。

 

「惚けないでください! 元グラント家である私に、あなたが怒りを抱いていないはずがない。……あ、あんなに酷いことをしたんですもの」

 

 グラント家? もしや、リア・グラントか? 

 

 元ってことは、貴族ではなくなったのだろうか。

 

「テファニー・フォレスの所業については、他の誰かを恨んだりはしていない。何か行き違いが──」

 

「問答無用! 貴方の気持ちはお察しするけれど、仕返しは真っ平ごめんよ。行きなさい!」

 

 リアの言葉で、用心棒たちが動き出す。数にして10人以上はいるだろうか。

 

 皆、貧民街で目にした事があるならず者だ。

 

 それぞれ灯りを捨てて、こん棒や槍といった獲物を手にしているようだ。

 

 敵が夜目に慣れないうちに、数の暴力で叩く作戦らしい。

 

 夜の廊下は暗闇に包まれている。

 

 貧民街のならず者の基本的な戦い方は、闇討ち。クロには、見慣れた戦い方である。

 

「無駄だ」

 

 用心棒たちの持つ武器が、『影拾(かげひろ)い』で次々と暗闇に融けるように消えていく。

 

 虚を突かれて一瞬たじろいだ用心棒たちだったが、すぐさま素手での攻撃に切り替えた。

 

 しかし、クロには届かない。

 

 拳を繰り出しても、暖簾に腕を押すような手ごたえで傷一つ付けられない。

 

 困惑する用心棒たちの股間を、片っ端から蹴り上げる。

 

 金的に悶絶する用心棒たちを後目に、クロがリアに声をかけようとしたその時。

 

 リアの背後の暗闇から風を切る音を察知したクロは、咄嗟にその場にしゃがみこむ。

 

 その直後、頭上を高速で武器のようなものが通り過ぎていく。

 

(危なっ!?)

 

 魔法で受けきれないと判断してしまうほどの、見事な不意打ちである。

 

 クロは冷や汗をかきながら、武器が飛んできた方向に目を向けた。

 

 奥から現れたのは、帯剣して仮面をつけた男性だった。

 

 クロと同じく全身を覆うマントは、その者の特徴を見事なまでに隠している。

 

(貧民街にあんな人いたっけ? よそ者とか?)

 

 唯一分かっている背丈と只ならぬ実力者の気配に、クロの記憶と該当する者はいない。

 

「親分! 助けてくだせぇ!」

 

 地面に伏していた用心棒たちが、声をあげる。

 

「へぇ。君が『土竜商会』で一番偉い人、ってことでいいのかな」

 

「ああ」

 

 クロの言葉に、親分と呼ばれた男性は頷いた。

 

「今回は、偵察の予定だったんだけど。そこのリアって子は目的じゃないから、安心してほしいな。……話しても?」

 

「……続けろ」

 

 リアを庇うように前に出た親分は、こちらを見据えて剣にかけていた手を下ろす。

 

「今の『土竜商会』の在り方について、変えるつもりはないかい?」

 

「ない」

 

 くぐもった声で即答する親分。取りつく島もないといったかんじである。

 

「……理由をきいても?」

 

「横暴なのは、重々承知している。だが、強者とは、弱者より優先されて然るべきだからね。強者が弱者に施すことなど、あってはならない」

 

 淡々とした親分の言葉に、クロは顔をしかめた。

 

「まさに悪党といったかんじだ。なら君より私が強かったら、私の言いなりになるってこと?」

 

「その通りだ」

 

 親分は、そう言って剣を抜いた。

 

 咄嗟に『影拾(かげひろ)い』を使って剣を回収しようとするが、その剣はすぐさま高速でこちらへと投げられる。

 

 これは間に合わないと判断したクロは、その剣を躱した。

 

 そのまま距離をつめてくる親分の顎へと、蹴りを放つ。

 

 流石に強者と語るだけのことはあり、なんなく反応して蹴りの軌道に合わせてガードの構えをする。

 

 素手での戦いも慣れっこといった様子だ。

 

 この蹴りは不発に終わってしまうだろう。()()()()()()()()()()

 

 足の先を瞬時に『影潜(かげひそ)み』で影にしまいこみ、ガードをすり抜ける。

 

 ガードをすり抜けた瞬間に影から足を出現させ、親分の仮面越しの顎に蹴りが命中した。

 

 よろめく親分だったが、踏ん張って後退しすぐさまクロの追撃を逃れる。

 

 一筋縄ではいかないようだが、今の攻防においてはこちらの方が上手のようだ。

 

「まずは一発。顔をボコボコにされたくなかったら、大人しく──」

 

 調子づくクロだったが、後の言葉が続かなかった。

 

 仮面が外れた親分の素顔を見て、クロは目を見張る。

 

「──グレン?」

 

 仮面の下から現れたのは、灰色の髪が特徴的な青年だった。

 

 混乱の最中に発したクロの言葉に、親分──グレンも動きを止める。

 

 目の前に立っているのは、明らかにグレンだ。暗闇であっても、クロの目に狂いはない。

 

 かなり背が伸びて体格も大きくなっているが、顔の面影はそのままである。

 

(でも、なんで?) 

 

 弱者を虐げる『土竜商会』の親分など、クロの知るグレンからは想像もつかない。

 

 怪訝そうにするグレンだったが、向こうの顔も段々と驚愕に染まっていく。

 

「姐さん?」

 

 久しぶりにクロと再会したグレンの表情は、喜びに染まる。

 

 しかし、クロは困惑のただ中だった。

 

 グレンも喜んではいるが、その感情のやり場に困っているといった様子である。

 

「どうやら、話し合いをする必要がありそうですわね」

 

 グレンの後方から見守っていたリアが、二人の間に割って入った。

 

 矛を納めてくれるようだ。

 

(これは長い夜になりそうだな)

 

 情報量にパンクしたクロは考えるのをやめ、遠い目をしながらため息を吐く。

 

 グレンまで続く薄暗い通路が、いやに長く感じた。




 ※グレンの目からはハイライトが消えています。
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