女義賊が、婚約者争いをぶっちぎる話   作:埃っぽい心

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 今回は過去話からです。

 サブタイトル変えました。
 急成長→獅子の目覚め


25話 獅子の目覚め

 グラント家から追放されたリアは、路頭に迷っていた。

 

 身に纏ったボロボロの布切れが人目に晒されるのを避けるように、静まり返った裏路地を進んでいく。

 

 その布の隙間から見える腕には、かすれた痣にような物が見え隠れする。

 

(随分と落ちぶれたものですわ)

 

 リアは、かつて『紋章』が輝いていた手の甲をさすった。

 

 そこにはもはや光などかけらもなく、あるのは何かがあったと示すかのような跡だけである。

 

 追放される際に父から貰ったお金は、潤沢にあったはずだった。

 

 それさえあれば、例え仕事が見つけられなくても数年は食いつなげる。

 

 贅沢はできなくても、宿を借りて腰を据えて生活基盤を整えていけばいい。

 

 追放されたリアも泣いてばかりはいられない。箱入り娘なりに知恵を絞って、そのように生きていくつもりだった。

 

 脅されてお金を無くしさえしなければ。

 

「いや、放して!」

 

「おら、暴れんじゃねぇ」

 

 貧民街の崩落から逃げてきた人々によって、周辺の町の治安は悪化していた。

 

 ならず者たちが、貧民街の外でも幅を利かせるようになっていたのだ。

 

「こいつは上玉じゃねぇか。俺たちついてるぜ」

 

「痛っ!?」

 

 髪を掴まれる痛みに、顔を歪める。

 

 魔法が未熟なリアでは、彼らに敵う道理はない。

 

「あ、『(アイアン)』」

 

 それでも、咄嗟に鋭利な金属片を作り出す。掴まれている自身の髪を切って、脇目も降らずに走る。

 

 追手を攪乱しようと、リアは手持ちのお金をばら撒いた。

 

 それでも追ってきたので、上等な服を脱ぎ捨ててでも死に物狂いで走る。

 

 どれくらい走ったか分からないが、息が切れて地面に這いつくばった。

 

 後ろを振り返り、なんとか撒いたようで安心する。

 

 しかし、状況は最悪であった。頼りにしていたお金を失ったのだ。

 

(泣いてはだめ。泣き虫の私は、グラント家の家名と共に捨てたはず)

 

 こぼれそうになる涙をこらえて、立ち上がる。

 

 お金が無いなら宿は使えない。とりあえず、安全な場所に行かなければ。

 

 考えた末に、リアは貧民街に行くことにした。

 

 崩落によって貧民街の住人が追われていることは、リアが追放される前に知りえた情報だ。

 

 つまり、今の貧民街は危険だが、それゆえに悪人すら寄り付かない場所ということである。

 

 今の自分にとっては、都合がいいだろう。

 

(もうすぐ日が沈む。急いで移動しないと)

 

 そうして貧民街へたどり着いたリアだったが、貧民街に広がる光景を見て絶句する。

 

 あちこちの地面に空いた穴に、傾いた廃墟、さらには大きな亀裂がそこらかしこに入った道。

 

 貧民街を見たことがなくても、この惨状が常時のものではないことは分かる。

 

 こんなところに人が住めるはずがない。

 

 どこか別の場所を探そうかと考える。

 

 しかし、もう暗くなり始めており、今から探すのは逆に危険かもしれない。

 

 結局リアは、貧民街に腰を据えることにしたのだった。

 

 元々人が住んでいたこともあって、最低限の衣食住を確保することは容易だった。

 

 腐りかけの食べ物でお腹を壊したり寝床が固くて眠れなかったりと、温室育ちのリアにとっては辛い日々が続いた。

 

 しばらくたって余裕ができると、頭に浮かぶのは罪悪感ばかりである。

 

 この貧民街の惨状を知ってしまえば、自分のせいではないなどと言うことはできなかった。

 

 何も考えずにテファニー・フォレスを信用して支援したのは自分(リア)なのだ。

 

 ここの人々の生活を壊したことの罪の重さを今更実感したことで、段々と無気力になっていった。

 

 食べ物を探して眠る日々を惰性で繰り返す。

 

 そんなリアに転機が訪れる。

 

 その日いつも通り食べ物を探していると、足元が崩れ落ちたことで穴に落ちかけた。

 

 なんとか崩れた穴の淵に両手をかけるが、非力なリアでは自分を引き上げることはできない。

 

 この深い穴に落ちたら、再び登れる保証はどこにもない。

 

「誰か! 助けて!」

 

 そう叫ぶが、こんな所に自分以外の人がいるはずがない。

 

 腕の力も限界に近づいていく。

 

(こんなに多くの人に迷惑をかけたんだから、天罰が下ったのかもしれませんわね……)

 

 全てを諦めようとしたリアだったが、上から伸びてきた腕に強引に引っ張り上げられる。

 

 目の前にいたのは、自分と同年代ぐらいの青年だった。

 

「あの……ありがとうございます。私、リアって言います。あなたのお名前は?」

 

「グレンだ。見慣れない顔だけど、なんでこんな場所にいるんだ?」

 

 目の前のグレンと名乗る青年に、リアは自分の全てを打ち明けた。

 

 元貴族であることや、お金を失い貧民街で過ごしていること。

 

 そして自分が貧民街の崩壊の原因であることも。

 

「ごめんなさい。迷惑ですよね、こんな話。急にされても」

 

 自分でも止まらない口が、不思議でならなかった。

 

 貧民街に住んでいたであろう誰かに、罰されたかったのかもしれない。

 

「君が、同情を誘ってるというわけではない。それは分かる。……多分、オレもあんたと同じだ。後悔と無力感に打ちひしがれて自暴自棄になってる」

 

 グレンは自分のことを語り出した。

 

 自分の恩人を探しているのだと。なんでも崩落のあとから行方知れずらしい。

 

 今も見つかっておらず、半ば諦めながらも惰性で探しているそうだ。

 

「それなら、なぜ私を恨まないのですか?」

 

「あんたの場合、利用されただけだ。それに、貧民街には後ろ暗い奴らが山ほどいた。更生して友達になったやつもいる。あんたのそれは嫌う理由にはならないね。恩人の受け売りだけど」

 

 グレンは、そういって悲し気に笑った。

 

「恩人の方が見つかるといいですね」

 

「ああ」

 

 リアの言葉に、グレンは生返事をして立ち上がった。

 

「怪我もないようだし、これぐらいで。次は落っこちないようにね」

 

 そう言って、その場を後にしようとするグレン。

 

 しかし、リアの勘がこの出会いを逃してはならないと囁いた。

 

「あの、着いて行っても?」

 

 リアはグレンに問いかける。確証はないが、リアにはグレンに対して何かの素質を感じ取っていた。

 

 小さい頃に両親から言われたことを、リアは思い出す。

 

 グラント家は従う相手を見極めることで、今日まで繁栄してきた。

 

 そのためか、自分より上位の人間の資質を見る目が備わっているという。

 

 自分が肩入れするべき相手を嗅ぎ分ける嗅覚ともいうべき直観こそ、グラント家の持つ最大の武器なのだと。

 

 かつてバーン王子へと謁見したときのような、目が惹きつけられる感覚。

 

 リアが今この瞬間に感じたものは、それに近かった。

 

「いいけど、退屈じゃないかな。あてもなく探し回るだけだし」

 

「退屈かどうかは、私が決めることですので」

 

 こうして、2人は行動を共にするようになった。

 

 リアは、グレンが過ごす住処の一部を借りて生活するようになった。

 

 なんでも以前グレンの恩人が住んでいた場所らしい。

 

 グレンが恩人を探す傍らで、リアは地属性魔法で少しずつ住処を補強する。

 

 それを続けていく内に、少しずつ住処は拡張されていった。

 

 しばらくして小屋が増築され、貧民街の廃墟の中でも目立つようになった頃。

 

 ならず者たちが、貧民街へと戻ってくるようになった。

 

 やはり貧民街の外では、厄介者扱いのようだ。

 

 当然リアたちの住処はならず者の標的となるが、グレンが全て返り討ちにしてしまった。

 

 貧民街で一番強かった恩人に鍛えられたというグレンの強さは相当なものらしい。

 

 グレンがならず者を従えるようになり、リアに統率を任せたことでできることが各段に広がった。

 

 そこからリアはある目標を抱くようになる。

 

「この街を蘇らせましょう。私たちの手で」

 

 貧民街をそのまま放置することを心苦しく思っていた。

 

 元ならず者たちに資材を運ばせれば、貧民街を修復することができるかもしれない。

 

 こうしてリアは貧民街の復興を目標に『土竜商会』を立ち上げたのであった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 『土竜商会』の建物一階の奥にある、厳重に出入りを禁じられた一室。

 

 クロの元々の住処がそのまま残されたその場所で、リアはこれまでの経緯を説明していた。

 

「……というのが『土竜商会』の成り立ちですわ」

 

 リアの話を聞いていたクロは、感心する。

 

 追放されて一文無しからここまでの成り上がるとは大したものだ。

 

 というかグレンってそんなに強くなっていたのか。

 

 見ない間に背もかなり伸びたし、もはや格闘だけでは互角かもしれない。

 

 ちょっと前まで自分の後ろに着いて回っていたのに、男の子の成長をいうのは侮れないものだ。

 

 別室にいるグレンのことを思い浮かべて、クロは感慨深い感情を抱くのだった。

 

「でも、リアのような良識のある人がいるなら、なんで『土竜商会』はこんなひどいことをしているんだ? グレンの様子もおかしいし」

 

 罪滅ぼしとして復興したのなら、今の弱者を虐げる行いは矛盾している。

 

 また、グレンは弱者と強者の関係に異様に固執していた。

 

 クロとの再会を果たした後、グレンは頭を冷やすといって別室に閉じこもっている。

 

 クロの知るグレンに少しは戻ったようだが、明らかに様子が変化してるのだ。

 

「クロを完全に諦めたことで、グレンは変わってしまいました」

 

 リア曰く、今のグレンは非常に不安定な精神状態ならしい。

 

 自身への無力感。

 

 クロの意思を次いで貧民街の人々の面倒を見ようという責任感。

 

 自分よりも弱者を優先するクロを許容したことへの後悔。

 

 弱者の居場所は作るが、更なる力を求めて搾取もする。このめちゃくちゃな方針は、グレンによるものらしい。

 

「グレンにとって貧民街の人たちは、守るべきものでありながら恩人であるクロを失ったきっかけでもありますの。だからきっと憎い相手を守るをいう矛盾で、苦しんでいるのです」

 

 神妙な面持ちで、リアはグレンの内情を語った。

 

 クロにとって夢を追いかける手段が人助けなので、それを苦と思ったことはない。

 

 だが、傍から見れば、余計な心配をかけていたのかもしれない。

 

 とはいえグレンが貧民街の人間を憎むというのは、極端すぎるが。

 

「リアの方で、なんとかできないの?」

 

「グレンは私の言葉も受け入れません。ただ、クロの生存が確認できたので、何か心に変化があるかもしれません」

 

 頭をひねるクロは。リアの返答に少し顔を明るくする。

 

 グレンが自分をそんなに慕ってくれているとは思わなかったが、クロの存在で改善するのであればそれに越したことはない。

 

 クロ自身も、グレンと話してみれば何か変わるかもしれない。

 

 そう考えていたその時、ちょうどグレンがクロたちのいる部屋に入ってきた。

 

「話は済んだ?」

 

 グレンは、そう言ってドアを閉める。

 

「ええ。長話になりましたが、説明は終わりました。すっかり夜も遅くなってしまいましたが」

 

 リアが眠そうな目をこする。そろそろお暇した方がよさそうだ。

 

「後日また話そう。今日は帰らせてもらうよ。邪魔したな、グレン」

 

「帰る? 一体何処に? ここが姐さんの住処じゃないか」

 

 そう言って引きとどめるグレン。久しぶりの再会が、名残惜しいのだろう。

 

「今は教会で寝泊まりしてるんだ。それに、ここは『土竜商会』の拠点になっちゃったし」

 

「気にしないで。ここがクロ姐さんの居場所だよ」

 

 グレンはなおも食い下がる。

 

 あんまり会話が嚙み合ってない気がする。やっぱり不安なのだろうか。

 

「私はもうどこにも消えない。だから安心して―─」

 

「──ああ、どこにも消えさせない」

 

 グレンは、突然クロを抱き上げる。

 

 優しい感触と共に、ふわりとクロの体が浮かぶ。

 

「クロ姐さんはずっとここから出なくていいんだ。だから安心して」

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。ここから出ない? 冗談じゃない。

 

 藻掻くクロだったが、グレンのその大きな手はクロを捕らえて離さない。

 

「グレン、何を言ってるんだ。そんなの──」

 

「クロ姐さんはすごいなぁ。あの『ブラックムーン』だなんて。貧民街の皆のために、ずっと尽くしてきたんだよね? ……なら今度は、オレが代わりに貧民街を支えるよ。だから、もう姐さんは何もしなくていい」

 

 もはや、グレンはクロの言葉を聞こうとしていない。

 

 やむをえないと判断して、グレンに蹴りを入れて離脱する。

 

 ようやく解放されたクロは、距離を取ってグレンを睨みつけた。

 

「……何をするんだ、グレン」

 

「そうですわ! クロとは後日また会えます! ここにとどめる必要はありません!」

 

 リアとクロの言葉に、グレンは顔を歪めた。

 

「……またいなくなるんだ、オレの前から」

 

 グレンの顔から表情が抜け落ちる。部屋の中に、威圧感が充満していく。

 

 どうやら力づくでクロをこの場所にとどめようとしているらしい。

 

「リア。危ないから離れてて」

 

「ですが……」

 

 リアは反論しようとするが、クロがそれを遮った。

 

「ありがとう、リア。でも私は大丈夫。部屋から離れてて」

 

 クロの言葉に渋々といったかんじで、リアが退出する。

 

 二人きりになった部屋で、クロは改めてグレンの方に向き直った。

 

「頭を冷やしたんじゃなかったの? グレン」

 

「ああ、冷えている。今のオレは冷静だとも、クロ姐さん」

 

 会話ができることから、完全に狂っているわけではないらしい。

 

 ただ話し合いをするにしても、一回無力化した方がよさそうだ。睡眠薬のような小道具は今は持ち合わせていないため、肉弾戦での制圧となる。

 

 この部屋は先ほどの廊下と違って明るい。場所を変えないと不利だが、出入り口にはグレンが立ちはだかっている。

 

(ならば押し通るのみ)

 

 クロはグレンへと突貫する。その勢いのまま、グレンの頭へと飛び蹴りをした。

 

 両腕でそれを防いだグレンは、こちらのお腹に強烈な一撃を見舞う。

 

 しかし、クロに服越しの打撃は通用しない。『影潜(かげひそ)み』によって、服の影に体を入れて衝撃を逃がす。

 

 すかさず顎に掌底を放つが、グレンはすんでのところで掌底を躱し、同時にその場を飛びのいた。

 

 クロの追撃の蹴りが、グレンのいた位置をからぶる。

 

 体術は、やはり互角なようだ。

 

 だが、これでお互いの位置が入れ替わった。

 

 クロは、扉から部屋の外へと飛び出す。

 

「……っ! 待て!」

 

 グレンが後ろから追いかけてくるのを確認しながら、クロは付かず離れずの距離を保つ。

 

 逃げることに関しては、義賊『ブラックムーン』の得意分野である。

 

 グレンは、まだクロの魔法の仕組みに気づいていない。

 

(このまま暗い場所に誘い込めば、こっちのものだ)

 

 影のある場所でグレンを迎撃して制圧するのが、クロの狙いだった。

 

 細長く続いている空間に響いていた足音の一つが、鳴りやんだ。

 

 暗い廊下で振り返って、グレンと対峙する。

 

 走る勢いのまま、拳を繰り出してくるグレン。急所は意図的に外しているが、威力の手加減は一切していないようだ。

 

 こちらを侮っていないのは、さすがである

 

 だが、その攻撃を避ける必要すらない。暗闇において、クロへの攻撃は全て影に沈み無効化される。

 

 この初見殺しに気づかない限り、空気か水を殴るようなものだ。

 

 グレンの攻撃を全て透かして、反撃に拳や蹴りを浴びせていく。

 

 グレンもなかなか頑丈ではあるが、クロが一方的に攻撃する限り負けはない。

 

(押し切れる!)

 

 そう確信したそのとき、何十回と打ち込んまれたであろう影に沈んだグレンの拳に妙な感覚を覚えた。

 

 何かを握ったようなグレンが手を引き抜くと、手の先には何か細長いシルエットが見える。

 

(なんだ、何を引き抜いた? いや、そういう問題ではない。なぜ引き抜ける?)

 

 『影拾(かげひろ)い』によって影の中にある物体は、クロにしか取り出せない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 グレンの持つ棒から光が漏れ始めるのを確認したクロは、即座に距離を取る。

 

 暗闇から浮かび上がったのは、海で手に入れた『勇者の遺物』だった。しかも、様子がおかしい。

 

 『勇者の遺物』の表面に着いていた汚れや鉱物などが、自発的に剥がれていっている。その細長い物体の中身が、光とともに徐々の露わになっていく。

 

 中から現れたのは、一本の剣であった。

 

 剣自身から放たれる光によって、傷一つない刃の光沢が鈍く輝いた。

 

 勇者のいた古い時代の物としては、到底考えられないような保存状態である。

 

 まるで剣が持ち主を見つけたことを喜ぶかのように、放つ輝きを増していく。

 

 辺り一帯が照らされたことで影が消え、クロは眩しさに目を細めた。

 

(これはまずい。光源が手に渡れば、場所を変えた意味がなくなる)

 

 クロは焦って、グレンの剣を奪い取ろうとする。

 

 しかし、その手が剣に届く前にグレンは距離を取った。その速度は先ほどよりも格段に上がっている。

 

「よく馴染むね」

 

 グレンはそう言って、クロとの距離を詰めて剣の側面を振るった。

 

 辛うじて動きを目で追えるほどの、凄まじい速度。

 

 斬撃ではなかったことだけが、幸いか。峰打ちであれば、クロの服の下に刃が届くことはない。

 

 『影潜(かげひそ)み』によって、打撃は防げる。なのに、クロはその攻撃を避けた。嫌な予感がしたのだ。

 

(あれには、魔法を分解する光の魔力が宿っている。影を過信するのは、良くない気がする)

 

 グレンは、峰打ちの連撃を高速で繰り出し続ける。

 

 このままではまずいと判断したクロは、攻撃を掻い潜りながら反撃をした。

 

 しかし、その攻撃に手ごたえはない。

 

 まるで、生き物ではなく岩に攻撃を加えているかのようだ。

 

(一体グレンに何が──)

 

 強い衝撃によって吹っ飛ばされたことで、クロの思考は中断された。

 

 腹に感じる鈍痛によって、思わずクロは地面に横になったままえずく。

 

 剣ばかりに意識を集中していたせいで、迫る拳に気が付かなかった。

 

 だが、拳の攻撃は服越しには通らないはず……。

 

「ごめん、強くし過ぎた」

 

 倒れこんだクロを心配して覗き込むグレン。

 

 不安と安心が入り混じったその瞳は、健常者のそれではない。

 

 このままでは、グレンは完全に狂ってしまう。自分が止めなければ。

 

(ここで倒れるわけに……は……)

 

 立ち上がろうとするクロだが、頑張りも空しく視界が霞んでいく。

 

 抱きかかえられたクロは、グレンの腕の中で意識を失うのだった。




 ※グレンの目にハイライトはありません。

 グレンはクロに鍛えられる過程でボコボコにされているので、基本的に全力です。
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