女義賊が、婚約者争いをぶっちぎる話   作:埃っぽい心

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 バーン王子の出番をもっと増やしたい。

 グレンの一人称を少し修正しました。

 俺→オレ


31話 バーン王子暗殺計画

「……天井裏から失礼する。我が名は『ブラックムーン』。その反乱を、少し待ってはくれないだろうか」

 

 頭上からかけられた声に、ボルカ・ヴァレッドは即座に反応した。

 

「『発射(ファイア)』!」

 

 懐から取りだした銃を天井に向け、火属性魔法を唱える。

 

 撃ち出された弾は、声が発せられた位置へと吸い込まれた。

 

 続けざまに何発も天井に万遍なく銃弾を撃ち込み、天井の照明が砕け散る。

 

 焦げ臭くなった部屋で、ボルカは冷や汗をかいた。

 

(なんだ、今のは? いや、そもそもなぜ天井から声が……?)

 

 独り言が聞かれたかと焦ったが、冷静に考えればおかしい。

 

 この部屋の天井に、人が隠れられる空間など無い。

 

 あるのは、子供も身じろぎするのがやっとというような狭い空気の通り道ぐらいのものである。

 

 だが、どんな相手でも、弾丸を食らえばただでは済むまい。

 

「急に攻撃するなんて、ひどいじゃないか。……改めて、この『ブラックムーン』と話す気になったかな?」

 

 ボルカの安堵は、天井から変わらぬ調子で語りかけてくる声に打ち砕かれる。

 

 弾丸は天井を貫通したはずだ。

 

 ボルカの持つ銃は、平民に持たせている物とは性能が違う。

 

 魔法で弾丸を打ち出せるこの銃は、内部機構が複雑でない代わりに威力が高くなるように設計されている。

 

 金属の鎧を紙のように貫き、竜の肉体にも傷を負わせるよう設計された銃。

 

 それが全くと言っていいほど効いていない相手に、ボルカは警戒心を高める。

 

「……下の騒ぎは貴様の仕業か。賊がこの私に何のようだ」

 

「貴殿に耳よりな情報を、こちらも持っていてね。海賊に渡した船の設計図が、盗まれている」

 

 その言葉に眉を顰めたボルカは、自分がその資料をしまっていた場所を確認する。

 

 するとそこには僅かに漁られた痕跡が残っており、確かにその資料だけ無くなっていた。

 

 最後に確認したのはずっと前だったが、いつ無くなっていたのだろうか。

 

 ボルカが天井を見上げると、『ブラックムーン』はそのまま話を続ける。

 

「盗んだのは『スカーレットムーン』という義賊だ。下で暴れているのも、奴だ」

 

 『スカーレットムーン』の名は、ヴァレッド家派閥の中でも悪名高いため把握していた。

 

 あの真っ赤な賊であれば、確かにやりかねない。

 

「いつ盗まれたかは定かではないが、海賊の船についての証拠はすでにバーン王子やフローレス家の耳に入っている」

 

 黙って『ブラックムーン』の言葉を、聞き続けるボルカ。その頭の中では、様々な思案を巡らせていた。

 

 『紋章』を巡った争いでは、他貴族の悪評をばらまく連中もいる。

 

 ヴァレッド家が軍事力を持って王族に反旗を翻す。こういった噂も当然ある。

 

 ボルカは、それを全く問題視していなかった。ヴァレッド家の忠義によって培われた信頼は、その程度では揺らがない。

 

 だが、そこに確かな証拠があれば、話は別だ。

 

 この話が本当なら、バーン王子はすでに警戒状態に入っているということである。

 

 既に迎え撃つ準備が整っている可能性もあるだろう。不意をつくことができないなら、計画の一部を見直す必要がある。

 

 しかし、それなら城にいる何人かの内通者から、不穏な動きが報告されていてもおかしくないはずだ。

 

「貴様が真実を口にしていると、この場で示せるか?」

 

「それは難しい。だが、私が忍び込めている時点で、可能性が無いわけではないだろう」

 

 つかみどころのない言葉に、ボルカは少し苛立ちを覚える。

 

 これでは、結局不安の種を持ち込まれただけである。

 

「それで何が望みだ?」

 

 その言葉に待ってましたと言わんばかりに、賊は口を開いた。

 

「貴殿の謀反の計画に加担させてほしい。王族の在り方については、私にも思うところがある」

 

 協力の申し出に、一瞬虚をつかれる。だが、よく考えればそう不思議な話でもない。

 

 この義賊は、過去に王宮であれほど大立ち回りをしているのだ。

 

 納得したボルカだったが、『ブラックムーン』のことを完全に信用したわけではなかった。

 

 大前提として、この者を味方につける価値があるのだろうか。

 

「ほう。賊ごときが何を言うかと思えば……。逃げることしか能のない貴様に何ができると?」

 

 『ブラックムーン』の言葉を軽くあしらおうとした瞬間、背中に固い何かが当てられる。

 

「例えば、こんなこととか?」

 

 背後に回られたことに遅れて気が付いたボルカは、すぐさま前へと飛びのいて振り向いた。

 

 そこにいたのは、黒い衣に身を包んだ人物だった。

 

 ボルカは銃を向けて牽制するが、目の前の黒い賊は全く動じた様子を見せない。

 

「そんなに怖がらないでほしいな。この通り、私は暗殺向きだ。竜に通用する武器を用意してくれれば、バーン王子を暗殺してこよう。そのためにも、反乱の時期を遅らせてはくれないだろうか?」

 

 『ブラックムーン』の言葉に、ようやくボルカは相手の意図を理解する。

 

 暗殺と反乱の時期を被せたくないのだ。

 

 反乱を起こせば、バーン王子の周りは戦場の渦中となる。そうなれば、暗殺は難しいだろう。

 

 暗殺をするなら、反乱を起こす前が最適である。

 

 犠牲者が出るほどの事態になる前に、暗殺で済ませたいというのもあるのだろう。義を重んじているというなら、分からなくもない。

 

 こちらとしても、暗殺で済むなら()()を使わずに済む。

 

「……話は分かった。武器庫から好きなだけ持っていくといい」

 

「ありがたい」

 

「だが、竜を一撃で仕留められるような暗殺向きの物はない。それと、そちらを完全に信用したわけではない。いくつか条件がある」

 

「というと……?」

 

 首をかしげる『ブラックムーン』に、ボルカは条件を告げる。

 

「貴様の話が虚言の場合を考えて、期限を設けさせてもらう。4日の内に暗殺できなければ、我らは即座に城に攻め入る」

 

 この話が嘘なら、まだ情報が漏れていないかもしれない。

 

 時間が後になればなるほど、不意をつける機会はなくなっていく。

 

 情報が漏れた可能性も考慮して計画を見直す必要はあるが、時間が惜しいことに変わりはない。

 

 暗殺が成功した場合の利益と、騙されている場合の不利益。

 

 それらを考慮した結果、ボルカは4日という期限を設けた。

 

「なるほど、ではそのように」

 

 小さい通風孔から去って行った黒い影を見送ったボルカは、椅子に腰を下ろす。

 

 驚いたとはいえ、天井を穴だらけにするのはやりすぎだった。グラント家派閥の者に修理を頼もうか。

 

(とりあえず、反乱を起こすのが4日後に延期したと伝達しなければ)

 

 この後、『スカーレットムーン』の煙玉や爆弾で荒らされた地下を見たボルカは、頭を抱えるのだった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「──ってことになった。できれば、決行日をもう少し延ばせたらよかったんだけど」

 

 夜が明けたところで、クロはルージュに合流して事に成り行きを説明した。

 

「今夜が瀬戸際だったと……。本当にギリギリでしたわ」

 

 ルージュが、ほっと胸を撫でおろす。

 

 クロのぶっつけ本番の交渉によって、なんとか四日間の猶予を得ることができた。

 

 明日には出発して王宮に攻め入るという状況からは、幾分かマシになったのではないだろうか。

 

 とはいえ、今から急いで戻ってもフローレス家の元まで一日以上はかかる。そこから数日間で何とかしなければ。

 

 そう思っていた矢先に、突風がクロとルージュの周囲に巻き起こる。

 

「ずいぶん探しましたよ、クロ」

 

 風と共に駆け付けてきたのは、ウィンであった。伝書鳩による手紙を受け取ってから、全速力で空を飛んで来たらしい。

 

 これなら、向こうへも早く戻ることができそうだ。

 

 フローレス家の二人が、何か良い案を思いついているといいんだけど……。

 

「師匠は、先に戻っていてほしいのですわ。私は、こちらでできることが無いか探してみますの。」

 

「分かった。無理はしないで」

 

 そう言ってルージュと別れたクロは、急いで帰路へと着く。

 

 かなりの早くにフローレス家の元へとたどり着いたクロは、レインを早速訪ねた。

 

「手紙で、事情は把握しています」

 

 そう言うレインの隣にいる人物に、クロは目を見開いた。

 

「なんで、バーン王子がここに?」

 

「久しいな、クロ」

 

 驚愕するクロに、軽く挨拶するバーン王子。

 

 どうやら、手紙の内容を知ったレインが呼び寄せたらしい。

 

「ウィンを遣いに出そうと思っていたのですが、ご自身で走ってこられました。よほど手紙が気になったのでしょうかね。それともクロが目的でしたか?」

 

 レインがそう言ってバーン王子をからかう。

 

「馬鹿を言ってないで、今回の件について早急に決めなければ。反乱を起こさせないようにしたいとな。随分な難題を持ち込んだものだ」

 

 そういうバーン王子に、クロは申し訳なさそうな顔をする。

 

「実は、もっとややこしいことになってるんだけど……」

 

「なに……?」

 

 そこから、クロはこれまでの経緯を説明した。

 

 反乱までの猶予のことや暗殺のことなど、仔細を話していく。

 

 それを聞いて、二人とも何やら難しそうな表情を浮かべる。

 

「やっぱり猶予が短いよね。ごめん、もう少し延ばせないか交渉しとけば……」

 

「いえ、そこは十分やってくれました。問題は、今日が決行日だったということです。反乱を未然に防ぐには、後手に回り過ぎている。如何に反乱を治めるかを考えるべきでしょう」

 

「犠牲はどうしようもないの?」

 

「治め方次第です。ただ、犠牲を最小限にしての無力化を準備するには、時間が少なすぎる」

 

 そう告げるレインの深刻そうな表情は、クロの期待に応えられないことを意味していた。

 

 どうやらクロの知る中で最も頭の冴えているレインであっても、この事態を収拾するのは至難の業らしい。

 

「それだけじゃない。話から見るに、王宮の周辺地域に物資や人員を運び終えている。猶予など関係なく気が変わった瞬間、すぐに攻め込まれると考えていい」

 

 バーン王子の言葉に、クロは肩を落とす。

 

 その言葉が意味するところは、クロが確保した期間も確かな物ではないということである。

 

 つまり、ボルカ・ヴァレッドの匙加減で、今すぐにでも反乱は始まってしまうのだ。

 

「私の方は、時間の限り策を練ってみます。ただ未然に防ぐにしても迎撃するにしても、時間は必要です。クロには何としても時間稼ぎしてもらわなくては……」

 

 そう告げるレインに、バーン王子が口を開く。

 

「俺に考えがある」

 

 時間稼ぎの方法が全く思いつかないクロは、バーン王子に耳を傾けた。

 

「俺を暗殺する計画に、手応えを感じさせればいい。おそらく王宮には、ヴァレッド家の手の者がいるはず。その者に、暗殺できる可能性が高いと報告させれば……」

 

 バーン王子の言葉に、レインがなるほどと頷いた。

 

 この置いてけぼりの感覚に、クロは既視感を覚える。そういえば、ウィンとオルターが話していたときも、こんな感じであった。

 

 こうなったら、後は賢い者たちに成り行きを任せるしかない。

 

「……なるほど、バーン王子の考えが読めてきました。確かにそれなら時間稼ぎとしては十分でしょう」

 

「だが、クロの負担がかなり大きいが……」

 

 そう言って、二人がクロの方に視線をやった。

 

「私の負担は気にしなくていいよ。争いを止めるためなら、どんなことだってしてみせる」

 

 義賊『ブラックムーン』として、大勢に被害がでるようなことは見過ごせない。

 

 そのためにできることは、なんだって進んでやってやる。

 

「……クロの覚悟がよく分かった。作戦はこうだ。まず、俺とクロが婚約者になる」

 

 バーン王子は、そうあっけらかんとクロに告げた。

 

 ん? 

 

 なんか聞き間違えたかな。

 

「なんて?」

 

「ですからクロが婚約者となり、バーン王子と婚儀を挙げるのです」

 

 クロの言葉にレインが返答する。

 

「ほぇ??」

 

 混乱するクロ。

 

 だめだ、賢い人たちの考えについていけない。

 

「少し飛躍し過ぎました。詳しく説明すると長くなりますが──」

 

 レインは、そこからクロに事細かに解説し始めた。

 

 この結婚はあくまでも形だけのもので、敵の目を惹きつけるためのものらしい。

 

 バーン王子が婚約者に『ブラックムーン』を選ぶというのは、誰であっても予想はできない。

 

 だが、その想定外だからこそ、ボルカ・ヴァレッドも関心を持つはずである。

 

 婚儀であれば、『ブラックムーン』はバーン王子の至近距離まで自然に近づける。

 

 暗殺をするのに都合の良い機会が偶然訪れれば、その先を期待してしまうものだ。

 

 ──半信半疑だった暗殺計画も、もしかしたら意外に成功してしまうのでは? 

 

 そう思わせることで、ヴァレッド家派閥に4日後まで確実に動かないでいてもらうのである。

 

 さらには、結婚に暗殺の手応えを感じるなら、4日という猶予もさらに伸ばしてもらえる可能性だって考えられる。

 

「ただし、問題もあります。クロがバーン王子を骨抜きにしていると、周りに誤認させる必要があるのです。そういう意味では、この作戦はクロにかかっていると言っていい」

 

 レインの骨抜きという言葉に、嫌そうな顔をするバーン王子。

 

 それもそうである。

 

 これはつまり、他の候補を選ばずに、愛で最も不適格な候補者を選ぶような愚か者を演じるということだ。

 

 愚か者の演技をしている方が、暗殺が容易であるという印象をヴァレッド家に植え付けられるというのもあるのだろう。

 

「何を嫌そうな顔をしているんですか。バーン王子が『ブラックムーン』を選ぶ理由として、最も説得力を持たせられる物。それは愛を置いて他にはありません。自分で言い出したらのですからね」

 

「分かっている。分かっているが……。あれだ。変わり過ぎれば、裏があると思われるかもしれん。骨抜きにされすぎるのも──」

 

 狼狽えるバーン王子に、レインがハキハキとした物言いをする。

 

 その光景は見ながら、クロはレインの指摘する問題について考え込む。

 

 なるほど、確かにこの作戦はクロの負担が大きい。

 

 深く愛し合っている演技は、そういう相手がいたことのないクロには大きな壁と言っていいだろう。

 

 バーン王子に好感は持っているが、うまく愛しているように演技できるのか。

 

 というか、それを言うならバーン王子の方もである。

 

 バーン王子は、クロに骨抜きにされている演技なんてできるのだろうか。

 

 自分(クロ)が攫われたときに、バーン王子に助けられたことは知っている。

 

 そのことから、自分はおそらくそこまで嫌われていないだろう。

 

 だが、バーン王子は自分のことをどのくらい好いているのか。

 

(駄目だ。考えている内に、演技させるのが申し訳なくなってきた。バーン王子の気持ちは考えないようにしよう)

 

 一先ずクロは思考を切り替え、ボルカ・ヴァレッドに送る手紙の内容を考えるのだった。




 ルージュは煙玉で人を避難させたあと、爆弾で景気よく地下の色んな所を吹き飛ばしています。

 バーン王子とクロは、果たして恋愛関係を演じ切ることができるのか。

 うまく書ける気がしない。
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