女義賊が、婚約者争いをぶっちぎる話   作:埃っぽい心

39 / 46
今回は長いです


最終章 運命から逃れられない女義賊
39話 『闇の眷属』


 仕事を求める人間の喧噪に包まれる『土竜商会』。

 

 その建物の自室で体を横にしながら、リアは目をつぶる。

 

「ちょっとだけ、仮眠を……」

 

 ここのところのリアは、街の復旧作業に駆り出されていた。

 

 というのも、地属性魔法の使い手が圧倒的に足りないのである。

 

 現在の地属性魔法の使い手は、かつてグラント家派閥から抜けた一部の貴族と、元々派閥とは無縁だった貴族のみ。

 

 そのため、貴族でないリアにも、声がかかっていた。

 

 かなりの重労働だったが、断ろうという気にはなれない。人手不足の主な原因は、元を辿ればグラント家の責任でもある。

 

 竜に焼かれた街も、完全な復興には至っていない。反乱による爪痕は、人々の間にいまだ深く刻まれている。

 

 ただし、街の人的被害は皆無であった。

 

 リアが出した『土竜商会』からの緊急依頼により、避難誘導が行われていたのだ。

 

 空に浮かぶ船が現れた時から、周辺の街の住人を退避させている。

 

 人さえいれば、地属性魔法ほどの効率でなくとも人手としては十分だ。

 

 王宮の修繕も進められて復興が着実に進んでいる。

 

 その一方で、クロの捜索は続いていた。

 

「影のような物が、動いていた」

 

「昼なのに、一瞬暗くなった」

 

 こういった声が寄せられはするが、場所の特定には至っていない。

 

 さらには、クロの噂が膨れ上がっているのも問題である。

 

 情報の錯綜により、足取りを追いづらくなっているのだ。

 

 先日の反乱での一件が、貴族の間で騒がれ始めている。

 

 竜が王宮へと突っ込んできた時、その竜が怯えていたのを目撃した者がいたのだ。

 

 クロに魔法で操られてからの記憶は無くても、闇に飲み込まれたという証言だけで噂は爆発的に広がっていった。

 

 直接その場にいなかったリアの耳にさえ、『ブラックムーン』が竜を倒す恐ろしい力を持っているという話が入ってきている。

 

 難航する捜索について報告に、リアは頭を悩ませた。

 

 仮眠を取ろうとしていたのに、いつの間にか考え事に戻っている。

 

 ここのところ忙しすぎて、目が回りそうだった。

 

 働いた甲斐もあって『土竜商会』の知名度はかなり上がったが、さすがに休息を取らなければ。

 

 そうして休んでいるリアの部屋に、用心棒の一人が訪ねてくる。

 

「リア様、お休みのところ失礼します。侵入者を取り押さえたのですが、少々確認したいことが」

 

「侵入者?」

 

 首を傾げるリアに、用心棒が話を続ける。

 

「無理やり建物の奥まで押し入ってきて、リア様に会わせてほしいと。なんでも知り合いだそうで。今は檻で大人しくしています」

 

 そうして告げられた名前は、確かにリアの知る人物だった。

 

 なぜなら、グラント家派閥の残党とされる貴族の一人だったからだ。

 

「私が直接出向きますわ」

 

 そう言って、リアは疲れた体に鞭を打つ。

 

 何にせよ会って話をしないことには、どうにもならない。

 

 檻の前まで歩いてきたリアが目にしたのは、酷く怯えた貴族の女だった。

 

「リア様! どうか助けてください!」

 

 その女はこちらを見るなり、鉄格子に飛びついた。

 

「おい、檻から手を放せ!」

 

 用心棒が一歩前に出ようとするのを、手で制止する。

 

「私なら大丈夫。あなたは下がっていて」

 

 鉄格子はリアが魔法で作ったものであり、リアの魔力が流れている。

 

 他人の魔力が流れている物を、別の魔法で操るのはほぼ不可能だ。

 

 この女は地属性魔法の使い手だったはずだが、この檻から出られるわけではない。

 

「何から助けるというのですか。言っておきますが、ヴァレッド家に加担した罪は……」

 

「罪なら何でも受け入れます! そうじゃないんです!」

 

 リアの言葉に、女は首を振る。減刑を求めていると思っていたが、どうやら違うようだ。

 

「……では、一体どうしたのです。少なくともここにいる者に、あなたを傷つけさせません。落ち着いてください」

 

 焦った様子の女をなだめると、少し落ち着いたのかゆっくりと話し出す。

 

「……こ、声が聞こえるんです」

 

「声?」

 

 女の言葉を受けて耳を澄ましてみるが、リアからは何も聞こえない。

 

 幻聴を聞いているのだろうか。

 

「もう少し具体的に。誰の声ですか」

 

 リアがそう尋ねると、女はまた焦りを見せ始める。

 

「し、知らない……。声が聞こえるの。きこえる。こ、声がが、ききこ、える、きき──」

 

 もはや女の言葉は、意味をなしてはいなかった。

 

 震えながら虚ろな目で同じ言葉を繰り返し、やがてそれは声にならない悲鳴へと変化する。

 

 目の前の異常な女の様子に、リアは思わず後ずさる。

 

「グレンを連れてきて! 急いで、早く!」

 

 用心棒に指示を出しながら、リアは建物に意識を集中させる。

 

 牢の中の石でできた床が盛り上がり、巨大な手を形成していく。

 

「『石の手(ストーン・ハンド)』」

 

 石の手は女を掴んで、動けない程度に握りこんで拘束した。

 

(あの様子は、情報にあった暴走状態と一致しますわ。確かクロの魔力が関係しているということでしたが……)

 

 この建物では、大勢の人間が働いている。もし暴走状態なら、何としても抑え続けなければならない。

 

 暴れる女の体を封じ続けるリアだったが、石の手の中で女は口を開く。

 

「『亡骸(なきがら)(めん)』」

 

 声をつぎはぎしたかのような歪な言葉とともに、魔法が唱えられた。

 

 同時に、女を掴んでいた巨大な手がボロボロと崩れ落ちていく。

 

(これは……!? 魔法の制御が効かない!?)

 

 抵抗を続けたリアだったが、やがて石の巨腕は完全に崩れ落ちた。

 

 崩壊した巨腕の残骸は、みるみると女に集まっていく。

 

 建物の壁や床までもを巻き込んで形成された石の塊は、人型をしていた。

 

 大きさは、基本的な地属性魔法の『土の人形(ソイル・ドール)』に少し似ている。だが、異なる部分の方が多い。

 

 薄っすらと黒く染まった石が、女の全身を覆っている。まるで鎧をまとっているかのようである。

 

 辛うじて露出している顔の片面には、無表情の顔を模した仮面が付いていた。

 

「っ! 『石の手(ストーン・ハンド)』」

 

 その不気味さに慄きながらも、リアは魔法を発動する。

 

 無数の石の手が、目の前の女を拘束していく。

 

 他人の魔法を上書きできるようだが、抵抗もできたことから上書きも万能ではないはず。

 

(制御を奪われて吸収されるなら、数を用意すれば……)

 

 そう考えるリアだったが、女は無数の石の手をいとも容易く砕いてしまう。

 

 女は拘束をものともせずに鉄格子を捻じ曲げて、リアの方へゆっくりと顔を向けた。

 

「『石の巨人(ストーン・ギガント)』!」

 

 人間を超えた膂力に危険を感じてもなお、リアは立ち向かうことを選択した。

 

 壁から剥がれ落ちるように、数体の石の巨人が生まれ落ちる。

 

 天井まで届こうかという巨体で突貫されても、敵は微動だにしない。

 

 ボロボロと表面が崩れながらも女を押さえつける巨人は、その体躯の半分もないであろう敵の手によって押し返された。

 

 あっという間に手をもがれ、足払いにより転倒した胴体を踏み砕かれる。

 

 次いでやってきた巨人たちも、女はなんなくと対処していく。

 

(……まずいですわ。魔法の発動が追い付かない)

 

 健闘も空しく、追い詰められるリア。

 

 ついには女の接近を許してしまい、リアの細い首に石に覆われた手が伸びる。

 

「かっ……」

 

 首を掴まれて空中で藻掻くリアを、女は無表情で見つめ続けた。

 

 薄すれゆく視界の中で、なぜか相手の目に視線が釘付けになる。

 

 女の虚ろな目の奥にある黒い揺らめきは、リアにどこか心地よさすら感じさせた。

 

 どこからか、声が聞こえてくる気がする。

 

「力を──」

 

「リア!」

 

 沈みかけた意識の中に別の声が響くのと共に、首を絞めていた手が緩む。

 

 解放感を共に落下するリアの体を、誰かの腕が受けとめた。

 

 ケホケホとせき込みながら、段々とはっきりとしてきた頭で周囲の状況を確認する。

 

 輝く『勇者の剣』を持つ手とは逆の手で、グレンに力強く抱きよせられている。

 

 自分を助けてくれたのは、グレンのようだ。

 

「遅くなってごめん。間に合わないところだった」

 

 女は腕と首を剣で切断されて、絶命している。

 

「こちらこそ、ごめんなさい。急に呼び出してしまって。緊急を要したので」

 

「無理しないほうがいいよ。ふらついている」

 

 息を整えながら一人で立とうとするリアに、グレンは肩を貸した。

 

「何があったんだ?」

 

 そう尋ねるグレンに、リアはあらかた起こった出来事を説明する。

 

「──ということですわ」

 

「となると、切り殺さないほうがよかった?」

 

 グレンが申し訳なさそうに、女の死体に目を向ける。

 

 リアにとって、現在のグラント家派閥の状況は無関係ではない。

 

 過去のリアが無能でなければ、きっとグラント家派閥がヴァレッド家派閥に加担することは無かった。

 

 救いたいという思いが無かったといったら嘘になる。

 

「暴走状態から戻せたかも怪しいところです。問題ないですわ」

 

 そう言いながらリアは、足元に転がっていた石の欠片を拾う。

 

 黒く染まったその石は、先ほどの女が纏っていたものだ。

 

 今探しているクロが使う魔法も、世界を黒く染め上げると情報にあった。その黒い闇に触れた物は、操られるとも。

 

 もしグレンが間に合わなかったらと考えるとぞっとする。

 

「早急に調べなければいけませんわ。クロに、一体何が起こっているのかも」

 

 グレンに連れられて自室へと戻るやいなや、リアは部下に情報収集の依頼を貼りだすように指示を飛ばしていく。

 

 後日、『土竜商会』にある報告が上がった。

 

 それは、最近になって各地で暴走状態の事例が確認されているというもの。

 

 強力な地属性魔法らしきものを扱い、誰も手がつけられないのだとか。

 

 リアが遭遇した者と同じく、非常に硬い殻と人ならざる膂力を持つらしい。

 

 ある程度の知能もあるそうで、バーン王子が駆け付ける前に姿を眩ましてしまうそうだ。

 

 襲われた場所には、黒く染まった石が取り残されているという。

 

 いつしか、暴走し人に危害を加えるその存在は、『闇の眷属』という名で知られるようになっていた。

 

 数件の事例では身元が判明しており、いずれも手配中のグラント家派閥の人間であった。

 

 この『闇の眷属』の事例は、リアの一件を境に急激に増加していく。

 

 情報収集をするまでもなく、耳に入ってくる痛ましい事件の数々。

 

 苦難を乗り越えたこの国に、新たな波乱が押し寄せていた。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 『闇の眷属』が世間を騒がしている頃、ウィンは各地を飛び回っていた。

 

 目的はもちろん、クロの捜索である。

 

 空を飛んで街を転々とするその顔には、疲労と焦りの表情が浮かんでいた。

 

(早く、クロを見つけださないと……)

 

 ここまで焦っているのには、ウィンが心配性であるのとは別にもう一つ理由があった。

 

 『闇の眷属』について、新たな事実が判明したのだ。

 

 暴走状態の事例において、以前までに確認されていたのは二件。偶発的なウィンの暴走と、意図的に引き起こしたレインの暴走である。

 

 どちらも共通しているのは、魔力切れによって暴走状態から元に戻ること。

 

 意図的にレインが暴走状態になれたのも、魔力という限界があったからこそである。

 

 だが、『闇の眷属』には、それが当てはまらなかった。

 

 というのも、同一個体が長期に渡って人を襲い続けているのだ。

 

(魔力がどこかから供給され続けていると、オルター様は予測していました。そして供給元がクロだった場合、その精神状態はかなり不安定な可能性があるとも)

 

 人を襲う怪物に魔力を供給するクロは、果たして正気を保っているのか。

 

 ウィンが必死になっているのは、クロの精神状態を危惧してのことだった。

 

 そうして探し回っているウィンの地上に向けていた目が、あるものを捉える。

 

 その視線の先には、『闇の眷属』がいた。どこかに向かっているようだ。

 

 少しでも手がかりが欲しいウィンは、地上をかける豆粒のような黒い点を空から追跡する。

 

 しばらくしてたどり着いた先には、人影があった。『闇の眷属』は、その人影にまさに接近しようとしている。

 

 急降下し、間に割って入ろうとするウィン。

 

「『影攫(かげさら)い』」

 

 しかし、『闇の眷属』はあっけなく下の影へと飲み込まれた。

 

 見覚えのある魔法に、ウィンは目を見張る。

 

「クロ」

 

 口をついて出た言葉に、人影は反応し上を向いた。

 

 被っていたフードから露わになった顔は、間違いなくクロだった。

 

「……ウィン。ちょうど良かった」

 

 降り立つウィンに、クロは少し翳りを帯びた表情を向ける。

 

「今までどこにいたんですか」

 

「ヴァレッド家の砦にいたんだ。伝えれなくてごめん」

 

 ウィンの問いかけに、クロは真っすぐとした目で答える。

 

 今の砦は無人だと聞いている。クロが考えもなしに、そこに引きこもるとは思えない。

 

「何か事情があることは、分かります。……それでも戻ってはこれないのですか」

 

「私がいると、皆を危険に晒す。だから、それはできない。今回姿を見せたのは、巷で話題の『闇の眷属』を回収するため。あと少しで全部回収できるはずだから、これ以上誰かが傷つくことはないよ」

 

 クロの言葉に、安堵するウィン。『闇の眷属』はクロの意思で動いているわけでは無かったようだ。

 

 だが、クロの表情にウィンは違和感を持つ。

 

 泣き出しそうな、笑い出しそうな曖昧な表情は、明らかに様子がおかしい。

 

「……やっぱり、ウィンには分かる? ウィンの前ではいつも通りでいたかったんだけど、これじゃ無理そうかな」

 

 クロは、口を覆っていたマフラーを外す。

 

 その下の肌には、闇と形容するしかない黒い何かが蠢いていた。

 

「私、魔王なんだって。伝説でしか聞いたことない災厄の権化。それが私」

 

 そう言うクロに、ウィンは一切動揺せずに口を開く。

 

「クロはクロですよ」

 

「そうかな? 結構、自分と魔王の意識の境界も曖昧になってきちゃった。私はもうクロじゃないかも……。だってほら、『闇点』」

 

 そう言葉を返すのと同時に、目の前にいる友の何かが切り替わる。

 

 クロが踏みしめる大地が、クロの頬を撫でる風が、世界が闇へと染まっていく。

 

 闇が触れるや否や、ウィンの精神は黒い感情に蝕まれた。

 

 負の感情の波に押し流されそうになるのを、必死にこらえる。

 

「あれ、結構粘るね。魔力量が並外れているとはいえ、かなり辛いだろうに」

 

 優し気なクロの声音と表情──それを被った別人に、ウィンは苛立ちを覚えた。

 

 今この瞬間は、魔王の意識が前面に出てきているようだ。二重人格のようなものだろうか。

 

 オルターの言っていたように、クロの精神は不安定な状態にあるらしい。

 

 正直、魔王とやらが(クロ)を騙ってくるだけでも、かなりの怒りを抱く。

 

 だが、それに流されてはいけない。目的のためなら合理に徹して、感情を抑える。

 

 ウィンがフローレス家で最初に学んだことだ。

 

「あなたは、瓦礫の竜を即座に支配せず攻撃して制圧していたそうですね。つまり強大な力と精神があれば、ある程度は支配に抗えるということです」

 

 不適に笑うウィンに、クロはつまらないと言いたげの様子を浮かべた。

 

「さすがはウィンだね。それで、どうする? こんな私でも受け入れてくれる?」

 

「ええ。なんと言おうと、友を孤独に捨て置くことはしません。あなたが帰れないというなら、こちらが付いていくだけです」

 

 そう言い切ったウィンの言葉に、クロは一瞬だけ悲痛に表情を歪ませるが、すぐさま無表情へと戻る。

 

「……まあ、ウィンがいた方が、心地よさを抱くのは確かだ。では、共に行こう。『影攫い』」

 

 クロは影の中に足を踏み入れながら、ウィンへと手を差し伸べた。

 

 かつての囚われの少女へと差し伸べられた救いの手は、今や闇へと誘っている。

 

 その手を躊躇なく掴んだウィンは、影へ招き入れられる。

 

 完全に影に飲まれる前のほんの一瞬。クロが涙を流しているような気がした。

 

 何も見えない影の中では、それがなんなのか確かめようもない。

 

 (ウィン)の覚悟に救われたのか。あるいは(ウィン)の愚かさを悔いているのか。

 

 答えを知る術は、どこにもなかった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 リアが『闇の眷属』に襲われて、しばらくが経った頃。

 

 『土竜商会』には、オルターの姿があった。

 

「グレン、『勇者の剣』の調子はどうだ」

 

「今のところ、絶好調だね。問題は、クロのあの力に通用するかだけど」

 

「おそらくは通用するだろう。クロの力は魔王に関連している可能性が高い」

 

 自身の推論を述べるオルター。

 

 王宮での出来事について相談したときに、ワーグから教会の古い記録について教えて貰ったのだ。

 

 ワーグの情報にあった古い記録とクロの『勇者の剣』への反応から、あの別人のようなクロはおそらく魔王に類する何かといってよい。

 

 ならば『勇者の剣』こそが、この事態を解決する鍵になる。

 

 そう考えたオルターは、グレンに『勇者の剣』を預け続けることにしていた。

 

「今の所、『闇の眷属』を討伐したのもその剣のみだ。バーン王子なら倒しうるだろうが、強すぎるあまり事前に存在が察知されてしまう。なんとか魔力の供給を断てればいいのだが」

 

 オルターの言葉に、リアが反応する。

 

「クロが魔力を供給しているとして、どのように供給しているのかが不明です。『闇の眷属』の出没地域がバラバラすぎます」

 

 リアの言う通り、クロが直接出向いて魔力を分け与えているとは考えにくい。

 

 どれだけ移動が速くても、各地に移動して魔力を与え続けるのは不可能。

 

 となれば、遠距離での魔力供給ということになる。

 

 そもそも魔力の仕組みとして、媒介なしでの遠隔操作はほぼ不可能である。未知の魔法を使うクロであっても、それは同じはずだ。

 

 瓦礫の竜を追いかけてきたことからも、無制限で魔力を遠くに供給することはできないだろう。

 

「遠くから魔力を渡せる何か……。もしや、契約の魔道具が関係しているのでは」

 

 皆が考え込む中、リアが何かを思い出したように呟いた。

 

 リアの言葉に、オルターが聞き返す。

 

「契約の魔道具? 罪人に使う、あの?」

 

「ええ。かつてグラント家派閥は、特定の条件下において全てをクロに委ねるという契約をしました。ただ、条件というのが、クロに完全に勝てないというのを認めること。達成は不可能に近いのですが……」

 

 契約の魔道具の性質上、完全といった文言は使用を避けられる。

 

 なぜなら、抜け穴として利用されるからだ。

 

 グラント家の契約の場合も、その抜け穴は存在している。

 

 少しでも勝てるという希望がある限り、契約は無効になっているはずだ。

 

 だが、クロが竜を超える力を持つと噂されるようになった今、その抜け穴が機能しなくなってもおかしくはない。

 

「隷属ともいえるその契約内容なら、魔力を媒介していてもおかしくはない。もしそうなら、今から供給を断つのは不可能だ。それこそクロをどうにかするしか──」

 

 オルターが言葉を続けようとしたその時、窓の外が暗くなる。

 

 何事かと外を見ると、昼間だった空は夜のように闇に染まっていた。

 

 周囲を警戒する一同の元に、空から声が響き渡る。

 

「諸君! 我が名は魔王『ダークムーン』。この世界に恐怖をもたらす者である!」

 

 どこかで見知ったような声と名前に、その場にいる一同は顔を見合わせた。




 『亡骸の面』はデスマスクから連想しました。

 闇属性要素と地属性要素を合わせた名前って、意外と思いつかないものですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。