女義賊が、婚約者争いをぶっちぎる話   作:埃っぽい心

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 大変遅くなりました。

 物語もいよいよ佳境です。

 できれば、ここから投稿頻度を早くしたい。


40話 絡みつく執念

「諸君! 我が名は魔王『ダークムーン』。この世界に恐怖をもたらす者である!」

 

 暗くなった空から聞こえてきた声に、オルターは耳を疑った。

 

 この声は、明らかにクロのものだ。

 

 窓の外は見渡す限り暗闇が続いており、世界の全てから光が奪われたかと錯覚するほどである。

 

 どうやら、闇の力が及ぶ範囲全てに呼びかけているようだ。

 

 だが、これほどの広範囲に声を届けるなど、並の魔法では不可能だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔王と自身を名乗っているのも、はったりではないのだろう。

 

 クロと魔王に何かしらの関係があるという予想は、あたっていたようだ。

 

「現在のヴァレッド家領地を我が領土とし、そこに立ち入る者には一切の容赦はしない。もし、そこに手出しをするようなら……『(やみ)息吹(いぶき)』」

 

 クロが魔法を発動させるのと共に、空に暗雲が立ち込める。

 

 暗雲はあっという間に渦を巻いて竜巻となり、地上へと根を下ろしていく。

 

 その数は数えるのも馬鹿らしく、まるで世界の終わりのような光景がそこらかしこで広がっている。

 

 あと少しで竜巻が地面に到達しようかという寸前、黒い竜巻は全て霧散した。

 

「これが、魔王の力だ。さらには、領地に『闇の眷属』も集結させている。せいぜい恐怖に怯えながら、静かに暮らすのだな」

 

 それを最後に、言葉が止んだ。

 

 立ち込めていた暗雲も消え、何事も無かったかのような青い空だけが残る。

 

 まるで幻でも見ていたのかという体験だが、周囲の様子から見て全て現実らしい。

 

「さっきの声や名乗りは、間違いなくクロ姐さんだね。ただ、雰囲気が違ったけど……」

 

 先ほどのクロの様子を受けて、最初に発言したのはグレンだった。

 

「魔王の力に、操られているのでは?」

 

「可能性はある。ただ『ダークムーン』と名乗っている以上、クロの意思も完全になくなっているわけではないのだろう」

 

 リアの言葉に、オルターが返答する。

 

 魔王『ダークムーン』は、明らかに義賊『ブラックムーン』を意識した名前だ。

 

 仮に操られているとしても、本来のクロの状態に戻せると期待したいところだが……。

 

 それよりも、問題は先ほど使った魔法だ。

 

 今しがた魔王が使った『闇の息吹』という魔法は知っている。

 

 過去にあったウィンの暴走についての報告にも、同じような魔法があったはずだ。

 

(まさか……)

 

 嫌な予感が頭をよぎるオルター。

 

 竜との戦いの時、魔王は竜を城まで追いやっている。

 

 オルターの目から見たあの時の行動は、決め手が無いから竜を城まで誘導したように見えた。

 

 そして、数十人規模での合体魔法で、竜に決定打を与えてみせている。

 

 ここから、魔王の持つ力の本質は、他人を操ることだと考えていた。

 

 仮に今しがたの威嚇で見せつけた力が自前であるのなら、竜と交戦した時に使ってもよいはず。

 

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 もしも風属性魔法の使い手が魔王の手に落ちたのだとしたら。この規模での魔法を使える者をオルターは一人しか知らない。

 

「──ウィンが魔王の手に落ちた可能性がある」

 

 オルターは、まとまった自身の考えを呟く。

 

 この状況において、考えうる限り最悪の想定である。

 

「つまり、『闇の眷属』の群れと魔王だけでなく、ウィンも相手にしないといけないと?」

 

「操られている可能性でいうなら、反乱で暴れていた竜も含めるべきだろう」

 

 グレンの言葉にさらにオルターが付け加えたことで、事態の深刻さが浮き彫りになった。

 

 明らかに戦力が不足しているのだ。

 

 バーン王子を頭数にいれても、その戦力差は絶望的といっていい。

 

 打つ手が無くなったと言わんばかりに、閉口する二人。

 

 その静寂を破ったのは、何かを考えついたと(おぼ)しきリアだった。

 

「『闇の眷属』だけなら、どうにかできるかもしれませんわ」

 

 そう口にしたリアの目には、確かな決意がこもっていた。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 ヴァレッド家領地──そのかつての活気を物語るものはほとんどない。

 

 半壊した砦と廃墟にのみ、人々の営みのわずか痕跡が残っていた。

 

 空は常に薄暗く、地上には『闇の眷属』が徘徊する。

 

 少し歩けば、瞬く間にその怪物に囲まれてしまうだろう。

 

 そんな誰も近寄らないであろう魔王のお膝元に、一人の人間が降り立った。

 

 すぐさま現れる数体の『闇の眷属』。

 

 だが、その人間に攻撃することはない。

 

 圧倒的な力の差を、察知したからである。

 

 威嚇する獣のように、遠くから距離を取って様子を伺っている。

 

 それに相対する人間──バーン王子は、『闇の眷属』に言葉を投げかける。

 

「やはり、ある程度の知恵は残っているか。お前たちの主に合わせろ」

 

 そう伝えてしばらく経った後、影からクロが現れる。

 

「これは、これは。バーン王子」

 

「……クロ」

 

 バーン王子の前に現れたのはクロではあったが、雰囲気はまるで別人である。

 

「魔王『ダークムーン』と呼んでいただこうか」

 

「では、魔王と呼ぶこととしよう」

 

 バーン王子の返答に、不満げな表情を浮かべる魔王。

 

「味気ない呼び方だが、まあいい。目的は分かっている。国に魔王が現れたとなっては、王族が動くのは当然のこと。あとはクロの安否確認といったところか」

 

「その言い方だと、お前はクロとは別人ということか?」

 

 軽い雰囲気を醸し出す魔王とは対称的に、バーン王子は重々しい空気を纏いながら言葉を交わす。

 

「完全な別人というには語弊がある。入り混じっている、というべきかな。今の主導権の大半は、魔王であるこの私だが」

 

「クロに体を返す気は?」

 

 殺気を剥き出しにしながら、バーン王子は魔王を睨みつける。

 

 まき散らされる威圧感に、魔王の後ろに控えていた『闇の眷属』が逃げ出していく。

 

「そんなに警戒しないでほしいな。クロのことを無碍にするつもりはない。こうして、この砦に居座っているのもクロの意思だ」

 

 バーン王子は、黙って話に耳を傾ける。

 

 魔王の言い分では、クロがここに引きこもるのは周囲への配慮だという。

 

 クロは『闇の眷属』を引き取って、人を遠ざけるつもりでいるようだ。

 

「『闇の眷属』は、お前が原因だ。クロの意思を組むなら、お前が引っ込めばいいだろう」

 

「それはできない。怨念となり果てた私にも、世界への報復という目的があるのだから」

 

 そう口にした魔王の纏う空気は、一気に重苦しいものへと変化した。

 

 魔王の放つ重圧は、バーン王子が放つものにも退けを取らない。

 

「クロを無碍にしないのではなかったのか? 世界への報復など、俺の知るクロは望まん」

 

 バーン王子は、そう断言した。

 

 どのような理由があっても、弱者が傷付けられることをクロは認めない。

 

「そうだよ。だから、こうしてクロが頷くまで気長に待ってるんだ。君らが老衰してクロが独りになってからも、ずっと声をかけ続ける。理解が得られるまで。君たちの知らないクロになるまで」

 

 魔王の返事は淡々をしている。

 

 意思を曲げる気など、欠片も感じられない。

 

 軽い口調だが、その言動には過剰なまでの執念が見え隠れしている。

 

「黙って見過ごすとでも?」

 

「君こそ、クロの意思を無碍にするのかい? クロは君らの安全を思って、離れたのに。わざわざ首突っ込んでさ。……死にたいの?」

 

 クロがそう口にした瞬間、影から竜が現れる。

 

 その姿は以前のような瓦礫の寄せ集めではなく、黒い闇が固まりとなって竜の形をしていた。

 

「バーン王子は、この竜に敗北している。そんな君に、一体何が──」

 

 挑発するクロだったが、突然バーン王子から距離を取る。

 

 異様な熱がバーン王子の体から放出されたからだ。

 

「『竜炎身(りゅうえんしん)』」

 

 そう唱えた瞬間、バーン王子の体は赤熱した。

 

 爆発的な速度で竜を蹴りあげ、辺りに熱気がまき散らされる。

 

 退散とばかりに、竜は影の中へと引っ込んでいった。

 

「侮るのは勝手だが、後悔しないことだ。以前までの俺とは違う」

 

 バーン王子が見せた予想外の戦闘力に、魔王は驚いているようだ。

 

 同時にバーン王子の足元から影が這い上がってくるが、それも魔力で強引に振り払う。

 

「……未調整だったとはいえ、竜を退けるとは。おまけに精神の掌握にも耐性があるときた。参ったね。それで? 私を殺す?」

 

「今回は、様子を見に来ただけだ。ヴァレッド家領地から出ないのなら、しばらく手は出さん。クロを取り戻す算段がついたら、また来る」

 

 困ったような顔をする魔王に対して、そう言って踵を返す。

 

「その時は、盛大にお出迎えするよ。見逃したこと、後悔させてあげるから」

 

 魔王の捨て台詞を聞き流しながら、バーン王子はその場を離脱した。

 

 取り繕った表情が崩れて、ボロが出ないように。

 

(大分無理をしてしまった。急いで体を冷やさなければ)

 

 体が耐えられるギリギリまで、竜の力を体に巡らせる『竜炎身』。

 

 この魔法は、バーン王子が新しく生み出したものである。

 

 竜と戦ったとき、格上の存在に対して時間稼ぎに徹することしかできなかった。

 

 格下を蹂躙することしか経験してこなかったバーン王子は、格上に一時的にでも競り切るほどの力を持たなかったのだ。

 

 そこで、限界以上の力を引き出せるようにと考えたのが、『竜炎身』である。

 

 魔法を考える上で、参考例には困らなかった。

 

 竜やそれと同化したルージュ・ヴァレッドのように、バーン王子とは異なる竜の力の使い方を目にしている。

 

 しかし、この魔法も万能ではない。

 

 『竜炎身』によって引き出した限界以上の力とは、言わば寿命の前借りだ。

 

 竜の力に耐えられなくなった体が燃え尽きることで、王族は寿命を終える。

 

 過剰な竜の力の放出は、寿命を縮めてしまうのである。

 

 死ぬ気で力を振るう。それがこの魔法のからくりだった。

 

(これで、向こうから攻め込まれはしないだろう。……この俺が、はったりを使う日が来るとはな。クロと一緒に婚約の演技をした経験が役立ったか)

 

 そうしてクロのことを考えていると、胸を締め付けられるような感覚に襲われる。

 

 無理をしたからではなく、明らかに感情によるもの。だが戸惑いはない。

 

 いつしか、バーン王子は、自身の弱さを素直に受け入れるようになっていた。

 

 そしてそのきっかけになったのが、クロである。

 

(必ず、救い出す。お前が俺をこうさせたのだ。拒むことは許さん)

 

 魔王のような静かに絡みつく執着とは違う、燃え上がるような情熱的な執着。

 

 それを胸に抱きながら、バーン王子はクロが大切な存在であることを自覚したのだった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 魔王による領土の宣言により、世界は混乱に陥った。

 

 近隣の国が魔王の領土に送りこんだ兵士は、全て退却を余儀なくされる。

 

 『闇の眷属』と呼ばれる怪物に阻まれ、魔王にたどり着くことすらできない。

 

 たとえ、その怪物の群れを突破しても、黒い竜がその先には待ち受けている。

 

 『勇者の遺物』で武装した少数精鋭の部隊も教会から派遣された。しかし、太刀打ちできずに、撤退している。

 

 そうして、魔王の恐ろしさが広まり、誰も領土に近づかなくなった頃。

 

 魔王の領土の手前で、バーン王子が立ち止まった。

 

「では、ここにいる者のみで、これより魔王を制圧しにいく」

 

 そう口にするバーン王子の目の前には、見知った顔が揃っていた。

 

 フローレス家の才女──レイン・フローレス。

 

 同じくフローレス家屈指の天才──オルター・フローレス。

 

 『土竜商会』代表──リア。

 

 『勇者の剣』の使い手──グレン。

 

 義賊『スカーレットムーン』──ルージュ・ヴァレッド。

 

 その誰もが真剣な表情の中、レインから作戦の大まかな概要が説明される。

 

「作戦は、事前に打ち合わせた通りです。操られる危険性を極力減らすために、超少数精鋭によって敵の勢力を分断します」

 

 魔王の主な攻撃手段は、精神掌握と他者の力を使った攻撃である。

 

 他の国の兵士が同士討ちに苦しんでいたことから、大人数で突撃するべきではない。

 

 また、魔王の精神掌握に強い耐性があるのは、バーン王子とグレンのみ。

 

 よって、この二人を中心として動くことになっている。

 

「『闇の眷属』や操られている人間は、リアとグレンに任せます。片づけ次第、他の皆さんと合流してください」

 

 レインの言葉に、『勇者の剣』を持ったグレンの表情は引き締まる。

 

 魔王を攻撃する上で、『闇の眷属』の群れを無視することはできない。 

 

 操られている者を分断することは、魔王の力を削ぐことに等しいのだ。

 

 そのため、『闇の眷属』の露払いは非常に重要であった。

 

 また、『勇者の剣』も魔王に引導を渡す上で必須といっていい。

 

 グレンの合流が遅れるほど、戦況は不利になるだろう。

 

「『闇の眷属』の対処ができたら、リアは撤退してください。ワーグと『土竜商会』の者が、この近くに拠点を作っています」

 

 その言葉に、リアが頷く。

 

 リアには、とある秘策で『闇の眷属』を無力化するという役目がある。

 

 賭けに近い秘策だが、うまくいけばバーン王子とグレンの合流が早められる。

 

「残った皆さんは、バーン王子と一緒に魔王と竜の相手をしなければいけません。ウィンの状況次第では、不利な戦いを強いられるでしょう」

 

 目撃情報から、ヴァレッド家の領地内にウィンがいることは確定している。

 

 グレンが来るまでの間、バーン王子を補助するのがルージュとオルター、レインの役目だった。

 

「作戦の振り返りは、以上です。引き返したい者は、遠慮しないで言ってください。もし引き返すなら、ここが最後です」

 

 レインはそう締めくくり、口を閉じる。

 

 誰もが、緊張や不安を抱えていた。命の危険だって、考えられる。

 

 だが、そこから離れる者は、最後まで現れなかった。

 

 作戦を改めて共有し終えた一同は、魔王の領地へと足を踏み入れる。

 

 彼らの足取りに、迷いはない。

 

 かつて、派閥で婚約者の座を競い合った者たちは、いまや進むべき道を共にして歩む。

 

 ──クロを取り戻すという同じ決意を、胸に秘めながら。




 俺たちの戦いはここからだ!(話は続きます。)

 なんか説明が多くて申し訳ないです。

 もう少しうまく書けたらよかったんですが。

 ちなみに魔王のネーミングセンスは、クロに引っ張られてます。
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