戦いは嫌なので音楽をしたいと思います。   作:名無し

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主人公の名称はゲーム内ではハル、ゲーム外では浩となっています。


音楽少女と初演奏

「ここが電脳世界ですか……」

 

リリースから数日放って置いてしまった上に休日であるため、そこそこの人数が町にいる。

既に初心者装備ではない人が殆どであり、ハルは少しだけ浮いていた。

噴水のところへ移動し、腰をかける。

 

「まあテンプレートというやつでしょう……ステータス」

 

「ヴォン」という音と共に半透明の青いパネルが浮かび上がる。

 

 

ハル

 

Lv1

 

HP 25/25

 

MP 75/75

 

 

【STR 0〈+5〉】

【VIT 0】

【AGI 20】

【DEX 15】

【INT 15】

 

 

装備

頭 【空欄】

体 【空欄】

右手 【初心者の横笛】

左手 【空欄】

足 【空欄】

靴 【空欄】

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

 

スキル

なし

 

 

「ステータス欄が少し寂しいですね……それにしてもSTRの補正値は一体?まあいいでしょう」

 

楽器は極めて低威力ではあるものの打撃武器となっていて、ものによっては弓や斧として使えることをハルは知らない……知ったら運営に苦情のメールを入れそうではあるが。

ハルはステータスを閉じ、腰にささっていた横笛を手に取る。

 

「ふむ……質感は違いますが、見た目は大体リアルのフルートですね……東洋の横笛でも吹けますが」

 

ハルはフルートのマウスピースを口元に添え、少し吹く。

チューニングの済ませてある金属製のフルートと同じような音色が鳴り響き、少し驚いてしまう。

 

「これもゲームならではということですか……手入れも要らなさそうですし、便利なものですね」

 

考え事をしていて気づいていないが、ハルの周囲には不意に聞こえた音色に興味を持ったプレイヤーたちが集まっており、ハルのことを遠巻きに見ていた。

 

「手足は動く、呼吸も正常、楽譜は頭の中、楽器はこの手に……やりますか」

 

そう呟くとハルは立ち上がり、フルートで曲を奏ではじめる。

曲はアルフォンス・ドーデの戯曲『アルルの女』の第2組曲の1曲である『メヌエット』。*1

今はピアノが居ないがフルートだけでも演奏はできる。

 

「おい、あれって横笛だよな?」

 

「ああ、あんな不人気装備を選ぶヤツがいるとはな」

 

「スキル使った様子は無かった……あの子、PSだけで吹いているの!?」

 

「あの姿にこの演奏……アイツ!まさか!」

 

休日でプレイヤーが多いときに町中で吹いたからかどんどんと人がハルの周りに集まってきていた。

その中にはハルの正体に気が付いた者も何人かいるようで、掲示板やフレンドメッセージで更に人が集まっていく。

 

(ああ……体が動く……指が動く……楽しい!)

 

ハルはそんな周囲に気が付くこともなく、演奏を続けていた。

フルートメインの曲の中でもかなり有名で人気も高く、難易度の高い曲をミスなく指を躍らせる。

4分ほどの演奏を終えた頃にはログインしているプレイヤーの半数以上がハルの演奏を聞いていて、割れんばかりの拍手がハルに注がれた。

 

「あら?何時の間にかこんなに人が……」

 

『スキル【ステージ】を獲得しました』

 

ハルは取り敢えず、音楽家としてステージに立っていたときのようにお辞儀をした。

その姿に周囲の拍手の勢いは更に上がり、ログインしたばかりのプレイヤーを驚かせることになった。

 

(クラシックでは割れんばかりの拍手はアンコールの証……そんなことは皆さん知らないでしょうが、ここはやるべきでしょうが……先ずはスキルを確認しましょう)

 

 

【ステージ】

その場を自分がイメージするステージに変えることができ、想像した通りのステージ内でのみ使用できる楽器を作り出し、演奏できる。

ステージ内では一切の戦闘ができない。

このスキルは町でも使用可能である。

取得条件

一定以上のプレイヤーの前で一定以上の長さの曲をノーミス演奏すること。

 

 

(これは……この状況にピッタリですね)

 

「【ステージ】……発動」

 

ハルの言葉をキーに光が放たれ、プレイヤーたちが目を瞑る。

 

(イメージするのはホールのステージ……!)

 

次にプレイヤーが目を開けると、そこは巨大なホールの中で、何時の間にか客席に座っていた。

 

(MP消費が激しいですが、消費するのはステージを展開したときだけのようですし、一曲くらい平気でしょう)

 

ざわつくプレイヤーたちをステージから見ながら、マイクを作り出してハルは語り掛ける。

 

「急にお招きしてすみません。私はハル、今日始めたばかりの初心者です」

 

ハルの声にプレイヤーたちは静まりかえる。

 

「これはつい先ほど取得したスキル……【ステージ】の効果で、戦闘能力はありません。どうかあと一曲、お付き合いくださいませ」

 

ハルの言葉に帰ってきたのは拍手だった。

 

(再びステージに立つのなら、私の原点であるこの曲を!)

 

ハルはアゴゴベルを作り出し、頭上に掲げて叩き出す。

調子のいいリズムを鳴らし、続いてトランペットに持ち替える。

 

(さあ全員聞いていきなさい……これが私の……『宝島』です!)

 

ソロ演奏であるため、伴奏はないが次々と楽器を生み出しては消すを繰り返すことで多様な音色を生み出していく。

観客となったプレイヤーたちは自然と手拍子が出てくる。

 

(これで……ラスト!)

 

最後の音を鳴らしきり、ハルは楽器を口から離した。

残響のみがホールに響きわたる。

 

(あれ……?)

 

失敗したかと不安になるハルだったがその心配は杞憂であり……

 

「「「「「わああああああ!!!!」」」」」

 

次の瞬間にはプレイヤーの拍手と歓声が響き渡った。

 

『スキル【並列演奏】を取得しました』

 

この日、ハルはログイン初日にしてNewWorld Onlineに伝説を作り上げたのだった。

*1
「メヌエット」とはフランス発祥の宮廷舞曲で基本的に四分の三拍子で刻まれているほか、穏やかな曲調が特徴的である。バッハやベートーヴェンなどの「メヌエット」とは当然別の曲





作者は音楽の中ではクラシックとジャズが好きで、サックスとクラリネットの経験者です。
それ以外の楽器については余り詳しくないですし、作中に出てくる曲も含め随時調べながらになります。

今回の曲は
ドーテ作曲 『アルルの女よりメヌエット』
和泉宏隆作曲・真島俊夫編曲 『宝島』
でした。

メヌエットはフルートの名曲で、その曲調と難易度からフルートをやっている人の憧れとしても知られる曲です。19世紀の曲なので著作権は切れていますね。

一方の宝島は本作ではハル……伊沢 浩の原点となる曲で、インストゥルメンタルバンドT-SQUAREの曲を日本吹奏楽界の巨匠、真島俊夫さんが吹奏楽版に編曲された曲となっています。
今では吹奏楽の名曲として数多く演奏されており、設定上ですがハルはオクターブ上げるなど軽くアレンジをして演奏しています。
映画『異動辞令は音楽隊!』やアニメ『響けユーフォニアム』の劇中や立命館大学応援団吹奏楽部、大阪桐蔭高等学校吹奏楽部など素晴らしい演奏が多々あるので是非お気に入りを見つけてみてください。
楽曲コードは念のためです。

ハルは相棒を手に入れる?

  • 七層まで待て
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