貞操逆転的なウマ娘世界に転生したったwwwwww   作:アザミマーン

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感想、お気に入り、評価ありがとうございます。

当然の如く不定期更新です。でもネタが尽きてきたので多分そろそろ終わります。


アネモネギフトのヒミツ②
お酒は好きだが強くはない。


4話 会長から見たトレ警隊長

 

 

 今日も今日とてお仕事お仕事。

 朝の正門警備は生徒が大体登校して来た後は他の警備員さんに引き継ぎ、私は専用の警備員待機室へ戻って書類仕事だ。中央トレセン学園の警備のトップを任されてしまっているため、書類作業も結構多い。

 

 あの、こういうお偉いさん的な立ち位置の人って普通現場にはあんまり顔を出さないんじゃ…? 私は誰よりこき使われてる気がするんですけど…

 

 この前作成した要注意ウマ娘のリストを確認する。私が確認した部分は勿論のこと、他のトレ警隊員が総動員で全校を見回ってくれたおかげで出来たものだ。これにはかかりそうな気配を出しているウマ娘や油断しているトレーナー、その担当しているウマ娘のデータが載っている。少し申し訳ないけれど、個人名や得意距離、脚質なんかの個人情報も確認できるようになっている。

 

「優秀な娘ばっかりですねぇ…」

 

 思わずため息が出る。

 そう、トレーナーに対して暴走してしまうようなウマ娘は、結構な割合でレースで優秀な成績を残している子なのだ。一説には能力が高いほどウマソウルの力が強く、その分本能に引っ張られてしまうとか。しかし、別に能力が高くとも精神力でウマ娘の本能を抑えられる娘も普通にいるし、本当のところは分からない。

 

 レースで優秀な成績を残している娘は本来、この先どんな道を選ぶにしても有利になる。

 

 ドリームトロフィーリーグに出場するスターウマ娘になって走り続けるのが一番想像しやすい。走りを辞めたとしても、卒業後に大学に進学する際には推薦をもらえるし、企業に就職するにしても、履歴書に『G1を獲りました』なんて書かれていたらそれだけで色々なところから声がかかる。

 なんなら進学も就職もしなくても、レースの賞金を元に投資家になるという選択肢すらある。自営業を選んでもいい、『G1を○勝したあのウマ娘が店長!』なんてノボリを出すだけで話題性は抜群だ。

 

 でも、ウマ娘たちはそんな輝かしい未来を放り捨ててでもトレーナーを取ってしまう。数年我慢して、自制心を身につけてからアプローチすればまだトレーナーと一緒になれる可能性はあるというのに。

 

「どうにかしてあげたいものですがね…」

 

 例えトレーナーを首尾よくトレセン学園から誘拐できたとして、その後は警察に追われる。ウマ娘は身体能力も危機察知力も高いので逃げ切れることもあるのだが、逃げ切れたとしても結局トレーナーをその強すぎる愛で壊してしまうこともある。

 そうなったとき、誘拐したウマ娘も、自裁という決断をしてしまうということも少なくないのだとか。

 

 トレーナーを渇望することのない私には、そうしたウマ娘たちの事情は分かってあげられない。それが少し、寂しく感じることもある。

 

「ままなりませんねぇ」

『ザザ…こちらトレ警秘匿回線管制室! 隊長、応答できますか?! どうぞ!』

「はい、こちらネギです。何かありましたか? どうぞ」

 

 世の無常を儚んでいると、インカムに無線通信の連絡が入る。全く、トレ警の隊長には感傷に浸る暇すら与えられないぜ! 

 

『トレーナーからSOS信号を受信しました! 該当トレーナーのGPSはかなりの速度で西門の方に移動しています! おそらく、暴走したウマ娘がトレーナーを抱えて移動しているものと予想されます! 該当トレーナーの担当ウマ娘はリストのNo.28です! 補導の用意は進めていますが、隊長も応援に向かっていただきたいです!! どうぞ!』

「要請を受領します。これからそちらへ向かいますので、なんとか持ち堪えてください。通信終わりますぅ」

 

 さて、平和な時間は終わりだ。折角引退シーズンが終わって最近平和だったのに(白目)。

 

 ちなみにSOS信号とは、各トレーナーに必ず持たされている防犯ブザーのようなものだ。緊急連絡ダイヤルに通報する余裕すらないトレーナーが指先ひとつで助けを求められるようになっている。これが起動すると、同時にGPSが起動して学園内限定だけどトレーナーの位置をかなり正確に追跡できるようになっている。

 

「件のウマ娘は…この娘ですか」

 

 西門への最短ルートへ飛び出しながら情報を確認する。見たことあるな。印象は普通の真面目な子っていう感じだったけど、そんな娘でも本能には引っ張られちゃうのか…。ふむ、短距離〜マイル適性で脚質は追込。今年の高松宮記念を獲ったG1ウマ娘ね…。てことはスタミナはそこまでではないけど、加速力と速度は超一流ってことか。

 

 ちなみに私専用の警備員待機室はトレセン学園の真ん中くらいに位置し、屋上付近にある。理由は真ん中にあった方がどの距離にも対応できるからで、高いところにあるのは建物の屋上を伝っていけばショートカットできるから。

 というわけで授業を受けている生徒たちやお仕事をしている教員さん、トレーナーさんたちの頭上の屋根をジャンプで飛び越えて着地。

 

 さて、GPS信号の移動速度的に、まだ全然本気じゃなくて門が近づいたら一気に加速して走り抜ける気だな、これは。追込スプリンターの本領ってところですか。ここから西門までの距離は1500mくらいか…。毎回思うけど、広すぎだよこの学校…

 

 

 まぁ、なんとかしましょう。

 

 

 

 

 

「ま、待って、ぐっ、か、かんが、考え直しっ」

「黙っててくださいトレーナーさん、舌噛みますよ!」

「と、ととと止まっててててt」

 

 腕に抱えたスーツの女性、自身のトレーナーの発言をまるっと無視し、ウマ娘は加速する。もうトレセン学園の門はすぐそこ、500mもない。そこを越えれば、愛するトレーナーとずっと一緒の煌びやかな生活が待っている。

 ただ、門の前には人垣があった。進路を塞ぐように、10人ほどのヒトの男女がウマ娘を待ち構えていた。一様にライオットシールドを構え、整然と並んでいる。

 

(あれが、噂に聞く『トレ警』ってやつね!!)

 

 普通の生徒には秘匿されている情報だが、このウマ娘はその存在を知っていた。以前生徒会に所属していたことがあり、そこで耳にしたことがあるのだ。

 生徒会はその性質上、学園内の様々な情報を知っておく必要がある。なのでトレ警に関しても、詳細は知らずともその概要は知っていた。

 

「そこのウマ娘、止まりなさい!」

(トレーナーを守るために配備されている秘匿警備隊、つまり私の障害!)

 

 制止なんて聞き入れるはずがない。それで止まれるくらいの渇望ならば、そもそも暴走なんてしていないのだ。

 ここを越え、逃げ切れたとしても幸せな生活なんてないのかもしれない。ウマ娘も一度冷静になれば分かることだろう。しかし暴走した本能がそれを許してくれないのだ。それでもトレーナーを求めてしまう。

 

「来るぞ! 総員、構え!!」

(そんなんで私を止められると思うな!!)

 

 ウマ娘のパワーならばそのまま正面からぶつかってもトレ警たちをぶっ飛ばして突破できるだろう。だが、そんなことをすれば抱えているトレーナーもタダでは済まない。

 ゆえにウマ娘は見極める。トレセン学園の門は広い、10人が並んでも隙間ができてしまうほどだ。その隙間を抜けるように体を寄せる。

 もちろんトレ警がそれを黙って見ているなんてことはない。ウマ娘が体を寄せた方向に、隊員たちを集めて隙間を無くす。

 

 しかし、それこそがウマ娘の狙っていた行動だった。

 

「甘い!!」

「何っ?!」

「うわあああああ?!」

 

 ウマ娘は交差する直前、抱えていたトレーナーを前方に放り投げる。予測していない行動にトレ警たちの動きが一瞬止まり、目線が上にいく。ウマ娘はそれを見逃さなかった。

 

「そこだぁッ!!」

「っ抜けられた!?」

 

 自身だけならば動きを制限するものはない。ウマ娘は追込脚質特有の、パワーに任せたキレのあるレーン移動を見せ、片側に寄ってしまったトレ警たちを振り切った。

 

(よし、これで後はトレーナーをキャッチして逃げるだけ…!)

 

 短距離ウマ娘の終盤の速度は時速72kmにも及ぶ。高速道路を走る車にも近い速度に、一度抜かれてしまったら最後、いくらトレ警といえども追いつくことはできない。

 

 ヒトのトレ警ならば。

 

(距離、方向ともに完璧! さあトレーナーさん、私の胸に飛び込んで…)

「はいナイスキャッチ〜!」

「…は?!」

 

 トレーナーをキャッチする体勢でいたウマ娘の後ろから、それ以上の速度で飛び込んできて空中のトレーナーをジャンプしてキャッチした人影。

 ウマ娘は驚く。それも当然である。自身は今年の高松宮記念を優勝した生粋のスプリンターであり、その最終速度は現役ウマ娘の中でも最上位だ。にもかかわらず、今飛び出してきた人影は、レーン移動の直後とはいえかなりの速度の自身を、後ろから抜かしてきたのだ。

 

 ウマ娘はガリガリと足裏で音を立てながら急停止し、その人物を目に入れた。そして目を見開いて再度驚愕する。

 

「あ、あなたは…?!」

「「「ネギさん!!!」」」

「はい、ネギですよぉ」

 

 抱えたトレーナーに負担をかけないよう最小限の動きで着地し、緩やかにブレーキをかけながらヒトのトレ警たちに歓声で迎えられながらその前で止まったのは、警備員のネギだった。

 

 放心状態のトレーナーを他のトレ警に引き渡したネギは、両手を腰に当ててウマ娘に注意する。その姿に緊張感はない。まるで、少し校則を破ってしまった生徒を注意するかのような、そんな態度だった。

 

「もう、ダメですよぉ。トレーナーさんと一緒に外出する時は、ちゃんと学園と警備室に届出をしないと」

 

 その注意が耳に入る前に、ウマ娘はトレーナーに向かって駆け出そうとした。まだ間に合う、この距離なら──「だめです」

 

「えっ?」

 

 いつの間にか、視線の先にネギの姿はなかった。声がしたのは、自身の真下。

 まだ20m以上あったはずの距離が、一瞬にして無くなっていた。

 

 腕を取られる。体勢が崩れる。まるで逆上がりのようにネギの体が逆さになり、その脚が蛇のように自身の首に絡みつく。

 

(これは、三角絞め(トライアングルチョーク)──)

「今回は、間違えて届出を出さずに外出しようとした。そういうことにしておきましょう?」

 

 意識を失う寸前、ウマ娘の耳に聞こえたのはそんな言葉だった。

 

 

 

 

 

 ヒトのトレ警によって保護されたトレーナーと意識を失ったウマ娘が連れていかれる。それを見送っていたネギに声がかかった。

 

「ネギさん。お疲れ様です」

「あら、シンボリルドルフ会長。そちらこそお疲れ様ですぅ」

 

 シンボリルドルフ。中央トレセン学園の現生徒会長であり、七冠を獲得したウマ娘であり、スター選手が集うドリームトロフィーリーグに出場する現役の選手でもある。一般人にすらよく顔が知られている有名ウマ娘と、ただの警備員。もちろんネギはトレ警という秘匿部隊の隊長でもあるのだが、一般には知られていないため、外向けとしてはただのいち警備員だ。

 何も知らない人や生徒のウマ娘からすれば、ネギはスターウマ娘であるシンボリルドルフからしたら毎日挨拶しているだけの、特に気にかけることもない存在だ。

 

 しかし、シンボリルドルフはその事情を知っている。だからこそ、常日頃からネギに対して深い感謝を覚えていた。

 

「いや、私なんて大したことはしていないさ。もう授業もほとんど単位は取り終わっていますし、暇なものです」

 

 暇なわけはない。授業こそほとんど出ていないが、それは授業に出ている余裕がないほど忙しいため、特例として先に単位が出ているというだけだ。生徒会長としての仕事、シンボリ家次期当主としての仕事、ドリームトロフィーリーグに出場しているスターウマ娘としての仕事にトレーニング。さらに、自身の理想を実現するための活動。動いていない時間などほとんど無い。

 

 だが、その数少ない時間を使ってでも、シンボリルドルフはネギに感謝の言葉を直接かけたかった。

 

「ネギさんこそ大変でしょう?」

「まぁ、それが私のお仕事ですからねぇ。でも、こんな成り損ないの私でも皆さんの力になれるなら、とっても良いことだと思いますぅ」

「そんな、ご自身を卑下しないでください。このトレセン学園に所属するトレーナーやウマ娘が守られているのはネギさんのおかげです」

「そんなことないですよ。皆さんの頑張りのおかげですぅ」

 

 ネギは本気でそう思って謙遜しているが、シンボリルドルフは知っている。

 ネギが来てからの数年間で、トレーナーの離職率は激減しているということを。その偉業をこの小柄なウマ娘が成したということを。

 

「では、私はこれで〜」

「…ええ、頑張ってください」

 

 そう言ってネギは警備員待機室へと向かって行った。その後ろ姿に向かって、シンボリルドルフは深く頭を下げた。

 

 

 

 

『全てのウマ娘に幸福を』

 

 その理念を掲げてこれまで走り、活動してきた。しかし、挫折しそうになったことは幾度もあった。その理由のうちの一つが、ウマ娘の強すぎる本能による問題である。

 

 ウマ娘は本能的にトレーナーを求める。しかも実力が高いほど、その本能は強くなると言われている。

 もちろん、その本能に飲まれてしまうウマ娘ばかりというわけではない。それこそシンボリルドルフは自他ともに認めるほどに高い実力を持つウマ娘であるが、その本能に身を任せることなく自制することができている。

 

 トレーナーのことは男性として好きだし、将来的にトレセン学園を卒業してからはお付き合いしてもらえるように少しずつ距離を詰めている。トレーナーの方も、最初は否定的だったが、何年もかけてゆっくりと距離を詰めたこと、シンボリルドルフが将来をしっかりと考えていること、精神修行までしてその衝動を押さえ込んでいることが理解され、最近では卒業後のお付き合いに前向きになってくれている。

 

(しかし、それができるウマ娘ばかりではないということも知っている)

 

 何せ、これまでそうしてきたシンボリルドルフ自身ですら辛く苦しい道のりだったと思っているのだ。それを全てのウマ娘に強いるというのは現実的ではないと、我慢している当時から既に分かっていた。

 

 そして、制御できなくなったウマ娘のその思いが暴走した先に、幸福な未来が待っていることは非常に少ない。

 

(名家などの力ある者ならば、多少強引にだが合法的に、そしてトレーナーの負担が可能な限り少ないように動き、トレーナーとウマ娘の両方にとって少しでもいい将来を用意することができる。だが…)

 

 そんなことができるのはごく一部だけ。暴走したほとんどのウマ娘は、誘拐に失敗して犯罪者として一生を棒に振るか、成功してもトレーナーを壊して、自身も未来を絶つか。

 

 それを防ぐためには、どうにかしてウマ娘たちの暴走を止めるしかない。誘拐を未遂で終わらせて、強引にでも距離と時間を置かせる。一度暴走を終えたウマ娘は、ほとんどの場合で冷静さを取り戻せるからだ。

 

 問題なのは、暴走したウマ娘に対抗する手段が少なすぎることだった。

 銃器などの過度な暴力はウマ娘も連れ去られるトレーナーも傷つけて、結局その将来を台無しにしてしまうので使えない。非致死性の催涙ガスやフラッシュバンではウマ娘が混乱して大暴れしてしまう。睡眠ガスなどは、ウマ娘がトレーナーを抱えていた場合ウマ娘が鎮静するよりも先にトレーナーの致死量になってしまう。

 

 なのでやるとすれば、防具を着た複数のヒトで囲んで止めるか、同じウマ娘が対処するか。対応を試みたことは過去にもあった。

 

 しかしダメだった。複数のヒトでウマ娘を傷つけすぎないように加減して取り押さえようとすると、ヒト側に被害が出てしまう。一人のウマ娘を取り押さえるのに五人のヒトが再起不能にされては補充が追いつかない。かといって過剰な武力ではウマ娘は確実に大怪我をしてしまう。それも一生残るような怪我を負うことが殆どだ。

 

 同じウマ娘ならば丁度いい力加減で抑えることもできるが、警備側のウマ娘が保護されるトレーナーに対してかかってしまうという問題が解決できなかった。すぐ近くで警備したら暴走もあり得た。

 

 それに、ウマ娘の全盛期は十代後半まで。それ以降は力が落ちていってしまう。それでもヒトよりは強いが、暴走した現役のウマ娘を制圧するには力不足だ。

 結局ヒトが対応するのと同じように、止められなかったりやりすぎてしまったりといった事態が起こった。

 

(この状況で全てのウマ娘の幸福を望むなど、夢のまた夢だ…)

 

 取るべき手が思いつかない。シンボリルドルフが対策を考えていた当時は、まだトゥインクルシリーズを走っている最中だった。

 

 ウマ娘の本能という、これまでにないほどの大きな壁。対策を考えたいが、その時間がない。力も足りない。まさに八方塞がり。

 こうしている間にも、トレーナーが連れ去られるか、それを防ぐためにウマ娘の未来が奪われる。

 

 

 

 

 この学園にネギがやってきたのは、そんなときだった。

 

 

 

 

 見つけたのは偶然だった。

 シンボリルドルフが生徒会の仕事を終えて校舎から出たところ、暴走したウマ娘がトレーナーを抱えてトレセン学園から脱出しようとしていた。それを見たシンボリルドルフは追いかけようと走り出したが、流石に距離がありすぎる。確実に間に合わない。

 見ていた他の者たちは、もはや諦めて追うこともせずにその背を見送り、警察に通報しようとスマホに手をかけていた。

 

 だが、通報されることはなかった。

 

『そこのウマ娘さん、ちょっと止まってくださいねぇ』

 

 普通の警備員として正門を警備していたネギがあっさりとウマ娘からトレーナーを奪い、そのまま流れるようにウマ娘を制圧したからだ。

 

(こんな、ことが)

 

 後から追いついたシンボリルドルフは、その非現実的な光景に愕然とし、同時に光を見出した。

 

 

 そこからのシンボリルドルフの動きは迅速だった。

 

 ネギのことは調べればある程度は直ぐに分かった。過去にトレセン学園に在籍していた生徒だったからだ。

 しかし当時のネギは、一度もレースに出ることなくトレセン学園を中退していた。詳細については後に知ることになるが、そのときは分からなかった。

 トレセン学園は普通の高校へと推薦を出したが、本人がそれを断った。数年は動きがなかったが、二十歳のときに民間の警備会社へと就職し、つい数ヶ月前にトレセン学園の理事長である秋川やよいにヘッドハンティングされた。

 

 しかし驚くべきはそこではなく、その身体能力と体術。

 二十過ぎのウマ娘なんて普通なら全盛期を終えて少なからず衰えているはずなのに、あの時見たのは一瞬にして走る現役ウマ娘を制圧してしまうほどの動きだった。

 

 間違いなく全盛期のウマ娘レベル。いや、もしかしたらそれすらも──

 

(この人ならば、現状を止められるかもしれない)

 

 シンボリルドルフはレースやトレーニング、仕事で忙しい日々の合間で秋川理事長に相談した。

 ネギを雇った秋川理事長はネギの能力について知らなかったが、草案をあげると一も二もなく賛成してくれた。そして、シンボリルドルフはシンボリ家の次期当主として、さらに理事長を通して学園からもURAと交渉。

 

 その努力の結果、一年もすればネギを中心としたトレーナーを守るための組織が編成された。それこそがトレーナー守護秘匿警備隊、トレ警である。

 

 ネギは勘違いしているが、ネギがいつの間にかトレ警の隊長にされていたわけではない。

 トレ警は最初からネギを中心として、ネギありきで組織された秘密部隊なのだ。

 

 ただ、シンボリルドルフもネギだけに負担を押し付けようと思っていたわけではなかった。

 

 シンボリルドルフはトレ警をURAや学園と一緒に作ったが、元々はその場凌ぎの案だった。この組織、いやネギの身体能力が、自身がトゥインクルシリーズを走り終えるまで衰えずにもってくれれば、その後は対策を考える時間ができる。自身が注力できない間だけでもトレーナーたちを守ってくれれば…

 

「そう思っていたのだがね…」

 

 そう言ってシンボリルドルフは苦笑する。トレ警は概ね上手くいっていたが、その最大の誤算は、ネギの優秀さが想像を超えていたことだった。決して低くないハードルの遥か上を行ってしまった。

 通報が間に合わずに怪我を負ってしまったトレーナーこそいるが、トレ警が出来てからというもの、トレーナーの誘拐阻止率は驚異の100%。連れ去ろうとしたウマ娘たちは、誰一人としてネギという壁を超えられていないのだ。

 

 おかげでトレーナーからの評価も鰻登りであり、今やトレ警、ネギはトレセン学園に不可欠のものとなっている。これではネギの負担も増すばかりだ。

 

「だが…3年もの時間を稼げた。値千金だよ、本当に。ネギさんには感謝してもしきれないな」

 

 しかし十分な時間だった。ネギには多大な負担を強いてしまったが、その尽力のおかげでネギ以外の対策(・・)も見つかってきた。これが上手くいけば今後もしネギの身体能力が衰えてしまっても大丈夫。ネギが続投してくれたとしても、間違いなく負担軽減になる。

 

 

「あなたは、決して成り損ないなんかじゃない。本当に凄いウマ娘なんですよ…」

 

 一人呟く。

 ネギがやってきたことは、ただトレーナーを守るというだけではない。同時にウマ娘を止めることで、そのウマ娘の未来すら守っているのだ。

 

 

 まさに、トレセン学園の守護者。

 

 

 自身がいくら考えても出来なかったことをやってのけたその姿に少し嫉妬してしまうが、それでも圧倒的に尊敬と感謝の念が上回っていた。

 

「だから、今度は貴女の番です。例え三女神が貴女を見放したのだとしても…この学園の誰もが、貴女の幸せを願っていますよ」

 

 全てのウマ娘に幸福を。

 

 シンボリルドルフが掲げるその理念の中には、ネギだって入っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネギ隊長、体調はどう……ふ、ふふ」

 

 

 




アネモネギフトの(裏)ヒミツ②
怒ると怖いとのウワサ。
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