貞操逆転的なウマ娘世界に転生したったwwwwww   作:アザミマーン

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感想、お気に入り、ここすき、評価いつもありがとうございます。
感想を見ながらニヤニヤするのが趣味です(クズ)。

今回出てくるウマ娘に対するネギさんの「ちゃん付け」は仕様です。悪しからず。
あと過去最高に長いです。すみません…


トゥインクルシリーズ規定(一部抜粋)
・ウマ娘は、スポーツマンシップに則りレースを走ること。
・中央所属のウマ娘のみ参加可能とする。
・トゥインクルシリーズの在籍期間は、最大で高等部卒業までの間とする。
・ドリームトロフィーリーグへと移籍したウマ娘は、トゥインクルシリーズへ再度移籍することは不可能とする。

-追記
一部文章を修正。


6話 トレ警隊長と後輩ウマ娘

 

 

 

『この度は、多数の企業の中から弊社にご応募いただき、誠にありがとうございました。応募書類をもとに慎重に選考しましたところ、誠に残念ではございますが、ご期待に添いかねる結果となりました。大変申し訳ございませんが、ご了承くださいますようお願い申し上げます──』

「ダメだったぁ…」

 

 スマホ画面に映るメールの文面を見たウマ娘は、明るい桃色の髪を揺らしながらがっくりと項垂れた。

 これでもう9社目。そろそろお祈りメールのテンプレートにも慣れてきてしまった。自分には魅力がないのだろうかと少し落ち込んでしまうが、頭を振って陰鬱な気持ちを振り払う。前向きさが自身の強みじゃないか、と以前社長に言われたことを思い出して奮起する。

 

(うう、でもやっぱり書類選考で落とされちゃうなぁ…)

 

 ノート型のPCを開き、自身の履歴書データを見る。そこに書かれているのは前職の経験のみ。学歴部分は中学以降まっさらで、レースの戦歴もまっさら。公式レースに出たことが無いので当然だ。かろうじて特技の部分に武道経験を書いてあるが、就職に有利になるかと言われると微妙なところである。

 

(でもお父さんとお母さんに心配かけたくないし、頑張らないと!)

 

 パタンとPCを閉じ、気合を入れるためにコンビニで買ってきたにんじんジュースを一気飲みする。なんだか元気が出てきたような気がしたウマ娘は、ため息を飲み込んで気合を入れ直した。

 

 ことの発端は三ヶ月前だった。

 勤めていた会社が、急に事業を畳むことになったのだ。

 

『ほ、本当…? ですか?』

『ああ…申し訳ない。実は、親が倒れてね。介護に専念しなければならなくなったんだ』

『そんな…』

『本当にすまない。もちろん退職金は出すし、君の次の就職先をこっちでも探してみる。君は頑張ってくれたからね』

『う、は、はい。ありがとう…ございます』

 

 家族経営の小さな会社だったので、急な廃業というのもあり得ることではあった。

 ただ、社長はまだ40代で、経営も黒字を保てているという話だったので、可能性としては低かった。低いというだけで起きてしまったのだが。

 

 退職までの猶予は三ヶ月。一応、その間は次の仕事を探すことに専念してくれていいとのことで、仕事をしていなくても給与は出た。ただ、それも今週で終わり。来週からは本当の無職になってしまう。

 その間ずっと仕事を探していたのだが、資格も学歴もレース戦績もない自分ではウマ娘の力を活かした短期の仕事しか見つからない。

 

(いい人たちだったなぁ)

 

 しんみりと思う。

 勤めていた会社は、給料は高くなかったが、人間関係は良好だった。最終学歴が中卒で公式レースにも出たことがない自分を差別することなく可愛がってくれて、何度もご飯に連れて行ってくれた。

 廃業となってしまったのは残念だが、せめて社長さんたちの行く末が幸福であればと祈る。

 

「うん?」

 

 スマホから着信音が鳴る。また不採用の通知だろうかと画面を見ると、そこには勤め先の社長の名前が書いてあった。

 社長も忙しいだろうにと思いつつ、不採用通知ではなかったことに安堵する。既に若干トラウマになりかけていた。すぐさま電話をとって要件を尋ねる。

 

「社長? 何…かありました?」

『君、まだ次の勤め先は決まってないかい?』

「はい…」

 

 どうやら様子を伺う電話だったようだ。その心配をありがたく思いつつも、まだ次の仕事を見つけられない自分が少し不甲斐なく思う。

 しかしそんなウマ娘とは対照的に、社長の声色は非常に明るい。少しだけ訝しく思っていると、社長から驚きの発言が飛び出した。

 

『そうか! 実は、僕に連絡があってね。君の経歴を鑑みて、ぜひ雇いたいと言ってきているところがあるんだ!』

「ええ?! 本当? ですか?!」

 

 本当に驚いた。探すとは言ってくれていたが、社長も事業を畳むのに相当忙しいはずだった。なので、多少の期待はしていたが、次の仕事は自分で見つけるつもりだったのだ。

 社長は驚くウマ娘の声を聞き、笑い声を上げる。実は、社長もそこまで探せていなかったのだ。この三ヶ月間は本当に多忙で、ウマ娘の次の職場を探せていたのは合間時間や、取引先に聞いている時くらいだった。それを申し訳なく思っていたが、時間がないのはどうにもできず、仕事先を紹介できずにいた。

 

 しかし、今回声がかかってきたのは、日本に住んでいる人ならば誰もが知っているような場所。社長も、超大手とも言えるそこを紹介できることに安堵していた。

 

『そうだ! そして、聞いて驚くといい! 君に来て欲しいと言っているのはだね…』

「ごくり…」

『ずばり!』

「!!」

 

 

『日本ウマ娘トレーニングセンター学園。そう、あのトレセン学園なんだ!!』

「……」

 

 

「ええええええええええええええ!!!!?????」

 

 

 昼下がりの閑散とした住宅地に、明るい桃色髪のウマ娘の絶叫が響き渡る。

 この日を境に、ウマ娘の人生は大きく変わることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウマ娘は本能的にトレーナーを求める。そのため、少しでもトレーナー側が距離感を間違えるとウマ娘に襲われてしまう可能性が上がる。また、優秀なウマ娘ほど本能が強いと言われており、強いウマ娘を育成したトレーナーほど注意が必要である。

 

 ただ、距離感を保てば大丈夫かと言われると絶対に安全というわけではない。それを肯定するように、トレーナー界隈には優秀なトレーナーほどウマ娘に懐かれ(さらわれ)やすいという説があるのだ。

 

 実際、自身のウマ娘にG1を獲らせたトレーナーが、距離感を保っていたのにも関わらず攫われたという事例も少ないが存在する。自分を強くしてくれたヒトに好感を抱くのはウマ娘でなくても当然とも言えるが、だからと言ってわざとウマ娘の育成に手を抜くトレーナーは少なくとも中央にはいない。

 彼らは自分の身が危険に晒されるかもしれないと分かっていてもウマ娘を強くすることを止められない。それほどまでにウマ娘たちが好きで、自身の愛バにレースで活躍して欲しいと思っている。もはや、トレーナーの本能とも言えるかもしれない。

 

 なお攫われたときはみっともなく泣き叫ぶ。

 

 総合すると、優秀で、かつ距離感を間違えやすい新人トレーナーはウマ娘の積極的なアピール(マイルドな表現)を受けやすいということである。

 URAの調査では初めて育成するウマ娘にG1を獲らせたトレーナーがウマ娘に攫われる確率は70%を超えているらしい。勿論新人トレーナーが担当ウマ娘にG1を獲らせるのは難しいので母数は少なめだが、条件を満たしたトレーナーにはURAから直々に注意の連絡が行く。

 

 とはいえ、いかに本能の強いウマ娘といえどその中身は年頃の女の子。対トレーナー限定でヒトよりも欲望が強いが、そこには好みだって介在する。トレーナーだからといって無条件で好きになることも惚れることもない。そのハードルが普通のヒトよりも遥かに低いだけで、限度はあるのだ。

 

 そして、そんなウマ娘側の事情を敏感に察知し、ウマ娘の襲撃を避けるトレーナーも存在する。

 

 とあるウマ娘のトレーナーは正にそのタイプである。トレーナー歴5年目になる彼は、初年度にいきなりウマ娘に襲われてなんとか逃げ延びたという経歴を持つ。それ以来、自分なりにウマ娘と適切な距離感を保つ方法を模索し、一つのスタイルを見出した。

 

「か、カレン殿。と、トレーニングのじ、時間ですぞ。デュフッ」

「はぁい、今行きまーす☆」

「き、今日はちょっとキツめのメニューにしてるでござるよ、フヒっ」

「ふーん? カレンの『カワイイ』を広めるためなら、どんなトレーニングでも大丈夫だけど!」

 

 それが、この『ジャパニーズ・キモオタ・スタイル』である。

 社会人として最低限の身だしなみは整えているし、不健康だとウマ娘の育成に支障が出るため太ってはいない。だが、長い前髪で目は隠れ、さらには瓶底メガネをかけている上にいつもマスクをしているので常に曇っている。背筋は猫背のせいで曲がり自信なさげに見え、言葉遣いは古のヲタクと言えるほどコテコテ。

 彼は模索と気味が悪い話し方を体得するのに半年かけ、遂にこのスタイルを完成させた。

 

 ウマ娘でなくとも「ちょっと…無いです」となる見た目に言動。しかし、これこそ試行錯誤の後に辿り着いた最善のやり方であると、カレンチャンのトレーナーは考えていた。

 

 根が真面目で優しい彼は、ウマ娘にわざとそっけない態度をとって距離を空けるということができなかった。だからこそ襲われてしまったのだが、そこで彼は外見や言動の印象を下げることでウマ娘から恋愛感情を持たれることを避けようと考えたのだ。親身に接しても、相手から距離を取ってくれれば問題はない。

 

 これが功を奏した。彼は既に三人のウマ娘とトゥインクルシリーズを走り終え、そのうち二人はG1を勝たせることに成功しているが、攫われることは無かった。トゥインクルシリーズを終えたウマ娘たちは次の進路へと旅立ち、彼はそれを穏便に見送ることができた。

 

(これだ…! これが正解だったんだ!!)

 

 成功体験に彼は舞い上がった。現在ウマ娘からの彼の評判は、『くっそダサいけど優秀なトレーナーではある』というものに落ち着き、存分にトレーナーライフを満喫できている。そして、昨年また新しく三人のウマ娘と契約し、彼女らを強いウマ娘にするために真剣に育てていた。

 今回も担当している三人のウマ娘の内二人からは微妙に距離を取られている。もう一人も、初めの頃は積極的に距離を詰めてきたため戦慄していたが、今はフラットな態度のため安心してウマ娘達に親身に接していた。

 

「せ、拙者が必ずみ、みんなを強いウマ娘にするでござるよ、デュフフ」

 

 彼のトレーナー人生はまだ道半ば。しかし、彼は今幸せの絶頂にあった。

 

 

 

 

(カレンにはお見通しなんだけどね。ライバルがいないのは良いことだね☆)

 

 なお担当ウマ娘の一人であるカレンチャンには、その欺瞞は全てバレていた。

 

 

 元々カレンチャンは相手を外見で判断するタイプではなく、どんな人に対しても初見はフラットな評価をする。これはカレンチャンが子供の頃から類稀なる容姿を持ち、様々な人から下心のある対応をされてきたからである。ただ、カレンチャン自身も生まれた瞬間から自分がカワイイことは自覚しているため、そういった対応をされることも当然と考えていた。

 

 トレセン学園に転入してきたときもその外見の良さから、まだウマ娘の脅威をよく知らない新人トレーナーに多くの声をかけられた。この世界ではそこそこ珍しい光景も、カレンチャンにとってはいつもの反応。自身のカワイイを世界に広めるために最適なトレーナーは誰かな、などと考えながらトレーナー達に応対していた。

 

『き、キミ。せ、拙者と契約しませんかな? フヒっ』

 

 そんなある日、マスクを付けてメガネを曇らせている不審者一歩手前の人物から声をかけられた。ただ、トレーナー証を首から下げているということはトレーナーなのだろうし、不審者じみていると言っても実際に手を出してくるまでは不審者とは限らない。

 それに、もし不審者だったとしても所詮はヒト。ウマ娘であり、尚且つ合気道の有段者であるカレンチャンには取るに足らない相手だ。襲われたとて、秒で制圧できる自信があった。

 

『あなたは? カレンはね、"カワイイ"の伝道師なの♪ だからね、この世界を"カワイイ"で包んじゃいたいって思ってるんだ☆』

『な、なるほどですぞ。ぐ、具体的なプランはお有りですかな? デュフ』

『うーん? とりあえず、レースでカレンの"カワイイ"を皆に見せつけようかなーって思ってるよ! ティアラとか響きがカワイイなって☆』

『…ふむ。しかし、走りを見るにカレン殿はどうやら短距離適性でティアラは適性外のご様子。そして現状、カレン殿の適性である短距離は他の距離に比べて注目度が低い。目標を達成するには、まず短距離レースの注目度を高めるべきでござるな』

『…ふぅん』

 

 カレンチャンはこの時点でオタクトレーナーに一目置いていた。これまでの他のトレーナーは、カレンチャンの目標を聞いても胡乱な表情をするものが殆ど、良くて笑って誤魔化す程度だった。しかしこのトレーナーは、カレンチャンの目的を聞いても真剣に頷き、さらには短期目標まで設定してくれた。

 

『うん、良かったらカレンと契約して欲しいな!』

『こ、光栄ですぞ、デュフ、コポォ』

『よろしく、お兄ちゃん♪』

『お、お兄ちゃん?』

 

 上目遣いでカワイく挨拶すると、トレーナーはここに来てようやく怪しげなニヤニヤ笑いから声色を変えた。ただ、照れるなどといったカレンチャンの期待していたような反応ではなく、訝しげな声を出しながら困惑する、というものだったが。

 

(む…この人、カレンの"カワイイ"に屈服してない。むしろ、警戒してる)

 

 カレンチャンがそれに気づくのには一瞬もかからなかった。しかし微塵も動揺は見せない。カレンチャンの"カワイイ"に屈していない人を見るのは、これで二度目だったからだ。ほんの少し、カレンチャンの脳内を桃色の影がよぎった。

 

 カレンチャンはトレーナーからは見えない位置で不敵に笑う。これはカレンチャンへの挑戦と受け取ったのだ。自分は世界で一番カワイイ。その"カワイイ"には誰も抗えないと知らしめるためにカレンチャンは存在する。ならば。

 

(まずはお兄ちゃんにカレンの"カワイイ"を分かって貰わなきゃ☆)

 

 それからカレンチャンはトレーナーの指示に従ってトレーニングしながら、トレーナーを"カワイイ"の海に沈めようと奮戦した。自身の容姿、仕草など、あらゆる手段でトレーナーに自身の"カワイイ"を伝える。

 しかしカレンチャンの猛攻を前に、依然としてトレーナーがカレンチャンの"カワイイ"に屈服する様子はなかった。カレンチャンが一歩前へ出るとトレーナーは一歩下がり、カレンチャンが一歩引くとトレーナーは前に出る。決して一定距離よりも近づかない。オタク然とした態度のくせに、お手本のようなウマ娘との距離の取り方だった。

 ただ、カレンチャンにも焦りは無い。トレーナーがウマ娘に襲われないように距離を取るというのは知っている。そして自身ならばその警戒を貫通して相手を"カワイイ"に染められると思っていた。抵抗できるものならやってみろとも思った。

 

 そして一年が経ち…

 

 

 

 カレンチャンは逆にトレーナーに堕とされていた。

 

 

 

(ずるいよ。効率よく"カワイイ"を伝えるためにお兄ちゃんを観察してたはずなのに。こっちが惚れちゃうんだもん)

 

 カレンチャンは相手の外見でバイアスをかけることはない。他人の容姿が自身の"カワイイ"に影響を及ぼすことはないからだ。だからこそカレンチャンは見た目で印象を決めつけない。

 そして、オタクフィルターが無くなったカレンチャンのトレーナーはただの誠実でウマ娘に親身な好青年である。カレンチャンが可愛いからと特別扱いすることなく他の担当ウマ娘と平等の扱いで、優しく、さらにトレーナーとしても非常に優秀でトレーニングもアドバイスも的確。

 

 宇宙一カワイイカレンチャンとて一人のウマ娘。トレーナーにそこまでされて惹かれないわけもなく、一度惹かれたら後は真っ逆さまだった。

 

 しかもカレンチャンのトレーナーは、ウマ娘に対する言動こそアレだが真面目な社会人でもある。なので、普段は別にオタク言葉なんて使っていない。他にも、ウマ娘と一緒じゃない時はマスクに瓶底メガネなんて付けていないし、背筋も伸びている。必要ならば前髪もワックスで固めてオールバックにしている。なんならいつもは隠れている顔も正統派のイケメンである。

 他のウマ娘にはバレていないようだが、カレンチャンは偶然休日のトレーナーを見つけ、こっそり尾行したときに見ることができた。その時はジムに行っていたようで、実は体がかなり鍛えられていることもここで判明した。

 

 しかしここまでモテる要素を持っておきながら、カレンチャンのトレーナーに女性人気はない。それはつまり、オタクモードじゃない時が殆どないということ。彼が私生活のほぼ全てを(なげう)ってウマ娘を育てることに人生を費やしているという証拠である。そんなのウマ娘として嬉しくないわけがない。

 

「これがギャップ萌え…隙を生じぬ二段構え…」

「ん? 何か申されましたかな?」

「ううん、何でもないよ♪ ごめんね? 集中できてなかったかも」

「いえいえ、カレン殿が大丈夫なら良いのですが」

 

 ボソリと呟いた言葉にトレーナーが反応するが、内容までは聞こえていなかったようだ。今はトレーニング中であり、集中できていないのは自分が悪い。

 近頃は押しているだけでは意味がないかと思い引く立ち回りもしているが、特に効果が出ていない。むしろ引いた分だけトレーナーが活き活きとして、カレンチャンのほうがドキドキさせられてしまう。

 ここのところ、トレーナーのことを考えてしまい、上の空になっていることがある。このままではいけない、レースにも"カワイイ"にも影響が出てしまう可能性がある。

 一度精神を落ち着ける必要があるだろう。

 

(また滝行に…いや)

 

 もっといい方法がある。自身の精神を落ち着けるにも、体の修行的な意味でも。

 

 カレンチャンは直ぐさまスマホで連絡を取り始めた。了解の返事を確認したカレンチャンは、自身のトレーナーに午後の練習を休む許可を取り、昼一でトレセン学園の第二武道場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「囲め!」

「隙間を開けるな、抜けられるぞ!」

「上に注意しろ、ウマ娘は跳躍力も高い!!」

 

 ヒトのトレ警が私を取り囲む。ライオットシールドを構えてじりじりと囲いを縮めてくるが…うーん、まだ甘いかな。

 急に振り向き、後ろにいるトレ警の構えた盾の隙間に向かって軽く蹴りを放つ。

 

「うわっ」

「後ろから近づいているからって油断しちゃダメですよぉ」

「隙間が、詰めろ詰めろ!」

「判断が遅いですぅ」

 

 トレーナー、と書かれたカカシを前方の空中に放り投げ、私は盾の隙間が埋まる前に体を入れて強引に突破。一気に加速して包囲網を抜け、落ちてきたカカシをキャッチして『門』と書かれたゲートを悠々と走り抜けた。

 

「だ、ダメか」

「隊長、強すぎます…」

「取り囲んだところまでは良かったんですけどねぇ。そこからの詰めが甘すぎますぅ。ウマ娘は耳がいいし、尻尾が敏感なので別に見てなくてもある程度は気配も距離も分かりますよ。もう少し頑張りましょうねぇ、ということでもう一本行きましょうか〜」

「「「えええええ…」」」

 

 文句が出るうちはまだ元気ってことだから大丈夫だよ。あと一本と言わず、五本くらい追加かな。

 

 今はトレ警たちの訓練中。トレ警における繁忙期は年度末なので、それ以外のときは暇な日も出てくる。そういう時は訓練に当てている。

 もちろん突発的な暴走もありうるので全員同時に訓練はしない。暴走が起きたときに全員訓練で疲れ切って動けませんなんてことになったら洒落にならないし。最終的に私が出ることになっても、ヒトのトレ警たちが時間を稼いでくれないと間に合わないからね。私は一人しかいないし、万能じゃない。

 

 あ、私はヒト向けの訓練程度で動けなくなるようなことはないので大丈夫です。

 

「でもやっぱりネギさんがいると訓練の密度が段違いだな」

「そうね、普通のウマ娘に協力してもらうわけにもいかないし」

「我々は秘匿警備隊だからな」

 

 とはいえ、ヒトのトレ警たちが言うように、私は毎回参加できるわけじゃない。なんかいつも仕事で忙しいから。なんでだろうね。

 かといって普通のウマ娘に協力してもらうなんて論外だ。なんのために秘匿しているか分からなくなってしまう。警備員の訓練と偽ればいいって? 普通の警備員はね、訓練なんてしないんですよ…勘のいいウマ娘にはそれだけでバレる可能性があるんですよ…。

 それに私自身にも鍛える時間が必要だ。残念ながらヒト向けのトレーニングではウォームアップ程度にしかならないので、個人的にやるしかないのだが。それをヒトのトレ警と一緒にやろうものなら30分で私以外が全員潰れてしまうからね。

 

「ん?」

 

 訓練を監督していると、スマホにSNSの通知音がした。確認してみると、そこには珍しい名前が。トレセン学園に転入してきたことは知っていたし、挨拶くらいはしていたが、こうして連絡が来るのは初めてだね。とりあえず了解の返事を出す。呼び出されたらその限りではないとも言っておこう。

 

「どうしました、隊長?」

「いえ、後輩から久しぶりに手合わせしないかと打診があったので、OKしただけですぅ」

「ネギさん相手に手合わせ…? 自殺志願者か??」

「正気とは思えない」

「みなさん〜? もしかして皆さんも私と手合わせをご希望ですか〜?」

「やべっ」

「藪蛇だった」

 

 うん、軽口叩けるってことはまだ余裕ってことだね。とりあえず乱取り10本追加だ。覚悟しろ。

 

 

 

「あれ、お待たせしちゃいましたかねぇ?」

「ううん、カレンも今来たとこです☆こうしてお話しするのは久しぶりだね、ネギ先生♪」

「最近は全然道場に行けていませんし、先生はよしてください〜」

 

 トレセン学園の第二武道場に向かうと、そこには既にカレンちゃんが道着姿で正座していた。うーん、いつ見てもカワイイ。一部の隙もない。

 

 カレンちゃんは私と同じ合気道の道場に通っていた後輩だ。年齢は一回りくらい違うんだけど。いや、一時期私が教えていたから私の弟子とも言えるかもしれない。

 

 幼少期から超絶美少女だったカレンちゃんは、その非凡な容姿と家が裕福というのが相まり、誘拐未遂が何度もあったらしい。というか、その事態に私も一度直面したんだよね。

 その頃まだ少し荒れ気味だった私は、子どもを襲う大人という非常に情けない絵面を見させられたせいで怒りボルテージが即座にMAXへ。襲っていた奴らの四肢の関節を全部外して警察に突き出した。

 

 後から来たご両親がそんな私の姿にいたく感動し、カレンちゃんにも護身術を覚えさせるということになったらしい。ただ関節を全部外すのは余りにも物騒だし護身にはそこまで要らないので、私の方からは合気道を勧めておいた。

 

「その節はお世話になりました」

「いえいえ〜、私もあの事件があったからこそ、この技術を仕事に活かせるのではないかと思い至ったので〜」

 

 カレンちゃんや彼女の両親があの件で護身術に興味を持ったように、私もアレがあったからこそ今の仕事に就いているみたいなものだ。なので、今の私があるのは彼女たちのお陰と言えるかもしれない。

 

「それで、今日はどうしたんですか? 急に手合わせがしたいなんて」

「うーん、ちょっと頭をスッキリさせたくて」

「何かモヤモヤすることでも?」

「それが…」

 

 ふむふむなるほど。カレンちゃんの話を総合すると、担当トレーナーが気になって夜も眠れないということだね。そんなことを考えるようになったなんて、あの幼かったカレンちゃんもすっかり思春期になったなぁ。なんだか感慨深い。そしてそのカレンちゃんを自分が取り押さえなければならない可能性が出てきたということで、また素直に喜べない…

 

「だから一回暴れてネギ先生にボコボコにされれば頭も冷えるかなって☆」

「まぁ、一理ありますねぇ」

 

 言い方は良くないが、ウマ娘は一回暴走を止めれば冷静になる娘も多いし、カレンちゃんの理屈も間違ってないと思う。それこそこのまま暴走されても困るしね。

 よし、そういうことならお姉さんが一肌脱ごう。遠慮なくこの胸に飛び込んできなさいな。

 

「そういうことならお相手しますよぉ。別に理由なく手合わせしたいというだけでも、私としては構いませんが〜」

「いや、理由なくネギ先生と手合わせしたいなんて、そんな自殺志願者じゃないんだから♪」

「…なるほどぉ」

「あ、ヤバ☆」

 

 うん。

 そんなに手加減は要らないかな? 同じウマ娘だしね★

 

 

 

 

「ありがとうございました〜」

「ぁぃ…ござ…ま…☆」

 

 手合わせの模様はカット。ただ、ご要望通りボコボコにしてやりました。あ、殴っては無いです。そもそも合気道に打撃技はほぼゼロだしね。ただ投げまくっただけだよ。まぁ、同じ有段者とはいえ私とカレンちゃんとでは結構段位が違うしね。

 

「確かに、気が乱れてましたねぇ。合気の極意は相手と一体になること。まぁ、最後の方は少しマシになってましたが」

「うぇ…いたた。全くネギ先生ったら、容赦ないんだから☆」

 

 畳に這いつくばって倒れていたカレンちゃんが起き上がって一言。こんな時でもカワイイキャラを崩さないのは流石としか言いようがない。ただ…張り詰めてばかりじゃ、辛いんじゃないかな? 

 

「カレンさん。道場にいる間くらいは、気を緩めても良いのではないですか? 私しかいませんし、リラックスも合気には必要ですよぉ」

「…そうだね」

 

 いつも思うんだけど、その語尾に☆を付けたり付けなかったりしてるのってどうやってるんだろう…その真髄はカワイイを極めたカレンちゃんにしか分からないのだろう、きっと。

 カワイイをその身の内に引っ込めたカレンちゃんは、心なしか表情が来る前よりも明るい。一時的なものではあるだろうが、心のモヤも晴れたようで良かった。

 

「カレンもね、多分焦ってたんだと思う。お兄ちゃんにはカレンの"カワイイ"が全然効いてないし、そのくせ向こうは優しくしてくるし。そのうち、カレン以外にもお兄ちゃんの良さに気づく人が出てきて、横から盗られちゃうんじゃないかなって」

「カレンさんにしては、弱気ですねぇ」

「だって、初めてなんだもん。こんな気持ちになったの」

 

 そう言って少し顔を赤らめて恥じらうカレンちゃん。うおっ、何という可愛さの暴力…! 普段の作られたカワイイではなく、ふとした時に見せる弱気な恥じらいの顔。多分それ見せたら如何に距離を取ってるトレーナーでもドキッとすると思うよ。

 

「…そうかな?」

「まぁそういう顔は意図して見せられるものでもないと思うので、上手くいくかは分かりませんけどねぇ」

「あとは? 何か有効な技はある?!」

「ぐいぐい来ますねぇ」

「恋する乙女は強いんだよ!」

 

 知ってる()。その恋する乙女の成れの果てをいつも制圧してますからね。でもアドバイスねぇ。テイオーちゃんのときもそうだったけど、私はお付き合いの経験とか無いしな…何か言えるとも思えない。

 

「私に言えることがあるとも思えませんが…」

「あんなにモテてるクセして何言ってるんだか」

「だから誤解ですよぉ?!」

「大体、ふとした時の可愛らしさってそれネギ先生が一番得意なやつでしょ! 言っとくけど、カレンが一番警戒してるのネギ先生だからね? 他のトレーナーさんを落としたみたいにお兄ちゃんが落とされるんじゃないかって冷や冷やしてるんだから…」

「そんなことしませんよぉ!!」

 

 トレーナーを落としたことなんて無いよ?! なんでウマ娘の子たちはみんなして誤解してるんだろう…同僚と飲みに行くくらい普通なのにな。まだそういう歳じゃないから分からないのかもしれない。

 だいたい、トレーナーという人種はそうそうウマ娘のことを性的な目で見ないなんてことは君たちだって分かってるだろうに。だから生徒たちも苦労してるんだろうし。私のことだって同じだよ。全く…

 

「じゃあ何でネギ先生はトレーナーさんたちの方から近づいてくるんですかぁ? カレンはちゃんとした理屈のある説明を所望しまーす」

「う、そ、それは…」

 

 私だって知らないよ! 

 

 その後はカレンちゃんと若干言い合いのような雑談をして別れた。一応、合気でトレーナーさんと心を一体にして本能を抑えてるとか適当なこと言ったら納得してたけど、あれでいいんだろうか…。出来るようになるまでは定期的に私と手合わせしに来るらしい。まぁそっちは大歓迎だけどね。私の鍛錬にもなるし。

 あ、お出かけの誘いもされたんだけど、そっちは丁重にお断りしました。いや私も本当は行きたいんだけど…この仕事ね、いつ呼び出されるか分からないの。そしていつでも現場に直行出来るように休日でも学園の半径1kmより外に出られないの。悲しいなぁ…

 つまり私はこの4年間トレセン学園の付近から出られていないということである。あの、そろそろ本当にウマ娘のトレ警の増員をですね…

 

 

 

「おっと?」

 

 さて仕事に戻るかと思っていたところ、スマホに電話の着信が来る。電話ってあんまり好きじゃないんだよね。以前お祈りメールならぬお祈り電話されまくったのがトラウマで…。就活していたのはもう結構前になるな。あの頃の私は今より根暗だったなぁ。理事長にヘッドハンティングされてなかったら今頃何してたんだろうか。就業環境はちょっとブラックだけど、なんだかんだ理事長には結構感謝している。

 それで、電話の相手はその理事長だ。噂をすればというやつか。いや口には出してないけど。直接電話ということは急ぎの用件かな? いつもはたづなさん経由なことが多いし。

 

「お疲れ様です、ネギですぅ」

『ネギくん、今大丈夫か?』

「はい、問題ないですぅ」

『そうか。…朗報! 君にいい知らせがある!』

 

 いい知らせ? 何だろう。給料上がったとかだろうか。いやでもお金自体は結構貰ってるんだよね。ただ使い所が無いというオチ。ネット通販じゃ味気ないよ。服とかはサイズを現地で合わせてみないと分からないこともあるし。あと、その、下着とかサイズ変わるし…

 

「何ですか?」

『聞いて驚くといい! 何と、トレ警の増員が決まったぞ!』

 

 

 …? ………?!?! 

 

 

「え?! 本当ですかぁ?!」

『本当だ!!』

 

 まーじでぇ?! うそぉ!? 3年間ずっと言い続けて全く返事がなかった件が遂に?! エイプリルフールはもう終わってるよね?! 

 やばい、嬉しすぎて涙出そう。私とヒトのトレ警の皆、計25人でどうにか回してきた苦労がやっと報われるのか…この学園の広さに対して人員が少なすぎるんだよ…

 

「そ、それで、何人くらい増員されるんでしょうかぁ…?」

『うむ、今のところ20人を予定している!』

「そ、そんなに…!」

 

 これで一人とか言われたら理事長のことをぶん殴ろうかと思ってたけど、そんなことはなかった。むしろ期待を大幅に上回ってきた。20人って、今いるトレ警の数とそんなに変わらないじゃん! 倍近くなるってこと?! 凄い! 流石理事長! 信じてました!! 

 

『それで、だな。ここからが本題なのだが』

「ええ?! 今の前フリだったんですか?!」

 

 待て待て、ここまでが前座? い、一体この後に何が控えてるんだ…トレセン学園のウマ娘全員が暴走しそうとかじゃないよね? それは流石に増員されても無理だよ。震えてきた。

 

『実は、増員するうちの一人はウマ娘なのだ』

「…え゛。そ、それは、嬉しいですが、大丈夫なんですか?」

 

 おっとぉ、凄まじい爆弾が投下されたぞぅ? 

 

 この前たづなさんから聞いたんだけど、トレ警って基本人間で、ウマ娘のトレ警って私しかいないらしいんだ。というかそもそもトレ警という組織自体トレセン学園(ここ)にしかないらしい。一番被害が多いところだからだそうな。

 で、ウマ娘のトレ警を採用しない理由だけど、何でもウマ娘の全盛期は十代後半らしくて、働いている年齢のウマ娘では現役のウマ娘を抑えられないのだとか。他にも、私以外のウマ娘はトレーナーを近くで警護してると暴走の可能性がある。なるほど、そりゃ任せられないよね、と私しかウマ娘のトレ警がいないことに納得してしまったくらいだった。そして今後も私の負担が増え続けることが確定して絶望していた。

 

 え、私はどうなんだって? まぁ、私は色々と特殊だから…

 

 しかし、ここに来てウマ娘のトレ警が増えるとな? 私の負担が減るかもしれないという期待と同時に、同僚を取り押さえるという本末転倒なことが起こる可能性が浮上して私の頭はもう大混乱です。

 

『把握! 君の懸念は尤もだが、それは大丈夫だ! この件に関しては、URAと学園、そしてシンボリ家も調査に関わっている。安心してくれたまえ!』

「な、なるほど」

『それで今日、既に件のウマ娘を連れてきている。これから会ってくれないか? 理事長室で待っている』

「分かりました、直ぐに向かいますねぇ」

 

 それなら大丈夫…かな? 私が考えつくようなことくらいは流石に調査済みということか。

 まぁトレ警の隊長として挨拶しろってことだよね。私も大丈夫そうか確認しておきたいし、会うのはやぶさかではない。

 

『ああ、他でもない君に会ってもらいたい理由があってな』

「?」

『実は────』

 

 

 

 ………は? 

 

 

 

「歓迎。来たか、ネギくん」

「ネギちゃん、入室は許可を出してからにしてくださいね」

「…ああ、すみません」

 

 ノックもそこそこに理事長室の扉を開ける。たづなさんから注意を受けてしまったが、私はそれどころではなかった。部屋の中に入ると、探すまでもなく目的の人物が見つかった。

 

 理事長室の中には、私以外に三人いた。理事長、たづなさん、そしてもう一人。私がこの学園で見たことがないウマ娘、つまりはこの娘が新しく来たトレ警ということだろう。

 

「理事長、その娘が…」

「肯定! 揃ったことだし、自己紹介してもらおうか!」

「はい!!」

 

 理事長が促すと、そのウマ娘が元気な返事と共に一歩前に出る。

 

 改めて見ると、かなり小柄なウマ娘だ。おそらく、私とそこまで変わらない。あと凄い童顔。学生服を着せたら生徒にしか見えないだろう。それは私も…いや、私は大人のウマ娘だから。

 そして筋肉の付き方からして、これまでも日常的に体を動かす仕事をしてきたことが伺える。ただ、仕事で鍛えたにしては体幹がしっかりしすぎている。何らかの武術をやってた、もしくは現在進行形でやってるな。

 

 

 ウマ娘がその明るい桃色…いや桜色(・・)の髪を揺らしてこちらに一礼する。上がった顔には笑みが浮かび、髪と同じ桜色の瞳には可憐な花が咲いているよう。頭に巻かれた赤い鉢巻がとてもよく似合っていた。

 

 

「初めまして、ハルウララです! ウララって呼んでね!」

「…はい、よろしくお願いします、ウララさん。私は、アネモネギフトと言いますぅ。ネギとお呼びください〜」

 

 ウララちゃんの自己紹介にこちらも返す。しかし、私の頭の中は、先ほど理事長が電話口で言ったことでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

『実は──そのウマ娘は、君と同じ。

 

 

 本格化が遅れ、レースに出ることが出来なかったウマ娘なんだ』

 

 

 

 

 

 心が再び凍りつくような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 




トゥインクルシリーズ規定(一部抜粋・続)
・トゥインクルシリーズへの参加は、本格化が始まったウマ娘のみとする。
・地方から中央へ転入した場合のみ、高等部からの参加を認める。


感想で展開当てられて冷や冷やしてました笑

多分次回最終回です。
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