眩しい光が消えたと同時に視界に入ったのは壁画だった。
…いやデカすぎんだろ。縦横10mはあるぞこの壁画。
描かれてた絵は後光を背負った長い金髪を靡かせながら微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていて、草原や湖や山々が描かれていて、それが背景になっていて、それらを包み込むかのようにその人物は両手を広げている絵だ。なぜだろう。腹立つ。結構美化されてるからかな。
にしても悪趣味な絵だな、まるで私がつくりましたみたいな顔しやがって。経験上、こういう絵置くところは基本よくない宗教なんだよな。警戒しておこう。
とりあえず周りの様子を確認してみる。とりあえず転移された生徒たちは混乱しているようだ。気持ちはわかる。俺も昔の出来事がなかったら狼狽えてたもん。
にしても広い空間だな。掃除が大変そうだ。でもこれくらいの建物建てれるくらいなら、清掃員が二、三人いてもおかしくはないか。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
…なんだこのオッサン。教皇って言ってたからやっば宗教関連か。信用できねえぇぇぇぇ。
あと胡散臭いし。
だが今の状況からしてもここで反抗するのは悪手だな。とりあえず今は従っておこう。
そして、ここじゃ落ち着かないだろうとジジイが別の部屋へ案内させた。そこはいくつもの長テーブルと椅子が置かれた空間だった。こういう場所って普段どう使ってんだろ。会議でもするのかな。いや知らんけど。全員が着席すると、グッドタイミングでカートを押しながらメイドたちが入ってくる。まあ交渉とかは基本酒か女から始めるもんな。そして気ぃ抜いて浮かれてる状況で自分に有利な契約をする。
いやぁ、大人の世界って怖いね(ガクブル)。
まあ俺は引っかからないんだが。だってすでに女子の目が怖いし。
でもさすがに断ると怪しまれるな、飲み物は取っておくか。そう思い、メイドの給仕してくれた飲み物を取る。お、以外とうめぇなコレ。
そうこうしてるうちにオッサンが話し始めた。要約するとこうだ。
ここはトータスって世界だよ。トータスには3つの種族がいるんだ。北一帯にいて数の多い人間族。南一帯にいて数少ないけど個々の力が強い魔人族。東の樹海の森でひっそりと暮らし、他二つの種族は持ってる魔力を持たない亜人族。人間族と魔人族でずっと争っているんだけど、力は拮抗してて大きい戦争は起きてないけど、魔人族側が魔物の使役をしてさあ大変。魔物は普通の野生動物が魔力を取り入れて変異した魔法を使える害獣のことだよ。んで、普通魔物は一、二匹程度のにその常識が覆っちゃったんだ。人間族は数というアドバンテージを失って滅びの危機が迫ってる…!
それで俺らが呼ばれたってわけ。いや理由ひどすぎだろ。そっちで解決しろよ。関係ない人巻き込むなって。
イシュタル「あなた方を召喚したのは『エヒト様』です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という『救い』を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、『エヒト様』の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
いや、嫌だが?なんでしないといけないことになってんだよ。そしてジジイ、なんだその気持ち悪い恍惚の顔は。誰得だよ、ジジイの恍惚の顔なんて。あとそのエヒトって奴もぜってぇ碌でもない奴やろ。こんな奴を教皇に選ぶ時点で。絶対コイツ扱いやすいからって選んだろ。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
あ、そういや忘れてたけど、畑山先生もこっちに飛ばされてたんすね。畑山先生はうちの学校の社会の先生で、今年で25歳という教師の中ではまだまだ新米と言える人で、一生懸命がんばっているが大抵の場合は空回ってしまう残念な教師である。しかしそのせいか生徒からの人気は高い。ちな"愛ちゃん"呼びされると怒る。
社会の教師だから戦争に思うところがあるんだろうな。今回もまた空回りしそうだけど、そんなことを思いながら畑山先生を観てると、ジジイがとんでもない言葉を口にした。
イシュタル「お気持ちは察します。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
…コイツ、今何つった?返せない?勝手に呼び出しといて?やっぱコイツら嫌いだわ。いやまあ予想してたかと言われるとはいって答えるけど。
イシュタル「先程も言ったようにあなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間には何も出来ません。あなた方が帰還出来るかどうかもエヒト様のご意志次第ということですな」
畑山「そ、そんな…」
…エクスプロージョンメモリで教会ごと爆破するか、それともヴァイラスメモリで信者全員病気で苦しませるか。どちらにしようかな。
「うそだろ?帰れないってなんだよ!」
「いやよ!何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
うわ、生徒たちがパニクって阿鼻叫喚だ。あ、でもハジメは落ち着いてるようで安心したわ。
そんななかクソジジイは無言でその様子を眺めている。いやどうにかしろよ。見てないで鎮めろ。
そんななか一人台パンしながら席を立ち、注目を集める人がいた。
そう、正義感と思い込みが強い天之河である。
天之河「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」
イシュタル「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
コイツ、上手く言い逃れしたな帰れるかどうかを。上手いわ。無下にしないってだけで帰れるとは断言してないもん。
イシュタル「ええ、そうです。ざっとこの世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
天之河「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように、俺は世界も皆も救って見せる!!」
天之河ってカリスマはあるのに何で戦争ってこと理解してねぇのかな?
ワンチャン死ぬ可能性もあるのに。
龍太郎「しょうがないな、帰るためだ。……俺も協力するぜ。」
天之河「龍太郎……」
雫「今のところそれしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
天之河「雫……」
香織「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
天之河「香織……」
いつメンが賛同する。そんな様子を愛ちゃんは「ダメですよ〜」と言いながら涙目で抗議してた。どんまい。
さて、こちらも死にたくはないんで少しばかし抗議しますか。
芽森「はい、質問です」
一斉にこちらに視線が集まる。まあこの流れで質問したらね。そうなるよね。構わないけど。
イシュタル「何ですかな?」
芽森「この戦争の参加は必ずしも参加しないといけませんか?」
みんなの頭の上に?が浮かぶ。
芽森「戦争とは、殺し合いです。たとえ強大な力を手に入れても、もしかしたらクラスメイトが死んでしまうかもしれない。俺はそんな光景見たくない。そして戦いというのは、死ねば死ぬほど士気が失われていきます。だったら、最初から参加したくない人はしない方がいいと思います。なので、クラスメイトたちに戦争に参加するか選ばせる権利をください。お願いします」
そう言い、イシュタルに頭を下げる。たとえ嫌いな相手でも頭下げるだけで命が救えるなら喜んで下げてやる。俺はそう考えた。
イシュタル「……そこまで言うのであれば、そうしますかな」
イシュタルはこの提案をのんでくれた。危ねぇ、何とか最悪の事態は防げた。これでダメと言われたらほぼ死ぬことが確定する。俺以外が。実際は単純に逃げ道を用意するために提案しただけで他のクラスメイトのことまで考えてないけどな(笑)。俺はそんな心が綺麗な人間じゃないし、ぶっちゃけ自分さえ助かればそれでいいと思う。まあ親友であるハジメは別だが。俺は最後まで生きるのを諦めない。平凡に死ぬために。
話し合いの結果、半数以上はこの戦争に参加してもらう、次に戦争が起こるまでは受け入れ先で生活し、訓練を付けてもらう。この二つだ。
そして今召喚された神山という場所から受け入れ先であるハイリヒ王国まで移動している。途中なんか魔法でロープウェイを動かしていたが、そこまで気にするべき内容ではないだろう。みんなめっちゃはしゃいでたけど。
雲海を抜けてハイリヒ王国に辿り着いたときには時刻は夜になり、晩餐会が開かれた。なんかランデルというこの国の第一王子が香織に恋したようだ。よし、もっとやれ!ついでに玉砕してくれみてるときめっちゃおもろいから。ちな料理の味はそれなりだった。うな丼食いてぇ。
晩餐会が終わると解散し、各自一室ずつ与えられた部屋に行き、ベッドに座る。ああ、今日は疲れた。だが確認するべきことがある。そう思い、頭の中でとある一つのメモリを思い出す。
QUEEN
起動音が部屋に鳴り響き、それといっしょにクイーンメモリの能力を行使する。すると目の前にバリアが出てきた。
芽森「お、この世界でもガイアメモリは使えそうだな」
なら戦闘面では問題なさそうだ。んじゃ寝るか。
そして俺は深い眠りについた。
ガイアメモリの補足
クイーンメモリ
女王の記憶
使用することでバリアを出せるようになる。結構固く、そう簡単には破れない。空中に設置して足場にすることもできる。