更新はまちまちですが、これからもどうか温かい目でこの駄文を見守っててください。あと今回芽森→南雲→芽森の順番で進んで行きます。
わかっていた。いや、わかっていたつもりだった。
どれだけ強大な力を持ってしても、
全てを守れるわけじゃない。
全てを救えるわけじゃない。
助けられる人には限りがある。
そして、助けられない人の中には俺の親友もいるかもしれない。
俺は、親友を救えないかもしれない。
俺は自己中心的な人で、そんなにいい奴じゃない。
助けられる力を手にしておいて、その場で助けようと思わずに逃げてしまったクズだ。
あの時呟いた言葉を思い出す。
芽森「俺はそんなすごいヤツじゃあない」
香織「あ、芽森!南雲君は?」
トラウムソルジャーと戦いながら俺に話しかける。
そのトラウムソルジャーを俺が倒し、香織に事実を口にする。
芽森「……ハジメは、奈落の底に落ちた。俺が、助けられなかったせいで」
カランッ
香織の持っていた武器が手から滑り落ちる。
香織「……う、嘘だよ……ね……」
香織の悲しい表情を見ながら、それでも俺は残酷に告げた。
芽森「……ほんとだ。俺のせいで落ちた。」
少しの沈黙があたりを支配し、香織はハジメの落ちた場所に向かって歩き出す。
香織「助けに行かないと。南雲君を」
そんな香織の前に俺は立ち塞がる。
香織「芽森、そこをどいて」
芽森「だが断る」
香織「私は南雲君を助けないと行けないの。そう約束したから。だからどいて」
芽森「……俺は、幼馴染まで失いたくない。たとえお前がそれを拒んでも」
香織はそれでも諦めない。
香織「私も、同じだよ。ここで私の大切な人を失うわけにはいかない。芽森がハジメのこと諦めても、私は、私だけは、諦めるわけにはいかない。」
……そうだよな。お前みたいなヤツを、決意が固いって言うんだっけな。だが、それは得策じゃない。
芽森「俺だって助けに行きたい。でも今じゃあない。しっかり準備してからじゃないと、二の舞になるだけだ。」
香織「そ、それはそうだけど……!」
芽森「話はおしまいだ」
詠唱も唱えず、技名も言わずに魔法を発動する。
周りに霧のようなもやが発生し、それが二人を包む。
そのもやが晴れた時には香織は倒れていた。
俺は倒れた香織を抱えながら一人考える。
香織はすごいよ、俺なんかと違って。いつも、最悪の事態を考えてしまうんだ。それを香織はたった少しの可能性を信じて、助けようとしている。こんな力は、俺みたいなヤツじゃなくて香織のような心が強い人に渡すべきかもしれない。でも、手放せないんだよ。一度手に入れてしまったら。
俺は進んだ。みんなが戦っている戦場に向かって。一人事を
芽森「頼むぞ。もう一人の俺。」
……どうしてこうなったのだろうか。
奈落に落ち、二尾の狼に襲われて、ウサギに殺させかけて、爪熊によって片腕を失い、死に物狂いで錬成して穴を作り続け逃げながら走り、その先にあった石から流れる水により生きながらえている。その間にも幻肢痛や空腹が襲い、そのたびに水を飲み、束の間の休息が訪れ、また痛みが襲う。南雲ハジメはそんな地獄のような経験を、10日間も経験していた。
僕は何か悪いことをしたのだろうか?
いいや違う
芽森が助けてくれると言ったのは嘘だったのか?
それも違う
ではなぜこのような状況にある?
それは……
10日間考え、自問自答しながらこの現状の理由について答えを導き出し、小さく掠れた声で言った。
南雲「僕が弱かったからだ」
ならどうする?
強くなるしかない。強くなって生き残らなければならない。明日を、親友を、命を掴まなければならない。
ハジメ「そのためなら、俺は、俺は悪魔にだってなってやる」
今、過去の面影が完全に消え失せたハジメの体の中には、確かにあの時芽森から渡されたメモリがあった。
迷宮のとある場所に二尾狼の群れがいた。
二尾狼は四~六頭くらいの群れで移動する習性がある。単体ではこの階層の魔物の中で最弱であるため群れの連携でそれを補っているのだ。この群れも例に漏れず四頭の群れを形成していた。
ならば一体ずつ殺していけばいい。
まずは錬成を使って壁をつくり出し、後ろにいる二尾狼を分断し、次にこちらに向かって来たタイミングでまた錬成で壁を作り出す。最後に錬成を使い二尾狼のいる壁と壁のあいだの空間を埋める。10分くらいしたら窒息死した二尾狼の出来上がりだ。
二尾狼の死体を持ち帰ります錬成で作り出したナイフを使って皮を剥いで肉を取り出していく。
ハジメ「芽森からサバイバル術少し習っててよかった。会ったら感謝しないとな」
二尾狼の肉を火を起こして焼いていく。
普通は魔物の肉は食べたら死ぬ。だが石から流れる水を飲めば食えるかもしれない。可能性があるならやらない手はない。そう思い、ハジメは魔物の肉を食った。
ハジメ「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」
悪態を吐きながら魔物の肉を食べていく。10日間と続いた飢餓がどんどんなくなっていく。こんな不味い肉でも食べ終わる頃には空腹感はとうに消えていた。しかし食べ切った後に体に異変が生じる。
ハジメ「あ? ――ッ!? アガァ!!!」
全身に激しい痛みが走り、ハジメはその場でのたうち回る。そんな中なんとか石から流れる水を飲む。痛みはおさまるが、またすぐに激しい痛みが襲う。水の効果で気絶も出来ず、ハジメはただただ痛みに堪えるしかなかった。
すると、ハジメの体に変化が現れ始めた。
髪の色は抜け落ち、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。
それはまるで転生。弱い人間の体を捨て、新たな肉体を手に入れたようだった。
やがて、脈動が収まりハジメはぐったりと倒れ込んだ。その頭髪は真っ白に染まっており、服の下には今は見えないが赤黒い線が数本ほど走っている。まるで蹴りウサギや二尾狼、そして爪熊のようである。
ハジメ「な、なんとか耐えれたか……」
飢餓がなくなり、壮絶な痛みに耐えたせいで幻肢痛の痛みも無くなった。久しぶりに苦痛のない状態に戻り、それどころか体が軽くなったような感覚がする。
ハジメ「ど、どうなってんだ……?」
ハジメはステータスプレートを確認する。
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8
天職:錬成師
筋力:100
体力:300
耐性:100
敏捷:200
魔力:300
魔耐:300
技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解
ハジメ「マジかよおい」
魔物の肉を食っただけでレベルが上がり、技能が3つも追加された。更にステータスも上がっており、最初の時のレベルアップの上がり幅が嘘みたいに急増している。
ハジメ「そういやこの纏雷ってあの狼が使っていたやつだよな?もしかしたら使えるのか?」
そう思い、電気を放つイメージで使ってみる。すると手から紅い電気が出て来た。
ハジメ「なるほどな。要はイメージすることが大事なわけだ」
そう言って先ほど習得した纏雷を使用し、残りの肉を焼いていく。
胃酸強化のおかげか2度目の食事でも痛みに苦しむことなく食うことができた。
ハジメ「これで一旦食料はどうにかなりそうだな。後はあの爪熊を倒すだけだ」
こうして、奈落の底でバケモノが生まれたのだった。
芽森「もう2週間くらいか……」
俺は今、ハジメの落ちた奈落の底にいる。地上にはバクテリアメモリの効果を使い、分身を置いて来た。香織がハジメを助けるために無茶しそうだからな。というか絶対する。断言できる。
基本的に人間が食料なしで生きられるのが2日。水ありで数週間前後。しかしこんな洞窟の中、数週間分の水を用意するのはなかなかできない。。何よりキーメモリという、対象の位置を大まかに表すメモリも反応しない。つまるところ、今現在ハジメが生きている可能性は0に近い。
しかし芽森は諦めなかった。なぜならハジメに渡したメモリはキーメモリに反応したからだ。キーメモリにハジメが反応しなかった理由は、考えられるもので2つある。
一つは単純にメモリの故障。
もう一つはハジメが今の芽森の想像している姿ではない場合。
例えば、整形。または探している人が片脚を失ってしまった場合。この2つの場合キーメモリは反応しない。
前者はハジメに渡したメモリが反応しているのでありえない。
しかし後者の場合はまだ可能性がある。ハジメがここの魔物に襲われて、再生不可能な傷を負った場合、キーメモリが発動しないことに説明がつく。
もとよりここの魔物は上の層の魔物に比べて結構強い。対するハジメはステータスがかなり低い。逃げるにしろ戦うにしろ、無傷では済まないだろう。可能性としてはあり得ない話ではない。
芽森「待ってろよハジメ。もうすぐ迎えに来るからな」
洞窟を走っているとひらけた空間に出た。しかし、そこはいつもの空間とは違っていた。
芽森「戦闘の痕跡があるな」
そこには血溜まりがいくつもできており、壁は抉られた後があり、確かに戦闘があったとわかる空間となっていた。だが注目すべきはそこではなかった。
芽森「……壁に弾痕がある」
そう、この世界には存在しない武器である銃の弾痕が壁に確かに付いていた。そしてこの弾痕は確かな確信へと繋がった。
芽森「ハジメは、まだ生きている可能性が高い……!」
血溜まりから推測するにまだそんなに時間は経っていない。着実にハジメの元に近づいている。つうかアイツどうやって拳銃なんて作ったの?
それから数分。変に塞がっている場所を見つけた。ただ本当に微細な違いで、隣の壁と数mm出っ張っているだけで普通なら通り過ぎてしまうレベルだ。俺でなけりゃ見逃しちゃうね。しかもキーメモリの反応もある。これは確定したな。ハジメはこの中にいる。
さて、中にハジメがいるから下手にエクスプロージョンメモリで爆破させると後で怒られそうだし、なんか掘削できるメモリねぇかな。あ、ジーンメモリで壁を水に変えるか。
GENE
能力を行使し、壁に触れる。すると、さっきまで壁だったのが、見事に液体となり、そのまま地面に吸収されていった。
芽森「ハジ…」
パァンッ
銃声が響く。
危ねぇ…!なんとか間一髪首そらして避けれた。脅威的な反射神経。ああ、ハジメ、成長したな。俺は嬉しいよ。お父さんってこんな気分なのかな。
ハジメ「あ、なんだ芽森か。新手の魔物かと思って心配したぜ」
芽森「おう。それよりお前イメチェンした?結構似合ってるぞ」
ああ懐かしい。軽口叩き合ってるこの会話、俺はこのために2週間探していたんだと考えると、なんか感慨深いものがあるな。
芽森「……ごめんな。あの時お前を守れなくて」
ハジメ「まあ俺はそれのおかげで強くなれた。芽森には感謝している」
芽森「ハジメ……」
その後、この2週間に何があったのかを聞き、その壮絶な経験を俺に共有してもらう。
芽森「へぇ、魔物の肉って食ったら強くなれるんだ」
ハジメ「地獄のような苦痛といっしょにな」
芽森「ちなみに今ある?魔物肉」
ハジメ「一応あるがお前もしかして食う気か?」
芽森「いやちょっとね、2週間も飲まず食わずで走り回ったもんだから結構腹減ってて」
ハジメ「……お前ほんとに人間か?」
失敬な。ちゃんと人間だわ。俺でもほぼ把握してるだけで全部把握してるわけじゃないくらい特殊能力てんこ盛りなだけで。
ハジメ「まあお前なら大丈夫か」
そう言ってハジメに魔物の肉(生)を渡される。まさかの素材丸ごと⁉︎
芽森「それじゃまあいただきますかね」
俺は一旦魔法で加熱処理してから食う。結構美味いな。そうしてものの3分で食った。
芽森「ご馳走さん。結構美味かったわ」
ハジメ「マジで言ってる?俺が食った時めちゃくちゃ不味かったぞ?」
マジ?これで不味いの?ハジメもしかして肉嫌い?いや地球でそんな様子なかったし、普通に好みの問題か。
芽森「よし、腹も膨れたし、行動開始といきますか」
ハジメ「おう、後ろはまかせろ」
目指すはオルクス大迷宮の脱出。そしてこの異世界からの脱出。その一歩として、俺たちは拠点から出た。
ガイアメモリの補足
キーメモリ
鍵の記憶
目的のものを頭で思い浮かべると、目的のもののいる方向がわかる。小説内での説明通り、思い浮かべているものと現在の姿が異なると反応しない。使いやすそうで使いにくいメモリ。
ジーンメモリ
遺伝子の記憶
触れている物体を遺伝子ごと書き換えることができる。生物でも反応するので触れた相手を水や石に変えることも可能。結構万能な能力だが、その細胞の構造を知らないと使えないので芽森以外に使える者はいない。