キヴォトスの騎士   作:じゅうじキー

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三話

「えっと……連邦生徒会長が……失踪……?」

 

クロノススクール報道部の片隅で、白井ユウは思わず手に持っていたペンを落とした。

 

「そ。最近何かと治安が悪いでしょ?ブラックマーケットで兵器の流通も増えてるみたいだし、各学校も説明を求めて連邦生徒会に代表を送ったみたいだよ」

「私も生徒会長のことを問い合わせてみてるんだけど、『お答えすることはできません』だってさ~……。こりゃ失踪したって噂も間違いじゃないかもね」 

 

同級生たちの会話から、ユウの頭の中で、前世の記憶が警報のように鳴り響く。

連邦生徒会長の失踪。それは、ブルアカのメインストーリーが始まる、まさにその合図だった。つまり、このキヴォトスに「先生」が着任するということ。

 

(つ、ついにこの日が来たぁ……!)

(て、てことは……もうすぐ先生がシャーレに来るんだ……! やばい! 準備しなきゃ!)

 

ユウのいう「準備」とは、決してシャーレへの取材準備などではない。先生の登場を間近で拝むための、最高の観測体制を整えることだ。

 

「ちょ、ちょっと外回りにいってきます!」

 

(先生、先生……どんな先生が来るんだろう……? やっぱり、あの落書き先生なのかな……? それとも、便利屋先生……?)

(めちゃくちゃ見てみたい……!でも、あんまり目立たないようにしないと。)

 

いてもたってもいられず、ガタッと椅子から立ち上がった。報道部の仕事はさておき、今は何よりも、未来の推しである先生の初陣を見届けることが最優先事項だった。

ユウはそっと報道部を抜け出し、シャーレへと続く道へ足を向けた。

 

「えっ、白井さん今日取材の予定とかあったっけ?」

「あ~、どうせまた腹痛でトイレに行っただけでしょ。しばらくしたらその辺で伸びてるだろうからほっときな」

「あの子一度病院で診てもらったほうがいいと思うのよね……。いつもいつも仮病じゃなくてほんとに具合悪そうだし」

 

ユウの耳には、そんな同級生たちの心配(と諦め)の声は届いていなかった。

 彼女の頭の中は、これから現れる「先生」のことでいっぱいで、足取りも心なしか軽く感じる。

 もちろん、実際には体調不良のせいでふらつきながら歩いているのだが、この高揚感はそれを打ち消すほどだった。

 

――――――――――――――――――――

 

D.U.外郭地区にて、数名の生徒たちがスケバン達と戦闘を行っていた。

 早瀬ユウカ、羽川ハスミ、守月スズミ、そして火宮チナツ。原作で先生のチュートリアルを彩る面々だ。

 

ユウは物陰に隠れ、息をひそめる。

(きたきたきたきた……! 本物のハスミがいる! でっか……!)

 

そして、戦闘が終わったと同時にヘリが着陸し、扉がゆっくりと開いた。

その向こうから現れたのは……。

 

「あ、あれは……?」

 

ユウは思わず目を擦った。そこに立っていたのは、見覚えのある、少し童顔のおっとりとした雰囲気の人物だった。

 

(あ、アニメ先生だ!)

 

ユウは心の中で絶叫した。ゲームの先生も好きだが、アニメ版の先生は、より生徒との距離が近く、感情表現も豊かな印象がある。

まさか、自分が転生したこの世界が、アニメ先生軸だったとは! ユウの顔は、喜びで緩みっぱなしだった。

先生は、ユウカたちに戦闘後の会話をしているようだ。和やかな雰囲気が漂う。

 

(ああ、尊い……! この瞬間を、この目で見るために私は転生したんだ……! このまま、何も起こらず平和に終わってくれれば……)

 

その時だった。

 

「そこを動くな!」

 

突如として、先生達の背後から轟音が響いた。

 振り返ると、そこには武装したカイザーPMCの部隊がずらりと並び、先生たちに銃口を向けている。

 

「連邦生徒会からの差し金だな?ここは我々が占拠させてもらうぞ」

 

(え? な、なんで……!? これ、私が知ってる原作のチュートリアル戦闘とは違う! なんか、敵の数多くない!? こんな奴ら、出てこなかったはずでは!?)

 

PMCの部隊は、先生たちに一斉射撃を始めた。ユウカが慌てて防御姿勢を取るが、あまりの弾幕の量に、生徒たちは後退を余儀なくされる。

 

「くっ……! 先生、ここは危険です!」

「ユウカさん! カバーを!」

「スズミさん、無理です、数が多すぎます!」

 

PMCの猛攻は止まらない。先生は生徒たちを守ろうと、盾になるように腕を広げる。

 

(だ、大丈夫かな……助けに入る?でも私があの人たちの間に挟まるわけには…… )

 

ユウは焦りながらも、メインストーリーへの介入を躊躇した。しかし、目の前で推しが危機に瀕している状況に、体が勝手に動こうとしてしまう。

その時、ユウのポケットに忍ばせている「ヴァリアントカリバー」が、熱を帯び始めた。

 

[CAUTION: HIGH-LEVEL THREAT APPROACHING.(警告:高レベルの脅威が接近。)

 

ユウの意思とは関係なく、デバイスから機械音声が響き渡る。

(ちょまちょまっ!まだ心の準備が!)

 

[SYSTEM INITIALIZING. SPIRITUAL BOOST, ACTIVATE.(システム起動中。神秘増幅、開始。)

 

光がユウを包み込む。彼女の意に反して、純白のアーマーが彼女の体を覆い、力が体に行き渡っていく。

 

(やめてやめてあああああああああああ!)

 

[VALIANT. READY FOR COMBAT.(ヴァリアント。戦闘準備完了。)

[ALIGHT UNSEEN, NOW SHINES SO BRIGHT.(見えざる光が今、かくも輝く。)

 

閃光が弾け、その場に純白の騎士が颯爽と現れた。

 

「な、なんだあれは!?」

 

PMCの部隊が驚愕の声を上げる。

 

ユウカが目を見開く。

「あれは……! キヴォトスナイト!」

 

ハスミが驚きに顔を歪める。

「噂に聞く、あの……白銀の騎士……!」

 

キヴォトスナイトは、PMC部隊と先生たちの間に割って入った。その出現に、PMCの隊員たちは一瞬ひるんだが、すぐに銃を構え直す。

 

「キヴォトスナイトだ!火力を集中させろ!」

「たかが一人で何ができる!」

 

PMCの指揮官が叫び、一斉射撃を命じた。

 

(ちょ、ちょっと待って! こんな大人数相手に、私一人でどうしろと!? しかもPMCとか、原作にはいなかったですよね!?)

 

キヴォトスナイトは、素早く剣を抜き放ち、迫りくる銃弾を払う。流れるような剣さばきで、銃弾は次々と虚空へと弾かれ、PMCの隊員たちを驚愕させる。

 

(うわあああ! 避けても当たっちゃいそう! 痛いのは嫌だああああ!)

 

剣の峰でPMC隊員たちの銃器を破壊し、次々と無力化していく。その動きはまさに、完璧なヒーローのそれだった。

 

(やめて! 早く終わらせて! 早くこの場を離れたい!)

 

PMCの隊員たちは、次々と地面に倒れ伏していく。その様は、まるでキヴォトスナイトが踊るように彼らを掃討しているように見えた。

 

「チッ、化け物か?!」

「怯むな!ゴリアテ、前へ出ろ!」

 

指揮官が号令を掛けると、PMC達の奥から、地響きと共に巨大な影が迫ってきた。

それは、高さ10メートルはあろうかという、無骨な人型ロボットだった。全身を重装甲に覆われ、両腕には巨大なキャノン砲が搭載されている。

 

「なっ、あれは……ゴリアテ!カイザーPMCが所有している大型兵器です!」

「はああっ?!なんだってそんな兵器まで持ち出してきてるのよあいつら!」

 

生徒たちがその威容に息を呑む。ユウカが冷や汗を流し、ハスミが思わず銃を構え直した。

 

(なにこれなにこれ!? こんなロボット、原作のチュートリアルじゃ出てこなかったんですけど!? やばい! データにない敵とか、無理なんですけど!?)

 

巨大ロボット「ゴリアテ」と対峙する。ゴリアテは、その巨体に見合わない素早さで腕のキャノン砲をナイトに向け、咆哮を上げた。

 

「目標、確認! 排除する!」

 

ドシュゥン!

 

轟音と共に、キャノン砲から極太のエネルギー弾が放たれる。

 

(ひぃいいいいい! でっかい! 当たったら死ぬ! 絶対死ぬやつだあああああ!)

 

剣を使い、間一髪でそのエネルギー弾の軌道を逸らす。

後ろにいる先生達に当たらないよう、逸らした先の地面が爆発し、黒煙が立ち上った。

 

生徒たちは、その圧倒的な火力に絶望しかけていた。

 

「くっ……! あの攻撃は、私たちでは止められません!」

「先生……!」

 

先生もまた、ゴリアテの出現に表情を硬くしていた。しかし、その視線は、決して生徒たちから離れることはなかった。

 

(やばいやばいやばい! このままだと先生たちが危ない! 私が知ってる原作が……歪む! 仕方ない……! これで終わりにするしかない!)

 

キヴォトスナイトは、剣を逆手に持ち、地平線に輝く光のように構えた。ヴァリアントカリバーの刀身が、淡い光を吸い込むように輝きを増し、周囲の空気が振動するような錯覚を覚える。

 

[CHARGE COMPLETE. BLADE RESONANCE MAX.(チャージ完了。ブレード共鳴最大。)

[VALIANT SLASH. EXECUTING.(ヴァリアント・スラッシュ。実行。)

 

その光が最高潮に達した時、キヴォトスナイトは一瞬で姿を消すほどの速度でゴリアテに肉薄した。

 

「な、消えた!?」

 

ゴリアテの巨大な体が、一瞬にして光の軌跡に包まれる。目にも止まらぬ神速の一閃が、ゴリアテの巨体を切り裂いた。

 

ギィィィィィン!! ゴォォォォォ……!

 

けたたましい金属音と共に、ゴリアテの巨大な装甲に、まるでナイフでバターを切ったかのような、完璧な切断線が走った。光の輝きが収まると、ゴリアテの巨体はゆっくりと傾き、ズズズ、と音を立てて地面に倒れ伏す。爆発は起こらない。ただ、外見は無傷のまま、その全ての機能が停止した。

 

(ふぅー危なかった……これで一件落着……)

 

「撤退!撤退するぞ!」

残りのPMC隊員たちは、ゴリアテのあっけない最期に恐慌状態に陥り、一目散に逃げ出した。

 

(よっしゃ! 逃げろ逃げろ! もう二度と私の前に現れないでくれ! お願いだから!)

 

キヴォトスナイトは、PMCが完全に視界から消えるまで見送ると、先生と生徒たちに向かって静かに一礼した。その威風堂々たる姿に、ユウカ達は言葉を失っていた。

 

そして、先生もまた、その「ヒーロー」の姿に目を奪われていた。

 

"すごい……。本物のヒーローだ……"

 

先生の顔には、驚きと感動が入り混じった表情が浮かんでいる。

 

(や、やめてください先生! 私、別にヒーローとかじゃないんで! ただの陰キャ転生者なんで!)

 

キヴォトスナイトは、その場を離れようと踵を返す。早く人目のない場所へ移動し、変身を解除したかった。もう体調が悪い。

 

"あ、あの!"

 

先生が、キヴォトスナイトの背中に声をかけた。

 

"助けてくれて本当にありがとう! あなたがいなければ、私たちは危なかった!"

 

立ち止まり、先生の方を振り返る。先生の顔は、心からの感謝で満ち溢れていた。

 

(うわあ! 先生に感謝されたあああ! めちゃくちゃ嬉しい! でも、これでまた「キヴォトスナイト伝説」が強固になっちゃう! 不本意だぁ……!)

 

キヴォトスナイトは無言で軽く頷くと、再び閃光に包まれ、夜の闇へと消えていった。

 




 
キヴォトスナイト
学年 不明
所属 不明 (特定の学園に所属せず、キヴォトス全域で目撃情報あり)
身長 約170cm (推定)
誕生日 不明
趣味 不明 (市民の安全確保、災害復旧への支援、テロ行為の活動監視といった行動が頻繁に報告されている)

詳細情報
キヴォトス全域で目撃される謎多き存在。
 純白の装甲を纏い、神聖な輝きを放つ長剣を携えている。
 その正体、性別、年齢、所属学園など、あらゆる情報が謎に包まれており、各学園の生徒たちの間で盛んに議論されている。
 ヘイローを持っており、近代的な装備を使っていることからミレニアムの生徒であると噂されているが、当のセミナーはこれを否定している。

数年前より突如として現れ、武装集団の鎮圧や災害からの生徒たちの救助など、多岐にわたる場面で市民の窮地を救ってきた。
 銃社会であるキヴォトスでは異端の剣を用いた戦闘を行い、的確かつ迅速に敵を無力化する。
 立ち居振る舞いはまるで騎士道の精神を体現しているかのようであり、キヴォトスの人々からは絶大な信頼と人気を得ている。

一切言葉を発しないが、生徒たちをまるで「お姫様」のように扱うという目撃証言も複数存在し、その紳士的な態度は多くの生徒たちの憧れの的となっている。
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