この国には、ユニコーンという伝説の魔獣がいる。 触れる者には祝福を、穢れある者には拒絶を── つまり、“処女しか近づけない”という、性癖に厳しすぎる生き物だ。
で、私はというと。
「魔獣管理局研修員・アイリ・フェルミです。年齢二十……あれ、今いくつだっけ? まあ、ほぼ処女ってことで」
そう言いながら、軽く自嘲気味に笑い、肩をすくめる。
「自己申告、アウトー」
背後からレインの声が冷たく突き刺さる。 彼女は無表情で腕を組み、冷静に私を見下ろしていた。
「“ほぼ”って何よ。日本酒じゃないんだからさ」
レインは目を細めて鼻を鳴らす。
「ここ、エルシア王国」
私が言うと、彼女はあきれたようにため息をついた。
「異世界転生だった!? てか処女審査って文化遺産かよ」
朝礼では係長がマイクを握りしめ、声を張り上げる。
「本日、東の山岳地帯にユニコーン出現!処女性が高い職員、接触任務をお願いする!」
「処女性が高いって硬度か何か?」
私は眉をひそめて疑問を口にする。
「アイリ、あなた“性癖B級”だから対象外ね」
「は!?B級って何!?恋愛ランク?」
「過去に恋人と一線超えかけたけど、結局ラーメン食べに行っただけ」
係長はちょっと楽しそうに肩をすくめて笑った。
「それでB級!? 平和すぎるだろその恋愛!!」
そんな中、魔導端末が速報を鳴らす。
【速報】東区の山間部で野生ユニコーン1体確認。処女性による反応不安定。接近“仮許可”対象:アイリ・フェルミ
「私に接近許可!? え、誰か裏で爆発でもした!?」
驚きで目を見開き、思わず口をぽかんと開ける。
「珍しいね。多分、“処女じゃないのに性欲死んでる”と判断された」
レインはくすっと笑いながら肩をすくめる。
「失礼な診断だ!もはや絶滅危惧種扱いじゃん!」
こうして、なぜか私の許可が通り、現地へ派遣されることになった。金のためだ。ユニコーンの角は、1本で高級魔法家具が作れて、都心に家が建つほどの価値がある。合法的に“折れば”大儲けだ。倫理? 後で考える。
東の泉にいたのは、純白の毛並み、銀のたてがみ、そして、絶妙にいやらしい形の角を持ったユニコーンだった。
──擬人化してた。
──めちゃくちゃ美形だった。
──しかも裸だった。
「おおおおお前なにさらしてんだこのファンタジーの申し子!!!」
思わず後ずさり、両手を広げてツッコミを入れる。
「き、君、女の人だよね……? そんな急に近づかれると……っ!」
ユニコーン?は顔を真っ赤にして視線を泳がせ、肩をすくめて小さく震えていた。
「なんで初対面で腰引けてるんだお前!てかナチュラルにケツ隠すな!」
私は眉間にしわを寄せて、あきれ顔で指摘した。
「見られるの、恥ずかしくて……///」
ユウは顔を背け、手で胸元を必死に隠そうとする。
「擬人化タイプのユニコーンって羞恥心バグってるの!?」
私は深呼吸し、気合を入れて目的に集中した。角を折る。それがミッションだ。少し手を伸ばし、角の根元に指先をそっと添える。
「っふ、ふああああっ!? だ、だめぇっ!そこダメなのぉっ!!」
突然の叫びに驚いて手を引こうとしたが、雷鳴と閃光が轟き、泉の水面がはじけ飛んだ。
「なに今の、角触っただけで魔法暴発?どこ性感帯設定だよ!?」
ユウは震えながらも、必死に私の手を掴みなおして言った。
「責任とって……角、ちゃんと……最後まで折って……っ」
「どんなプロポーズだよ!求婚のテンションか!」
その後、局の指示でユウ(勝手に命名)は私の部屋で保護されることに。
◇◇◇
翌朝。目覚めると、ベッドの隅っこで全裸のユウが小さく丸まっていた。まぶたをこすりながらぼんやり見つめると、彼女はこちらに気づき、ぱっと顔を赤く染めて目をそらす。
「おはよ……昨夜、角が疼いちゃって……つい……」
私は思わず飛び起き、頭を抱えて叫んだ。
「角の疼きで人のベッドに来んなああああ!!!」
目が覚めてからが本当のバトルだ。