朝。 眠気の残るまぶたをこすりながら、私はうっすら開いた目をユルく閉じようとした──その瞬間。
天井、ちょっと光ってる。あと、震えてる。
「……何、地震?」
じゃなくて、光源は横。私の枕元で膝を抱えて座る青年。
いや、ユニコーン(擬人化)、ユウの角がぼんやり発光していた。
「ちょっと、ユウ? なに光ってんの?」
「う、うん……ごめん、夢でアイリと……ちょっといい感じになって……そしたら角が……」
「説明がふんわりしてるのに、めちゃくちゃ状況が重い」
私のツッコミが終わらないうちに、部屋の空気がピリッと揺れた。 魔力がじわっと広がってる。これ、ヤバいやつだ。
「ユウ、抑えて。角、暴発する」
「が、頑張ってるけど、変な夢の余韻が……まだ、ちょっと……」
「だからその“ちょっと”のせいで家が吹っ飛びそうなんだけど?」
深呼吸して、枕元のマニュアル端末を起動。 魔獣管理局の簡易資料が、今朝送られていたのを思い出す。
▽管理局・擬人型ユニコーン取扱補足資料
1. 擬人型ユニコーンの角は、感情によって魔力が増幅・暴発する可能性あり
2. 主な対処法: a. 感情を鎮める(瞑想・冷却魔法など) b. 信頼する相手によるスキンシップで“放電”させる
「いや、最後の“b”が全く冷静じゃない」
資料を読み上げながら、私は頭を抱えた。 一方のユウは、相変わらず角を押さえて小刻みに震えている。
「……触ってくれる?」
「軽率にスキンシップを要求するんじゃない。マニュアルは“信頼関係が前提”って書いてあるからな?」
「アイリのこと、信頼してるよ」
「即答か……お前、ちょっとだけずるいな」
しょうがない。
私は角の根元にそっと手を添えた。先日と同じく、触れると微かな熱と脈動が指先に伝わってくる。
「っ……ん……っ」
「声、漏らすな。何事かと思われるだろ」
「でも、気持ちよくなるとかじゃなくて……落ち着く、って感じ」
それはそれでややこしいんだが。 しばらくして、角の光はようやく収まった。
◇◇◇
着替えの後、リビングでアイリはユウの服を見て違和感に気づく。
「……ちょっと待って、それ誰に支給された下着?」
「管理局の人が持ってきたよ。“魔力制御用”って」
私はすぐにタグを確認した。 そこにはこう記されていた。
《補助型魔力増幅インナー(実験用)》
「……待て、これ“抑制”じゃなくて“増幅”って書いてあるんだけど」
「えっ」
「え、じゃないよ。それ着てたせいで今朝の角、絶対パワーアップしてたでしょ」
ユウは申し訳なさそうに眉を下げる。
「うん……そのせいで……たぶん、夢もちょっとリアルだったかも……」
「それを言うなと言っている!!」
ユウは少し黙り込んで、カップを両手で包むように持った。
「ねえ、僕って……人間じゃないけど、こうして一緒にいて、迷惑じゃない?」
唐突な問いだった。 私は手にしていたカップを置き、息を吐く。
「うーん、迷惑だったら、とっくにお前ごと角をベランダから投げてる」
「ひどいなあ、それ」
「でも、まだ投げてない」
「じゃあ……ちょっとは、いてもいい?」
「……しばらくは貸しといてやるよ。あとで延滞金取るけどな」
ユウはほっとしたように微笑んだ。 その笑顔が少しだけ、人間っぽく見えた。
その夜。 ふと目を覚ますと、ベッドの隅にちんまりとユウが座っていた。
「……今日は、ちゃんと枕だけ借りるから」
「うん、そうだな。枕だけ──」
私は言いかけて止めた。
ユウの角が、またうっすら光っていた。
「──って、まさかまた疼いてるの!? 枕、燃えるぞ!?」