チに咲く花 【ブルーアーカイブ×仮面ライダークウガ】 作:鳥鍋
長野県九郎ヶ岳遺跡
10:38PM
「ふぅー、ふぅーっ!」
遺跡の石壁にて、人影が苦しげな深呼吸と共に右腕を抑えてもたれかかり、腰をついていた。入り口とはいえ考古学者も出入りしてない今は光源など無いはずだがやけに明るい。故に人影が迷彩柄の上着を羽織った少女である事、しかし右袖は焼け落ちて無残に爛れた腕が覗いている事が分かる。
「明るい……ボセガ、ザギバス・ゲゲル」(これが、ザキバス・ゲゲル)
少女はその光源である街の光、もとい街中に散らばる焼け焦げた匂いの火の光を遠い目で見ていた。
「クウガにダグバ、私は戦えなかった……。リントの武器は拾えたけれど、まだ動けない」
それでも焼け爛れた腕で大事そうに拳銃を右手に固く握っている。実際は握った手を離せないのかもしれないが。
「……ダグバ、あなたの花を咲かせたかった」
そう言って少女の姿が大きく変わる。身長は大きく、体色も黒みがかった緑にパレオに似た腰布、ベルトには黒鉄色のバックル、植物の蔦に似た質感の髪には白いユリの花の髪飾りがルーズサイドテールにまとめている。一言で言えば植物の怪人とでも形容すべき存在だろう。
「ヂビガブザバン、ゴ・ユリズ・デ、グ……」(ちにさくはなの、ゴ・ユリズ・デが)
異形と変わった事により火傷はどんどん小さくなるが、息も絶え絶えで体力が持たない。怪人は緑色の目を閉じて、小さく呼吸音を漏らす。この遺跡には誰も来ないと踏んで彼女は眠る事にする。人が松明となって照らす光、阿鼻叫喚の叫び、焦げ付いた匂いに包まれて体から力を抜いた。
───
「ユリズ、ゴとしてゲリザギバスゲゲルを行えないとは哀れだったな」
燃える街を近くで眺めるバラのタトゥーの女は、そう呟いた。
───
キヴォトス・ミレニアム自治区 烏ヶ岳
02:02PM
「すっげー、なんかよく分からないけどすげぇ」
「遺跡ってのは案外ミレニアムの近所にもあるもんなんだな」
「これはモクモクヘルメット団にもツキが回って来たんじゃないの?」
烏ヶ岳のとある洞窟の中に、9人の集団が小銃やライトを持って辺りを見回していた。そこは天然の洞窟ではあり得ない、石造りの碑文や棺らしい箱がいくつも置かれているまさに『遺跡』と呼ぶべき空間だった。
「リーダー、あれ」
「一番でかいな、あの箱は」
「きっとお宝ザクザク入ってるんじゃないっすかね!」
「いや、待て。中からお宝見つけてただ売り払うより、ここを占拠した方がいいと思うぞ」
団員の一人が指差した棺は一番大きく厳重な造りになっている。それを見たリーダーは中身を見るより、それを元手にする事を思いついた。
「でもリーダー、そんな事してもミレニアムが蹴散らして来るだけじゃないの?」
「こんな大事そうな遺跡でか?そんなバカをわざわざやる奴いねぇだろ。もし中身が空っぽでも、開けちまうより分からないまま大金払うまでここで粘ればいいって寸法だよ」
遺跡荒らしとしては大人しいかもしれないが、モクモクヘルメット団達として悪事を企んでいる事に変わりない。リーダーは暴れる以外にも多少は考えられるようだ。
「あっ、でも中身は気にならないっすか?見るだけなら損しないでしょ」
「あのでっかいフタは開けねぇだろ」
「9人でも、難しいっすよね……」
「まぁいい、とにかくここでテント作ろうか」
「了解……あれ?」
リーダーが音頭を取って準備をしようとした所で、団員が何かに気付いて遺跡の奥の通路を見る。
「どうした?」
「なんかいる?」
「アタシら以外にも同じ事考えた奴でもいるのか?」
「もしかして、遺跡だからミイラだったり?」
「どっちにしろちょっと1発撃って……」
「バカ、貴重な物を壊すな。何かをちゃんと見てからだ」
リーダー達は冷静に得物を構えて、通路の奥へ慎重に歩く。やけに足音が響く洞窟内で、リーダーが全員を合図で一旦止める。
「おい、お前!聞こえてるか!?」
ヘルメット団達がうずくまる人影を見つけて、それが動いたのを確認する。
「んん……ふぅ」
眠りから目覚めたのか頭上にヘイローが現れ、立ち上がったその姿は遺跡の住人にしては現代的な服装。
「誰?」
「こっちのセリフだ」
どこの制服でもない迷彩のジャケットは右袖が無く、晒された腕は赤く腫れている。その手にキヴォトスでは小さい拳銃を持っている姿は傍目から見ればヘルメット団と同類だ。彼女は辺りをぐるりと見回してから団員達、特に銃器をじっくりを観察してから次の言葉を口にする。
「リントの戦士、ドルドみたいに私を殺すの?」
「りんと?殺す?何の話だよ」
キヴォトスでは「殺す」という言葉の意味は重い。強がってアサルトライフルを持つ手を強く握るが、リーダーは内心焦りを感じている。
「なんだよコイツ、やっちまおうよリーダー」
「……リントにしては血の気が多い、撃つなら容赦はしない」
「そんなピストルでか?ははは!」
「いや待てお前ら。コイツ、なんかヤバい」
勝手に銃を向ける団員を手で制して、全員で2、3歩後退する。リーダーはキヴォトスではあり得ない雰囲気を纏っていた事に気付いた。それは『殺気』、どんな相手からも感じなかった強さだった。
「……ふん」
怖気付いたヘルメットの集団やリントの戦士にしては大きい銃については気になるが、今は重要ではない。彼女にとって重要なのは自分の武器と、外がどうなったかだ。前者は見回した時に眠っていた場所の隣に立てて置いてあるのが分かった。リントの戦士と思わしき集団に背を向けないようにそれを拾う。
「ねぇ」
「ん?」
置いてあった横に長い箱はいわゆるライフルケース、ヘルメット団達は彼女は狙撃手だと見当を付ける。それを見ていた団員達に、無関心に見えた彼女が声をかけた。
「外はどうなってた?ダグバ、未確認の0号が暴れていた後が知りたいんだけど」
「は?」
「知らない?未確認生命体」
「未確認生命体ぃ?珍しい生き物がどうしたんだよ?」
「……?」
話が噛み合わない事に少女は疑問を浮かべた。リントの戦士にしても成人男性ならともかく成長を終えてない子供が武器を持つ事もおかしいが、何より彼女らの頭上に浮かぶ光る輪に不可解な嫌悪感を覚えたが、ともかく答え合わせをしようと歩みを進める。
「どいて」
「お、おう」
「待て!」
「やめとけ、コイツはなんか面倒だ」
「リーダー!……分かったよ」
相手のリーダーが冷静で面倒を起こさず済む事に彼女は安堵した。このリント達が何故強い武器を持っているのか、よく分からない輪の正体は何なのかも気にはなるが、リントの遺跡は彼女にとって気持ちの良い場所ではない。ライフルケースを持って出入り口へと歩みを進める。
「……ボセバ」(これは)
やけに足音が反響する石畳を数歩した所で彼女は大きな棺を目にする。表面に刻まれた碑文、特に中央にある四本角のそれは彼女を驚愕させた。
「何で、いやまさか……!」
慌てて表情を変える彼女を見て、ヘルメット団達は目を合わせて相談をした。
「なぁあれ、なんか知ってるんじゃないの?」
「遺跡の事を知ってて元からいたって……じゃあアイツなんなんだよ?」
「おい、あの箱動いてないか?」
「こんな時に何言って……ホントだ!」
彼女が棺に気付いてから、蓋が何かに押されるように少しづつ浮き上がる。棺の前の彼女は驚いているが、右手でずっと握っていた拳銃を強く握って目前の何かに備える。
「リーダー、なんかヤバくないっすか?!」
「……全員1回離れるぞ!」
リーダーの号令でヘルメット団達は慌てて走り出し、石の塊が地面に倒れる音が響くのと彼女と棺がなんとか見える場所で止まるのは同時だった。
「ダグバ……うああぁぁぁぁぁ!!」
───
ミレニアムスタディーエリア・ミレニアムタワー
07:38AM
ミレニアムサイエンススクールの生徒会長、調月リオはAMRS複数機を操作して仮称・烏ヶ岳遺跡の調査を行っている。きっかけはつい先日確保したヘルメット団の証言による物だった。
『遺跡を見つけたら、よく分からない奴が化け物と戦っていた』
保安部からその情報を受け取った生徒会長は烏ヶ岳周囲を調査し、その遺跡らしき洞窟を見つけるに至った。
「遺跡内部の構造はそこまで複雑ではない、棺らしき物が並んでいるのは墓地として使われていたのかしら」
そう言いながら棺や壁にドローンのカメラを向ける。ライトで照らしたそれらに浮かぶのは図形にしては複雑で意味を持っているであろう物、象形文字と言うべき碑文がそこかしこに彫られている。
「象形文字、独自の文化が構築されてここまで広い構造物を創り上げた。なぜそんな文化が今まで発掘されていなかったのかしら」
リオの考察と並行してドローンが調査を進めると、また別の変化を見つけた。
「この奥が一番広い空間ね……棺が開いている?」
大きな棺の蓋らしき物が無造作に石床に転がり、辺りの壁には弾痕などの破壊跡が広がっている。棺の内側をドローンで確認すると、また驚くべき結果が残されていた。
「空っぽね……これは、血痕?」
墓泥棒でも入ったのか、棺で眠っていた何かが目覚めたのか、棺に入っていたのは新鮮な血がこびりついていただけ。世紀の発見が何者かによって奪われた事以上に、何かが血を流している事にリオは驚きを隠せない。
「何が起きているの?」
それでも合理に基づいたドローン調査は続き、更に不可解な物を見つけた。
「生きている……」
別の棺の陰に少女が火傷した腕が目立つように左向きで倒れている。その右手には見たことの無い黒い花が握られて、傍らには彼女の使用したであろうスナイパーライフルが役目を果たしたかのように転がっていた。
「彼女に話を聞く必要がありそうね。トキ、準備を」
AMAS達は新たな発見により慌ただしく動く事になった。倒れた少女が持ち上げられて銃や花が運ばれる最中で、右腕の火傷や水ぶくれは小さくなる事でトライバルデザインのタトゥーが浮かび上がり、それは異様な存在感を放っていた。