チに咲く花 【ブルーアーカイブ×仮面ライダークウガ】 作:鳥鍋
04:53PM ミレニアムタワー
入院服のユリズはガラス越しに手術台の上にいる異形を見つめていた。花が咲いたままうつ伏せに置かれたそれは、ピクリとも動かない。
「それで、アレは何か知っているのかしら?」
「私の同族、あなた達をリントと呼ぶなら私達は……グロンギ」
リオの問いかけにそう答えた途端、右腕が花の異形、グロンギと同じ物となった。
「動くんじゃねぇ」
「ネル、問題無いわ」
銃を向けるネルの背後からは何台もの戦闘ドローンがユリズを狙っていた。それを見て二丁の銃を下げる事にした。
「それはどういうメカニズムなのかしら?」
「これの力」
そう言って腹部に元に戻した手を当てると、鎖で繋がれた黒鉄色のバックルが服の上に現れた。鬼瓦のようなデザインは民族性を感じられる。そこにドローンの一つが光を浴びせてスキャンを開始する。
「腹部の異物から張り巡らされている神経により、体組織が変換されているようね」
「で、あのクモ野郎も同じか?」
「同じだけどアレは『ズ』の奴。私の方が強い」
新しい情報を手に入れる度に、知らない単語が彼女から出てくる。それらも質問しておきたいが、それ以前にミレニアムの生徒会長として聞かなければならない事がある。
「ゴ・ユリズ・デ。あなたはどの学園の生徒かしら?」
「生徒?……私は学校に通った事は無い。そもそもここは日本じゃないの?」
「あなたはキヴォトスを知っている?」
「知らない」
彼女はミレニアムどころか、キヴォトスの存在ではない。この会話でそれを知る事はできた。問題はここからどうするかだ。
「あなたが生徒ではないただの怪物ならそのままにしておけないわ、最悪の場合はいくらでも想定できるもの」
「……私はどうすればいい?」
「あなたがどこの生徒でもないのなら、どこかで学籍を手に入れるべきだわ。ミレニアムに入学する気はあるかしら?」
「手の届く場所にいる方がなんとかしやすい?」
「それも否定はしない、そのグロンギの事は現時点で何も分からないもの」
ひとまずは己の進退が先決だ。右も左も分からない以上、相手の言葉から判断するしかない。ユリズは質問を始めた。
「まず私には何が必要?」
「あのグロンギに対する情報を聞き取れて、かつあなたの身柄をどうにかできる立ち位置。それと銃についてね」
「銃……私の銃はどこに行った?」
「ここよ」
リオの近くに控えるドローンにはライフルケースがアームでぶら下げられていた。奪うには手間がかかる、ひとまず返されるまで質疑を続ける。
「もう一つの拳銃は?」
「あの銃の弾丸は分析中よ。内部に火薬が入っているのは珍しいけれど、どこで製造した物かしら」
「作ったのは私ではない。必要になるから返して欲しい」
「用途によっては断る事になるわ、それでもいい?」
「いずれ分かる、それを複製して渡しても構わない」
「そのいずれを今説明して欲しいのだけど」
「あいつで試していいのなら」
そう言って蜘蛛の異形を見る。花を潰さない都合上、うつ伏せのまま拘束されている姿は少し間抜けだが、安全策の一環だろう。
「あの怪物、グロンギと言えばいいのかしら?花が咲いている事で神経組織に根を張り、生命活動を遮断しているようね」
「その気になればあれを殺せる」
リオがそれを聞き、今までの情報の元に思案を始める。そこに少しだけ状況を掴めたネルが前に出た。
「その弾丸の構造と、あの怪物の体組織……まさか……」
「なぁ、あの怪物はお前と同じなんだよな?それを殺す?簡単にか?」
「できないの?」
「アレもお前と同じ人間の姿があるって事だよな?」
「それで?殺せないの?」
「できるかよ……!」
ネルの困惑混じりの威圧もどこ吹く風と受け流す。それどころか異形と同じ存在で会話可能だが価値観の異なる相手だと分かり、取り扱いに細心の注意が必要になった。
「ゴ・ユリズ・デ。弾丸については詳しく教えてもらうわ、その前に話を聞くのにふさわしい立場を受け取りなさい」
「立場?」
「あの怪物、グロンギに対処する手段を持っていてあなた自身もグロンギである。そのあなたから情報を入手しながら対応させる、その方が合理的よ」
リオが合理を唱える一方でネルは待ったをかける。ユリズが担う役割について懐疑的な様子だ。
「なぁリオ。そいつは殺せる奴に殺す責任を押し付けるって事か?」
「私自身が行う事も不可能では無いわ。弾丸を量産してドローンでの一掃、それが効率的に行えれば一番。それでも不測の事態は視野に入れる必要はある…でも怪物の分析結果によっては作戦にあなた達C&Cを投入する事はできないわ」
「コイツみたいな話せる奴らを殺すかもしれないってか?」
「……今はまだ何も言えないわ」
エージェントとして、キヴォトスの住人として、ネルはリオの返答を聞き入れた。そして当人のユリズに問いかける。
「なぁあんた、ゴ・ユリズ・デか?」
「ユリズ、そう呼んでいい」
「ユリズ、あんたあれを殺せって言われたらどうする気だ?」
「それが必要ならそうする。今までもそうしてきた」
「今までも?」
ネルの銃を握る力が強くなる。ここで彼女を見逃してはいけないと直感が警鐘を鳴らしている。しかし、リオはそれを察してセミナー会長として命じた。
「ネル、詳細が分かるまでは手を出さないで」
「…チッ!」
「ユリズ、あなたにお願いするわ。グロンギの詳細が判明してその対処方法が確立するまで、このミレニアムサイエンススクールの生徒になってくれるかしら」
「その代わりに何をくれるの?」
「それまでの必要な支援を私達でする、それでいいわね?」
「分かった、よろしくリオ」
ひとまずミレニアムサイエンススクールとの協力関係は得た。ネルや他の不信感は感じるが、これでグロンギと戦える事だろう。
「まずは学籍と名前を作るわ。私が提案するのは……」
「
リオが手元のタブレットで何かしらの操作をしている途中で、ユリズは自分の名前を突然告げた。
「……ひとまずそれでいいわ」
「前から決めてたのかよ?」
「花の名前から取った。タカサゴユリっていうの」
「花……あの姿も植物由来かしら」
「この右腕のイレズミ?って奴も花だからな。よっぽど好きなんだろうな」
「花は……好きだと思う」
リオ達の前では鋭い顔つきでも、花の事を考える表情は少し柔らかく感じる。それを見たネルも釣られるように笑って銃を下ろした。
「まぁこいつのセンスはいつもアレだからな、先に決めてよかったじゃねえか」
「待ちなさいネル、それはどういう意味かしら」
「どうもこうもねぇよ」
「……ともかくあなたの名前は『高砂ユリズ』で登録する」
「よろしく、それと銃を返してくれる?」
「ええ、銃弾は抜いてあるけれど受け取って」
ドローンがぶら下げるライフルケースを受け取って、中身を開ける。キヴォトスで最初に使った時はギリギリの戦いだったが傷は無さそうだ。
「そのライフル、構造からしてカリンの銃のように変形するのかしら?」
「今頃戻っているはずだけど?」
「それは確認したわ。分子構造そのものを変えているとしか説明できないわね。高度な能力とそれに支えられる文明があの様式なのは……まあいいわ」
リオは姿勢を直してユリズを、高砂ユリズを真っ直ぐ見つめる。
「ようこそ高砂ユリズ。ミレニアムサイエンススクールの一員として役立ってもらうわ」
「よろしくリオ、私は花を咲かせればそれでいい」
───
10:27PM 某所
「うぐぐ……」
「チクショウ……」
「なんだよこのツノ野郎……!」
十数人のヘルメット団は路地裏でうずくまっていた。ある者は腹を殴られ、ある者はメットを拳で破壊され、またある者は棒で打ち付けられたような傷が付いている。そんな地獄の中心で一人立っているのは、異形だった。
「グボギザ・バダギバ」(少しは硬いな)
黒い身体に鎧のような装飾品、角のようなロッド状の武器に青い目、何より顔には一本の角が生えていた。
「だがその程度だ。リントが強い武器を持とうが、このゴ・ガドル・バに勝てるものか」
そう言って倒した彼女らに目を向ける事なく路地裏を歩き抜ける。街灯の光に照らされたその姿は、頭はそのまま軍服を着こなす戦士として道行く人に映るだろう。そのまま何処ぞへと彼は歩いて行ったのだった。