「最強っていいよな」
ジンは自分の部屋でそう一人ごちる。
__ぺら…
彼は本を読んでいる、それは読むために作られたおとぎ話では無く日記だった、著者不明だが爺が「外の世界を知りたければ」と渡したのだった。
内容は外の世界での暮らしやイベントを体験した著者がその覚書を書いてあるようで、その中に彼の心を引く単語があった。
「“剣術大会”かぁ……出てみてぇなぁ……」
剣術大会、日記にはこう記されている。
“最強を決める大会”
シンプルながらそれ以上に表す言葉がないとばかりに筆圧が強く特に強調して書かれていた。
剣を習っているのだからその実力を試してみたくなるもの、ジンは外へ出たらまず剣術大会を目指そうと紙に書いて部屋に飾ってある。
「早く外へ行きてぇなぁ……」
__コンコン
誰かが部屋のドアをノックする、ジンは爺ではない事がその時点で把握できたが、ならば誰なのかとドアを開けた。
ドアを開けた先、立っていたのは髪の長い女性、旅装として少しほつれたマントをまとい、微笑んでそこへ立っていた。
「あっ!マリサおばさん!?」
「こんにちはジンちゃん、元気そうね」
「来るなら行ってよぉ〜!ジジィは茶とか菓子とかもてなししねぇからさ!」
「あらあら、ふふふ、ジジィだなんて乱暴な、翁様をそう呼べるのはジンくらいですのよ」
「あんなジジィに様をつけて呼びたがる人の心がしれないね!ムキーッ!」
優しげに微笑みかけるマリサは、昔ジンの母親の代わりをやっていた、その恩からジンはマリサには頭が上がらない。
彼女自身はまだ23と若く、ジンがおばさんと言うのは家系図を見た時におばさんにあたるからだ。
「ねぇジン、中へ入っていいかしら?」
「え?ああいいよ!」
部屋の中へ案内するジン、自分がつい先ほどまで使っていた座布団を差し出し、ジンは床へ直に座る、これだけで爺との好感度の差が見て取れた。
「あら、ジン、そんな事しなくて良いのに」
「いやいや、マリサおばさんは俺の大事な人なんで雑には扱えませんって!」
「そうなの?ありがとうね」
今、マリサの心を覗いてみよう。
(ふぉぉぉ年下かわいい〜〜しかも私にベタ惚れじゃ〜〜ん!もう最高、私好みにじっくり教え込んだからあとは結婚出来る年齢まで待つだけね!いやぁー安泰安泰!逆玉の輿ですわ〜!!)
そう言う輩である。
「ねぇマリサおばさん、いつもの旅の話、聞かせてよ」
「良いですよ……もちろん」
危ない計画を立てる人間だが、これでもジンの家系図に名前が載っている人物、つまり爺に面識があるので剣術にそれなり以上の覚えがある、あくまでもただの剣術の使い手として剣を習った、御竜介錯人の技はジンにのみ継承権が有る。
だが爺に鍛えられたマリサは里の外へ出られるのである、今の彼女は外の世界で居場所を見つけそこに暮らしている、だが外への興味が強いジンのために里に戻って来た時はこうして聞かせてやるのが彼女の習慣の一部となっていた。
「今日は西の話をしましょう、所でジン、西の地域には何があるか覚えていますか?」
「わかる、西は王都って言うのがあるんだろ、そっから更に西に行くと別の国が見えるんだってね」
「おや別の国の話は誰かに聞いたんですか」
「ううん、これ、この日記に書いてあった」
そう言ってジンはマリサに日記を見せる、西の国についてのページを開きマリサへ渡した。
マリサが日記を眺めていく内に、見覚えのある文字にハッと気がついた。
(この日記……この筆運びは翁様の……やってくれたわね翁様……私の土産話籠絡作戦の効果が薄くなってしまったわ……もっとインパクトのある話を持ってこないと……)
マリサの心中は穏やかではない、ジンはそんな事一切気付かずにマリサの反応を待っていた。
「ね?書いてあるよね」
「ええ、細かく書いてあるわ、これは私の話は要らないかも知れないわね」
「ええ!それは困るよ!マリサおばさんの話は俺楽しみにしてんのに!」
マリサこれには隠れてガッツポーズをする、ジンは気が付かなかった。
「でさでさ、この西の国の剣術大会ってマリサおばさん知ってる?」
「あら、剣術大会ですか……今日はその話をしようと思ってたのよ」
「マジ!?やったぁ!」
マリサは懐から小刀を取り出す、鞘には金の細工で紋章が描かれていた、その紋章は日記の中にも登場していたのでジンが反応する。
「これ、この紋章って」
「パジートゥラ、砂漠の国の紋章よ、私ね、実はそこで働いてるの、これはその証、王様の護衛をしているのよ?」
太陽を象った模様の中心に5方向に伸びる線、その交点には円が書かれていた。
これは砂漠の国パジートゥラの成り立ちが描かれてると言われている。
「え?スッゲ〜……王様の護衛ってめちゃくちゃ強いんだろ……」
「強い…?まぁそうかもね、それは良いとして、西の国……パジートゥラにも剣術大会があって大勢の人が一つの所に集まるの、一週間以上掛けて催される大会はそれはそれは凄い人だかりと盛り上がりなのよ」
「うお〜〜マジかぁ〜〜行きてぇ〜〜どこまでやれるかやってみたい〜〜!」
そう言うジンを見てマリサから提案があった。
「じゃあジン、貴方が外へ出られるようになったら、私の所へ来なさいな、剣術大会へ参加できるようにしておいてあげる」
「マジ!?やったぁ!……あ、でも、参加資格って無かったっけ?」
「参加資格は特に無いわ、強いて言うなら強さに自信がある人にのみ参加資格があるのよ」
「そうか……うし!俄然やる気出てきたぜ!マリサおばさんありがとうね!俺今からジジィとやりってくる!」
興奮して部屋を飛び出すジン、残されたマリサはその姿を見て笑った。
「もう、まだ子供ね……早く大人になってね、ジン。私の為にも、この里……ウルハの為にも」