【再稿】ペルソナ3でハム子のヒーローアカデミア! 作:Cran
前話のあとがきでの定員関連ですが、エウレカ!をいただいたので、修正しております。発想が凝り固まってたのです。どうぞお許しを。ホクトセイクンの裁きを受けますので……。
いつも誤字指摘、ご感想、評価等をいただき、ありがとうございます!
雄英高校の入学式。
ヒーロー科の実技試験のときの喧騒はどこへやらという風情であり、対比の問題で人の数がまばらに見える。広大すぎるほどの敷地内を取り囲む外壁と敷地内をつなぐ正門前では入学生が記念写真を撮る姿があるが、それも遠目で眺めると、あたかも巨人のお屋敷の前に小人たちが集まっているかのようだ。
「はい! 私たちも撮りましょう!」
「じゃあ、ここに並んでね。あ、エンデヴァーは少し下がって端の方で。でかすぎて主役たちを食っちゃいます。奥さんはそのやや前の方が縮尺としてはちょうどいいです」
「む」
一部、小人然としていない姿も見受けられるが。
「出張なんじゃなかったのか、クソ親父……」
「方便でしょ。聞いてたら焦凍が逃げそうっていう感じで」
「あー、あるかもしれませんね」
「お母さんも来るってのに逃げねえよ」
「あら、ありがとう焦凍。じゃああなた、焦凍が嫌がるし、もうちょっと遠くに」
「む……」
心なしか悄然とした雰囲気を醸し出しながらも素直に1メートルほど離れる炎の親父。
「冗談よ」
「そうか」
戻る。
「改めて、轟ママもすっかり元気になってよかったですね」
「もう何回か忘れたけど第一回大乱闘エンデヴァーフルボッコブラザーズの放映会の時点から、もう冷さんもだいぶ吹っ切れちゃってたっぽいけどね」
「あれで看護師さんたちのファンが増えたんですよね。懐かしいな、一年生のときだし」
「あのときは夏兄や俺のよりも姉さんの張り手が一番痛そうだった」
「張り手だとお相撲さんみたいだからそこはかぁいくビンタとかの表現にしときましょ? ね?」
「わかった」
「ビンタはかわいいかなあ」
「あのー、もうそろそろ撮っていい? ほかの皆さんの邪魔だよ?」
「あ、ごめんなさいキドウさん」
傷んで歪んだものが完全に腐りきる前にメスが入ったことにより家族関係は改善に向かい、あわせて冷の心身の調子もかなり取り戻されているようである。主に家長の立場や発言力などを犠牲にして。もちろん、足しげく轟家に通ったり、なにかにつけて病院に焦凍や被身子と一緒にお見舞いにいった公子のファインプレーのおかげでもあることも轟家の面々は忘れていない。
なお、事務所からサイドキックのキドウが出張してきているのはエンデヴァーの公私混同ではない。新しい分野でのファン獲得のための草の根活動の一種であり、公式SNSに記事を掲載するための仕事という立派な建前がある。
そして、記念写真を一枚。――といわず、角度を変えたり被写体を変えたりしながら何枚も。よい意味では硬派、悪い意味では堅苦しいあり方で、茶化すような記事もたまにはあれど一線を引いていた公式SNSは、いつからかスタッフ内で決まっていたとおり、末っ子ヒーローの卵が入学する写真の掲載を皮切りに方向性を少し変えていくことになる。
「おー! 轟じゃないっスか、おはよう!」
入学式の会場に向かう保護者たちと別れて、さて校舎に入るかという面々に横から飛び込んできた、やたらと大きな声の挨拶にみてみると、坊主頭の長身の生徒。
――友達?
――まあそうだ。
――へぇー。
視線で意思疎通をこなす3名である。
「夜嵐か。おはよう」
「新入生仲間だよね、おはよう! 相澤公子です」
「おはようございます、渡我被身子です!」
「おはようっス! よろしく、夜嵐イナサっス!」
ビシィ、と直角のお辞儀。そしてガバァと顔をあげると2人の女子を再確認。そしてグルッに焦凍に視線。
「――ってことはこの2人のどっちかが轟の憧れのひとっスね!?」
「ちげぇ」
「まって詳しく」
「キミちゃんのことですね!?」
「遅刻すんぞ」
υ´• ﻌ •`υ
「それでっスね、あの試験の内容で水を開けられたのもすごかったし、エンデヴァーは嫌いだけど息子のほうは別かもしれないと思って話しかけたんっスよ! 俺が凄ェ凄ェいってたらそこでこういわれたんス、『俺なんてまだまだだ。友達の女子は俺なんざよりもっとすごい。そいつも雄英に入るから憧れんならそいつにしとけ、俺も訓練仲間の別の女子もそうしてる』って! 熱いっすよね! マジリスペクトっス! なあ親友!」
「うるせえ黙れ」
「気合いれて話しかけてみて正解だと思いましたね!」
「俺はいまあのとき返事をしたのが間違いだったと思っている」
「うーん、既視感のあるキャラクターとやり取り。あと焦凍、ちょっと顔赤い」
「轟パパさんのこと嫌いだっていってますけど、似たとこありますよね。はい、私ショートくんが恥ずかしがってるのはじめてみたかもしれません」
「俺らはA組だからお前はさっさとそっちいけ」
「A組もB組もこっちだよ焦凍」
明後日の方向を夜嵐に示す焦凍に、知っててわざとやってんのかなと思いつつも、公子がさすがに制止する。
「地図もみてないのに詳しいっスね! 案内あざっす!」
「一時期ここに住んでたからねー」
「マジっスか!」
夜嵐が驚いて焦凍と被身子のほうにグルリンと顔を向けるも、2人のほうも驚いた顔をしている。高校で保護されていた短い期間であるし当時も校舎を自由に歩き回れたというわけでもないが、施設の大体の構造はインプット済の公子は先にてくてくと進んでいく。
「え、知らなかった」
「俺も」
「キミちゃん、そゆとこありますよね」
「ああ」
「大したことじゃないしねー」
家族が何年も前に亡くなっているとか、それで消太に引き取られたとかなどを筆頭に、似たような意外な暴露話をこの数年で何回か体験してきた焦凍たちは複雑そうにしている。なにかあまり深く聞いちゃいけない事情があるらしいということは聞かされているからこちらからは質問するのも憚られるし、こうして不意打ちで出てくると、言える話があるならできればもっと早く教えておいてほしかったといった寂しい気持ちになるのだ。
「ほら、こっちこっち。遅刻しちゃうよ」
υ´• ﻌ •`υ
さて、一方そのころ。相澤消太こと、1年A組の担任であるところのイレイザーヘッドは悩んでいた。
寝袋を使って教室まで移動し、そして生徒たちの眼前に登場するか否か。
至極真剣に悩んでいた。
補足するならば、公子が自身の担当になることが決定されたとき、つまり、わりと以前から悩んでいた。
(俺の考え方を生徒たちに理解させるために極めて分かりやすい手段だ。うだうだと言葉で語るよりも、感覚で初っ端から叩き込むのにちょうどいい。無駄なく合理的だ)
だが。
(怒るな)
当たり前である。
いったいどこの年頃の娘が、自身の父親を教師として直にみる姿が寝袋で芋虫のように這いずりそして脱皮するものであるなどという事態を喜ぶというのか。百歩譲って、昼休みなどの休憩をとるにあたり、移動する時間も惜しいという理由で空き部屋や空きスペースなどで寝袋を使用して休むというものであるなら許せるかもしれないが。
まして、おおらかではあるが身だしなみにはかなりうるさいところのある娘である。前の学校では可憐な天使とも美しき悪魔ともよばれた彼女の、実体験と説得力のある口出しっぷりに、彼のトレードマークとすらいえた無精ひげも、乱れに乱れた頭髪なども、共同生活が開始されてから早々に、徹底的な改善を余儀なくされることとなった。いまや、髪は定期的に公子が鋏を入れているし、日常的にも毎朝ヘアウォーターを使用して丁寧にくしけずり、ひげもきちんと剃ったうえ日中も電動シェーバーで適宜お手入れをするといった習慣がすでに消太としても意識せずに実行できるようになっているなど、長年の付き合いであるプレゼントマイクやミッドナイトもその変わりようにヘソが驚天動地して茶を沸かすありさまであった。
加えて、学校での仕事着でもあるヒーローコスチュームも、何着もの洗い替えが用意されたうえで、それぞれ公子の手でアイロンをかけられており、いつも清潔感ばっちりだ。消太も「黒なら汚れは目立たない」からそこまでしないでいいといったが、娘の笑顔の圧力に屈せざるを得なかった。
なお、ヒーローコスチュームの世話の中でもっとも大変なのは捕縛布であったりする。幅広で長く重くて扱いづらいうえ、マフラーのようにまとうため表面の汚れもすごく、そして家庭用洗濯機は使用できないという多重苦である。さすがに本格的な洗浄の際は専門業者にクリーニングを依頼するが、ちょっとした汚れなら自前で解決したほうが合理的だとの公子の方針である。
さて、それを踏まえてもう一度考えると、正確には――。
(怒るで済めば軽いほうだな)
である。
肝の太さには自信があるというか、自身の信条を守っている限りにおいて他人の目には頓着しない消太であるが、さすがに娘に強い不快や軽蔑と失望の視線を向けられるような状況を自ら作り出すのは気が引ける。同僚たちには過去より実行してきたこの登場方法については公子への口止めはしてあるため、彼女にとっては初の体験であり余程の精神的ダメージを与えるであろうことは想像に難くなく、そうだとすれば、やはりやめておくべきか。
(……いや、やはり初回で生徒たちに印象づけておくほうが、今後を考えりゃ合理的だろう。公子にはあとで詫びを――)
ブッブー!
携帯端末の振動。通知である。画面を確認する。
「……」
<寝袋(^▽^)>
<睡ちゃんから聞いてるからね(^▽^)>
<念のため(^▽^)>
「……」
消太は無言で、寝袋をたたんでデスク下に押し込んだ。
「……。いくか」
そういうことになった。
υ´• ﻌ •`υ
そうしてまあ。
「へえー、3人は中学校からの仲なんだ。いいね!」
「うん、麗日お茶子さん……、チャコちゃんって呼んでいい? 私は相澤公子!」
「いいよ! じゃあ、キミちゃんね!」
「私も! 私は渡我被身子なので、ヒミちゃんで!」
「うん、よろしくね!」
「俺は轟焦凍。好きに呼んでくれりゃいい」
「轟くんね!」
「あ、ぼ、僕は、み、緑」
「お友達ごっこしたいなら他所へいけ」
身なりこそまっとうな入室だが、初対面のクラスメイトたちとの自己紹介の中にぬっと割ってはいった相澤消太は、結局のところ娘にはナチュラルに邪魔者をみるような視線を向けられてしまうのであった。これが、寝袋状態での出現であったなら、果たしてどれほどの冷たい眼光で見据えられたことであろうか。
「担任の相澤消太だ、よろしくね。静かになるまで比較的早かったな、今後も合理的にいこう」
じっとりとした視線など素知らぬげにさくっと教壇に立ってそんなことをのたまう消太。なお、比較的に早いとのコメントについて、それには明確な理由*1があるが、その理由に心当たりがあるのはご本人を除けば公子と、事前に彼女に情報を伝えられていた焦凍と被身子だけである。
「早速だが、
教卓の中から見本のように取り出した体操服を見せてそういい捨てると、さっさと出ていった。
「説明が足りなさ過ぎてみんな混乱してる。かえって不合理になってる」
「お父さん、あれが先生モードなんですね。ちょっと新鮮です。かっこつけてるパパさんみたいな感じの、かぁいさがあります」
授業参観に出た保護者のような目線での被身子の感想はさておいて、公子は尻拭いにかかる。
「みんなー、一応あのひと本当に担任だし、のんびりしてると多分あとでうるさいから行動しよ! 男子はここで着替えたらいいだろうし、女の子たちは更衣室案内するからこっちに来てー」
ぱんぱんと手を鳴らしながらの案内に、男子と女子ともに動き出す。何やら粗暴そうな「仕切んなゴルァ!」という不思議な声が聞こえた気もしたが、なかったことにする。
「あとでね、焦凍!」
「またでーす!」
「おう」
などと声をかけつつ、早足で廊下をいく。体操服や手荷物をもって女子たちが後ろをついてくる。ちょっとカルガモの列みたいだというのは振り返った被身子の感想である。
「案内ありがと、キミちゃん!」
「助かったわ、まだ場所を覚えきれてなくって。相澤公子ちゃんっていうのよね、聞こえてたわ。私は蛙吹梅雨。よかったら梅雨ちゃんって呼んでちょうだい」
「私は八百万百です。相澤さんということは、先生と同じなのですね」
「うん、お父さん」
「キミちゃんのお父さんです。私はトガです、渡我被身子です!」
「えっ、親子で先生と生徒って珍しい! 私、芦戸三奈!」
「あー、だから場所もよくわかるってこと? ウチ、耳郎響香」
「はーい。葉隠透だよ! みてのとおりのみえない透明人間!」
ウチの前この子だったらよかったのに、と響香は思った。目の前は障子目蔵という身長190センチ近い大柄の男子で、小柄なほうの彼女としては、黒板を見るのにかなり邪魔になりそうなのである。
そんな具合でわいわいとかしましく、女子同士で交流をしながらグラウンドに集合。更衣室の利用でひと手間がかかるぶん女子の方が集合は遅く、男子たちはすでに消太の前に集まっていた。そして、この場所への集合の理由が告げられる。
「個性把握テストォ!?」
「入学式は!? ガイダンスは!?」
との騒動に、そんなもの悠長なものをやっている時間はないと一蹴する消太。
「……入学式、お母さんに見せてやりたかったんだけどな」
「あー……」
ぼそりとつぶやく焦凍に、悲しい気持ちで相槌を打つ公子。入学式に夫婦そろってくる予定であったことは消太も知っていたはずなのだが、はて。と思っていると、その心でも読み取ったかのようなタイミングで、言葉が続けられる。
「いまからやってもらうのは、中学のころからやってるソフトボール投げや立ち幅跳びなどの体力テストの個性ありバージョンだ。君らの本当の意味での全力をみせてもらう。これについては入学式にいらしてる諸君の保護者の方々には別途ご案内してあってな。周りをみれば気づくだろうが、実技試験でも導入したドローンで撮影している映像を、別室でリアルタイムでご観覧いただいている。音声つきでな。ああ、来られてない場合はいってもらえりゃ映像データもプレゼントするぞ」
いわれてみれば、離れた場所でぐるりと彼らを取り囲むようにドローンが飛び回っている。
ニヤリと消太は不敵な笑みをみせる。
「全力をみせてもらうのは俺だけじゃない。君らの保護者にもぜひみせてやれ。できりゃ、カッコいいところをな」
その言葉への反応は三者三様。姿勢を正し気合をいれるもの、消太へと不敵な笑みを返すもの、武者震いをするもの、不安げにするものなど。そして、
(私の場合はいまさらなんだけどなぁ)
と、ちょっと疎外感を覚えるものもいたりする。
「轟たち、いないっスねー」
「うん、どうしたんだい、きょろきょろして」
「あー、1年A組のダチがいなくって」
「いわれてみれば、まるっと半分ほど足りないノコ」
「あの助けてくれた子、いないな……」
「ウラメシそうな顔してるわね」
「実技試験で世話になってる子がいなくてな。落ちてるわけないと思うんだけど」
「その口ぶりだと女子か? 熱いな!」
「えー、それでは、入学式を始めます」
((((いいのか…!?))))
知ってるか。原作に沿うとこの後、除籍処分の話も出るんだぜ。
そして、入学式をみたがっていたかもしれない保護者へこういった対応をしている作品はいまのところは読んだことはないのですが、どうなのでしょう。保護者には入学式はしないと連絡してあるという作品はみたことがある気がしますが。
本作品の場合はフォローをしていますが(してなかったら雄英高校に突然の火災が!)、もしご観覧の保護者がいるのに通知なしだった場合、大いに問題になるような。
次は、個性把握テストです。