【再稿】ペルソナ3でハム子のヒーローアカデミア! 作:Cran
本日の現時点でのお気に入り数が増加と減少でトントン。精進します。
ちょっと諸事があって生活のリズムが乱れているので、焦って更新するのは控えるようにしようかと思います。
「見つけたよ、口田」
「――*1」
焦凍が氷壁を作り出して1対1の状況を作り上げたのを確認するや否や、尾白は口田の捜索に入った。1階をひと通り見て回ったうえで、まだ彼が建物内に侵入していないと踏んで、別の窓から屋外に出てからほどなく、木々の間からこちらを伺う口田の姿を認めることとなった。
口田は少しおどおどとした様子ながらも、両手で握った確保テープを絞首紐のごとく前に構えて、尾白を見据えていた。腰が引き気味ではあったが確かな戦意をその姿に認め、尾白も構えを取る。彼は確保テープは懐にしまったままだ。
「轟のところはだいぶ楽しいことになっているみたいだからね、こちらはこちらでやらせてもらうとしよう」
「――っ*2」
口田は無口で気が弱いが体格には恵まれている。身のこなしからは荒事に慣れている様子は認められないが、対格差は単純に攻撃力や耐久力の差につながることを、武術を修めている尾白はよく理解している。何より、そのあたりの大会などとは異なり、この戦闘訓練では個性の使用が可能だ。
(空にも注意が必要……ああ、思った傍から)
頭上から大きな羽音が聞こえる。口田から完全には目を離さないようにほんの少しだけ視線を走らせると、ボール投げで見たトンビと思しき大きな鳥が数えきれないほど何羽も空を舞い、円を描くように飛翔している。
「口田の相手をしているところに邪魔をされるのは厄介だな。早々に倒させてもら――うわっ!?」
ごすっ、と。
急いで間合いを詰めようとした矢先に、尾白の眼前に何かが落ちてきて地面に鈍い音を立てる。
石だ。地面に少しめり込んでいる。人間の拳ほどの大きさだ。反射的に頭上を見る。
「ちょっと待て嘘だろ!」
それはあたかも流星群。
先ほど尾白が視認した多数の鳥たちが一斉に石を投下してきた。命中精度は大したものではないが、その高度から落とされた石が直撃すればただでは済まないことは考えるまでもなく、必死に回避する。手や腕で受け止めざるを得なかった石もあり、その箇所がじんじんと痛みを訴えてくる。鳥たちはご丁寧に、複数の編隊で役割を分けられているらしく、口田が身構えている木々のあたりと尾白を隔てるように落とされる石、尾白めがけて落とされる石、尾白の退路を塞ぐように落とされる石。石を投下した鳥はそれぞれどこかへ降り立つと次の石を掴んでは舞い上がっている。雄英高校の広大な敷地には種類豊富な訓練施設や実験施設等が備えられており、ヒーロー科の実技訓練に限らず普通科やサポート科たちも含めた生徒の利用により破壊と創造が繰り返されており、
この状況に、尾白は突貫するよりも一度建物内に退避した方が賢明だと判断する。石のカーテンで隔たれているのは口田も同様であるから、落下してくる石の回避に専念すればよく、それならば比較的容易に後退できるだろう。
幸い、ヴィランチームにとっては時間は敵にならない。直接打ち合えずに睨みあいとなる展開は格闘家としては業腹だが、焦凍の戦闘の妨害を入れさせないだけでもこちらに利がある。
(と言っても、轟が相澤に負ける可能性もあるんだけど)
そうなったらそれこそ突貫するか、恥を忍んで時間稼ぎに専念するかと進路を定める。やがて、石が止むタイミングを見つけ、尾白はすかさず走り出した。
「――っ*3」
「悪いね、いったん下がらせてもらうよ!」
トンビの直接的な襲撃も危惧したが、幸いにしてそういった妨害はされずに、尾白は建物の中に逃げ込めた。
「参ったな。まるで昔見たあの映画みたいだ」
『鳥』というタイトルの、狂暴化した鳥の大群が人々を襲う古典映画を思い出して今更ながらにおぞけをふるう。嘴や爪で襲い掛かられるなら、やりたくはないが打ち払うこともできるが、それでもあの大群相手ではかなりの負傷は免れないだろうし、石での攻撃となってはそれすらもできない。
窓越しに口田の方を確認すると、彼の周囲の木々という木々に大量の鳥が止まっており、そのすべてがこちらを凝視していた。
「ひえ」
思わず情けない声が漏れる。
あの映画の被害者たちもこんな気持ちになったのかと、鳥肌が立った腕をさすりながら、訓練が終わったらその映画を調達して口田に強制的に貸し出してやろうと心に決めた。
そんな嫌がらせを思いついた尾白だったが。
『尾白少年、確保!』
「え?」
唐突に聞こえたオールマイトの声に呆気にとられる。
「ニャー」
「ニャー」
「え?」
鳴き声のした場所を見やると、猫が2匹。
確保テープを巻きつけた尾白の足に寄り添い、得意げな顔で彼を見上げていた。
「あーっ! もう、ほんっとうに厄介だね、きみの個性って!」
「お前に言われたくねえ!」
「炎熱くないけどッ、うざったい! 氷も凍るほどじゃないけど寒い!」
「炎熱くねえって時点でお前がおかしいんだからな」
「うっさい、【ポイズンミスト】!」
「またそれか!」
2人の様子は対戦前の少し艶めいたお遊びのような一幕から考えると、かなり騒然として喧しかった。「わちゃわちゃしてるわね」とは梅雨の言。
単純に表現すれば、焦凍が炎熱と氷結を繰り出すのを公子が前者は無視して後者を徹底的に躱すか打ち砕くという攻防が続いているだけ、となるのだが。天井は高くともこの狭い通路で互いに相手の動きを牽制しつつも動き回り、ひたすらに個性を弾けさせる様は、もはや見世物か何かといった絵面であった。
公子が炎熱を無視できるのは、焦凍が遠慮なく炎熱を放ってくるつもりだと理解した彼女が、早々にペルソナを蛇の下半身を持つ妖女ラミアに切り替えたためである。ラミアは炎熱を無効化するとともに、氷結に対しても強い耐性を与える力を持っている。これによって、公子は氷結にだけ注意をすればよいかと思えばさにあらず、氷はもちろんだが炎にまかれるだけでも単純に視界が阻害されるうえに熱と冷気で陽炎が発生し視界が歪むため、狙いを定めにくくなる。それは焦凍も同じ条件であるのだが、焦凍が溜めなしで氷結を放てるのに対して公子のそれはペルソナを介する必要がある分、ひと呼吸遅くなる。
加えて、ラミアは対焦凍用ペルソナとも思えるような耐性を持ってはいるが、攻撃能力は高いとは言えず、
(【ネコダマシ】や【フラッシュノイズ】も耐えてたし期待薄*4、【アギラオ】*5は氷で打ち消されるし焦凍に炎熱はそもそも効きにくい、【マハムド】は下手すると心肺停止になりかねないから却下*6)
という次第だ。よって、相手の体力を継続的に消耗させる「毒」の霧を放つ【ポイズンミスト】を隙を見つけては放っているのだが、そのたびに炎で消し去られてしまっている。こちらも決まりさえすれば盤面をひっくり返すのに大きな一手になり得るのだが、召喚、発動、命中、抵抗力の突破のステップの「命中」の段階でうまくいかない。
ならば他のペルソナに切り替えるというわけにもいかず、この状況で炎が無効化できなくなった場合はその時点で公子は否応なく炎に巻かれることとなって、受けるダメージは相当なものになるだろうし、今の公子の手札で炎が無効化できるペルソナで攻撃も得手とするのは氷結に弱いものしかなく*7、弱点を突かれた場合の被害は極めて大きくなってしまうものだから、それも難しい。実質、ペルソナの切り替えが封じられている状態だ。
という次第で、公子はほぼ防戦に掛かり切りとなっている。正確には、焦凍もどちらかと防戦ではあるのだが、氷結で攻め手を封じたり逃げ道を封じたり、荒れ狂う炎で視界を防いだり、そして隙あらば直接氷漬けに行ったりと、将棋で言えば矢継ぎ早に王手を繰り返して追い込むような戦術をとっており、公子が攻撃に回れる暇が極端に少ない状況だ。薙刀もほぼ氷を切り裂いたり砕いたりするだけの手段になっている。
公子は休みなく動き回らされる展開に陥っているからか、焦凍の炎熱によるダメージはないはずだというのに疲労困憊した様子で息も相当にあがっている。足運びも当初とは格段に違い、覚束ない様子まで認められる。
(もう! 全然、外に行かせてくれない!)
通路が狭いからだけではなく、焦凍が次から次へと氷を生み出すためにそこらじゅうが障害物だらけになっており、碌に得物が振るえないことも、公子にとっては大変に厄介な状況である。生み出されては公子や製造者自身に砕かれたり溶かされたりしている氷たちの様は何やら憐れみさえ感じさせるものだが*8、そんなことを考えている余裕は彼女にはない。そんなところに尾白の確保を宣言するオールマイトの声が聞こえてくるがその勝利を喜ぶ暇もない。焦凍も気にした様子もない。
「いつもの訓練と、勝手が、違い過ぎるよ!」
「お前ん家のジムも俺の家も広いからな、お前とガチでやり合うんなら狭えとこだと昔っから思ってた」
絞り出されるような声に、焦凍はしれっと返す。
「つっても、今回は小部屋での戦闘に持ち込めれば御の字くらいにしか考えてなかったから、この状況はほとんど偶然だ」
焦凍の炎熱も氷結も厄介だが、逃げ回れるスペースさえあれば、耐性が少し合わなくとも多少は凌げるし、その間に強化や弱化、強火力での攻撃などを見舞うこともできる。しかしながら、この戦場にはそんな余地がない。公子自身も狭い場所では自分が不利になることは分かっていたが、ここまで一方的に焦凍に追い込まれるとまでは考えていなかった。この3年間、訓練では勝ち続けだったために油断や甘えがあったとも言えるが、ここは閉所での戦闘に持ち込むことができた焦凍の天祐と、公子に勝つ方策を考え続けてきたその根性を素直に褒めるところだろうか。
まあ、そもそもの話であるが、規格外すぎる友人がいるため下手をすると焦凍自身すら忘れがちであるものの、炎熱と氷結をほぼ自在に操ることができる彼の個性はそれだけで強力すぎるほどに強力である。その個性と、天性の高い身体能力、父親譲りの強い執着心と熱意を原動力とした不断の研鑽、優秀な教師*9と訓練相手などが結びついた結果、このようなジョーカーに育ってしまったわけで、そうすると、そんな相手に前述のような油断や甘えを持ってしまったかもしれない公子には、序盤の立ち回りも含めてけっこうな落ち度があったとも言える。
公子としては1戦目の爆豪のように壁を砕くことができれば活路は開けるかもしれないが、さすがに片手間にできるものではないし、その隙さえも焦凍が与えない。隙があったとして、壁が向こう側から氷で補強されており打ち砕けない可能性すらある。見事に状況に嵌ってしまっている格好だ。
「ここまでうまくいくとも思ってなかったし……、おい、無理すんなよ?」
「冗談。せっかくのダンスでしょ」
少しよろけそうになりながらも、氷筍や氷の瓦礫の合間を縫って窓の方に、つまり焦凍に接近する公子だったが、ほとんど突き技専用と化してしまったためか、そもそも動きが鈍かったからか、繰り出した薙刀は簡単に手で掴まれる。焦凍が引っ張ると、そのまま公子は足をもつれさせ、彼の胸に倒れ込んだ。
「やらしいことしないって言ってたのに。むっつりすけべ」
「しないとは言ってねえ」
いや違う、するとも言ってねえししてねえ。と、一応は訂正しながら焦凍は公子を抱え上げる。なんぞ? とばかりに顔を見上げる公子の目はとろんとしており、熱に浮かされているかのようだ。
「やっぱ限界っぽいな。テープ巻くまでもねえだろ。そうですよね、オールマイト先生」
『うむ、相澤少女は戦闘不能により確保扱いだ!』
インカム越しでの確認に、焦凍の勝利を認めるオールマイト。公子はため息をついて焦凍の胸に完全に頭を預けた。
「うー……。悔しい。頭ガンガンする」
「いいからとっとと出るぞ」
なお、外の風通りの良い場所に公子を寝かせた焦凍が、公子が確保されて困っている様子の口田と邂逅し、動物たちを火攻めや氷攻めなどの危険な目にあわせることもできない彼に降参を申し入れられるのは、ほんの1分ほど先のことである。
長々とお付き合いいただきましたが、今話で戦闘訓練のバトルパートは終了です。仲良し対戦は公子ちゃんの戦闘不能により焦凍くんの勝利です。戦闘不能理由は書くまでもないと思いますが、次回で見学組も含めて解説が入ります。
そのあたりの店じまい等が済みましたら、少しエピソードを挟んでからUSJの方に進むことになります。
今後とも、よろしくお願いいたします。