【再稿】ペルソナ3でハム子のヒーローアカデミア!   作:Cran

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ちょっとした短いエピソードです。おつまみ程度に。


閑話~行き場のなかった蒼い炎は何をくべとして暗がりに舞う~

 ああ、そうか、そうかと。

 

 見切りを付けたのはどれほど前のことだっただろうか。

 いや、そんな物語っぽい詠い出しなんていらないんだ。ただ、単純な話だ。俺が、お父さんの期待にこたえられなくって勝手に暴走して、そして勝手に死にかけて、よくわけもわかんねえ所に保護された、ただそれだけの始まりなんだから。

 

 俺は死んだと思われているだろう。それは確信があった。だって、お父さんは炎を強くする方法しか教えてくれなかったんだから、あれだけの火の中で、しかもお父さんや、頭に思い浮かべるだけで心が震えちまいそうになるけど、焦凍とは違って炎への防御力の乏しい俺が生きて帰れる筈もないんだから。

 

 それでも、いやそれだからこそ、俺は走ったんだ。あの施設から。

 

 俺が失敗だ、なんだそりゃ。そんなこといつだって自分自身でわかってて、それでもNo.1を超えられるヒーローになるって思ってたんだけど、それができる器じゃねえって。ああ、でも、信じたかった。俺が俺であったことに意味はあったって。俺はお父さんの期待に応えられるって。

 

 だから、走ったんだ。

 

 でも、どこだ、ここ。どうやって家に帰ればいい。そんなことばかり頭にあった。あんな、俺のことを知ってなお丸ごと受け入れてくれるような、あの気持ち悪い仲間たちがいた施設のことなんてさっさと放り捨てて、火祭りにしちまったあそこの仲間たちへの思いも至らずに、ただ走った。

 

「いや、どこだよ」

 

 なんとなく、京都とかそこらの旧都の場所を思わせる地域だった。馬籠ってのか。これが、金閣寺だのなんだのがあれば容易だっただろうけど、見つからない。だけど、京都っぽいと思ったら話は早かった。ひたすら朝日の方に向けて走ればいい。

 

 食いもんなんざ、川でも山でも海でもいくらでも捕れる。俺の個性の本領発揮だ。3年経ったとか言ってたか。継ぎ接ぎだらけの身体だとか言ってたか。()()()()()。俺の個性は俺のもんだし、失敗だろうが何だろうが食いもん食うには十分だ。冬美や夏に、カレー粉とか塗ったくったチキンを、上手にできましたってやってやってた俺を舐めんな。

 

 水ばっかりは個性じゃどうにもならなかったけど、公園に行けば良いだけの話だ。そうやって、ずっと、ずっと走ったんだ。すぐ疲れちまうから寝てる方が多かったが。途中でヴィランなんだか不良なんだか分かんねえのに絡まれたりもしたけど、炎を見せてやれば財布を出して逃げてく。それに気が付いた後は早かったな。脅して、服を買わせて、俺は公園で体を洗って、着替えて。それで電車に乗れば良いんだって気が付いたから。

 

 名前は色々な大人や、従えたアウトローどもにも何度も聞かれたけど、本名も言えるわけがねえ。俺がこの先、ちゃんとヒーローになるんなら、こんなカツアゲみたいなことをしていたと知れちゃ、足を取られる。だから、あらかじめ考えてはいた。

 

「イグニス」

 

 再生の炎だ。継ぎ接ぎだらけだろうが何だろうが、俺は復活した。保って1か月だって? 知らねえよ。どう考えてもあれはヴィランが作り上げた偽物の天国だ。……その時になって、あの子供たちが無事か気になった。感情は荒ぶっていたが、建物を燃やしはしても避難口は空けておいたし、無事なはずだ。でも、今後は気を付けよう。それはそれとして、あんな悪党どもが決めつけた最終期限なんて、それこそ、あの雄英高校の校訓に従うならどうだってことはない。俺のお父さんを誰だと思ってんだ。

 

 ほんの少し位の残り火だろうと、俺は再生してやる。だから、イグニスだ。

 


 

 道にも迷ったし身体も壊して休みながらだったし、まだ未熟な足ながら記録にしては早い方だろう時間で家にたどり着いた。覚えなんてありすぎるほどにある場所。もう1か月なんてとうに過ぎていたから、あの宣告なんてやっぱり結局どうでもいい雑音だったと思った。それでも、足は痛いし疲れていたし、何とか家に向かっていった。

 

 それで、ようやくたどり着いたけど、そこにあったのは、俺が死んだことなんて、まさか俺が死んだのが自分のせいだなんて思ってもいないだろう、()()()()()()の姿だった。

 

 これは効いたね。そうっかあ。俺には意味なんてなかったのかあ。俺が死んだとて、お前の行動を変える少しの薪にもならなかったのか。俺と同じように無駄な努力をして灰になるような奴はいなかった、なんて甘い考えはなかったって、そう俺に見せつけようってのか。

 

 端的に、俺の感情はそういった野性的なものに支配された。

 

 もしかしたら、その時に思うがままに全力で炎を放っていれば良かったのかもしれない。どうだ、3年掛けての再会ではじめての記念すべき親子喧嘩だぞ。相手はこれが死んだはずの息子だっていうオプション付きだぞ、ってさ。親父はもちろん、お父さんの血も強く受け継いだであろう焦凍なら耐えられただろうし、俺は自分の炎で焼かれて、良くて燃え尽きて死亡、悪くて火傷だらけで生存なんてことにもなっていたかもしれなかっただろうに。

 

 でも、俺は弱かった。自分が無意味だって知らされた、ただの死んだ餓鬼に、そんなことを思える余地なんざなかった。ただ、空っぽのまま荼毘に付されちまった自分も何もかも灰にしてしまいたいような黒く澱んだ熾火だけがあった。

 

 


 

 

 それで何をしてたかと言えば、裏社会の用心棒だ。

 

 殺しはしねえ。だって、まだ俺はヒーローの子供だから。銃弾だろうが下手な個性だろうが、なんだって燃やし尽くした。それで脅しゃあ、たいていしまいだ。駄目でも、相手の個性を含めて打ちのめせば良い。と言っても、基本的にはセーフティハウスで寝てるばっかだったけどな。

 

 頭ん中で思うのは、エンデヴァーたちのことだ。俺に意味がないのが現状だったら、せめてこれから意味を刻み込んでやろうかなって思っていた。そうすると、ヒーローの卵じゃなくっても絶対に目立つことだけはできない。ヒーローたちの情報力はよく知っている。町中の設置型のカメラはもちろん、自由にそこらじゅうを飛び回っている監視ドローンもある。加えて、そういったことを得意とする個性を持った見回りもいる。殺しひとつだけで、どのように隠蔽しても何がしかのきっかけで足は付く。なら、生かして脅して黙らせるのが第一だ。そんな堅実な思考に辿り着くための知識は、わざわざ自分から求めなくっても身に付いていた。俺のお父さんが誰か知ってるか、エンデヴァーだぞ?

 

 それでも、やはり、気になって。

 

 お母さんが俺のことで体調をさらに悪化させたことは焼け尽きたはずの胸にやたらと響いたし、冬美が懸命に家族を立て直そうとしていることも、今思えば恥ずかしいほどの甘えちまっていた夏が俺の代わりと言わんばかりにエンデヴァーに否定を突き付けていることにも。あと、俺と鏡写しのように拒絶を前面に押し出していた焦凍のことも、今、何をしているかなって思ってしまうくらいには、気になってしまった。

 

 だから、時たま、家を覗きに行ってしまうことは、どうにも止められなかった。

 まあ、そんな何回目かも数えていない、ある時の訪問のときだ。

 

 

 υ´• ﻌ •`υ

 

 

「なんだろうな、ありゃ」

 

 家の近くの小高い木の上から見た風景は、控えめに言っても苛めの光景だった。

 

 エンデヴァーこと轟炎司の屋敷には2種類の訓練施設がある。1種類目は、離れに設えられた完全に防火性能が整えられた大きな訓練場で、炎熱の全力に近い振り回しを許容できるもの。2種類目は引火や延焼を意識しながら細かい個性制御の技術を磨くための森林や市街地を模したもの。

 

 その後者で繰り広げられているのが、これである。自ら炎を出すことはせずに肉弾でのいなしや捌きに注力するお父さんに、三々五々に襲い掛かる男女複数名。

 

「ぐぬ。ぬぅ、ショートーォー! 一面を濡れた氷にするのは、やりすぎだろうがぁぁぁ!」

「安心しろ、姉さんたちはスケート靴だ」

「喰らえ親父、胡椒爆弾!」

 

 冷、とマジックでサインしたらしい張り紙がしてあることからお母さんが作ったのかもしれない、氷の膜で包まれたおそらく香辛料が入っていた風船状の玉を顔にぶつけられたエンデヴァーが悲鳴をあげる。そして、焦凍が作るものだけでなく、何やらやたらと屹立されていく氷筍に逃げ道を阻まれるお父さんが叫ぶ。

 

「お前は親子水入らずにして参戦しないと言っていただろうが!!」

「はい、なので環境整備だけですよ」

「ことごとく退路を塞いでよくも言う、ぐわ!」

「よし、轟ファミリーズ、フリーズからの一斉攻撃タイム!」

「殴る手用の保護グローブ置いておきました!」

 

 どのような個性かは知らないが、あたりを樹木ごと氷の牢獄にしていく茶髪の少女に、それに追随する金髪の少女。体よくエンデヴァーを拘束した後で展開されるのは、それぞれ参加者一発ずつの折檻である。

 

「巨人の星どころじゃないのよ、このバカー!」

「ごぶ!」

 

 初っ端が長女であり妹のそれである。

 なぜか次がお手伝いさんであり、切々と、腰を痛めて引退するまでの、俺のことを含めた切々とした想いとともに、スリッパでエンデヴァーをはたく。

 

 それで、夏雄だった。

 

 彼は、エンデヴァーの前に立って、しばらく黙っていた。

 

 やがて、一言。

 

「何がしたかったかってのも、俺たちが期待通りじゃなかったってのもわかる。それについちゃ、俺のもんなんて、良いよ」

 

 だから、と俯けていた顔をあげる。

 

「これは、燈矢兄の代わりだ」

 

 

 υ´• ﻌ •`υ

 

 

 後のことはあまり覚えていない。夏雄が殴ったのかもなんだかよくわからない。とりあえずタコ殴りにしていたのは覚えている。

 

 そんなことがあった日からは、いまいち時間間隔も曖昧で、日常があまり日常とも言えないぐらいに過ぎていった。何回か開かれたあの対エンデヴァー祭りを観戦するのは楽しかったし、それを見ていたうえで、やたらと話題に出てくる自分が名乗り出て良いのか良くないのかもいまいち分からなかったし。

 

 ただ、お父さんもその他一同も、祭りは抜きとしても毎日、亡くなったと思われている俺がいるとされる仏壇に行くし、その中には、焦凍の良い仲であるらしき祭りの仲間の少女2人の姿もある。最初の光景とは比べようもないほどの苛烈ながらに穏やかな訓練の光景も見た。燈矢はこうやっていただの、そこで力を入れすぎて火傷をしていただの言う奴がいて、こいつ本当にお父さんかとか思ったりもした。

 

 おそらく、それは轟家の一同だけの世界に別のものを持ち込んだだろうあの少女たちが原因なのだろうとも思った。そうして実現される空間、つまるところ自分も決して無駄ではなかったのだと感じられるような家族を見ると、胸の中の猛火が熾火のように静かになっていくのを感じた。どこか傍観者のような気持ちだ。

 

 そして、想う。

 

――俺も一緒に遊びてえなあ。

 

 とは、出るに出られなくなった、フリーランスの裏社会の腕利き用心棒、通り名イグニスの目下の悩みであった。

 そんなとき、ある撃退対象が持っていた携帯端末であさっていたデータの内容を見とがめる。

 

「雄英高校へのお遊び襲撃の参加者募集。狩り対象は生徒たち。募集要項を順守してのゲームクリアで報酬がっぽがぽ……」

 

 首をかしげて、携帯を手先でもてあそぶ。

 

「これ、焦凍や公子ちゃんがいるとこだろ。なあ?」

 

 とっくに酸欠で気絶している木っ端ヴィランに問いかけるが、当然ながら返答はない。




荼毘くん、犯罪歴がないっぽいんですよね。なので、ヴィラン連合で開き直るまでは表社会には存在は隠れていることもありそうで。ある一定のイベント進行レベルまでは不殺でという解釈に。7年近く何してんだという話でもありますけど、まあ、死柄木君も世に知られてないですしね。

次は、また別口のエピソードです。
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