【再稿】ペルソナ3でハム子のヒーローアカデミア!   作:Cran

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更新が遅くなりました。

風邪とかでの私なり家族なりのダウンとかがいろいろあったりとか。また短期間ながら別件で入院手術が決まったりとかありはしました。でもエタってはいないのでオッケーですよね、きっと。
次はもっと間を空けずにいきたいのですが、ぐぬぬ。

評価に感想もいただけてハッスルです。やっはぁー。
実は、毎回5000字以上で6000字以下を目安にしているんですけど、現在の環境だと週に4500字くらいが安牌になっていたり。
毎日2000字くらい更新できる方々がすごいなあって思う次第です。

さて、予想も期待も裏切るような展開にはしたくないと思っていますが、どうなるかなと。できれば、予想は裏切り期待は裏切らないを通したいところです。


騒動の後と嵐の前②~なんでもできるを添えて~

 わ、た、し、が、来たー!!

 

 私が来た。そう、私が来た!!

 

 なぁんて、胸中でつぶやいても誰も聞いてくれるわけでもないので、何の意味もないのだけれど。私はまあ、率直にいって、イレイザーヘッドこと相澤くんの娘であるところの相澤少女による治療を受けるこの日を楽しみにしていた。

 

 なんでかって? 当たり前だろう、フレーズとして仕方ないし私自身もなりきらなきゃいけないから使い続けてきたこの私が来たっていうこれ、実際には本当に彼らが望んでいるときに望まれていた私が行けたことなんてほとんどないんだから*1

 

 みんなが望んでいる私は、最強の力と! 最強の速さと! 最強の防御力と! 最強の情愛と! 最強の親しみやすさと! 最強のええとあとはなんだっけまあ! そんな私なわけだしそうなってもらえるように努力したのはそうなんだけど。

 

 残念ながら、これまでの私はあの仇敵との戦いで、最強の一部分は体現できてもそれくらいで、時間制限との戦いとかを行いながらなんとか取り繕ってこなしてくるしかなかった。幸い、将来有望な後継者にこの()を受け渡すことはできたけれどまだまだ、名前も明かせない秘密な彼*2も卵だからこの残り火を使いながら、数十年をヴィランとの闘争に使ってきた経験値を原資に戦い、その戦う姿を見せ、そして魅せて、一連のなかで彼や彼以外の卵たちにヒーローとしての学びを与えて、時代を育てるという責務が残っている。

 

 責務を果たすにはいかんせん私がぱさぱさかさかさぼろぼろの雑巾だっていう事実が邪魔になる。だけれども、それをなんとかする術が見つかったかもしれない。となれば、私がウキウキウキウキランランラン*3となるのおかしくはないだろう!?

 

 まあ、あの日はあの日でいろいろあったし、ウキウキとばかりしていられるわけでもなかったけれど。雄英高校へのマスコミの侵入事件――の、皮をかぶせられた実際はおそらくヴィランによる何らかの工作事件。私はあのとき、姿を見せたほうが邪魔になるしというような理由で相澤少女とともに部屋に引きこもっているしかなかったけれど、相当な騒ぎになった。

 

 当日から様々な観点での調査、検査が行われたけれど、破壊工作的なものはなかった。

 

 ただ、情報の窃取、そういった意味では、私のやらかしが発覚したときでもあって、我ながら情けなさでフルパワーで穴を掘って埋まりたいくらいだったよ。HA…HAァ……*4。インターネットはいまだになれないけどね、私がインターネットに接していたときにはみんな、自分の名前とか住所とか、ぽいぽいって出していたものだけど、いまはそれはいけないらしい。特に、ヒーロー事務所とか、情報が武器や防具になるところではなおさらだって。雄英高校もいわば大規模なヒーロー事務所の卵バージョンみたいなものだし、ヴィランからすれば宝物庫のようなものだから一層の注意が必要なんだ。いやね、そうなんだって。Sorry、知らなかったよ……。アメリカでも実はそうだったのかもしれない、全部、彼に任せていたからなァ。私は、そう、根津校長にも相澤くんにもあとなんでかわからないけどエンデヴァーくんにもめっちゃくちゃ怒られたんだ。

 うん、エンデヴァーくんはいつも真面目だよね、私が道を誤ったときに指摘してくれそうなヒーローはキミくらいだと思っていたよ、でも、いまは根津校長しかりリカバリーガールしかりイレイザーヘッドしかり増えてそうだけど。うれしいことだと納得しよう。

 

 そんなことなどもあって、私は針の筵の味をかみしめながら、週末を待っていたわけだ。侵入事件のことを考えて、雄英高校内の相当に警備が厳重な場所での相澤少女による治療のときを、さ。

 

 そんな感じでわきわきとしたFriday! 今日はヒーロー科のB組の授業だったんだけれど、これが臨時のカリキュラムでね。それを踏まえたいろいろとした授業内容の変更の検討とかもあったからね、困ったことだけれど。実際問題、戦闘訓練の実行はA組よりも遅くなってしまったからね。彼らにとっては憤懣やるかたないところがあったという感じだったし、それもよくわかるよ。後回しにされているんじゃないかって、そりゃあそう思うに違いない。ただ、そういった突然の例外的なものも含めて飲み込みながらやっていくのがヒーローだからね、頑張ってほしい。

 

 まあ、そんなこんながありながら、私も学内の専門の場所に移動したわけだ。大体、学内にいるときの休養場所に近いから慣れたもんだけど。それで、もはや私の家みたいな部屋に入ったのだけど。

 

「Oh……」

 

 何かの覚悟がガンギマリの相澤少女およびリカバリーガールにイレイザーヘッドなどの臨戦態勢な雰囲気の出迎えだったというね。いや、おじさん、ちょっと寿命が縮むかと思ったよ!

 

  

 υ´• ﻌ •`υ

 

 

 その部屋は、滅菌処理のされた空間となっていた。開腹手術など当たりまえ、瀕死の重傷を負ったものでもなんとか命ばかりはつなぐことができるように考慮された施設であり、リカバリーガールの肝いりの場所だ。

 

 何しろ、ヒーローとは死と隣り合わせの場所だ。そして、雄英高校はヒーローを輩出することについての最高峰といってもいい。となれば、生徒と死が隣り合わせということでイコールとなる。それを、さて、彼らを教え導いてきた教師たちは、そして、養護を担当するものたちが気にしないかと問われたならばそんなはずもない。

 

 リカバリーガールは、彼女しかできない医療行為でカネもコネも築き上げてきていて、結果として、ひとつの国立学校の中に、国内を代表とする医療機関に迫るほどの設備も人員も用意するに至っていたのである*5

 

 そんな彼女がいるなかで――。

 

「必ずちゃんと活用できるようにするからね……」

 

“カエルの皆さんのお墓”

 

 と銘打たれた部屋の隅のスペースに手を合わせる、オールマイトがいろいろと託すことに決めた少女が手を合わせる姿を見た彼は、いつもどおりに血を吐くのであった。

 


 

「さておき」

 

 専用の衣類に着替えてある、主役の患者こと八木としてのオールマイトに、主役を癒すための相澤公子、医療者としての主治医リカバリーガール、いざというときのストップ役兼助手のイレイザーヘッド、専用服をあつらえた見届け人の根津校長。その中で、口火を切ったのは公子だった。

 

「今このために、私はたくさんのカエルさんを薪としました」

 

 希代の英雄への治療前のセリフとしては極めてふさわしくないやつである。

 

「大体、2日で100匹になる犠牲です。最終的にここまで108匹ものカエルをつぎ込みました」

 

 実験の単位として、1カエル108匹としてもいいかもと付け足す。まあ、きっといろいろとあったのだろう、思うところが*6。なお、カエルを実験として公子が所望したのは、内臓の仕組みが人体と似ていると聞いたからというだけに過ぎず、別の何かでもよかったはずではある。

 公子が医療者の資格者であれば人体の剖検もあり得ないことではなかったかもしれないし、無資格者でも何か融通を利かせてもらうこともできたかもしれないが。あいにくと、未成年の少女にそれをさせようと思う大人は幸か不幸かはともかくここにはいなかった。まあ、人体の剖検も慣れなければいろいろと難しそうだし、すんなりとはいかなかった恐れもあるので、いいところに落ち着いたというべきであろう。

 

「さておきまして。改めてですけど、八木さんの治療は、リカバリーガールに全身麻酔からの切開をしていただいてから――」

 

 この言い回しの理由は単純だ。するのは彼女じゃあないので。

 

 切開は、治療にあたっての現在のナチュラルな中身の状況確認もそうだし、公子による治療がうまくいかなかった場合の補助のためにもそうだしということで必須だ。そのあたりの医療的なものは全部、リカバリーガールが行う。聞いたところ、ここにはいないそうだが、待機している医療スタッフが出張るらしい。つまり、あくまでも公子が行うのは最初の部分のみ。ペルソナを使用した、個性での治療だ。

 

「というわけで、患者さんの身体に、いまの自分の身体がおかしい状態だって認識してもらうことが一個目、そのうえでおかしくない状態に回復してもらうことが二個目で、それらが問題ないようにするのまでがそろって治療です」

 

 公子の力、いや、ペルソナの行使する特異な力でも古傷は治せない。それは、彼女の先輩にあたる少年が己の傷を勲章として誇るかのように貼っていた絆創膏の下にいつまでも傷跡が居続けていたことからでも明らかだ。治っていないことが正常であると考えている身体には、治れと念じても変化は起きない。それが一番難しくて、ある意味では単純なことだ。それの解決法は想定でしかなく、例えば、古傷の部分をえぐって治しなおすとか、身体に今の状態が実は異常なのだとわからせるだとか。

 

 今回、公子が選択したのは、後者だ。状態異常を癒す万能の力をもたらしつつ凝り固まった患部を除去し、正気に返った身体を癒す。まあ、言葉にするならばそれだけだ。

 

 問題として重要なのは、公子が取り扱う力が、少なくともいまの彼女にとっては大きすぎると思われること。

 

「予定どおり、私が気を失ったりしたら、そのときの最善でお願いします」

「これも繰り返しの補足ですが、中途半端に治療が止まったら、こいつ以外の介入が必須です。リカバリーガール、公子の秘匿性を維持しながらの対処、頼みますよ」

 

 ただ、その問題は患者本人と、治療を行う本人の、「やってみてダメだったら考える」のそれが一致したことによって、仮に100回やって99回失敗しても、1回の成功があれば十分じゃん。だなんていう非常に大雑把な治療方針が決まったことによって、解決とはいわないが問題とされないこととなった。

 

「では。始めましょっか」

 

 あっけらかんとした、本日の主役の声掛けによって、治療は開始される。

 

 

 υ´• ﻌ •`υ

 

 

(うん、まいったな)

 

 公子は、これまでの日常では考えられないくらいに、気持ちを落ち着けていた。

 目の前には、リカバリーガールによる医療介入のもとで眠りにつく、八木、実はその中身がオールマイトの肉体が横たわっている。

 

 すでに、彼女の背後には、【アムリタ】のために招いた女神、≪ラクシュミ≫が少し所在なさげにたたずんでいる。召喚した時点で、公子にかかった負荷は想定どおりに非常に過酷なものだ。だが、それ以上に、そこから【アムリタ】を行使するにあたってのところで向かい風のように押し寄せてくる圧に、少しおされていた。

 

(なんだろ、これまでがベニヤ板を砕くような治療だったとしたら、防火壁みたいに立ちふさがる障害がある感じ)

 

 正体は不明だ。不思議なまでの多人数による、退くまいとするような意思がある。

 

 でも、ここまで来たら、やるしかない。

 大丈夫、彼の命をつなぐために使われたさまざまな医療環境はここにある。自分がもしも失敗したとしてもなんとかなるはずなのだから。呼吸が止まっても人工呼吸器があるし心臓が止まっても無理やり動かせるはず。たぶん。

 

 何より、ここでくじけたら、亡くなった数多のカエルさんの命に申し訳がない*7

 

 そういったわけで、発語する。

 

「【アムリタ】」

 

 奇跡の名前であり、それを行使する指示、それに応じて、豊穣をつかさどる女神がその携える壺を掲げた。

 

 同時に、数多の光が八木氏に降りかかる。

 

「うっ……くっ……」

 

 同時に、強烈な抵抗が公子に襲い掛かる。

 

「うぐ、ぐ」

「――公子!?」

 

 それは、彼を彼本体のものに戻そうとする、肉体そのものではないゆえんの力があり。それを戻すなと抵抗する力があり。

 

 それとは同時に、彼自身の肉体による抵抗もありながらも、治癒には従おうとする力もあり。

 

「ぐ、ぐ、ぐ」

 

 主張する要素は二種類。肉体が本来に戻ろうとしている。それなのにそれを阻もうとする、これはなんだろう。

 

『――』

 

 何かを訴えかけてくる、これはなんだろう。

 

『――!』

 

 抵抗がありながらも、八木氏の臓器が覚えてしまったかたちを、それは本来あるべき姿を思い出そうとする。同時に阻もうとする力は、だが、阻む? 違う。阻んではいないがこちらの干渉に対しては完全に受け入れるというものではない。

 

「ラクシュミ、もう少し、強く……」

「――!」

 

 ペルソナ、そのものに語り掛けたことなんてこれまであっただろうか。なかったような気がする。でも、いまは彼女の神性に頼りたくなった。何しろ、これまで治療にあたってその対象に抵抗されたことなんてなかったのだ。

 

 そうすると、無機物めいたラクシュミの表情に血色がにじむように、うなずきを返すと、再び、光を放った。

 

「【アム――】、くっ、【――リタ】ぁ!」

 

 抵抗する力と抵抗そのものとは違うがやたらと堅い力、そこに、公子とラクシュミの放つ力が、癒すというひとつの力として働くのではなく、分割されるようなあいまいな手ごたえとして分かたれていく。

 

(ちょっと、これ、予想外、ダメ、まずい。どっちかにしないと、ダメ)

 

 前の世界で思うさまに使いこなしてきたラクシュミの力だったとしても、まだ、今の公子の器に使いこなせるものではない。それは、本来は気づいていてしかるべきだったかもしれないが、気が付かず、いま思い知らされている。いまの彼女には召喚すらできないはずのそれを、体力や気力を代償としながらもここに顕現させられているのは、前の公子がそうできていたという経験と染みついた感覚があるからこそで、あとは単純に、このペルソナと称される存在に彼女が愛されているからとでも表現できるほどに彼女が特異な性質を持っているからということなどもある。これは、青い部屋の住人をして“ワイルド”と称される、彼女とその双子の弟が持つ、何かしらの意義なのだろう。

 

 それでも、思った以上に持っていかれる精神力に生命力に、抗いながら公子は指示をする。

 

「まず、堅いの!!」

 

 ラクシュミが、手を掲げる。

 

 ラクシュミと合わせて掲げられた手のその震えに、治療自体をやめさせるかどうかと葛藤する消太をよそに、八木氏を囲む光輪が強い光を放つ。

 

 直接は手を使わずに、ただチェックに専念していたリカバリーガールが、少し肩を震わせる。

 

「……なんだい、こりゃあ……」

 

 最初からもこれまでもずっと見守り続けたバイタルが、それに目視もできる体内の状況が、リアルタイムで変化していく。堅く引き締まってしまった臓器が、まるでほどけてゆるんだように、うごめきを始める。それはおのずと広がって、死んでいたはずの血管の動きもそうで、次いで行われるのは――。

 

「輸血を行うよ!」

 

 リカバリーガールが発語する。

 もしも想定したとおりに臓器の動きが再開できるなら、そこに必要なのは考えるべくもない。通るべき道に、命の循環を働かせるために少ない血液が流れようとする。でも今はまだ受け皿が完ぺきではない。

 

「次いで、あ」

 

(サマリカームを、えっと、あーっと、誰だっけ、ええと)

 

「……公子?」

 

 医療用の装束に身を包んだ父が、手袋ごしながら手で体を支えつつ、心配そうにうかがってくる。

 

(抵抗が、まずい。ラクシュミを呼ぶ時間が長すぎた)

 

 ペルソナは実は、一瞬だけの顕現に収める必要はない。だって、常に存在するものだから。だけれど、その力の発露には別のものを費やす必要がある。等価交換、そんな言葉では足りないが、似ているものが必要だ。直感は、もうやめておけと告げてくる。何より頭が痛い。気持ちが悪い。このまま横になりたい。

 

 でも、いまそこに横になっている、八木氏。無力で、何の意思も表明することもできない肉体で、どうしようもなく、どうしようもない様子で。

 

 どうしたって、思い出す。

 

 あのときの。

 

(荒垣先輩)

 

 あのときみたいに、夜時間が壁になるようなことはない。なぜかは知らないが、いまはいつでも力を使えるのだ。いまここで、治療をやめたときの影響は分からない。八木氏に対して、治療が可能と判断したあのときの自分の直感は少し違っていたようだが、たぶん、抵抗なんて想像もできなかった状態だったから致し方ない。

 

 少なくとも、アムリタは何とかうまくいっている。抵抗があった部分はあるが、そこが何か邪悪なものとでもいうべきか、身体に害をなすようなものではないというのはそれこそ直感で分かった。なら、まあ、まだなんとかなるだろう。

 

「【ニギミタマ】」

 

 呼ばわるのは、人々の穏やかな心を象徴する、静かな精神のかたち。

 優しい、土に描いた笑顔のような面持ちのそれに、細い声で指示を出す。

 

「公子!」

 

 予定では、【サマリカーム】のためのペルソナを召喚するはずだったが、そこで今度は公子が膝をつきそうになって、消太に抱えられる。予定したその術だと行使すらままならないので、より細いながらも確かに命をつなぐための力を呼び起こす。

 

(100じゃなくても、0()より1(瀕死)はずっと違う)

 

 1なら治せる。

 

「《リカーム》」

 

 呼ばわって、ニギミタマがあたたかな光を八木氏に注ぎ込んだのをおぼろげに見届けて、公子は意識を手放した。

 

  

 υ´• ﻌ •`υ

 

 

「ん……む……」

 

 やたらと寝た気がするね。

 

 ええと、私は何をしていたんだっけ。

 

 ふむ。ふむ。……眠い。これは久しぶりの本当の眠気だ。何しろ、この数年は、痛みとか息苦しさとだるさがお友達だったから、眠気なんて感じる余裕がなくって、つまりいまはそのへんが解消されている状態なわけだ。だなんていうことにすぐに気が付く。まあ、そりゃそうだね、自身の日常との違和感にすぐに気が付かなきゃいけないのが私だから、目ざとく気がつけるってわけさ。

 

 ごろりと体を横に倒そうとして、固定されていることがわかる。

 

 おっと?

 ああ、そうだな、思い出してきたぞ。私は相澤少女の治療を――。

 

 おお。

 

「……」

 

 点滴や血圧計がついたままの手で呼吸用のマスクを取っ払って、大きく息を吸って、吐く。

 

 悪くないね。

 

 妙なものをおなかのあたりに感じる。これは、もしかしたらもしかするんだろうか。

 

「――!」

 

 そんな動きに遅れて気がついた、すぐそばで待機していたらしいスタッフや、リカバリーガールたちが寄ってくる。うん、中に相澤少女の姿は見えないね。事前に、力尽きて眠ってしまうということは聞いていたけど、やっぱりそうなんだろうか。

 


 

 

「――ということだよ」

 

 リカバリーガールが曰く、治療に際し、彼女の力である“ペルソナ”を使うにあたって想定以上の気力や体力が必要だったのと、それ以上に想定を上回るほどの私の身体からの抵抗があったこともあって、治療はできはしたけれども不完全になった、ということだった。

 

「Hmm……」

 

 不完全、でもそれでも。

 

「あ、あー……、ぁー。あーあーあー」

「オールマイト?」

 

 リカバリーガールの肩に乗っている根津校長が気づかわし気な声をかけてくる。いや、心配しなくていいんだ、これはまだ麻酔が抜けきっていないだろうところに、それでも妙に活力にあふれた身体で喉がどこまで働いてくれるかを確認しているだけだから。

 

 すぅっと、息を飲んで、気合を入れる。いや、違う、水流を押しとどめている、いまにも突き破られそうになっている堤を開くような感じだ。

 

「フン!」

 

 この感覚だ。一日の時間制限の中で気張りながらなんとか維持している、本来の最盛期の私の姿を気合で再現した姿ではなく、故意に冬眠状態のように抑えている身体からもとに戻ることができたような感覚といえば、もしかしたら誰かには伝わるだろうか。この数年の擬態がマッスルフォームで真の姿がトゥルーフォームなのだとすれば、いまは消費を抑えるためのやつれた擬態の姿があって、いまの姿がトゥルーフォームなのだと、伝わるだろうか。手術を始める前の私にも伝わるだろか。

 

「おーる、まいと」

 

 医療スタッフがつぶやく。あれ。よく見れば、そして感じれば、そこにいるのはナイトアイかい。なるほど、秘密にはしていたけれども、私の治療となったら、きみの耳に届かないことなんてないか。であるなら、きみには伝わるだろうね、感じられるだろうね。いまの私が聖火の残り火しか携えていなかったのだとしても、きみやみんなが知ってくれていたときの肉体にほど近いものを取り戻せたのだということを。

 

「やぁ、ナイトアイ。久しぶり」

 

*1
自虐が過ぎる悪癖の好例。10000に応えられるが、うちの何パーセントかを取りこぼすと理解するのが正しい。でも、ナチュラルボーンヒーローとしては許せないという。

*2
心の中の声でさえ、すでに性別がばれていますよ。

*3
ピッチピッチジャッブジャッブランランランと比べるとしたらその語呂はどうか。似たり寄ったり?

*4
どこぞのヒーローもどき絶対許さないマンではない。

*5
それこそ呪文の“ホイミ”やら魔法の“ケアル”やらできないでもない限りはリカばあちゃんの個性は随一だろうし、彼女の場合は医者としても高い実力がありそう。年齢もあって、それくらいはできるじゃろという。なんなら、現政権の首相の主治医とかでもおかしくないかなって。

*6
某少女「私も思うところがないわけではないのよ」

*7
某少女「気遣ってくれて嬉しいわ」 某英雄「私の回復にも言及してほしいなっておじさんは思うんだけど!」




「――死柄木弔」
「……」
「弔」
「……ん?」
「またその名簿を見ていたのですか」
「おう」
「オールマイトの予定はすでに把握しているのでは?」
「おう」
「……死柄木弔」
「……」
「初恋ですか?」
「ハアァァ!?」
「間髪いれませんでしたね」
「壊すぞお前」
「それくらい焦がれているというのであれば、彼に情報でも頼めばよろしいでしょうに」
「焦がれてるとかじゃねえ」
「じゃあなんなのでしょうか」
「知るか」
「胸はいるときに痛いのですか、いないときに痛いのですか」
「なんでお前今日はぐいぐい来るんだよ、キャラ違わないか」
「あなたへの専属として指揮権が移譲されたことへの喜びの表現です」
「あん? 一時移譲じゃないのか」
「そうですね、『今回、弔へのテストを行うにあたり、僕の指示によらずにきみというジョーカーをどう動かすかも重要なポイントだからね、弔の保護者を命じるよ。随時指示に従い、時には叱るといいさ』だそうです」
「……それ、権限移譲とは少し違うんじゃないか?」
「フフフ、曖昧なものいいをするほうが悪いのですよ」
「……ここ、盗聴やら盗撮系は撤去してるはずだからいいけど。お前も、大概先生のこと嫌いだな?」
「何かむかむかするところがないかといえばあります。それに、貸し借りの間柄を除いて、あれを好きなものがいるとでも?」
「納得した。お前、いい共犯者になれそうだ」
「死柄木弔が把握している以上に設置されている盗聴系はありましたが、それも偽装済みです。それについての称賛の言葉を早速いただきたいものですが」
「死ね」
「ありがとうございます」




黒霧さんのキャラはつかみにくいですけど、とにかく弔くんが大事な方。置いてけぼりにされた弱い子を放っておけない方という性質は持ちつつ、というところはわかりますが。本作ではちょっとわたしのかんがえる黒霧さんなので解釈違いとかあるかもしれません。

なお、オールマイトは完全復帰じゃないです。ハム子ちゃんが考えていた治療は予定通りにはいっていません。でもこの人本来の1%だけでもヤバいんですよね。
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