【再稿】ペルソナ3でハム子のヒーローアカデミア! 作:Cran
お気に入り登録や誤字指摘、ありがとうございます!
それから早々と時は過ぎ、迎えた週末。
予報は特に当初と変わることもなく、外は明け方から降り出したそこそこ強い雨に濡れている。
「風も強いし、桜もだいぶ落ちちゃうかな」
「今年はだいぶ残ってた方だろ」
そうかもねーと軽い会話をしつつ、公子は轟父子を迎える支度を確認していた。
当初は公子が焦凍を迎えに行って家まで連れてくるつもりであったのだが、炎司が車を出させる*1ということで、不要となったので、支度が終わってから実際に客人が到着までの少しの間は暇になる。
時間が足りなくて急いで物事を片付けるようなのはごめん被るが、ただ何となく時間が過ぎるのもどこか落ち着かない。
消太の方は気楽なもので、通勤の時にもおなじみのヒーローコスチュームを着用した状態で、持ち帰ってきた仕事を進めている。
何やら眉間にしわが刻まれているのに気が付いて、また生徒さんのことで厄介ごとでもあったかなと注目する。
「あのアホはまた……復籍が伸びかねねえっつうのに……」
声をおさえているつもりのようだが、公子イヤーは地獄耳である。
(予想的中。生徒さんのことだったなぁ)
あーあと天井を見上げる。除籍の大ナタをばっさばっさと振るっていることを最初に山田から聞いたときは自分の父親は鬼軍曹か何かだったのかと少し思ってしまったものだが、あれこれと聞くにつれ、雄英高校に入学できはしたもののヒーローという半端では務まらない仕事に就くには覚悟や実力が足りないような、ヒーローになったとしても敢え無く死んでしまったり立ち直れないほどの挫折に見舞われたりしかねないような生徒に対して、早々に現実を突きつけることで早々に進むべき別の道を見出させるための、どうやら消太の思いやりであることにやがて気が付いた。
(復籍が云々っていうことは、見どころのある生徒さんなんだろうな)
なので、覚悟が足りないものは覚悟を決められること、実力が足りないなら血反吐を吐いてでも実力を身につけるか身につけるための道筋を定めることなどといった、ヒーローを目指していけるだけの何かが示されれば、除籍権限とあわせて与えられている復籍権限をもって、復籍させもする。今回のぼやきの内容からすると、この事例のどちらでもなく素行関係の問題があったのかもしれない。ヒーローは法の番人ではないが秩序の番人たる姿も求められているため、無資格での個性の使用などはもちろん、風紀を乱すような行為でも謹慎や停学のみならず除籍の対象にもなりうる。
そういった生徒の人生に直結するような特別な権限が与えられているからには、消太にも相応の責任が生じるわけで、必然的に業務量は増える。それで、こうして来客が来るまでの短い時間でも寸暇を惜しんで仕事をすることになるのであった。
「お父さん、コーヒーでも入れようか?」
「いや、予定通りならあと10分もないだろ。イレギュラーがあったなら連絡もあるだろうし、飲んでる時間まではなさそうだ」
現在の時刻は12時50分。来訪の予定時間は13時なので、確かにコーヒーを入れて、ゆっくり飲んでいるような余裕はない。
そこで、タイミングを見計らったようにインターフォンが鳴る。
「ぷふっ」
来客確認の画面全体に映されたのはエンデヴァーこと轟炎司が標準装備するむっつり顔のアップであり、その存在感と熱量にあてられ、公子はせき込むような音を立てて吹き出した。
υ´• ﻌ •`υ
「邪魔をする」
「……お邪魔します」
炎司と焦凍を室内に案内。ちょうどいい機会とばかりに季節外れになってきていた炬燵は片付けられているし、片付けていなくても客人を炬燵には入れられない*2し、炎司の肉体は物理的に炬燵には収納できない。
ということで、これまでは家庭での使用頻度が下がっていたテーブルに案内する。
「ああ、君がイレイザーヘッドの娘さんか。聞いているだろうが、俺がエンデヴァーだ」
「はい、はじめまして! 相澤公子です」
「うむ。イレイザーヘッド、そしてこれが息子の焦凍だ」
「轟焦凍です。親父がすみません。これは、姉からです」
「ああ、ありがとう。気にしないでくれ」
「公子も、悪ぃな」
「ん、大丈夫だよ」
着席する炎司を他所にして菓子折りか何かを渡してくる焦凍に、どこか同情するような目を返す消太。お世話になっているではなく、すみませんというあたりに少年が感じているであろう申し訳なさが伝わってくる。
公子はとりあえずお茶を配りつつ、なぜかスーツ姿の炎司と学生服姿の焦凍に対して、自分が訓練に備えてジャージ姿だったのは場違いだっただろうかと首をひねる。
「しかし、やたらと大げさな気がしますがね」
「む、俺も慣れているわけではないが、親同士での訪問というのはこういうものではないのか?」
「お見合いや入学の面接じゃないんですから。子供の友達付き合いの場にスーツ姿はないんじゃないですかね」
「お前とてヒーローコスチュームだろう、いわば正装だ。……しかし、焦凍との見合いか。ふむ、まずは個性を見てみなくては何ともいい難いな。見目は悪くないが……」
「おい待ておっさん」
すぐに訓練に入るんじゃないんだなぁと思った公子は、何やら妙な会話をしだした消太たち*3のそばを離れ、なんだこいつとばかりに半眼で自身の父親を見やっていた焦凍をソファに誘うと、そこでお茶と菓子をいただくこととする。
そうして、卑しくもヒーローランキングNo.2のエンデヴァー相手なら問題はないと判断できることからなされた、公子のある程度の事情説明を含めた雑談で、なんだかんだと旧交を温める時間となり、大体30分ほど過ぎたところでようやく訓練が開始されることとなった。
「私、先にいって準備しておくから、お父さんは炎司さんや焦凍に更衣室とか案内してあげてね」
待たされた分、地下のジムに向かう公子の足取りはそれはもう軽かった。
υ´• ﻌ •`υ
準備運動からの簡単な素手での組手から始まり、十分に体がほぐれたところで、「やりすぎないように」「個性の使用は認めるが、間違っても施設にダメージを与えるようなことはしないように」と、消太と公子で交わしているものと同様の約束事が交わされた対人訓練が開始された。
「“エンジェル”――【ガル】!」
そして開始初手からのペルソナ召喚。
「なっ!」
天使*4が呼び起こした風が、本来の使い方とは異なり、召喚主の背中を強く押す。
「危ねえ、そいつがペルソナか!」
「そっ」
風に押された勢いで一気に間合いを詰めながらの横薙ぎをすんでのところで躱す焦凍に、公子は自慢そうな笑みを寄越す。
「余裕たっぷりな顔しやがって。なら――」
床を踏みしめた右足から、瞬く間に冷気が立ち上り、氷筍が連なり重なり合いながら伸びて公子に迫る。
「わっ、危な!」
「まだだ!」
「ひえっ!」
横に飛び退く公子を追いかけるように氷の軌道が曲がる。声を上げながら薙刀を軸に宙に退避する、が、その動きを誘った焦凍が回り込んでおり、打者が投球を打ち返すかのようにタイミングよく掌底を放つ。そちらも、公子は腕で受けつつ、焦凍の肩を踏み台に飛び越えて、着地する。
くるっと振り返って、叫ぶ。
「初っ端から洒落にならないよ!?」
「見事に避けたじゃねえか」
「避けきれてないよ、冷たいよ!!」
「そうだな、今日は雨だから寒ぃよな」
「きー!」
公子の左腕はジャージごと凍り付き、薄っすらと水蒸気を立ちのぼらせている。突きを受けたと同時に凍結させられたのだ。
そんな立ち合いを、まさしく後方師匠顔で見ているのは、2人の保護者たちである。
「なるほど、あれが“半冷半燃”か。最高傑作だとかあんたがいうだけのことはありますね。あれも実戦だったら公子ごと凍らせることもできたでしょう」
「ふん、だがまだまだだ。使いこなせているとはいえんし、何よりあいつは頑なに俺の炎を使おうとせん」
焦凍と炎司との確執については消太も多少は聞いているため、あえてコメントすることはしない。
「しかし、お前の娘の個性、あれは一体なんだ?」
「いったでしょう。敵どもに目を付けられかねない、独特で危険な個性だと」
中途半端に近づくのも不利と見た公子が今度は中・長距離の間合いに切り替えて、ペルソナの技を見舞っている。
「来て、≪アプサラス≫――【ブフ】!」
「氷も出せんのか!」
「技の多さで負けるわけにはいかないからね、きみの氷と私の氷でサンドイッチからの、≪オモイカネ≫――【ジオ】!」
「ぐぁっ!」
退路を塞いだ状態での雷撃。
あいつ張り切ってるなと、生き生きとした様子でさらなるペルソナをかわるがわる繰り出す公子に、「楽しそうで何より」とつぶやく。焦凍が炎を使わない理由はともかくとして、公子も炎*5は出せるが、いくらこのトレーニング部屋が堅牢なつくりをしていたとしても、密閉空間で灼熱の炎はまずいため厳禁である。なお、双方ともに氷の建造物をこしらえ続けている様には、後の片づけを思って頭痛を感じずにはいられない。
「今のところ、5体か。ほかにもあるのか?」
「娘がいうことを信じれば、100は軽く超えるそうです」
「なんだと……」
「といっても、いまは10体程度が限界らしいですがね。記憶が戻れば使えるのか、それとも別の原因か……」
実は17歳だったらしいといったことは、さすがに根津など一部のものにしか明らかにしてはいない。身体の成長*6に伴って召喚できる数が戻っていくかもしれないといった部分については、触れないでおく。
「それでも非常に有用な個性だ。ともすれば、焦凍との子はまさに完全体とでも呼べる存在になりうる。今のままでさえ、サイドキックとしても……」
「今の年齢考えてから妄想してもらえませんかね?」
「何、悪い話ではあるまい。娘がいうには、既に2月には大量のチョコレートをもらっているそうだぞ」
「その辺のことは当人に任せることにしています。焦凍くんにも意見があるでしょうに」
「ふん、結婚の相手など親同士が決めるものだ。当人の意思など関係ない」
消太がちらりと見ると、むっつりと2人の訓練を見る様子は不動のものだが、目にはぎらつく何かが灯されている。
「俺は子育てには詳しくないですがね。まずそういうところが焦凍くんに嫌われているんじゃないですか」
「あれはただの反抗期だ」
「さようで」
「ともあれ、お前の娘は焦凍の訓練相手には申し分ないようだ。焦凍の我が儘で訓練が滞るよりもよかろう。今後は付き合いについてはすべて俺が許可しているものと思え」
「助かります」
いちいち来られちゃ面倒くさくてかなわんというのが消太の本音である。
結局のところ、焦凍の予想である「訓練への口出し」はされず、消太は知るべくもない*7、冬美の推測*8があたりだったようで、割と早々に炎司はマンションを辞していった*9。
そんなこんなで両家ご挨拶は終わり、それから公子と焦凍はこの場所でも、消太の都合がつくときは個性ありで、それ以外では個性なしで訓練をすることができるようになったのである。
短くなるといったな。それは間違いだった。
エンデヴァーとしては、焦凍が自分との訓練は頑なに受けないで自主練ばっかり行うような状態よりも、プロヒーローであるイレイザーヘッドの監督のもとで、炎抜きとはいえ個性ありの対人訓練ができる方が有意義だと判断しています。ついでに将来の嫁候補の青田買い。
次回以降、また出会いなどを行ったりしつつで、中学校生活は進んでいきます。
中学校時代で一番重たいのがこの辺りまで。折り返しを過ぎたところです。
早く雄英高校に行きたいような、少し怖いような心境です。