深夜の宵闇に潜む郊外の廃工場。長年と放置された一帯は錆びの臭いと霊的な予感に包まれており、今やならず者の巣窟として地元の人間達から忌避される無法地帯と化していた。しかし、そのブラックボックスは今宵にも、“何者か”によって文字通り粉微塵に粉砕される。
懐中電灯やサーチライトが飛び交う事件現場には、既に崩壊した建物の瓦礫を満遍なく照らし出していた。現場には十数台のパトカーが無造作に停められ、関係者が忙しなく捜査にあたっている。野次馬として集った近隣の住民にも話を伺っていく空間の最中にも、部下を引き連れた一人の警部はバリケードテープを潜りながらその言葉を発した。
「それで、状況は」
「はい。重傷者こそ散見されるものの、現時点での死者はナシ。病院に搬送されたその全員が事件発生当時この敷地に不法侵入しており、また、ここにあった廃工場を拠点にしていたならず者集団の構成員であることが確認されています。彼らは治療を終えた後にも逮捕されることでしょう」
「これだけの大規模な事故でありながら死者が出なかったのは奇跡か、それとも必然か……」
「と、言いますと?」
「悪事を働く連中が、運命の悪戯のようにこぞって生かされているこの現状。命を司る慈悲深い女神の気まぐれでもなけりゃあ、明らかに意図的な思惑が透いて見えるってもんだ。でなけりゃあ、“これだけ派手にやってくれながら”負傷した悪の団員全員が奇跡的に命を取り留めているなんて、出来過ぎているにも程があるからな」
スーツのポケットに両手を入れた警部が、ずけずけとした足取りで歩を進めながら前方の光景を眺め遣る。
……荒涼と呼ぶには人為的な、破損した鉄骨とコンクリートが無造作に積み重なった瓦礫の山。錆びの臭いは砂埃で掻き消され、過ぎ去った嵐の爪痕によって霊的な予感は振り払われている。超常的な恐ろしさよりも自然災害的な恐ろしさが勝る生々しい光景には、所々と隕石でも打ち付けたかのような不自然なクレーターも見受けられた。
警部の言葉を耳にして、部下は恐る恐ると訊ね掛ける。
「では、これは事故ではなく事件だと……?」
「仮にこいつをならず者の拠点をピンポイントで狙った事件だとして、お前ならこの状況をどう見る?」
「どう見る、ですか? そうですね……素人意見にはなってしまいますが、自分から言わせれば『正義を執行するヒーローが現れた』みたいな感じですかね?」
「俺の反応を伺いながら言うな。自分の意見には、もっと自信を持て」
「では、警部もその線で……?」
「どうだろうなぁ」
右手で顎をさする警部。曖昧な反応に部下が眉をひそめていく間にも、警部は言葉を選ぶように目を泳がせながら言葉の続きを口にした。
「……それは『英雄』か、はたまた『厄災』か。真相はどうであれ、こいつは“前兆”だと俺は睨んでいる。今の時点ではまだハッキリと言えないが、不測の事態には備えておけよ。そいつは備蓄とか心持ちとか、全てに言えることだ。ただ、現時点で確実に言えることが一つ。それは、俺の経験上……“そう遠くない内に何かが起こる”。こいつはその前触れで、何か大きなドでかい爆弾が、導火線に火を点けながら近くに潜んでいる証拠なのさ」
荒涼とした荒地に
今宵は満月の夜。いつにも増して巨大に浮かび上がった天然の衛星は、より一層もの主張を強めて月光を放っていた。まるで、外界の生物に“それ”の存在を知らしめるかのように、運命すらも超越する大いなる意思を匂わせるように、月は、光は、世界は、その鉄塔の
長身のシルエットからなるその人物は、腰辺りまで伸ばした白髪を分厚く束ねた大きなポニーテールを揺らし、焼け焦げたように禍々しい漆黒が裾に侵蝕する真紅のコートと胸元を開けた黒のシャツ、黒のストレートパンツに膝丈まである黒のロングブーツを身に纏い、両腕に装着された紅のラインが走る黒のガントレットと、ジャック・オー・ランタンを彷彿とさせる黒の仮面で、真紅の目と口を不気味に光らせながら鉄塔の天辺に佇んでいる。
その存在は今も、溢れ出る力を抑制するよう両手を開きながら実在していた。それは言うなれば伝承や神話に例えられるような幻想でも何でもなく、その存在は、否……“彼女”は、確かに存在していたのだ。
巡らせた真紅と漆黒の配色は、破壊の化身を想起させた。現に彼女という存在は、その空前絶後の力により天災をもたらす一種の象徴として、間もなく頭角を現す。これは、そんな女超人、後にも“