この素晴らしい世界に"元"呪いの王を! 作:蠅頭
数日が経った。
宿儺は冬将軍を倒した報酬十億エリスを手に入れた。
魔王軍の幹部より高額だがこれは長年、数百年にわたって危険な存在として君臨していたからこその金額だ。
宿儺はアクセルの街を探索していた。今回は目的がある。
宿儺の探知能力はずば抜けて高い。魔力を放ったソナーによる探知や感知能力の強化などが出来る。
それをもってすれば人外の魔力が幾つかあることにも当然気づける。
ウィズやアクアではない。もっと邪悪な類の魔力だ。
宿儺は何が出るのだろうかとおもちゃ箱を開ける子供のようにワクワクしながら裏路地に入る。
(ここだな)
着いたのはこじんまりとしたカフェの入り口前だ。
さて何が起こるのだろうかとワクワクしながら宿儺はドアを開けて中に入る。
「いらっしゃいま……せ」
店内にいた店員の一人が入口、宿儺に顔を向けた。
そこに居たのは端的に言うと痴女だった。
股間と胸だけ隠せばいいだろ見たいな服に頭から生えた悪魔の角。背中から生えた蝙蝠の翼。臀部からは先端がハートマークの尻尾が生えている。
いわゆる悪魔、しかもサキュバスと呼ばれる類のモンスターだ。
「痴女か」
その気配を感じ取り思ったよりは強くなさそうだと思いつつ宿儺は戦闘態勢に入る。
それに待ったをかける者がいた。
「ちょ──とまったぁぁぁ! スクナてめぇここに何しに来やがった!」
そう雄たけびを上げるのはこの街随一の屑として有名な冒険者ダストだ。
「何もこうもう、冒険者としてモンスターを退治しに来ただけだが」
「あぁん?! この別嬪さん方がモンスターに見えるって?! 目ん玉四つもあるのに全部腐ってんのか?」
「ふむ。なるほど……」
宿儺はこれまでのやり取りでおおよその事を悟った。
恐らくはサキュバスが冒険者を支配しているとか冒険者がサキュバスを奴隷として扱っているとかではなく共生関係を結んでいるのだと。
どうりでこの街に風俗街がないのに治安がいいわけだと宿儺は納得する。
だが、それはそれとして対悪魔戦闘を積みたいので殺す気は変わらない。
「邪魔するなら貴様から卸すとしようか」
宿儺は殺気を込めて言い放つ。
雰囲気が変わった宿儺に対しサキュバスたちは怯え、店内にいる冒険者たちは拳を構える。
この場合、正当性があるのは宿儺の方だ。
どう言いつくろってもサキュバスはモンスターであり人類の敵である。
この店としては冒険者に夢を見させ精気を貰う、という形で店を運営しているがこれに問題がないかというとそうでもない。
やろうと思えば悪用できるシステムだ。
冒険者たちから死ぬまで一気に精気を搾り取る。冒険者の夢に介入し悪夢を見せ続け精神を壊す。冒険者の夢から記憶を探り魔王軍にとって利になる情報を抜き取る、など。
無論サキュバスたちはそういったことをしてないがそう一度疑われればそれを晴らす方法はない。
嘘を感知する魔道具があるがあれは嘘から発せられる邪気や魔の気配を探知しているので存在そのものが魔である悪魔の場合全ての言葉が嘘判定になってちりんちりんなりまくるので意味をなさない。
「まぁまぁまぁまぁ宿儺さん、ここはちょっと穏便に行きましょうや」
そういうのはこの店に初めて来た冒険者カズマだ。
「小僧か。なんだ、俺を説得するつもりか?」
正論を言っているのは宿儺の方なので言い負かすことは出来ないだろうと宿儺は高を括る。
それを前にカズマは戦慄する。かつてこれほどまでに緊張する事態はあっただろうか。
ネトゲのギルドで大ボスを倒す前の緊張感にも似ているとカズマは意を決して口を開いた。
「宿儺さんもこの店を利用すれば、倒そうなんて思わなくなるとおもうぜ★」
それは半分ネタにも聞こえる台詞だった。
「……」
宿儺は童貞ではない。素人童貞ではある。
昔気が乗って適当な女をレイプしたことぐらいはあるが、一度っきりでたいして楽しめても居ない。
店に行くことなど出来るわけもなく、相手として万が居たがあれはあれでくさそうだったのでエンガチョしていた。
つまり宿儺は素人童貞マンなのである。だからと言って女体に興味はない。戦闘の方が万倍楽しい。
だが、と宿儺は少し思い至った。
「ふむ。この店はさきゅばすとやるだけの店か?」
宿儺はサキュバスに問いかけた。
それに大人の雰囲気を持つサキュバスが答える。
「い、いえ。この店は冒険者の方が望む夢を見せる、という店でして実際に私たちとセックスすることはありません。すると精気を吸収しすぎてしまうので……」
「夢、か……」
宿儺はこう思い至った。
──夢ならば己の望む敵との戦闘を思いっきり出来るのでは?
と。
かつて戦った八岐大蛇や五条悟。藤原北家直属の日月星進隊や五虚将との戦い。
この世界の平均値は低い。その代わり突出した存在……魔王軍幹部などが存在する。
技も力も使わねば錆びる物だ。ならば夢という形で研ぐのも悪くないだろうと宿儺は考えた。
「いいだろう。見逃してやろう」
「え、マジすか」
「その代わり人間に危害を加えない、それに加え魔王軍に協力しないという縛り……制約を結んでもらおうか」
その言葉に店主のサキュバスが了承した。
「わかりました。私たちは人間の害になることを一切いたしません」
悪魔という種族は根本的に人間に依存している種族だ。
人間のみが発する悪感情を糧にしている以上人間が絶滅すれば悪魔も当然絶滅する。
そのために魔王軍が繁栄するのは避けるべき事態だ。
「よろしい。今日は気がそがれた。じゃあな」
宿儺はそういうと店を出て行った。