カスなお姉さんとやさいせいかつ。   作:ひつまぶし太郎

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息抜きに下ネタ小説以外を書こうのコーナー。
テーマは夏とショタとお姉さんと初恋です。


第一章。カスなお姉さんと夏。
①ぷろろーぐ


 

「トゥトゥトゥトゥトゥトゥ───」

 

「こちら地球。こちら地球、聞こえますか?」

「ただ今、3月16日金曜日。午後10時31分27秒、28秒、29秒…」

「気温6度、星空、晴天、無風───」

 

「聞こえますか」

 

「こちら地球」

 

 

「ひとりぼっちのこの星は、静かなのにいつもうるさくて、どこか遠い世界のようで、まるでサンソがないみたいに息苦しいです」

 

 

「宇宙はどうですか」

 

「僕らのタマシイとカラダを無意味にしばる重力のないそちらの世界は、楽しいですか」

「苦しくはないですか」

 

 

 

「…こちら、地球」

 

 

 

「───誰か、助けて」

 

 

 

 

 

 

季節は夏。

セミは元気に鳴き喚き、何軒かに一軒くらいは風鈴が飾られていて、涼し気な音色を奏でている。

遠く風鈴の音を聞きながら眺める夏の街は、どこか全体的にいつもより青い気がする。

まるで街全体が夏という見えない大きな生き物に押しつぶされているようだ。

強い日差しと濃い日陰のコントラストに目がチカチカしてきているので、もしかしたら目のサッカクってやつなのかも、なんて思いながら、少年はしゃくり、と手元のアイスを噛じる。

 

それが最後の一口になった。

なくなったのなら仕方がない。

口の中で溶けて、喉元を冷たくて人工的な甘さの液体となった元アイス(230円)が通り過ぎるのを世の無常さとともに噛み締めながら、少年はコンビニの軒下から出る決意を固める。

 

普段なら近くの学校から賑やかな声が聞こえているのかもしれないそのコンビニも静かなもので。

夏休みなのもあるだろう、回りにはちらほら自分と同い年くらいの子どもがいるが、そもそも人が殆ど見当たらない。

 

気温は38度。

少年の体温よりも高い温度の世界は、少し先が陽炎によって揺れていたりするくらいには蒸し暑い。

少年は、あれが夏って生き物の足だよとどこかのカスなお姉さんに吹き込まれていたので、間違って踏み潰されないように普段から慎重に道を選んで歩いていた。

もしかしたら大人は踏み潰されたくないから外に出ないのかな、なんて。

嘘を信じ込まされている少年の純粋さを踏みにじるカスなお姉さんはやはりカスなお姉さんだった。

 

「…よし」

 

麦わら帽子を被り、虫取り網を背中にくくりつけ、虫かごを肩から下げ、浮き輪を腰の位置で抱えるという、夏としての作法があるなら百点満点な装いの少年は、丁寧にゴミ箱にアイスの棒と包装袋を捨てると、ガラス越しに目があった店員のお姉さんに頭を下げる。

その姿にキュンと胸を抑えるお姉さんに気づくこともない少年は、日差しの下へと飛び出した。

 

今日は、そろそろ短くない付き合いになってきたカスなお姉さんが海に連れて行ってくれるという。

珍しいこともあるものだ。

いつもはだいたいクーラーの効いた部屋に引きこもってるし、世の中への文句ばかりを垂れ流し、およそ生産的な活動とは無縁なお姉さんだというのに、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。

少年は疑問に思ったが、藪をつついて蛇を出す趣味はない。

些細な疑問を口にして、お姉さんにへそを曲げられてしまえば海にいけなくなってしまう。

 

───あのカスなお姉さんはけっこう子どもっぽいのだ、なんて小学三年生に思われてるとも知らずに、そのカスなお姉さんはルンルンで準備を行っていた。

 

この街に海はない。

なので、多少の疑問は捨て置いてでも連れて行ってもらいたい。

見たこともない、果てしなく広いと噂の海にはどんな生き物がいるのだろう。

変な虫とか捕まえようぜ!とウキウキだったお姉さんは、果たして虫とかさわれるのだろうか。

少なくとも。

二人そろって魚を釣るという発想がないあたり、海初心者丸出しだった。

 

やがて、息も切れ始めた頃に、見慣れた影が見えてくる。

派手なピンクのオープンカーにもたれかかり、サングラスをかけて、大人なお姉さんを演出するそのカスなお姉さんは、最近溺愛している少年の視線を釘付けにしようとして、胸もとを緩める。

 

「おーい少年!こっちの準備はばっちりだよ!」

「やった!さすがカスなお姉さん!遊びにくわしい!お仕事してないだけはありますね!」

 

ウキウキだったカスなお姉さんは、自分の胸元には見向きもせず、天真爛漫な笑顔で放たれた言葉のボディブローに崩れ落ちた。

実際のところ、カスなお姉さんはカスなお姉さんなりに忙しくしてるし、それなりに自分がやらかした過去に対してちゃんと向き合うために色々働いてはいるのだが、遊びながらでも余裕で仕事ができてしまう天災は、少年目線だと働かずにぐーたらしてる無職のお姉さんだった。

 

「…なんで私、最初にカスなお姉さんなんて名乗っちゃったのかなー…いや、正確には名乗ってないんだけどさ。あれだよね。ちょっと尖ってたからって、愚かなお前からの呼び方なんて気にしないけど?なんて言ったのが間違いだったよね…うん。そしたらまさかのカスなお姉さん呼び。世間的にはあってるのがまた辛いよ」

「どうかしましたか?」

「ちょっと世界の不条理とタイムマシーンの実現性について検証してたんだよね。少年はどう思う?」

 

どう思うと言われても、少年にはよくわからない。

時々このカスなお姉さんは意味のわからない話を文脈を無視して話し出すことがある。

最近ようやく慣れてきたとは言え、難しい話はやはりわからなかった。

少年は分数の計算すら苦手なのだ。

今から夏休みの宿題が憂鬱になるくらいには。

 

「…うん、と。よくわからないので早く海に行きたいです」

「そうだよね君はそういうやつだよね!まったくほんとに、少年は感謝しないと何だよ?私にそこまで不敬な態度取って無事なのって君くらいなんだから」

「…?ありがとうございます。それより、こないだかした300円とマンガ返してください」

「…私がカスなお姉さんだよ」

「知ってますけど…」

 

もしかして、海いかないのかな。

崩れ落ちて、コンクリートのシミになるお姉さんを見下ろしながら少年は考える。

現在気温は先程より少し上がって39度。

コンクリートの暑さは、スーパーで買ったお肉が焼けてステーキに進化するレベルまで上がってきている。

それを素肌で受け止めるお姉さんのイカれた耐久性に少年が気づくはずもなく、少年はマイペースに自分のリュックサックから保冷バックを取り出した。

 

「あの、昨日シスターに教えてもらってサンドイッチ作ってきました。カスなお姉さんといっしょにたべたいです、海で」

「…さぁいざいかん!海へ!なにしてんの少年!準備遅いよ!弾幕も薄いよ!ほら早く早く!シートベルトはいい?室内温度は大丈夫!?行くぜベイビー!」

 

気がついたら車にエンジンがかかっていて、お姉さんは運転席で少年に向かってサムズアップしていた。

まばたきで目を閉じる前は、コンクリートのシミになっていたというのに、とんでもない素早さである。

 

「…まだ車に乗ってもないです」

「たはー!お姉さん失敗!つい宇宙速度超えちゃったよ!ほら、乗って!お姉さんの膝の上でもいいよ!いっぱい抱きしめてあげる!お姉さんと夏の暑さで溶けて一つになろう!」

「助手席に、オジャマします」

「いやんもう、つれないんだから〜!でも、そんな少年も好き!だって照れてるもんね?顔真っ赤で可愛いよ!」

「…うるさいですね…」

「クーデレショタ最高ー!!!!ご馳走さまです!」

 

カスなお姉さんは時々ヘンタイなお姉さんになる。

少年は隣のハイテンションイカれ女からのセクハラを無視しながら、麦わら帽子の下から夏の青空を見上げる。

首が痛くなるほど大きく高く膨らんだ入道雲と嗅ぎ慣れないツンとした香りを運んでくる風に、少年は自然と胸が高鳴るのを感じた。

 

「ねえねえ少年!あの雲ちんちんみたいだねぇ!」

「だまってください、ほんと。カスなお姉さんはほんとにカスなお姉さんですね」

 

ちなみにカスなお姉さんが理性を取り戻すのは、海にたどり着いて頭から波にダイブしてからなので、相当あとの話だった。

 

 




まじもんの息抜き小説です。
いつか書いてみたいと思っていたISの二次創作に手を出しました。
しばらく原作には入らないしISのあの字も出ない、そんなゆるゆるな小説です。
行けて4巻まで、なんなら原作突入が最終回か、くらいのノリでお願いします。
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