カスなお姉さんとやさいせいかつ。   作:ひつまぶし太郎

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今回にて夏編終わりです。
いつもの倍くらい長いです。
対戦よろしくお願いします。
次回からは原作ありきの展開になるので、作品の雰囲気が変わるんじゃないかなぁと思います。


⑪たんじょうびぷれぜんとは(終)

 

 

自然に呑み込まれかけた廃村。

その一角。

元研究所跡地は今、刈られた草と夏の熱気と交じり合って生まれる独特な匂いが漂っていた。

 

ある意味夏の風物詩とも言えるその香りに包まれながら、少年は眉根を下げながら隣をちらりと盗み見た。

そこにいるのは、汗ばむ額を拭い、喪服の袖をまくりあげ、ズボンの裾やら膝が地面につくことも厭わずに草を刈ってくれている千冬だ。

あまりこういう作業は得意ではないのだろう。

かなり苦戦していたが、それでも黙々と作業を続ける姿には確かな誠実さがあった。

あと、はだけた胸元に強烈な色気があった。

 

「…すみません、てつだってもらっちゃって…」

「気にするな、()()。私が好きでやってることだ」

「そ、そうですか」

 

にこり、と。

初対面の女の人を前に、あと普通に気まずいシーンを見られていた気恥ずかしさでしどろもどろになる少年を安心させるように千冬が笑う。

 

そもそも千冬は、跳ねっ返りでシスコンな弟を持つ姉なのだ。

不器用ではあるが、多少は子どもへの対応の心得を持ち合わせていた。

 

少年はといえば、クールビューティの急な母性あふれる微笑みを前に赤面していたのだが。

 

「あー!ちーちゃんが少年のこと誘惑してる!」

「何をいうかと思えば…この程度で誘惑になるなら、お前のあれはなんだ…?」

「ヒィッ、ごめんってば!ちょっとテンション上がっちゃったんだって!というかむしろ私を誘惑してきた少年の方に問題があるよ!」

「束お姉さん…カスなお姉さんよびにもどしますよ」

「あ、うそうそ。ごめんなさい反省してます」

 

少年が呆れたように窘めれば、慌てたように束が取り繕う。

千冬は、新鮮な気持ちで幼馴染の天災の変わりっぷりを眺めていた。

最近は地元に帰ってきたのもあって、何度も顔合わせていたし、変化は感じていた。

 

自分のやらかしたことによる世界の変化を、仕方ないと切り捨てるのではなく反省する。

そして、自分が変えてしまった世界ときちんと向き合う。

そのための準備を、束は今日のために続けてきていた。

 

そんな急な変化だけを目の当たりにして、どんな出会いがあったのかと思ってみれば、なんてことはない。

 

「恋、か」

「…?ちーちゃんなんか言った?」

「いいや?」

 

天災も結局、人の子だったということだろう。

 

それよりも、もっとなにかおぞましい執着が見え隠れしているが、根幹にあるのは初心な気持ち。

恋心と同時に、性欲と独占欲と征服欲とが湧き出してきているのが問題だったが、さもありなん。

過去、一度も恋愛感情を抱いたことがない拗らせ女に自分の感情を操るすべはなく、執着はそこらの初恋では収まらない。

24年間熟成され、日の目を見る予定すらなかったどろどろの感情は、もはや天災がISを世に知らしめようとしたあの時の衝動と遜色ないと言い切れた。 

 

あえて低俗に例えるなら、今の束は思春期男子なのだ。

好意こそが性欲であり、間違いなく純粋な好意でありながら、それと同じくらい。

あるいはそれ以上に性欲を向けてしまう。

我慢できるはずもない。

ましてや、話を聞く限り何度もいいところでお預けを食らっているのだ。

もはや少年の貞操は風前の灯と言ってもいい。

少年が束の性欲に対してドン引きしながらも、拒絶の意思を見せないのも問題だった。

受け入れてくれる、拒まれないと分かっているのにどうして我慢できようか。

おそらく少年は、束に押し倒され本当にいよいよ食べられるとなったとき、抵抗せずに受け入れる。

そんな確信があった。

 

ついでに言うなら、新鮮なその情動は束にとって未知の快楽となり、依存症のようになっているが、千冬は見なかったことにすると心に決めた。

 

とりあえず貞操だけは守ってやるかくらいのほんのちょっとだけ少年への肩入れと、幼馴染に対する最低限の情が釣り合った結果だった。

果たして初恋は実らないというジンクスは天災にも通用するのか否か、見ものだなと千冬は笑った。

 

「…ふっ」

「あの、なにか…?」

「いや…ノア。君は苦労するな、と思ってな」

「僕の人生のくろうはだいたいお二方のせいなんですけど…」

「…い、言うじゃないか」

 

軽くからかったら思ったよりしっかりとした反撃が飛んできて、千冬は思わず言葉に詰まった。

 

もちろん、千冬は過去の行いに関してしっかりと頭を下げたし、少年もまたそれを許した。

だからといって千冬はそれでチャラになるとは思ってないし、今後は自分たちの行いを悔いる瞬間が何度もあるだろう。

今後はちゃんと少年に対する贖罪は行っていかないとな、大人として。

と、気を引き締めたはいいが、さすがに本人に直接冗談として言われるとどう返していいのかわからない。

 

なにせまだ出会ってほんの1時間ちょっとだ。

 

「…む。今のはちょっとイジワルな言い方でした」

「…良いんだ。むしろ、君はもっと言っていい」

「いえ、カスな…束お姉さんに対する軽口のクセでつい出ちゃっただけです。ほんとは、あんまり気にしてません」

「…そうか」

「正直、カス…束お姉さんと出会うまで、僕にとってうらみを向けるだれかっていなかったので…じっかんが、あまりないです」

 

少年は旅の途中で仲間が仇だと知ってうじうじ迷うタイプのキャラではなかった。

大事なのは、過ごした時間とこれからのこと。

過去は確かにその人の物ではあるが、それを全てと断ずる狭量さは少年になかった。

 

少なくとも少年にとって束は大切な思い出を共有する相手だったし、千冬もまた誠心誠意謝ってくれたし、両親の墓の掃除も手伝ってくれた、特段悪感情を抱く理由もない相手だった。

なんだか含みをもたせたからかいに反応してつい憎まれ口が出ただけなので、少年としてはむしろちょっと申し訳なさすらあった。

 

なんだろうな…良いんだけど、その。

むしろ素晴らしいことではあるのだけど。

君、本当に9歳か?

人間が出来すぎてないか?

と、千冬が思わず心のなかで呟いたあたりで、ようやく墓地周りの掃除が終わったのだった。

 

「よし、こんなものか」

「ありがとう、ございます」

 

宇宙鯨研究所。

墓石以外にはそう記された壁だけが残るその場所にも、花は芽吹いていた。

 

刈られた青草を攫うように風が吹き抜ける。

それに釣られるように見上げた空は、トンネルの向こうと同じ青空だった。

 

少年はそれが、たまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

「さて、少年」

「はい」

「改めて、誕生日おめでとう。私は、君のおかげでたくさん大切なものができました。君がいてくれたから、大切なものに気づけました」

「………はい」

「その大切なものの中には君も入ってるんだぜ?だから、少年がしようとしてたこと、邪魔することにしたんだ」

 

それは、貰いすぎだ。

独りじゃないと教えてくれただけで、もうこんなに胸はいっぱいだと。

少年は咄嗟にそう返そうとして、束にウインクと共に指で唇を塞がれる。

 

少年は今日、両親に宣言するつもりだったのだ。

十分大切な思い出ができたから、もう十分だから。

今後はもう一人でいい、と。

 

一人で勉強して、一人で運動して、一人で頑張って。

それでも結局ちょっと周りより賢い子どもでしかない自分は、きっと凡人で。

それでも、諦めたくないならもっと全力を尽くすべきだと思ったから。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

夢の実現に近道がないことを、少年は知っている。

だが、どうしたって少年の命には秘匿死刑という期限があって、足踏みはいつまでもしていられない。

なら、もっと茨の道へ。

険しくていいから、前に進める道を。

 

ボイジャーの解析を許しても、自分の身体と精神を解剖されても、それでも。

この煩わしい重力の外へ行きたい、と。

 

世界の悪意は少年の心を折ることには失敗したが、緩やかな絶望によって少年の未来は確かに捻じ曲げられようとしていた。

 

「世界が変わるところ、特等席で見ててね!」

 

だが、天災はそんな覚悟とは呼べない少年らしからぬ自棄を、横から蹴り飛ばす。

たった1年で諦めるなんてまだ早い。

少年には世界を変える力があると、そう確信しているから。

 

だから、天災は圧倒的な力を以てそれを証明する。

半信半疑な少年に向かって束は不敵に笑った。

 

「ぐふ、純粋な少年がお姉さん二人に分からせられちゃうんだよ?エッチだね。最高だぜ〜」

「最低なタートルトークやめろ」

「でも今ちょっと悪くないかもって思ったでしょ?」

「…なんのことやら」

 

 

 

 

「じゃんじゃじゃーん!世界の愚鈍で普通な皆さんこんにちはこんばんわおはようございます!見えてる?見えてないわけないよね!私今、世界に存在する全てのテレビとモニターとラジオを今ジャックしちゃってまーす!感度良好?あーテステス。本日は晴天なりーってね。はろー、私が天才の束さんだよ、よろしくしなくていいからねー?」

「そして、私…織斑千冬もいる。IS学園の代表として、だ」

「あ、もちろん病院とか車のナビとか、その辺はそのまんまだし、軍の警報とか緊急速報とかもちゃんと機能するよ?感謝してよね、普通への配慮を覚えた私ってば超優しい!素敵!これは少年のお嫁さんにぴったり、うんうん。いえーい束さん大勝利!」

 

少年が構える普通のビデオカメラに向かって話しかける束は、いつもと違って少し怖い。

天災としての束だからなのか、相手をおいていきかねないスピードでまくし立て、見下し、嗤っていた。

興味も、きっと向けていない。

だが、存在を認識する程度には天災も世界にチャンネルを合わせていた。

 

その変化による歪さは、束の不気味さをより濃くしていた。

天災に認識される、目をつけられる。

その恐怖を世界は現在進行形で思い知らされていた。

束が人類に興味を持っていなかったから好き勝手出来ていた悪党たちが、追い詰められる時間が来る。

 

堕ちた天災による、狩りが始まる。

 

「ちなみに、さっきまで流れてたとある少年の過去は見てたかな?見てたよね??見てなかったとは言わせないよ!やー、制作者の私も正直忘れかけてた原点を思い出した気分だよ。ねっ、少年!」

「…………えっ」

 

束の言葉の意味を一時停止しかけていた頭でなんとか咀嚼した少年の頬に、一筋の汗が流れる。

過去。

少年の過去。

思い当たる節は、一つしかない。

 

「…ボイジャー?」

【─────────】

「ね、ねぇ、ボイジャー!?」

 

少年にものすごい勢いで詰め寄られ、彼女は全力ですっとぼけた。

それが逆に少年に確信を与えてしまったが、ボイジャーは私は知りません、記憶にございませんという態度を崩さない。

 

嘘でしょ聞いてないんだけど!

と、珍しく普通に取り乱す少年を別のカメラで録画しながら、束は話を続ける。

ちなみに、少年の過去とはこれまでボイジャーが見てきた全てであり、辛い過去も、恥ずかしい過去も、ついでに少年と束の神社とかさっきの墓前でのやり取りとか、全部束が独断と偏見で編集して、もぐもぐタイム中に世界へ垂れ流していた。

 

なお、自分のセクハラシーンや少年のぐふふなお宝映像は自分の懐にしまい込んだ模様。

汚い、さすが天災兎汚い。

 

「さてさて、日本政府のみなさーん?この事実、どれくらい知ってるのかなぁー?知らなかった、なんて。まさか言わないよね」

「ここにあるのは、政府直々に発行された捺印のあるとある書類だ。知らぬ存ぜぬは許さないからな」

 

束の隣で千冬が掲げるのは『星見希空の秘匿死刑に関する取り決め』と書かれた紙一枚。

それを掲げる千冬の瞳には、本気の殺意があった。

 

「はーほんと、凡人が変革を怖がるのは仕方ないけど、これはないよねー。いくら少年が今の社会を揺るがしかねない存在で、それを隠蔽したほうが安心するからってさぁ…許せないよね!ぶっ殺したくなっちゃう!…まぁ、でも?今の束さんは、や、さ、し、い、か、ら、ねえ?」

 

ニヤア、と悪魔のように笑う束は、言葉を続けた。

 

「ISちゃんに、ちょっと細工しちゃうだけで許してあげるよーん。ま、みんな女子校育ちの箱入り娘だからねぇ、最初はなかなか難しいかもだし、私の言う事を聞く子ばっかりじゃないけれど」

 

たった3分。

たった3分だ。

 

「これからは、ISが人を選ぶ時代だぞっ☆」

 

天災は、カップラーメンのお湯を待つ時間があれば、世界を変えられる。

 

「…同時に、この少年は私達IS学園が保護することも決定した。異論は認めん。この子は、私達が守る。手を出してみろ」

 

そして、それに続くもう一人の頂点の迫力もまたとんでもない。

 

「潰すぞ」

 

こうして、世界は再び形を変えた。

 

ISは女性のみが乗れる兵器ではなく、ISに認められた人間のみが乗れるものになった。

もちろん、それはすぐに全てがひっくり返る致命的な変化ではない。

 

天災は学んだのだ。

すべてを一度に変えることは、最適解ではないのだと。

故に行ったのは、ISにロック権限を委ねること。

束が無理矢理女性以外も使えるようにしたのではなく、乗せる相手を自分で選んでいいという許可を与えただけ。

 

きっと、世界が心配するよりもずっと、これまで通り女性だけを乗せるISの方が多い。

なにせボイジャーのように心を持つISは例外で、ボイジャーになる前の打鉄のような拘りの強いISも珍しい。

まだ、ISたちには例外的な判断を下せるようになるほど強い自我はない。

 

「じゃ、ばいばーい!せいぜい主役になれるように必死のパッチで頑張りたまえよ、凡・人・共♡にひっ」

 

だが、これが大きな変革をもたらす第一歩なのは間違いなかった。

 

これから先、ISは『認める』という自己のアイデンティティを突き詰めていくだろう。

そのきっかけとなる共鳴は、コアネットワークを通して、ボイジャーが全てのISに伝えていた。

あとは、ISが勝手に育つ。

人類と共感した機械の心、その感応は止まらない。

現に少なくとも、少年を追い詰めたような大人は嫌いという共通認識はISたちの間で概ね出来上がっている。

 

量産機としての誇りを持ちこれまで通り万人を乗せるISもあるだろう。

今、誰かの専用機として活躍しており、これまで通り全く問題なく乗りこなせる機体もあるはずだ。

そして、悪人を乗せるISだっているし、逆に誰にも心を許さないISもいるだろう。

 

女性だから特別、はもう通用しない。

ISに乗る人間だけが特別視される時代も終わる。

 

ISを友人として扱う時代が、扱わなければ逆に扱えなくなる時代が、もうすぐそこまで迫ってきている。

 

男も女も、大人も子どもも国籍だって関係ない。

 

インフィニット・ストラトス。

誰もが無限の可能性を追い求め、誰もが自由な時代が来る。

彼女たちに選ばれるかは、本人次第だが。

 

「……………………………えっ」

 

世界は再び形を変えた。

たった一人、当事者の少年の心の準備を置き去りにして。

少年の心の優しさと、ISと心を繋ぎ合わせる特別さが天災を変え、その特異性を天災が増幅させたことで世界が姿を変えた。

映像を見た世界の一部の人間の脳が焼かれ、ボイジャーと心を通わせた経験が全てのISに変化を与えた。

 

まぁ、少年目線だとやっぱり世界を変えたのは自分ではなく束だったけど、そこはもう関係ない。

時計の針は後ろへは進まない。

 

少年は再び大きな時代のうねりに飲み込まれていく。

ついでに、世界中に少年の厄介ファンが発生しつつあるという事実は、絶対に認められない事実だった。

 

秘匿死刑の撤廃。

そして、世界をちょっとだけ優しくする。

 

天災からの誕生日プレゼントは、少年の予想とキャパを超えていた。

 

 

 

 

───さぁ、心優しき少年。

 

 

新たな時代へ、ようこそ。

 

 

 




ちーちゃんの誘惑とか、トンネルの前と後ろの青空とか、束さん思春期男子説とか、少年が緩やかに絶望しかけていたこととか、それを踏まえると束さんがヒーローすぎるとか、おねショタートルトークとか、天災が本気出すとこうなるとか。
最後は詰め込めるだけ詰め込んだ形になりましたが、なんとかここまでたどり着けました。
なんちゃってエモ小説がここまでたどり着けたのは、楽しんでくださった読者の皆様のおかげです。
本当に、心の底から感謝しています。
皆様の感想とか評価、ここすきが作者の栄養となりますので、是非今後もお慈悲を恵んでいただけたらなと思います。
匿名でも感想は投げれるので、気が向きましたらよろしくお願いします!
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