プロローグも終わったので、また文字数が戻ります。
「やーまさか間違ってボイジャーちゃんに『夏だよ!頭のおかしいやつ全員集合!ISでホラー体験!!』がインストールされてるとはねー」
「……………」
「いやいや、違うんだよ?これはね、違うんだよ…へへっ」
ちょっとね、怖い夢を見るっていうだけのソフトなんだから、やましいことは全然…ほんと。
ちょっとしかないんだから。
うんうん。
ちょっと深層心理の影響を受けたりするだけで…。
それで少年が私のいない寂しさに震えてたらいいなとか…ね。
へへっ。
思ってねなんかないんだから。
これはね、アップデートすれば見たい夢を見れるようになるかもしれない夢のような発明なんだよ、えへへ。
少年の無言に耐えかねたのか、聞いてもないことをペラペラとよく喋る兎を、どうしてくれようかと少年は頭を悩ませていた。
昨日の夜見た夢。
青空がげらげらと笑い始めた時、少年は心底肝を冷やしたのだ。
起きているときと変わらないレベルの自意識と動かない体。
空から降り注ぐ耳障りな笑い声と、時折交じる赤子の泣き声。
早く目が覚めてくれと、気がついてることに気づかれないように必死に少年は目を瞑っていたのだ。
あまりにも人の意志を感じる悪夢…というよりも、漂う異常な現実感。
その夢からようやく解放されたときに少年の隣で同時に起きた束が『すごい夢だったね!』とのたまった瞬間に、少年は珍しく掴みかかった。
犯人はお前か!と。
寝起き早々少年が自分の胸に飛び込んできたことに喜んだ束によって少年は逆に組み伏せられた。
自分の無力さを朝から噛みしめる事になった少年は泣いて良い。
「まぁ、でも。あの夢はほんとになんだったんだろうね?少年の不安の具現化じゃ絶対ないし、モニタリングしてた感じ、心のチャンネルが誰かとつながっちゃったのかな。少年の共感能力が暴発して、誰かからの悪意を受信…みたいな」
「……かす…束お姉さんにもわからないんですか」
「もしかしたら、いわゆるホンモノってやつだったりしてね!」
「…………………」
ぼふっ、と。
少年が投げた枕が束の顔に突き刺さった。
束すら理解不能なあの夢。
もちろん夢に常識が通用しないのはそうなのだが、あまりにもホンモノのホラー過ぎた。
普段の絵柄がのんのんびよりなのに、急に裏バイトになられても本当に困る。
怖かった。
本当に怖かったのだあの夢は。
しかも毎日見る悪夢に引きずられて、なんだか無駄にナイーブになっていたのも腹が立つ。
泣いてるからなんだ。
少年がやることは謝罪であり、必要以上に罪悪感なんて覚える必要はないのだ。
特にあの会長。
心であんなにぼろぼろ泣いていられても迷惑だ、いい加減泣き止ませるためにも謝罪という言葉で殴り倒してやればいい。
やさぐれ気味の少年はいつもより言葉が鋭かった。
…まぁ、勉強が捗ったおかげで、理系周りが高校1年生レベルまで学習が終わったのはちょっとだけメリットかもしれない、なんて割と天災がそばにいるせいで目立たないだけで、化物みたいな根気の少年はすくっと立ち上がった。
その瞳に決意を宿して。
「たびに出ます」
「そんな!?私の何が悪かったっていうのさ!!お願い待ってあなた…!いかないで!言ってくれたら悪いところ治すから!」
「全部です」
小芝居をうちながら、当たり前のように少年の首筋に顔を埋め、全身を擦り付けてくる束を振り払うように少年は扉に向かう。
「…というか、モニタリングってなんですか」
「え、それはねー。久しぶりにあったお姉さんに添い寝されて抱きしめられたら少年は精通するのかなぁっていうあくまで知的な探究心で───」
その後、束がどうなったのか少年は知らない。
部屋を出るときに、入れ違いで鬼のような形相をした千冬が部屋に入っていって、部屋の中から殴打や何かが切断される音、悲鳴と怒号と最後に爆発音が聞こえたが、少年は何も知らないのだ。
何も知らないということにしておこうと、少年は心に決めた。
●
その日の夜、『私は痴女です』と書かれたプラカードを持って正座する束が部屋の中に居座っていたが、少年は気にせず布団に入る。
「……………………」
だが、寝れない。
今日は全校生徒への謝罪行脚とかいうなかなかハードな1日を過ごしたのに、寝れない。
目を瞑ると、青い顔で埋め尽くされた空を思い出すのだ。
「ねぇねぇ少年、仲直りしない?」
そんな少年を覗き込んできた束の顔を見て、安心してしまった少年は自身の敗北を悟る。
「……そうですね」
「ごめんね?」
「…まぁ、タイミングがわるかっただけでもありますし…」
ちょっと、少年と束の予想を超えて学園の状況が思ったよりも悪かったのと、束の仕事が長引いたのも間が悪かった。
少年も束も千冬も警戒している政府の動き。
都会から遠く離れた村で少年がISを動かしたことになぜかあんなにも早く気づいた政府が、少年の過去を公開しても何もリアクションしてこないなと思っていたら、今回のテロ鎮圧の際に妙に統率の取れた部隊が混じっていたのだ。
民間人の巻き込み方がいやらしく、束が苦戦を強いられ本来なら3日で終わる予定だった仕事に一週間もかかってしまった。
…凡人にチャンネルが合うようになった天災の弱点が露呈した形だった。
3日程度なら、あの夢もあそこまで育つことはなかったし、少年もまだ多少落ち込む程度のメンタルでいられただろう。
あと共感能力の高い少年に、周りに泣いてる人しかいない環境は普通にきつい。
本当に、何もなければただのイタズラで済んだのだ。
「……その…あの」
「うん?」
「べつに…変なことしなくても、束お姉さんがいっしょにいてくれるの…その…それだけで…う、うれしいので…」
「わお」
「しばらくいっしょにねてください」
潤む瞳に、上気した頬(怖がってるだけ)。
束の服の裾をぎゅっと小さな手が掴む。
離れたくないという意思表示なのか、脚を絡ませてくる少年を前に、むしろちゃんと反省してるからと我慢した自分を褒めてほしい。
おしりは揉んだけど、少年も満更でもなかったし…と、束は後に千冬に語ったという。
その日はよく寝れたし、セミも普通に鳴いていた。
やっぱりホラーってクソだなと、少年の中に嫌いなものが一つ増えた9月の夜の話。
ちなみに、会長含む全校生徒は少年がすでに救われていて真剣に前を向いてることを実感し、『昔の可哀想な少年』ではなく『今の少年』としてきちんと向き合うようになり、以降は妙な湿度以外はなくなった。
その湿度もまた、翌日少年が寝ぼけて束のうさ耳をつけながら首に
我慢とは?
と、千冬は普通に束をしばき回した。
だっておしりもんでたら少年がもっと…とか切ない声で言うから…と束は言い訳した。
少年はその横で顔を真赤にして沈黙を貫いたので、真相は闇の中だった。
今回もお付き合いいただきましてまことにありがとうございました。
早く原作に入れ、というお言葉あると思います。
のんびりやっててすみません。
次回から新しい原作キャラが登場します…たぶん。
感想たくさんください。
ここすきもたくさんください。
評価もたくさんください。
全部くれー!(ゴミ作者)