カスなお姉さんとやさいせいかつ。   作:ひつまぶし太郎

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毎度毎度、沢山の感想とここすきありがとうございます。
いつも嬉しくて何度も読み返しています。
今回は真面目回です。
最後にボイジャーの機体データを乗っけてます。
興味ある方は御覧ください。


⑥うちゅうにいきたいから

 

 

大幅に改修されて、元打鉄とは思えないほど変貌を遂げたボイジャー・アストラが宇宙鯨研究所と書かれた大盾とロングバレルのハンドガンを構える。

 

黒いうさ耳と翼が生えたマンロディみたいなISが展開を終え、少年に合わせて最終調整を行っていく。

心拍数、血圧、体温、気温、天気、湿度。

あらゆる状況を鑑みた、たったナノ程度の微調整を、少年は静かに深呼吸をして待つ。

 

「スゥ……はぁ───」

 

そして、それもすぐに終わる。

機体が控室の薄暗い蛍光灯の光を鈍く反射して、紅い瞳が世界を見据えた。

翼の間から顔を覗かせる鋭利な尾が、炎の舌のように暗闇を撫でる。

 

「ボイジャー・アストラ」

 

相変わらず、ISから見える世界は広い。

どこまでも透き通っていて、何でもできそうな気がしてくる。

無限の名前にふさわしい、自由な世界に少年は意識を委ねる。

 

宇宙を目指す。

宇宙の果てまで、手を伸ばす。

 

今日の試験はそのための第一歩。

少年は静かに、翼を広げた。

 

「───出ます」

 

乗り手の気迫に応えるように、ボイジャーが唸りを上げた。

 

 

 

 

 

「ISは兵器ではない、でしたっけ?あなたの掲げるご両親の夢とは相反するようですが…」

「そうですね。僕はきっと、両親の考え方に逆らっているんでしょう」

 

なるほど、と。

少年は一人納得した。

眼の前の女性は、少年がただ両親の夢に背中を押された幼い子どもだと思っていたのか、と。

どおりでやけに初対面なのに自分に好意的な感情を向けてきていたはずだ。

他の学生たちは子どもを試験官に据えたことに対して、学園側に舐められていると感じたのか。

不快感やら、見下すような感情が多い中にあまりにも陽の感情が混じっていて戸惑っていたのだが、疑問が解消されてよかった。

 

「しつぼうしましたか」

「…否定はしませんわ」

「それでかまいません。僕は、両親の夢を引きついだんじゃない」

 

少年は、心を整えていく。

 

「僕は両親の信じたカノウセイをけさないために何でもすると決めました。でも、それは僕の意思だ。僕の中にあるのは両親との思い出で、両親からたくされた願いはただ、生きることです。(呪い)じゃない」

 

試合の会場となるグラウンドの広さ、少年を観察するように向けられたカメラ、VIP用観覧席にいる政府関係者の大人の冷たい顔。

少年を囲む世界は、自由と引き換えにやはり冷たくて寂しい。

 

だが、少年は知っている。

自分の事を応援してくれる人がいることを。

今まさに、他の教員たちに混じって誰よりも少年の勝利を祈ってくれている怖いお姉さんがいることを。

 

「これは僕自身の夢です」

 

だから、当たり前の事として少年は宣言する。

 

「僕が僕の夢のために、戦うと決めました。ブギも使います。セイジだってやってみせる。何でもくらって、ふみつぶして」

 

宇宙の果てまで。

少年は歩みを止めない。

 

「───僕はその先に行く」

 

その瞳に、正気はない。

その心に、曇りはない。

 

心優しき地球の少年は、世界の誰よりも宇宙(ソラ)に飢えていた。

 

「…ええ、謝罪しましょう。貴方がただ状況に翻弄される子どもであると、勝手に慮って決めつけたのは早計でした。そしてそれが、貴方に対する何よりも侮辱だったことも認めます」

 

対する受験生…セシリアもまた、気迫を受け止め静謐な闘志を真っ直ぐ少年に向けていた。

 

試験。

この機会に、逆に世界初の男性操縦者を見定める。

()()()()少年に引導を渡して、茨の道から遠ざける。

 

そんなこの試験が始まる前にあった意識はもうない。

目の前にいる少年が世界最強に届きうるホンモノであると、正しく認識した。

 

「それでも、ただの踏み台として終わるつもりなくてよ───!」

「勝つよ、ボイジャー」

 

意地のぶつかり合いが、始まった。

 

 

 

 

 

(さすがですわね…)

 

セシリアは、自分のビットがまるで背中に目がついてるかのような反応で撃ち落とされるのをどこか冷静に観察する自分を自嘲しながら、それでも攻め手を緩めない。

地面を這うように伸びてきた粘性金属による伸縮自在のアンカーがブルーティアーズの肩部の装甲を破壊し、その隙をつくつもりで放ったビームがバレルロールで躱される。

 

(というかクソヤベーですわ)

 

赤い瞳が一度も自分から外れてくれない。

開幕ビットによる全周囲を取り囲むオールレンジ攻撃を仕掛けたら、ワンモーションで避けられたときは変な笑いが出た。

今自分が撃墜されていないのは、単に試験という範疇だからにすぎない。

 

(顔がバチクソ美少女になってたのに、戦闘力が鬼ってなんの冗談ですの?好き)

 

異次元の空間把握能力と、もはやエスパーとすら思える相手の心を感じ取る能力。

皮肉なことに、それは戦闘において最も真価が発揮される能力であり、ISに乗っているからこその能力だった。

 

何よりも、ISと誰よりも心を通わせたがゆえの、ISとの同一化。

ハイパーセンサーの捉える世界全てが少年の世界だ。

一心同体の少年とボイジャーに今の時点勝てるのは、それこそ束か千冬のみ。

シールドエネルギーを削れるのも学園の教師レベルになってからだ。

とどのつまり、たかがISに乗れるだけの学生に負けるはずがないのだ。

政府関係者が冷や汗をだらだら流すようになるくらい、少年は積み上げてきた。

 

星見希空。

世界を変えるきっかけとなった世界最初の男性操縦者。

その実力を侮っていたわけではない。

 

だが、代表候補生に選ばれた自分ならば上回れるとそう自惚れていたのは事実だろう。

そんな自信も、他の受験生たちが彼によって伸びた鼻をボキボキにおられて、その後真摯に励まし手を差し伸べる少年の優しさに心を奪われる…という絵面を見て消え失せた。

なんだろうこのマッチポンプ。

DV彼氏みたいだな…みたいな感想を隣で見ていた将来の担任が思っていたのを、セシリアは知らない。

 

とにかく、だ。

ISと心を通わせた少年。

その生涯の一欠片は、セシリアの心に大きな変化をもたらせたのだ。

 

自分は男性だから、女性だからと人を区別していなかったか?

区別どころか、見下していなかっただろうか。

自分はISに乗るということを深く考えず、ISに乗れる自分こそが特別だと考えていなかったか?

 

ノブレス・オブリージュ。

専用機を持つ人間としての果たすべき責務。

今一度、その言葉の意味を噛み締めたセシリアは新たな決意とともに母国から翼を授かった。

 

青い涙の名を関するその機体は、操縦者のイメージを反映し、具現化をすることを目的とした兵器であるビットを搭載しており、革命を経てその自在さを増していた。

 

そんなパワーアップした専用機を持ってしても戦況は絶望的。

ビットは尽き、シールドエネルギーは残り僅か。

相手は無傷で、自由の申し子のような奔放さで空間を支配している。

 

「「それでも」」

 

少年とセシリアの口がまったく同じ言葉をなぞる。

 

「私は、まだっ!…負けていませんわ!!!」

「あなたはきっと、諦めない」

 

不敵に笑うセシリアに応えるように大盾のブースターに火を入れて、今日見てきた中での最高速度で突っ込んできた少年と、すれ違うように垂直方向へのジャンプ。

他の受験生どころか、学園ですでに学んでいる生徒たちすら回避が危ういシールドバッシュを、空に舞うことで回避したセシリアは、全神経を注いでBTライフル《スターライトmkⅢ》を構える。

無防備な背中に、上下逆さまになったセシリアの照準が合わせられた。

 

「「──────!!」」

 

互いの目線が絡み合う。

一秒にも満たないほんの僅かなその瞬間、たしかにセシリアはノアと心が通じた気がした。

 

(ああ…あなたの見る世界は、そんなにも美しいのですね)

 

───冬になってなお消えない夏の香り。

 

透き通る青空とそれに抗う真っ白な入道雲。

煌めく海と、静寂の波。

目を瞑れば聞こえてくるセミの合唱と、身体を包む熱気。

二度と言葉をかわすことの出来ない家族。

新しくできた大切な友人。

 

少年がどんなに悪意にさらされても、どんなに迷っても手放さなかった宝物が、世界を輝かせていた。

 

最後の最後。

そのイメージがセシリアとブルーティアーズのシンクロ率を高めたのだろうか。

理論上可能とされていた、BT兵器の高稼働時に可能な偏光制御射撃。

その机上の空論を、セシリアは執念で現実に引きずり出してみせた。

 

「曲がれええええええええええええええ!!!!」

 

レーザーが曲がる。

セシリアの願いに応えるように、世界が光によって切り開かれる。

たしかに回避したはずのそのビームが少年を背中から撃ち抜いた。

 

「…一矢…報いましてよ…」

「お見事、です」

 

その日およそ十人の専用機持ちと戦闘して一度も被弾がなかった化物。

そんな化物のシールドエネルギーを今日初めて減少させたセシリアはそこで力尽き、勝負自体は結局少年の勝ちで終わった。

 

「あ、あぶなかった…」

 

そっと胸を撫で下ろす少年は、ISがエネルギー切れで待機モードへと移行したセシリアが地面に落ちる前に抱きとめて、待機場所へと足を向けた。

 

ちなみに、会長の妹さんは開発途中の専用機での試験だったため普通に少年に撃墜されたが、セシリアの次に食らいついたその操作技術を高く評価されて代表候補生の立場も専用機も剥奪されていない。

それ以外の少年に専用機と代表候補生という立場と初恋を奪われた今日の生徒たちが、一般枠で入学してくるのだが、これ以上は完全なる余談だろう。

 

「…お前が悪いんだぞ…ロッカー室に連れ込まれておいて…期待したような顔で私を見て…誘ってるんだろう、なぁ?」

 

あと、気絶したセシリアをお姫様抱っこする少年に嫉妬した千冬が、ロッカー室で壁ドンして大人のキスを教え込んできてしばらく足腰立たなくなってしまうことになるなんてことになるなんて未来は…少年が知るはずもないことだった。

 

顎クイされて壁ドンと股ドンされてキュンキュンしてメロついちゃった少年が悪いのか、嫉妬されたことに喜んでしまった少年が悪いのか、千冬に襲われると身体の芯から熱を帯びて受け入れモードになる少年が悪いのか、千冬の匂いを嗅ぐと発情するように仕込まれてしまった少年が悪いのか、普通に千冬を逃げ出せない沼に引きずり込んだ少年が悪いのか…。

その真相は誰にもわからない(少年が悪い)。

 

 

 

●機体データ

【ボイジャー・アストラ】

 

───そのISは、先人の名を借りて宇宙を行く。

 

全身装甲型で、丸っこいフォルムをしている(マンロディ)。

黒い兎。

待機形態は水色のうさ耳。

 

日本の量産機である打鉄から一度戦闘用の装備を取り外し、拡張領域も削減。

開発者たちの手によって、面影はあるもののほぼ別物へと仕上がっているが、打鉄の『シールドが破壊される前に修復する』という機能は普通に流用されている。

元々、コアの好みなのか武装の登録も展開も時間がかかる欠陥機として日本政府から売りに出されたもの。

今は楽しくやっている。

宇宙鯨研究所での姿はもう少しごてごてした無骨さがあったが、1次シフトの際に丸っこくなり、束がうさ耳をつけた。

 

短期決戦を想定した超攻撃型な一夏のISとは真逆のコンセプト…というか、もともと戦闘が想定されていなかったIS。

とにかく使用者の命を守ることと長時間の稼働に特化しており、攻撃にシールドエネルギーは1ミリも使わない。

武装も全て実体化させるという、第四世代の思想をすでに取り入れている第2世代機。

一応拡張領域は存在していて、宇宙探査時に貴重なサンプルを持ち帰るため無菌収納ケースといくつかの工具と採集キット、救命ポッドが登録されている。

 

以上の理由からシールドエネルギーに回せる余剰がおおく、同時にそもそものIS自体の装甲が分厚いため通常のISよりも防御力は3倍近くある。

ただ、そもそも攻撃に当たらない。

 

 

・ホエール・ランパード

全身を多い隠せるほどの大きさの盾…というか扉。

シェルターの隔壁の扉をそのまま流用しており、『宇宙鯨研究所』の名前が刻まれている。

その防御力は折り紙付きだが、凄まじい重量なために浮遊させることは断念。

裏に推力エンジンが積まれているためブースターとして使うことも可能。

 

 

・スターダスト・キャノン改

スペースデブリを破壊するために設計された大口径ハンドガン…を誰かさんが改修したもの。

元々は豆鉄砲だった。

着弾した際の威力もかなりのものだが、その後銃弾に仕込まれた爆薬が炸裂するため純粋な射撃武装としての威力も高く、攻撃可能な範囲も広い。

装弾数は7発、リロード可、全弾同時発射可。

予備マガジンは翼に収納されている。

ロングバレルのハンドガンは、まんまアーマードコア。

 

・テールアンカー

特殊粘性金属によって乗り手の意思を反映し自由に動く。

フックショットのような使い方や、なにかに巻き付けることで機体を固定するために使うことができる。

また少年の申し出を受けて兎が取り付けた超硬金属がアンカー部分に使用されているため、小惑星程度なら貫くことができる他、救助活動にも使用可能で力加減含めてかなりの精密動作を実現している。

また、他ISにエネルギーを譲渡するためのコンセントとして使うことも可能。

真っ赤なモノアイも含めて悪魔の尻尾のような威圧感を相手に与える(バルバトスのテールブレード)。

 

・エクリプス・フェザー

太陽光を推進力と稼働用のエネルギーに変換するための翼で、地上での運用というよりも宇宙空間での使用を想定している。

戦闘がなければほぼ半永久的に稼働可能。

また、超遠距離通信にも対応したアンテナでもあり、電波望遠鏡でもある。

戦闘の時にはいい的でしかないので外した方がいいと言われてもなお、使用者が頑なに外さないためそのまま取り付けられている。

ようは黒い万博ガンダムの翼。

 

 

・メテオストライカー

弾薬が切れた際に使用することを想定した棘付きの片手用メイス。

ただただ丈夫なだけで、他に何も特徴のない鈍器。

振り下ろし、敵を砕く。

それ以外の用途はない、血腥い武器。

 

 

・壊れたラジオ

少年の宝物。

なにも電波を受信しないはずなのに、チャンネルを合わせると時折不思議な歌が聞こえる。

まるで鯨の鳴き声のようなその歌は、きっと宇宙からの呼び声だ。

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。

今回はいつもとは別方向の作者の癖がでました。
作者、普段貴族として身綺麗にしているお嬢様がガッツ見せて綺麗なドレスに泥がつくのもボロボロになるのも厭わず、貴族の責務として諦めずに不敵に笑って、最後ただでは負けないどころか勝つ展開大好き侍。
あと決着着く直前に謎空間で対話が始まるのも好き好き侍。
他にも普段ぽやっとしてる人が鬼強いのも好きだし、ロボットはデブな方が好きだし、量産機が好きで、ロングバレルって響きも好きで、大盾も好きです。
なんなら大槌も爆発するハンマーもパイルバンカーもステゴロも時間制限付きの超強化とか全部好きです(血に飢えた狩人)。

今回も感想やここすき、評価たくさんいただけると作者が喜びます。
質量兵器になるくらいたくさんください。
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