カスなお姉さんとやさいせいかつ。   作:ひつまぶし太郎

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今回は少年の過去編の前編です。
独自解釈あり、オリキャラたちの会話ありです。


⑤ほしのなまえは

 

カスなお姉さん、改め。

篠ノ之束。

 

彼女は、隣で静かに眠る少年の頭を撫でながら、蛙の声に耳を傾ける。

その手つきには起こさぬようにするための配慮こそあれど、並々ならぬ執着が垣間見える熱量があった。

熱量というか、なんというか。

ねっとりねちょねちょしていた。

 

「私の脳を焼いた君が悪いんだよ?ま、正確には君の友人が焼いたとも言えるんだけどさ」

 

───それは、『彼女』が知る少年の過去。

あるいは彼女が、少年にとって無二な友人となるまでの物語。

 

 

 

 

約1年前。

時は少年がまだ小学二年生だった頃にまで遡る。

 

「むふ、むふふふ!買ってしまった、買ってしまったぞ!正直今まで貯めてきた研究所の貯金は普通になくなったが…いい買い物が出来た!みんな喜ぶかなー?驚くかな?ふふっ、早く伝えてあげないとなぁ!」

 

このあと予算をすべて使い切った彼女は研究所仲間たちにそれはもう当たり前の流れとして鬼のように説教されるわけだが、それを想像もしない脳内宇宙一色女はルンルンで街を歩く。

彼女の戯言を聞くのは一つの機械。

 

インフィニット・ストラトス。

待機状態になりコンパクトサイズに収まるその機械は、本来宇宙進出のために開発されたマルチフォームスーツのハズだった。

篠ノ之束。

一人の少女が設計し夢を見たその翼は、しかし大人たちは見向きもしなかった。

たった一人その設計思想に両手を上げて狂喜乱舞したバカがいたのだが、そんな声(4徹明けで声がカスカスだった)すらかき消す冷笑は少女を絶望を突き落とし、事件が起こる。

 

白騎士事件と呼ばれるその事件は、ISの既存の兵器を全て上回る武力を証明し、世界は歓喜した。

 

そこからだ、世界が大きく形を変えたのは。

ISとは最も優れた兵器の名前である。

そして、それを扱えるのは女性だけなのだから、女性こそが特権階級になるべきなのだ、と。

 

『何が兵器だバカバカしい!しかも女性だけしか使えない?兵器だとしても欠陥機じゃないか!あの夢のような設計図からどうしてそんな駄作になる!?』

 

そんな中、世間の時流に真っ向から反抗するような研究所があった。

彼女たちはただ宇宙を目指し、妄想を連ね、設計図を書き続けた。

予算は少なく、人員も不足。

所長は女性だが、開発主任は男性。

熱量だけは無限大。

大真面目に理想論を語る宇宙好きによる宇宙好きのために活動する彼女たちの名は『宇宙鯨研究所』。

 

そんな研究所の予算でも買えるほどの値段でISが売ってもらえたのは、もはや奇跡と言ってもいい。

打鉄。

日本の量産型ISであり、火力は足りないが防御力を評価されるその機体は世界でシェア2位を誇る傑作機と言っても過言ではない。

そんな機体の欠陥機。

 

開発者とISに携わってきた専門家たちいわく、ISのコアには好みがある。

だとするのなら、その打鉄…あえて彼女と呼ぶのなら、彼女は戦争が嫌いだった。

武装は登録できてもかなりの時間がかかり、展開すらまともに出来ない。

それ故の欠陥機。

兵器として、彼女は失格の烙印を押されてしまい、彼女は倉庫の奥底へとしまい込まれていた。

とはいえ、いつまでも無駄にしておくのは政府的に許せなかったらしい。

 

彼女は『ISに関する兵器以外のアプローチにより新たなブレイクスルーを実現しよう』というお題目で、とある研究所に売り払われた。

 

それは、ISを一機も擁さない零細研究所でありながらも目を瞠るような技術を開発しては特許を取得していく優秀さから来た期待…だけではもちろんない。

武装も作らない変人集団ならなんとかなるやろ。

なんとかならなかったらお取り潰しにするわ、みたいな悪意もあったりした。

 

『うっひょー!マジでこの値段でいいんですかぁ!?買います買います!え、兵器以外の装備?ありますねぇ!ありますあります!』

 

それでも、彼女は運命に出会う。

星見いさな。

宇宙をこよなく愛する女の名であり、ISの初期構想に惚れたバカであり、宇宙鯨研究所の所長である。

 

 

 

 

学校から帰ってきた少年は、自分の義母の星見いさなに泣きつかれて困惑した。

まだ手洗いうがいも終わっていない。

それに、今日は漢字ドリルの宿題もあるので、あまり余裕があるわけでもなかった。

とは言え、少年にとって親とのふれあいは大切な時間なので、とりあえずされるがままになっていた。

 

「───せんせい。ないてる?」

「うう…聞いてくれよ希空(ノア)!みんなってばひどいんだ!私の散財癖かどうのとか、私の部屋が汚いとか、たまに風呂入ってなくて臭いとか、黄緑色に発光するパックをつけたまま夜中に歩き回る姿がトラウマになったとか…ひどいと思わないか!?」

 

どうだろう。

たまに、あと今日もくさいとは思う。

それにせんせいはすごい人だと思うけれど、それと同じくらいだめな人だと思う。

口にはしないけど。

 

いさなにすがりつかれるノアは、困ったように周りを見渡した。

 

所長と主任の間の子どもとして引き取られて約2年。

めいいっぱいの愛を注いでくれているものの、何かと忙しくしがちな二人に代わってこれでもかと構ってくれていた大人達。

どちらを選べばいいのかわからなかったノアは、普通に目を逸らした。

見なかったことにしたい、切実に。

というか巻き込まないで欲しい、ほんと。

 

「おいこの人なんで怒られたか理解してねえぞ!」

「主任!目を覚ましてください主任!気絶してる場合じゃないですよ!」

「だめだ、主任は度重なるストレスでもう…」

「くっ、所長のせいか…というか今月の私達の給料ってどうなるんですか!?払えるんですよね!?」

「うわああん!みんなが私を悪者にする〜!」

「こどもを盾にするのをいますぐやめろ!」

「そうだそうだ!お前は包囲されている!諦めて反省しろ!」

「50超えて泣きわめかないでくださいよみっともない!」

「わぁぁぁああああん!」

「大人の醜態としてはもはや威嚇の領域だろそれは!」

 

ある意味で、これがこの研究所の日常だった。

頭はいいがポンコツな所長と、それを必死に支える夫であり開発主任でもある星見和人。

口は悪いが決して所長を見捨てない職員たち。

 

少年は、総勢十名にも満たないこの研究所の気安い空気が大好きだった。

 

 

 

 

「見てご覧、ノア!彼女こそが私達の研究所に新たに加わった私達の仲間だ!」

 

先程まで怒られていたのが嘘のように両手を広げてこちらをドヤ顔で見るいさなの後ろに、『彼女』は鎮座していた。

和風の甲冑のような意匠がメインであっただろう彼女の元の姿は今や見る影もなく、どちらかと言えば宇宙服を少しゴテゴテにしたのような、フルアーマー型へと変化していた。

例えが難しいが、モビルワーカーを少し丸みを帯びさせた感じだろうか。

 

外装だけとは言え1日でこれを仕上げるあたりに、この研究所の能力の高さが窺えた。

 

「これが、IS…」

「そう。ちなみにこの子、戦争嫌いなんだそうだ。ISにしては変わってるかも知れないけれど、むしろだからこそ全予算をはたいてでも彼女にここに来てほしいと思ったのさ!」

 

ノアにとって、彼女こそが初めて生で見たインフィニット・ストラトスだった。

少年がISについて知ることは多くない。

 

6年前。

自分が産声をあげたその日に起こった世界を覆す『白騎士事件』。

あの日起きた混乱のさなか、出産と同時に体調を大きく崩したノアの母親は、必要な手当を受けられずに亡くなった…らしい。

当然ながら、出生児の頃の記憶はない。

少年からすれば生まれたときから家族はいなかったので、そこに対して思うところはそんなにない。

もし自分に母親がいたら、と思うことはあったが、星見夫婦に引き取られてからはそんなことも感じなくなった。

 

ISはなんかすごい機械。

ノアの中でのISはそれくらいの認識だった。

それに、テレビで見るそれらはいつだって無機質で、搭乗者にばかりスポットライトが当たっていた。

世間はいつからかISではなく、ISに乗れる女性こそが素晴らしいと声高に叫ぶようになっていて、少年からすれば疑問こそあれど、そういうものとして処理される常識の範疇ではあった。

 

だが、『彼女』は違うということを、少年はしっかりと感じ取った。

 

「とびたいの…?」

【──────ッ!】

 

歓喜と共感。

戦争嫌いなISと、宇宙に憧れる少年の奇妙な関係が始まった。

 

「彼女の名前は【ボイジャー・アストラ】。私達は先人の名を借りて、()()()()()を目指す!」

 

悲しみだらけの世界で、その女は愛を叫んだ。

家族と宇宙への愛を。

それだけで彼女は世界を明るくしたのだ。

 

 

 




無垢ショタによるパーフェクトコミュニケーション、みたいな。

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