会いに行きます/愛に生きます。
幸せが壊れたとして、それでもなお優しい少年の話。
書きながら聞いてたのはAqua Timez様の『決意の朝に』です。
感想、評価誠にありがとうございます。
「それでね、空にうかんでるほしは、実はもえててね…」
【────?】
ノアは、邂逅以来ほぼ毎日と言っていいほど彼女の元へと足繁く通っていた。
もちろん研究所の皆の作業が終わって、大人の邪魔にならないタイミングを選んでいたが、限られた時間でも少年は彼女との時間が好きだった。
それに彼女のそばには、たまに両親が徹夜明けで疲れ果てて寝ていたりするので、なおさら少年にとっては通わない理由はなかった。
そして今日。
とても珍しいことに、隣で4徹させられた旦那が気絶している横で、物が完成したテンションで逆に目が冴えてるだけではあるが、いさなは目を開いていた。
…ギンギンだったけど。
ちょっとノアが思わず目をそらすくらいにはキマってたけど。
フラフラと頭を揺らすいさなに後ろから抱きすくめられて、ノアは安心したように身を委ねた。
「ふっふっふ…ボイジャーには新しく翼をつけてみたよ!」
【─────!】
「つばさ?」
「そう!太陽光パネルと充電池、推力エンジン、電波望遠鏡の一体型の翼だ!きっと、君は誰よりも宇宙に詳しくなれる!ま、戦闘力なんて欠片もないけどね…というか戦闘になったら翼が良い的すぎて笑っちゃうよ。ま、私達の研究所は宇宙開発ともう一つ、ISの男女兼用化を目指していたりするからね。戦闘よりもまずは平和な使い方から、さ」
「ぼうえんきょう…」
ノアは、彼女の背中に新しく増えた翼を見る。
これがぼうえんきょう。
青い鏡面に、黒い翼。
何かを受け止めようと大きく羽ばたく姿は確かに、人工衛星の翼に似ているといえば似ている…気がする。
「そして。このラジオ!…まぁ旦那の作業を見ながら手慰みに作ったおもちゃだけど…これは、宇宙からの電波を拾える世界で唯一のラジオだ!ボイジャーとリンクさせれば、どこまでだって繋がれる優れモノさ」
「うちゅうとつながるラジオ…」
「そうとも。…いつも忙しくしててすまないね。本当なら、誕生日プレゼントには流行りのゲーム機とかを買いに行けたら良かったんだが…」
そのラジオを抱きしめながら、ノアは首を振る。
これで良かった。
否。
これが良かった。
ラジオの後ろにつけられた写真立てに、研究所の皆で撮った写真が入れられている。
視界が滲む。
いつの間にやら起きてきた無口な義父が大きな手でノアの頭を撫で、そんな二人をまとめていさなが抱きしめた。
「こんなほとんどお婆ちゃんみたいな年の親だけど、改めて言わせて欲しい」
「「私達の子どもになってくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう」」
誕生日。
それは特別で。
暖かくて。
決して記憶から/消えない/思い出に───
「お前らが幸せになんてなれるものか!そんなもの、全て破壊してくれる!!!」
少年にとって、幸せな思い出はそこまでだった。
設置されていたシェルターの隔壁が壁ごと吹き飛び、研究所の各所で銃声と悲鳴がした。
そして、咄嗟に愛する妻と息子を庇った男がぐしゃりと、その悪意に踏みにじられる。
無機質なIS。
どこの国かもわからない量産型IS。
それを操る女は、燃え盛る研究所を薪にするようにして激情に燃えていた。
その激情はお門違いの思い込みの思い上がりで、突拍子もない理不尽で、全ての繋がりと必然性を無視した悪意だった。
「なんで…こんな…」
「なんでこんな事を、だと?知れたこと…!力のないISなど不要だ!それにISは女性のためのものだ!それを誰でも使えるように研究するなど、許されない!どころか、男性が開発主任を担う?愚か、愚か、愚かだお前らは!愚の骨頂だ!間違いの権化だ!間違いは修正する!それが世界のためだ!」
きっと、彼女は端役だった。
誰にも認められず、誰にも触れられず、物語の主役には決して上がれない。
そうして誰の願いも託されることのない、ただの亡霊。
亡霊故に、傲慢。
無限を謳うISに乗りながら、誰とも繋がれない、何処へも辿り着けない。
争うことでしか価値を見いだせず、他人を踏みにじって価値を証明する。
───その女こそが、忌むべき戦争の権化だった。
『彼女』は戦争が嫌いだ。
でも宇宙が好きだった。
何より、彼女に新しい名前をくれたいさなと和人、そして研究所の皆、少年が大好きだった。
「いい?ノア。聞いて…あなたの未来はきっと大変なことばっかりになると思う。でも…それでも。あなたは、どこにだっていける。宇宙の果てだって」
辛うじて繋いだ生命を振り絞って少年を抱きしめるいさなの姿に、ボイジャーはないはずの心が動いた。
「ボイジャー…どうか、あの子を…守ってあげて…。孤独になるあの子の、側に…!」
だから、彼女は選んだ。
自分と同じく宇宙に焦がれる、なのに悲しみに顔を曇らせる少年の翼になることを。
彼女の名前はボイジャー・アストラ。
宇宙の果てを目指す、可能性の翼。
彼女は、女性にしか扱えないという鎖を、自らの意思で断ち切った。
「待って、待ってよボイジャー…!せんせいが…
【──────ッ】
少年がISに飲み込まれる。
必死に自分の母親へと手を伸ばす少年を、引き離すように。
生まれる。
世界で初めての〝男性操縦者〟という存在が。
受験校をついうっかり間違えて、何者かの陰謀で。
そんな序章を吹き飛ばすような、
男性で初めて、宇宙を往くための力を手に入れたノアを見届けたいさなは、満足そうに笑った。
「お母さん、か。なんだか照れくさくてせんせいと呼んでもらってたけど…悪くないな」
「な…ゆる、されない…!許されない!男のくせに、男のくせにっ、男のくせにぃ!!!!」
「もっと、早く…それに気がつけてたら良かったな…」
ノアの頭に夥しい量の情報が流れ込んでくる。
数秒前まで知りもしなかった『彼女』の基本動作、操縦方法、性能、特性、現在の装備、可能な活動時間、行動範囲、センサー精度、レーダーレベル、アーマー残量、出力限界。
「───愛してる」
大切な人の命の灯火が消えたことを知覚して、『ボイジャー・アストラ』の声なき嗚咽と少年の心が共鳴する。
皮膜装甲展開完了。
推進機正常作動、確認。
ハイパーセンサー最適化。
エクリプス・フェザー起動。
ISを通して見る世界は透き通るほどに鮮明で美しく、まるで無限に広がる宇宙のように自由だった。
なのに少年の世界は孤独で、寒い。
…それでも。
ノアは、ボイジャーの嗚咽につられるように溢れた涙を両手で拭って、眦を決した。
「ああ…あああっ!」
「この、ゴミクズがぁ!!!!」
女が、銃を乱射しながら突っ込んでくる。
その光線を、ノアは女が研究所に侵入してきた際に壁ごと吹き飛ばしたシェルターの隔壁で受け止める。
いくつもの閃光が弾けて、その衝撃に思わず呻いた。
口の端が切れて、血の味がする。
広がった知覚と目覚めた心の目で、女からの悪意と殺意を直接心で感じ取り、ノアは覚悟を決める。
世界初の男性操縦者。
その言葉の重さを、頭ではなく心で理解した。
自分の人生は今後平坦なものにはならないだろう。
世界は、苦難に満ちた楽しいだけとは無縁の世界になるかもしれない。
「それでも」
それでもだ。
ノアは、その険しい道を踏みしめて往く覚悟を決めた。
自分の足でガラスの破片と茨と砂利を踏みしめて、血みどろになってでも全力疾走で助走をつけて。
宇宙に向かって飛んでみせると、未来を見据えた。
「
白く輝くISと共に、ノアは女を体当たりで吹き飛ばす。
瓦礫に揉まれ、研究所にある家族同然の研究員たちの無惨な姿を背に、何度も地面にぶつかりながら、最後は壁に身体をこすりつけるようにしながら、もつれ合うように
「ぁぁぁぁあああああああああっ!」
「クソ、クソッ!離せ、このガキがぁ!!!ひっ、やめろ、私のISは大気圏を越える装備は───!」
一条の光が、宇宙へと迸る。
宇宙へ行く願いを託された翼と、地球に居座り戦争をすることを選んだ翼。
互いの命運を分けたのは、きっと願いの強さだった。
無傷なボイジャーとノアとは対象的に、命こそ無事だが、一言も発せられないほどの大火傷を負った女から翼が灼け落ちる。
「ねぇ、ボイジャー…チキュウって…こんなにも…きれいなんだね…しらなか…ったなぁ…どうせなら、みんなといっしょに……見たかった」
空気のない宇宙では声はどこにも届かない。
だから、ノアは誰に憚ることもなく泣いた。
青く輝く惑星の光と友人だけが、ノアを優しく抱きしめていた。
他には、何もなかった。
誰もいなかった。
それでも少年は。
宇宙が好きだと、愛を叫んだ。
●
そこからの少年の人生に置いて、語ることは多くない。
宇宙から地球へ落下した少年を待ち受けていたのはたくさんの銃。
そして、冷たい顔をした大人達。
少年は、成人するまでを猶予とする秘匿死刑となり、何も事情を知らされていない教会に預けられた。
それでも、少年は諦めていなかった。
生きることも、宇宙の果てを目指すことも、何もかも。
世界を恨むことなく、人の悪意を目にしてなお、他人の善性を信じる心優しき少年は、前を向いて歩いていく。
器用には生きれない少年は、宿題に頭を悩ませて、人間関係に戸惑いながら、それでも心根も性根も曲げなかった。
悪意は、少年の人を思いやる心だけは奪えなかった。
───そして、天災は脳を焼かれた。
それは、おそらく。
天災が初めて抱いた他者への『共感』だった。
オーバースペック同士、自分と同格と認める存在への『理解』ではない。
有象無象としか思えずに、普段見向きもできない他者への初めての共感。
自分の目と心を通す前に、自分が作り上げて思い入れのあるISを通して初めて共感できるというのもなかなかだが。
そもそも手間を惜しんで、ISのインターフェイスに直接自分の頭を直列して情報を読み込んだのが仇となった。
たった一瞬で眩くて尊い光を脳に浴びた天災は脳を焼かれ、その共感を起点に新たな視座を手に入れた。
普通、という価値観は天災をカスなお姉さんへと引きずり落とすには充分だった、ということだ。
「ねぇ、少年…私をこんな風にした責任、取ってよね」
知らないうちに月の兎を地上に落とした少年は、もう逃げられない。
どろどろと瞳を濁らせながら、少年の頭を一撫でして、束は当たり前のように少年の布団に潜り込んだ。
「う…暑い…」
「つまり私と熱い夜を過ごしてる…ってことだよね!」
「…………何を言ってるんですか…?というか僕の布団から出ていってください…」
天災(孤高)「なんやこれ、覗いたろ」
ボイジャー「お前もファンになるんだよ!(パンチ)」
天災(孤高)「ぐえー!死んだんゴ!」
ちなみに翼に関しては、ようは万博ガンダムの翼を黒くしたやつです。
すみません余韻ぶち壊して言わせてください。
感想と評価くださぁい!(ゴミ作者)