全部読み返してはニヤニヤしてます。
いつの間にやらランキングの上位にいてたまげました。
本当にありがとうございます。
「知らない天井だ…」
「あ、起きた?」
ぱちり、と少年が目を覚ます。
寝起きの瞳が捉える空の日は落ちていて、少年がお風呂に入ってから少なくとも1時間は過ぎているらしかった。
頭を撫でるカスなお姉さんの手に、少年は思わず目を細めた。
生ぬるい風が運んでくるいろんな食べ物が混ざりに混ざった匂いと、聞こえてくる控えめなセミの合唱と祭り囃子。
お風呂に入る前は火の入っていなかった提灯に照らされる神社は、妖しい雰囲気を醸し出していた。
不気味とまではいかないが、不可思議。
赤と暗い青が混じり合った空模様は、非日常を予感させる。
祭りの夜はなぜこうもワクワクするのだろう。
そんな事をぼーっと考えていた少年の意識はやがて、にまにまと笑うカスなお姉さんの顔に戻ってくる。
目があった少年は、そのニヤニヤとした笑顔に疑問符を浮かべ、そんな少年をからかうつもりでカスなお姉さんは口を開いた。
「ふへへ、そんなに私の膝枕気持ちよかった?」
「……?はい、看病してくれてありがとうございます。気持ちいいです」
「そっ!?かぁ…あ、そこ照れないんだ…や、あはは…えーと、うんその…ぅん…」
人に感謝することを別に恥ずかしいとも思わない光属性による真っ直ぐな感謝と笑顔に、カスなお姉さんは顔を真赤にして目線を逸らす。
前髪をいじりながら必死に言葉を探すその姿は、昔の束をよく知る人間は幻覚を疑うだろう。
だが、孤高でなくなったその姿を、きっと喜ぶ人たちに今の束は囲まれていた。
「───それで」
「…えっ!?あ!ど、どうかした?」
「僕のきがえ、返してください」
それはそれとして、言うべきことは言う。
少年は、箒の対応を見て厳しくするということを学んでいた。
赤から青へ。
顔色をさっと変えた兎が、今度は別の理由で目線を逸らすのを少年はジト目で見つめる。
少年の服装は現在、篠ノ之神社に保管されていた覡の衣装だ。
上等な布でできているからなのか、暑さもなく着心地はとてもいい。
だが、明らかに自分のものではない下着に、少年は居心地の悪さを感じていた。
「…き、君のような勘のいいガキは嫌いだよーみ、みたいな?」
「………そうですか、僕もカスなお姉さんのこときらいです」
「嘘です、ごめんなさい。ちゃんと洗って返します」
「パンツが他人のって、なんか落ちつかないので…早めにおねがいします。……というかそもそも、僕のきがえなんて何に使うんですか?」
「何に使うっていうか、ナニに使ったっていうか…その。はい、ごめんなさいつい魔が差して…」
「……もう変なことしないでくださいね」
そうやって簡単に許すからこいつはつけあがるんだぞ、と後々知り合う天災と同格のお姉さんに言われるわけだが、今の少年は知る由もない。
ちなみにこのカスなお姉さんは普通に再犯する。
少年依存症とでも言うべき状態の彼女は元から我慢を知らぬ天災兎。
依存症は改善するどころか、気軽にボーダーラインを超えて行くせいで、悪化の一途を辿っていた。
「んー!よし、じゃあ、お祭り行こっか!」
「……お姉さんのおごりならいいですよ」
「ふふん、任せてよ!なんせ私、今日のお祭りのスポンサーだしね!」
●
しゃらん、しゃらんと。
異国の姫君が踊っている。
片手に扇、片手に宝刀。
純白の衣と袴の舞装束に身を包み、金の飾りを装った巫女姿の箒。
彼女の舞に魅入られるようにして座っている少年の手元には、白いパックにギチギチに詰め込まれた焼きそばがある。
これは、カスなお姉さんが買ってくれた焼きそばだった。
他にも良いよと言われた少年だったが、そこまで甘えるのは主義に反する…という真面目さと、あまりこの人に貸しを作るとあとが怖いなと言う経験則からくる危機感からの焼きそば一個だった。
とはいえ、何を買ってもらうかについては、かなり悩んだ。
カスなお姉さんがスポンサーとなって1日限定開催となった今回の祭りは、始まってからそれなりに時間が経ってるにも関わらず、次々と鳥居をくぐって人が増えていくくらいには盛況だった。
焼きとうもろこしにたこ焼き、イカ焼き、ベビーカステラにわたがし、リンゴ飴。
射的、くじ引き、金魚すくいなどなど。
祭りの定番どころが一通り揃った膨大なラインナップを前に、少年は一時我を忘れかけた。
ただ、どんなラインナップを以てしてもソースの匂いには勝てなかった。
全てのエモを超越し、食欲という人間の本能に直で訴えかけてくる魔力を前に、少年は割とあっさり屈服していた。
「ふふっ、昔の箒ちゃんは一人であの刀持てなくて、扇だけだったんだよ。成長したねぇ…」
「…お姉さんはやらなかったんですか?」
焼きそばを堪能しながらも、少年の目は箒の神楽舞に釘付けだった。
その隣でお面を頭につけ、綿菓子とリンゴ飴を片手に持ち、たこ焼きを頬張るカスなお姉さんは、自慢の妹の晴れ舞台を誇らしそうに見つめている。
「必要とは思えなかったしね。そもそも祭りにも興味なかったし」
「…なるほど」
まぁたしかに、初対面の少年に向かって壊れかけのラジオ(形見)を大切にしてるのとか意味わからないと吐き捨てるレベルだったあのお姉さんのことを思い返すと、そういうことを言いそうではあった。
少年目線だと、一瞬でキャラ変していたのであまり実感はわかないのだが。
なんと言うべきか迷った少年と、ただ昔を懐かしむカスなお姉さんの間には沈黙が訪れる。
そこに気まずさは特にない。
無言で一緒にいるだけでもコミュニケーションになるくらいには、お互い心を許していた。
───箒が閉じた扇を開き、それを揺らす。
左右両端一対につけられた鈴が、シャン……と厳かに音色を奏でた。
扇を右へ左へと揺らしながら、腰を落としての一回転で刀を抜き放つ。
そして刃を扇に乗せ、ゆっくりと空を切っていく。
それらの様はまさしく『剣の巫女』の名にふさわしい厳格さと静寂さを兼ね備えており、やはり美しかった。
ほう…と、少年以外の観客から感動のため息が漏れる。
「…ありがとね、少年」
「……あの、箒さんにもお礼言われたんですけど心当たりがなくて…」
「んー、見てほしかったんだ。少年のおかげで私が取り戻せたものを、さ」
すべてを失った少年に、取り返しのつく人間が失敗を挽回した様を見せるという行い。
それはともすれば残酷な行いで、あるいは無神経、恩を仇で返すと呼ばれる行いなのかもしれないが、少なくとも少年はそれに関して物申すということはなかった。
むしろ、少年の胸のうちにはあたたかい光すら芽生えていた。
だって、束にそんな意図がないことを知っていたから。
束はただ知ってほしかったのだ。
自分の大切なものを、同じくらい大切な少年に。
「まぁ…よくわかんないですけど、良かったです」
「……うん」
「むしろ、お姉さんとみんなが仲良さそうで…うーん、…うん…その」
少年は祭り囃子に合わせて揺れながら、言葉を探す。
自分の心と向き合って、どう伝えていいのかわからない気持ちの表し方を考えて。
「…なんていうか。うれしかった…んだと、思います。…
少年は、呼び方もついでにちょっとだけ改めた。
「うう…ありがとー!少年大好きー!」
「わぷっ」
感涙にむせぶカスなお姉さんにむぎゅっと、少年は真正面から抱きしめられる。
おっぱい枕だ。
少年は自分の顔よりも大きなその柔らかい2つの塊が自分の顔に押し付けられたことで一瞬脳がフリーズし、直後慌てて離れようと手を動かす。
だが、振りほどけない。
まるでおっぱいに溺れてるかのような状態に少年はパニックになり、少年はかえってカスなお姉さんの胸に自ら囚われにいっているような形になってしまっていた。
「むー!むぐぅー!?ふがー!?」
「でへへ、ぐふふ。やーほんと、誰かに渡すかってんだよ、ほんと。少年は私の、私だけのものだよ。そうじゃなきゃ許されないよね」
そもそも齢8歳の少年と人類の最高峰の身体能力を持つ天災兎の間には、隔絶した実力差がある。
それこそ、ウマ娘と人間並みに。
少年が解放されたのはだいたい十分後。
花火が始まってからのことだった。
「ねぇねぇ、どうだった?おっきした?実は名残惜しかったりするんじゃない?お願いしたら、もっかい飛び込んできてもいいよ?」
あと、呼び方はカスなお姉さんに戻った。
危うくもう一度気絶する寸前まで抱きしめて、ふらつく少年に向かって追い打ちをかけるようにセクハラをかました結果なので、残念ながら当然の結果だった。
「ごめんってば少年!もうしないから、ほんとに!ぜったい!ワタシウソツカナイ!」
「カスなお姉さんの嘘つき…もう知りません」
「待ってよー!ちょっとボイジャーちゃんも少年のことちゃんと説得して!?三百円…いや、五百円上げるから!」
「ダメです。ボイジャーに変なことしないでください」
なんか短めにしようと思ってたら気付けば文字数が膨らんでいる…あると思います。
会話もセクハラも無駄に続けてしまうのが作者の悪い癖(ダーク右京さん)
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
感想や評価、どしどしください。
作者の栄養にします。
おかわりもください(乞食)