岸辺露伴の幼馴染み   作:スナエ

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即興

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 そっきょう

【即興】

 1.その場で生ずる興味。座興。

 2.興に乗って、即座に詩歌などを作ること。即吟・即詠など。

 

◆◆◆

 

 何を尋ねても、迷子の少年は泣くばかりで、男は困っていた。

 仕方なく、「おいで」と手を引く。

 そこには、グランドピアノがあった。

 

「どんな曲が好きかな?」

 

 少年は、椅子に座った男を不思議そうな顔で見ている。

 

「楽しい曲にしよう」

 

 男は、明るい曲調の弾むような旋律を奏で始めた。実は、男は本職のピアニストである。いつもは、ストリートピアノなどはしないが、今日は特別だ。

 ここには、ピアノがあり、自分がいる。だから、不安そうな君のために、ピアノを弾こう。

 そうしていると、男の友人がやって来た。

 

「やあ、露伴くん」

 

 ピアニストは、曲を止めずに挨拶をする。

 

「やあ。珍しいじゃあないか。こんなところでピアノを弾くなんて」

「その子、たぶん迷子なんだけど、何も答えてくれないから。とりあえず、落ち着かせたくてね」

「ふぅん。君、漫画は好きか?」

「…………」

 

 いつの間にか泣き止んだ少年は、黙って岸辺露伴を見上げている。

 

「まあいい。未来の読者かもしれないからな」

 

 そう言うと、露伴は、取り出したメモ帳にボールペンでイラストを描いていった。

 イラストは、あっという間に描き上がり、最後にサインを入れて完成する。

 

「君にあげよう」

「わ…………」

 

 少年が、少し笑った。

 露伴は、役目は終わったとばかりに、友人の演奏に聴き入る。

 楽しげな曲は、ずっと続いていた。

 プロのピアニストは持久力もあるんだな、と感心する。

 数分後。少年の母親がピアノの側にいる彼を見付けた。

 

「まーくん!」

「ママ!」

「ありがとうございます。保護していただいて」

「ぼくじゃなくて、彼に礼をするといい。その子のために、ずっとピアノを弾いていたからな」

 

 ピアノを弾き終えて、一礼する男を指差す。

 母と子は、ピアニストにもお礼を言った。

 それから、手を振って、去って行く。

 

「全く、君は人が好いね」

「私が? それは露伴くんの方じゃあないかな?」

 

 ふたりは、お互いを見て笑い出した。

 ピアニストと漫画家が、己の技術を惜し気もなく使った一幕である。

 

◆◆◆

 

砂上の楼閣(さじょうのろうかく)

 

見かけはりっぱであるが、基礎がしっかりしていないために長く維持できない物事のたとえ。また、実現不可能なことのたとえ。

 

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