岸辺露伴の幼馴染み   作:スナエ

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右手には光を、左手には闇を

 現在、私はイタリアにいる。ヴェネツィアで演奏会をするために。

 私、砂城水希は、ピアニストである。

 幼い頃からピアノに慣れ親しみ、今日まで生きてきた。

 世界で一番美しい旋律を奏でるために、私の一生はある。

 それはそうと、せっかくのヴェネツィアだ。観光もしたい。

 私は、エージェントに頼んでスケジュールを調整してもらった。

 

「砂城さん、あそこがヴェネツィアンマスクの店です」

「はい。興味深いですね」

 

 店内に入ると、ところ狭しと色とりどりの仮面が並んでいる。

 

「Buongiorno」

 

 店長らしき人に挨拶をすると、私を見て小さく挨拶を返してくれた。

 その後は、観光名所を巡り、名物を食べ、ホテルにチェックインする。

 ひとり、部屋で一息ついた。

 そして、私の幼馴染みのことを思う。

 奇遇にも、彼も今、ヴェネツィアにいる。

 岸辺露伴は、素晴らしい漫画家であり、私の親友だ。

 彼と泉さんには、演奏会のチケットを渡してある。来れそうなら、来てほしいと言って。

 露伴くんは、今頃なにをしているだろう?

 息災であればいいけれど。

 それからの日々は、ひたすら音楽と向き合い、ピアノを弾いた。

 そうして、やってきた演奏会当日。盛装をして舞台に上がる。

 観客席に向かって一礼し、ピアノの前に座った。

 まずは、ヴェネツィアの舟歌を弾く。おそらく、曲自体に目新しさはないだろう。しかし、それでも私には、聴いた者たちを感動させられる自信がある。

 ピアノ曲としてアレンジを加えたそれを弾き終わると、盛大な拍手が響いた。

 まだまだ、私の演奏会は始まったばかりである。

 それからは、著名な音楽家たちのタランテラを弾き続けた。

 フィナーレを飾るのは、フランツ・リストのラ・カンパネラである。

 演奏が終わり、私は歓声と拍手を受けながら、一礼した。

 舞台裏へ行くと、エージェントが水を持って来てくれる。

 それを飲んでから、私は控え室へ向かい、着替えを済ませた。

 ホテルへ戻ろうと音楽ホールを出ると、待ち構えていたらしい露伴くんがいる。

 

「やあ、水希くん」

「こんばんは、露伴くん」

「演奏、素晴らしかったよ。創作意欲が刺激されたし、なにより、魂に響くような美しさがあった」

「ありがとう。聴いてもらえて嬉しいよ」

 

 笑顔で、露伴くんにお礼を言った。

 

「きゃーっ! 本当に砂城水希さんの友達だったんですね、露伴先生!」

「泉くん、うるさいよ。水希くんがビックリしているじゃあないか」

「だって、あの砂城さんですよ! 天才ピアニストの!」

 

 泉さんは、ずいぶん興奮しているらしい。

 

「はじめまして、砂城水希です。お噂はかねがね。よろしくお願いしますね、泉さん」

「はじめまして、泉京香です。よろしくお願いします!」

 

 お互いの存在は知っていたが、初めて対面したふたりは握手を交わした。

 

「演奏を聴いて、泣いちゃいました。やっぱり、“神の腕”って言われてる方は凄いんですね!」

「ありがとうございます。私の両腕は、至上の音楽を奏でるためのものですから」

 

 うんうんとうなずく泉さんから、露伴くんに視線を移すと、彼は、私の左足を見ているようで。

 私は、この足のことを話せていないことを申し訳なく思った。

 綺麗な月明かりが、私の影を濃くする夜。

 私は、これからも朝と夜を繰り返すのだろうと考えた。

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