仮面ライダーガヴ Decoration G3 作:ただの人間
あの日、俺の生まれた意味が、使命が分かった日。
その日は今日のように雨がごうごうと降っていた。
「待て!」
「追え追え追え!!」
「そこの人、今すぐ止まりなさい!」
「クソッ…!ついてくんじゃねえ!」
バシャバシャバシャ!
曇り空、この足場も悪い中、傘もささずに疾走する影。
全身がぐしょぐしょでまるで濡鼠かのような男が脇目もふらずに複数人の男から逃げ回る。
追いかけるのは紺色の制服に身を包んだ警察官たち。桜の代紋をつけた彼らは、男に警告を呼びかけながら、どうにか捕まえようと奔走していた。
「こちら馬味市警、えー、逃走中の容疑者を追っています。どうぞ」
その理由というのは、当然男が何かしらの罪を疑われているからである。
連続児童失踪事件。
それがこの街で噂されていた事件であり、警察も調査を進めていたのだ。パトロールの目を増やし、しばらく経ったところで最も疑わしい人物が現れたのである。
この梅雨の時期に似つかわしくない黒い革ジャケットに、全身を覆った服装。その上に、蛍光色のパトロール服とタスキをかけていた。
それだけで目を引きやすい格好なのだが、その男は、いくら傘があるとは言え、土砂降りの中、リュックサック一つで何をするでもなくただ立ちつくしていたのだ。
そのことから距離を取って観察をすれば、周囲を伺うようにキョロキョロと辺りを見回した直後、傘を忘れたのであろう雨宿りをしている児童へと声をかけた。
『ねえ君。〇〇小学校の子供だよね』
『…?う、うん』
『そっか、もしかして傘を忘れちゃったのかな』
『うん…』
『じゃあ、僕が傘を貸してあげようか?』
『でも、知らない人にものをもらってはいけないって…』
『大丈夫。ほら、見たことないこの服?』
『あっ、パトロールのおじさん!』
『そうだよ。これなら、また会ったときに返してもらえばいいから…。もう1本は、もう少し言ったところにあるから、ちょっとだけ一緒に入ってもらえるかな?』
『うん、ありがとう!』
そうして立ち去っていく二人。最近の失踪事件に関わりがあるかもしれないと見た警官が後を追えば、そこには立ち尽くす男が一人。その直ぐ側には児童がつけていた帽子が落ちていた。
あの僅かな時間で児童が一人消えたことを不審に思い、周囲を見ても車などもない。しかし状況が状況だ。
これはクロだ。
そう見た警官が声をかけたら、明らかに挙動不審な様子で聞き取りを拒否。それでもと追及した瞬間。男は脇目も振らずに逃走を開始。
直ぐ様巡回中の同僚に報告し、男の追跡が始まった。
迫る追跡の手。男も中々逃げるものだが、人海戦術では撒いたと思ってもすぐに新たな追っ手が来る。
やがて男は人気のない廃倉庫まで追い詰められ、周囲を警官に包囲されていた。
「確保ぉー!」
一人の警官の指示により、取り囲んでいた警官たちが一斉に迫り、その体を抑えていく。
「このっ、暴れるな!」
「ぐっ、畜生…!」
何とか転がりまわりながら離脱した男は、苦々しい顔つきのまま、辺りの警官を見回した。
「くそっ、こうなったら仕方ねえ…!質は悪いが、お前らも全員ヒトプレスにしてやらぁ!」
直後、男が腹をはだけさせるとそこには本来人間にはない大きな口のようなものが現れ、中からは長い舌が伸びて警官達を次々に襲っていく。
「く、口!」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「ば、化け物!!」
その舌に包まれた警官は次々に姿を消し、10人以上いた警官は僅か3人に減ってしまっていた。
「くそっ!」
暴れ回る舌を躱しながら、一人の警官が腰のホルスターから拳銃を引き抜いて発砲。銃弾は舌へと命中し、男を怯ませる。
「っつう…!生きのいいのがいるな…!」
憎々しげに唸る男は、今度は舌を仕舞うと腹部から電池のような物体を取り出すと、禍々しい音を立てて怪物へと姿を変えた。
「勿体ねえが、人が来られても困るからなぁ…!」
「何だ…、亀の化け物…!?」
「撃てぇ!」
人の姿をなくした異形の化け物に、もはや躊躇などしてられないと銃弾を浴びせていく。が、人ならば絶死に値する銃弾を受けて尚、化け物は平然としていた。
「そんな豆鉄砲なんざ効かねぇよ!」
化け物は次々と放たれる銃弾を弾き、一人の警官の襟を掴んで持ち上げる。
「うぐ…に、逃げろ…!」
「佐々木警部補…!」
「お前たちだけでも逃げて、伝えるんだ…!」
「くっ…!」
その言葉を受けて、二人の警官は背を向けて去っていく。その背中を見送りながら、化け物は腹の口から舌を出すと警部補を圧縮。
地面に落ちる警部補だったものを見ることもなく、化け物は
「させるわけねぇだろ!」
逃げる二人の警官を前に、亀形の化け物はその口から青白い破壊光弾を射出し、爆散。
吹き飛ばされ転がる二人の警官に、死神の足音が迫る。
確実に始末せんと近くに寄るが、化け物の優れた聴覚には建物から響く異音が聞こえていた。
「おお?」
直後、廃倉庫の屋根が崩壊し、鉄筋やコンクリートが二人の元へと降り注ぐ。さらに、ここにあったガスに引火したのが、大爆発。
歩みかけた足を止める。
少し面倒くさそうに頭をかく仕草を見せた化け物は、近づいてくるパトカーのサイレン音を聞いて焦り始めた。
「ちっ、もう増援が来やがったか…!流石に、もう無理か。ったく、ないよりマシとはいえ、こんな低品質なヒトプレスで俺の評価が下がらなきゃいいがなー…」
渋々といった様子で、舌で巻いた警官達…化け物がヒトプレスと呼んだそれらを回収すると、再び化け物は崩壊した瓦礫の山を見た。
「ま、死んでるだろうが、念の為ってな」
立ち去る寸前、念入りに瓦礫の山へと破壊光弾を放った化け物は、パトカー到着を前にしてその場を立ち去った。
「はあ、派手にやったせいでここの警戒も上がってるか。潮時だな…」
すぐ後にパトカーや救急車が現場に集い、一騒動となった事件だ。
この時、幸いにも瓦礫の山同士が見事なバランスで支え合っており、中の二人は手術や縫合が必要な怪我は負っていたが無事生還することができた。
事件は二人の口によって上層部へと伝えられたが、化け物が人をさらい、警官を次々と消していった等、信じられる筈もなく極限状態での錯覚だと見做され、取り合っては貰えなかった。
記録装置による映像もあったが、大雨の影響で視認性が悪く、根拠とはならなかったのだ。
本来ならば、そのまま鬱屈とした感情を抱えたまま、通常通りの職務に戻る、というのが普通の警察官であろう。
実際に、一人は無力感に苛まれながらもあの存在を無視することは出来ず、職務の傍ら化け物の情報を探るようになった。
しかし、もう一人は違った。
(あの怪物は、おそらくまだまだ世間に潜んで人を襲っている…。何のためにこんな知識があるのか、こんな平和な世界に必要なのか疑問だったが、この知識はこの時の為だったのか。この世界には、“仮面ライダー”が必要だ…!)
この警官。
こことは異なる世界で日本人として生まれ、育ち、そして若くして亡くなった。そして、再びこの世界に
その知識とは、GENERATIONシリーズ――通称Gシリーズと呼ばれる装備に関するものだ。
Gシリーズとは、特撮作品『仮面ライダーアギト』に登場する仮面ライダーG3、及びにG3-Xを代表としたもので、同作品内では超常的な力で肉体を変性させるライダーが主なのに対し、人が作り上げた強化外骨格をただの人間が纏う仮面ライダーだ。
また、ベルトやデバイスによってどこからともなくスーツを展開するような代物ではなく、あらかじめ用意したスーツを鎧のように纏ってから出撃するという、長く続く仮面ライダーシリーズにおいてもかなり珍しい部類のライダーである。
最初はこの知識に悩まされ、怪人が現れるような世界なのかと思っていた味川だったが、日々健全に過ごし、大人になっても特に事件が起きなかったため、普通の人間として、警察官として過ごしてきた。
知識があるとはいえど、必要に迫られなければ作る気にもならない。そして知識を持っていることとと、実行するかどうかは別の話。
ましてや、Gシリーズのスペックは人間のそれを遥かに超えており、そんなものを無闇に作ることなど普通はしない。火炎瓶を例に挙げれば、比較的簡単に作れる他者を傷つけることが可能な投擲物だが、作れるからといって用もなく作る人間はいないだろう。
休日の趣味程度に、スーツの上辺を軽く組み立てることはあっても、本格的に必要な事態に陥ったことはない。
故に半ばでそれを放棄し、一人の警察官として市民の平和を守っていた。
しかし、味川はその判断を激しく後悔した。
怪物はいたのだ。自分たちが気づけていないだけで、恐るべき力を持ち人を襲う怪人は潜んでいたのだ。
目の前で親しい同僚や上司を失ったことは勿論、これまでの失踪事件も含めれば、かなりの数の人間が犠牲になっている。
ここは味川の生まれ育った町だ。当然、行方不明になった児童は普段パトロールで見かける様な子供であったり、見知った人々の子供であった。
もし、もしあの時。G3を身に纏っていれば、あの怪人に対抗し、仲間を救うことも、奴による未来の被害を防ぐことも出来たかも知れない。
実際のスペックは知らないが、たらればは尽きない。少なくとも、あの場で超人的な力を持つ怪人に対抗できる手段を知っていたのは自分だけだった。
そう思えば思うほど、腸が煮え繰り返る様な憤怒の感情が自信に向けられる。こんなざまで、何が市民の生活を守る警察官だ。
そう、強い自責の念に駆られた味川の次の行動は早かった。
療養期間を経て退院した辛川は、再び上層部へと怪人の危険性と対策を呼びかけた。しかし当然やすやすと信じられるものではなく、組織としてのしがらみ故に捜索すらままならないと悟って退職。
その後は私財を合間合間にネットで不審な失踪事件や怪物についての情報を集めながら、Gシリーズの開発に着手する。
いかに知識があるとはいえ、専門設備もなければ人手もない。怪物の存在を信じる協力者はいても、この様な装備の開発など公的に認められるものではなかった。
しかし、完成形を知っているというちょっとしたズルをふんだんに活用して、2年の歳月をかけてようやく基本形と呼べるものが完成した。
いわば、G3-
本来のG3に比べれば出力や装甲に劣るものの、紛れもなく人の域を超えた力。それを纏って、対怪人を目標とした過酷な訓練を積み重ねた。
これも、流石に銃火器の類を開発することは不可能だったために、肉弾戦で対処することを想定したからである。
武装は電磁警棒ガードアクセラーのみ。
はっきり言って、仮面ライダーアギトという作品を踏まえて見れば、これでの戦闘など無謀極まりない。しかし、怪人を放置することなど出来ない。そして、信じてくれた人や、未来の犠牲者を減らすためにも、怪人の存在を証明しなければならない。
その義務感のまま、行方不明者や失踪者の多い地区を駆け回り、とうとうその時が訪れた。
「っ、監視ドローンに何かが映り込みました!……これは、腹から、舌が……味川さん達の証言と一致します!」
「何っ…。まさか、本当にいるのか…!?」
「え、ええ、あの一瞬の内に人が小さなアクリルスタンドのように…。外見を送ります。味川さんは出撃準備を!」
今はまだ、Gトレーラーなどという便利なものは存在しない。持ち運び可能な組み立て式の簡易装着装置をどうにか設置して、後は全て手作業で強化外骨格を纏う。
ガードチェイサーなどというスーパーマシンもない。あるのは、廃車寸前だった白バイを改造して、さまざまな記録装置や収納場所を作っただけの最低限の機能を備えたバイクだけだ。
しかし、味川は泣き言を言うでもなく、その人相を相方と共に焼き付け、現場へと駆り出したのであった。
「氷室さん、お願いします」
「分かりました」
作戦としては、G3-Pをまとった味川が近くに潜伏し、協力者の氷室が該当する人物に接触して怪物であることを露呈させる作戦だ。
氷室にかなりの危険が伴うが、それを承知で組んでくれたのだ。
そして、その人物を見かけた。いかにもといった挙動不審さで、周囲を見渡し震える様は、まるで禁断症状でも起こしているかのようだった。
「……よし、行ってきます」
「気をつけて」
そして、人通りのほぼない道に差し掛かったところで、氷室が声をかけた。
「あのー、すみません。私自警団のものでして…。この辺りで強盗事件が発生しまして、聞き込み調査をしているんですけども…。ちょっとお時間よろしいですか?」
「は?は、はい?強盗事件?…い、いや!今急いでるからまたあとで…」
その男は酷く焦ったようにその場を立ち去ろうとするが、やはり氷室には止められる。
「いやー、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいですから!」
「し、し、知らない!俺は強盗事件なんて何も知らないから!」
「へぇ…。ところで、犯人はどうやらお腹に特徴があるみたいでして……。よろしければ、服を捲って見せてもらったりとか出来ませんかね。出来なければ、残念ですが警察に通報させていただくのですが…」
はっきり言って、かなり無茶苦茶だ。普通の人間であればこの様な態度を取られれば、逆に警察を呼んで事情を説明しろと訴え返す程の暴論だが、逆に腹に一物抱えている存在にとっては、その宣言は厄介に映るのであろう。
だからこそ、その発言に乗じて始末を試みようとする筈だ、というのが短いながらに怪物の独り言を聞き届けた辛川の作戦だ。
「し、仕方ないですね…。ほら、めくりますからよーく見ておいて下さい。違うって分かりますから」
そう言い放つ男の顔は、先ほどの焦ったような顔からは想像もつかないほどに余裕が生まれていた。おそらく、この環境で口封じが可能だからであろう。
よく見てくれと言い、勢いよく服を捲っては直ぐ様目の前の氷室を襲わんと舌が動き出す。が、氷室はそれを見越していたため転がって躱す。
「なっ、何!?」
「っ、本当に腹に口がある!…ば、化け物!」
氷室が転がりながら叫ぶ。その言葉に、最初から疑われていたと悟った怪物は、最早隠すことなく腹を見せびらかし、腹の装置を引き抜くと本来の姿へと戻った。
「ち、畜生、最初っから疑ってやがったな?だが、人間風情に何が出来る!?」
その怪物の本来の姿は、まるでナマコを歪めた人型の様であり、禍々しい牙の生えた口と不気味な風体は人の恐怖を煽るのに十分だった。
「う、うわあああ!」
「ははははは!逃がすわけねえだろ!」
慌てて逃げる氷室に気を良くしたのか、先ほどとは打って変わって嗜虐的な態度を見せると、走り、角へ曲がろうとする氷室へと腹の舌を差し出して…。
「あああ来てます来てます!…味川さん!」
「ナイス誘導です!」
「んなっ!?ぐぎゃっ!??」
道の角に追いすがる舌をたたき落としたのは、そこで待ち構えていた味川である。
あくまで警棒であるため、残念ながら切断することは叶わなかったものの、それでもG-3Pの強化された腕力と、強い電撃が舌へと走り悲鳴を上げさせる。
そのまま驚く怪物の目の前へと、ガシャンガシャンという機械音を響かせながら踊りだし、向かい合う。
「な、何だテメェは…!?」
「……俺は、G3」
「G3ィ…?何なんだよ一体!」
「お前たちのような怪物から、人々の自由と平和を守る、仮面ライダーだ!」
そう見栄を切ると、電磁警棒を教範通り構えて走り出した。
こうして、歴史上初のグラニュートと人間の戦いの火蓋は切って落とされたのであった。
Gシリーズの知識や技術のみを持って生まれた転生者。最初はそれが必要な世界なのだと恐々としていたが、成人してなお平和な日本に、第二の人生を楽しむことに決めた。
地元で警官になり、みんなを守る警察官として生きていた所に、グラニュートによる連続失踪事件が発生。
そのバイトがボロを出したせいで警察に尻尾を掴まれることとなり、結果、追い詰められたグラニュートが証拠隠滅のため追いかけた複数の同僚らを喪ってしまう。
それにより、この世界の脅威を認識した味川は警察組織を抜け、頭の中にある「仮面ライダー」を作ることに注力し始めた。
G3-
身長 192cm
体重 130kg
パンチ力 0.9t
キック力 2.3t
ジャンプ力 7m(ひと跳び)
走力 12秒(100m)
専用武装
ガードアクセラー
味川に備わっていたGenerationシリーズの知識から作られた、G-3の初期型。材料や時間の関係から、本来のG-3に比べればスペックや一部機能が低下している。
要はマイルドよりは強いが、G-3には及ばず、装甲もG-3より薄い。
外見的な違いはあまりないが、あくまでプロトタイプということもあって、青色の塗装はされておらず、更に警察組織として開発したわけではないため左胸に桜の代紋はない。