ナルト「三年ぶりだってばよ!」 サクラ「ヒナタならカレシ出来たわよ?」 《NARUTO -ナルト- 異彩伝 ~新たなる運命~》   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《前編》

「三年ぶりだってばよ」

 

 木漏(こも)れ日の柔らかな光が、自来也との三年に及ぶ永き修行の旅路を終えたナルトに降り注いでいる。

 木ノ葉隠れの里の入口に足を踏み入れたその瞬間、彼の心はかつて吸い込んだ懐かしい香りと温かな風情に抱かれ、まるで遠い記憶の中へと誘われるかのようだった。

 花々が風に揺れ、そよ風とともに(ほの)かな花の香りが静かに流れてくる。

 

「何もかも……懐かしいってばよ」

 

 遠く(そび)える崖に()られた歴代火影たちの岩彫刻(ちょうこく)

 岩肌に刻まれたそれらの、(おごそ)かでありながらも優しい眼差し。かつてこの里を支えた偉大な人々の想いを今に伝えているようだ。太陽の光を反射する火影岩は、温かくも荘厳(そうごん)な輝きを放っていた。

 

「(未来の火影が帰って来たぞぉっ!!)」

 

 ナルトは、岩彫刻を無言で見つめながら、心の中で自らの夢を高らかに。

 三年の修行で(きた)え上げられた身体と、師から与えられた数々の教え。

 柔らかな陽光が、目を輝かせる彼に温かく降り注いでいた。

 

 

 

 木ノ葉の里を何とは無しに練り歩くナルト。

 遠い記憶の向こう側にあった、温かな情景が一つ一つ(よみがえ)っていく。懐かしさから来る安心感で心が満たされていく。

 

「ははっ! 昔と全然かわってねぇ」

 

 そんな中、人混みの雑踏(ざっとう)を見つめていたナルトは、ふと視線を留めた。

 決して忘れることない面影。

 

「……! サクラちゃん、サクラちゃん!」

 

 人混みの中、道端でウィンドウショッピングに興じるその姿。

 はつらつ、かつ鮮やか。

 ナルトの瞳はその人影に釘付けとなり、胸の奥に秘めた懐かしい記憶が、一気に鮮明に蘇るのを感じた。さながら春の訪れのように。

 

「……ナルト? 本当にナルトなの?」

 

 春野 サクラ。

 そう、かつて同じ下忍チーム:第七班に所属した、そして何よりナルトの初恋:サクラその人であった。

 

「サクラちゃん、久しぶりだってばよ!」

 

 サクラは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにその瞳に温かい笑みが広がる。

 桜の柔らかな花びら。ナルトの目に映る彼女の姿はまるで春の妖精のように美しく、可憐(かれん)である。

 ゆっくりと歩み寄り、立ち止まる二人。

 

「おかえり。いつ帰って来たの?」

 

「たった今だってばよ。へへっ」

 

 ナルトの修業談やサクラの近況、想い出話。

 二人は、里の散策路に(たたず)む小さな茶屋に足を運ぶ道中、そしてその店内で、言葉を交わし合う。

 かつて第七班の任務帰りや、時に任務途中のずる休みに立ち寄っていた所縁(ゆかり)の茶屋だ。

 

「そういえばここに来るまでに思ったんだけどさ、アンタ、あたしより背高くなったんじゃない?」

 

 今彼女の目の前にいるナルト。

 三年前のかつて、サクラがナルトに垣間見ていた無邪気さは未だ内包しつつも、勇ましさや確固たる意志を漂わせているように彼女には思えた。

 

「ん? え、ホント、サクラちゃん? あ、ホントだ」

 

 しかしやはり、あどけなさも残している。

 照れ笑いするナルトに、サクラは穏やかな瞳で見つめながら、静かに(うなず)いた。

 

「(見ない間に随分(ずいぶん)(たくま)しくなっちゃって……)」

 

 茶屋の窓から(のぞ)くのは、遠く連なる山々。かすかに聞こえる、小川のせせらぎ。

 穏やかな空気の中、サクラはナルトが里を離れている間に起こった出来事を、静かな口調で語り始めた。

 

「そうねぇ~、イノは前よりも穏やかになったわね。少し洗練されて大人のお姉さんぽくなったっていうか――」

 

 ナルトが里にいない間に、色んな出来事があったという。

 

「シカマルは……相変わらずクールだけど、なんだか以前よりも頼もしさも感じるわね。責任感みたいなのが、身に付いたのかしらね?」

 

「え、あのシカマルが? うそ~っ?」

 

 ナルトの同期達は時に助け合い。また時に自分自身と静かに向き合うことで、それぞれの形で経験を積み重なっていったという。

 

「嘘じゃないわよ。なにせシカマル、今じゃ実質の部隊長とかもやっちゃってるのよ」

 

「マジか……信じられねってばよ……あのやる気ゼロ男が……」

 

 ナルトは、同じ時を師匠との修行の旅路に生きた自分自身と重ね合わせながら、熱心にサクラの話に耳を傾けている。

 ひそやかにささやく風の音が、三年前の仲間たちと過ごしたかつての日々を、そっと想い起させる。

 過ぎ去りし年月と、日常の話が(から)み合いながら、二人の言葉が紡がれていく。

 

「変わったと言えば……」

 

 かつて過ごした日々への郷愁(ごうしゅう)と、成長した仲間達に再会することへの期待が、ナルトの心の内で複雑に交差する。

 

「――ヒナタ、カレシが出来たのよ」

 

 そんな穏やかな空気が流れる中、サクラの口からそんな言葉が(すべ)り落ちて来た。

 

 

 

「え……?」

 

 ナルトの心臓の鼓動(こどう)は一瞬にしてその速度をあげた。

 

「いやだから、カレシが出来たのよ、ヒナタに」

 

 ナルトは、思わず声を詰まらせる。目の前の景色が少し(かす)んだように感じる。

 

「(でもヒナタってば俺の事を……)」

 

 心に一抹の(さび)しさ。

 ヒナタは、いつも自分に温かい視線を向けてくれていた。彼は気づいていた。彼女が自分に好意を向けてくれている、と。

 

「で、でもヒナタって内気でだいぶ引っ込み思案だったってばよ。カレシが出来たとか、ちょっと信じられねぇっていうか」

 

 『あの柔らかくも優しさに満ちた視線は自分にだけ注がれている』と、心のどこかでずっとそう信じてきたのだ。好意を持っているサクラに無碍(むげ)にされた時も、どこかその事実がナルトの心を励ましてくれていた。

 信じたくなかった。

 

「ホントだってば。ちょっと待ってなさい」

 

 サクラはポケットから手帳を取り出す。

 

「ほら、これが証拠」

 

 そして手帳に挟んでいた写真を取り出すと、それをナルトに手渡した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……」

 

 晴れ渡る夏の日差しの中、紺碧(こんぺき)の海をバックにした砂浜でのツーショット写真だった。

 かつてナルトが知っていた内気な少女はどこへその。

 写真に写るヒナタはあろうことかビキニ水着を身に着けている。そしてその隣にはヒナタの恋人と思しき青年の姿。

 穏やかな笑みを浮かべる青年とは対照的に、少し大胆な表情を浮かべ恋人に抱き着くヒナタ。

 陽光を受けて、二人の瞳は輝き、晴れやかな未来を見据えているかのような、希望(あふ)れる青春の一ページ。

 

「まさしく……アオハルだってばよ」

 

 甘酸っぱい在りし日の想い出が、まるで泡のように弾け(はかな)く消え去っていく。

 

「私さ、ヒナタはアンタのこと好きだって思ってたからビックリしたわよ。(だま)されてんじゃないかと思って、話聞いたり、お相手に会ってみたりもしたんだけどさ」

 

 『まあ……お似合いのカップルって感じだったわ。まさしくリア充爆発しろっ!って感じ』

 やれやれといった様子で両手を掲げて首を振るサクラ。

 

「ただただ驚くばかりだってばよ。あのヒナタが……」

 

 こんなにも輝いているなんて。人生を謳歌(おうか)しているなんて。

 

「思えば時とともに、人ってこんなにも変わっていくのよね。アンタと話してて、しみじみそう思う」

 

 茶屋に降り注ぐ柔らかな光。静謐(せいひつ)な空気。

 

「時の流れは決して止めることは出来ない。でも……その変わりゆく景色の中には、きっと新たな夢や希望があるんじゃないかって、私はそう思う」

 

 写真に映る幸せそうなヒナタの笑顔。

 過ぎ去りし日々の記憶。一体この写真は何時撮られたものなのだろうか?

 今この時のように、これからも仲間たちの近況を知り、胸に痛みを感じることがあるのだろうか?

 

「……サクラちゃんの言う通りだってばよ」

 

 ナルトは内心に沸き起こった波をひとつひとつおさめ、受け入れていく。

 ヒナタとその恋人の写真は、自分と近しい者の幸せの(あかし)として、彼の心に深い印象を残した。

 

「おめでとう、ヒナタ」

 

 変わりゆく者達を知り、見つめながら、自分自身もまたより強い決意のもと、未来へと歩み出す覚悟を静かに固めるナルトなのであった。

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