砕けた鉄の拳は自由な海を切り拓けるか   作:ハグルマンJP

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友人とのワンピース談義に花が咲いて書きたくなりました
よろしくお願いします


心折れた海兵

 「ガープ中将、申し訳ありませんが、海軍を辞させていただきます。」

 

 

 ガープ中将に与えられた一室にて彼の直弟子の一人が辞職の宣言をしたのは、海軍大将「赤犬」ことサカズキと、海軍大将、否『元』海軍大将「青雉」ことクザンの決闘に決着がついてから一週間の事であった。

 

 「……ガープ中将?」

 

 だが、彼の言葉を明確に向けられているはずの海軍の英雄、ガープは全く耳に介さず、ばりばりと煎餅を貪っている。そんな様子に呆れたように、彼は呼びかけるが、それでもガープは貪るのをやめない。

 

 「……ガープさん、これでいいですか?」

 

 「おぉ、なんじゃ。来とったんか。」

 

 「いや、前から言ってたでしょ。大事な話があるからこの日この時間に執務室でって!アンタすぐふらふら~ふらふら~っとどっかに行くんだから!」

 

 ばん、と執務机を叩いて詰め寄る海兵らしき男は、本来羽織るべきはずの「正義」のコートを脱いで、普通の黒シャツに濃紺のスラックスといった風貌であった。

 

 「わはははは!ごめん!」

 

 「ごめんじゃ済まんのですよ!アンタがどれだけ海軍の中で重要なポジションか分かっとんのか!……って違う!」

 

 海兵は頭をばりばりとかきむしったあとに、神妙な面持ちでもう一度口を開いた。

 

 「中将呼びしたのは謝ります。けど、これは私が最後に海兵としてやる仕事なんで、きちんとやらせてください。ガープ中将、本日をもって私は海軍を辞めます。」

 

 「……聞きとうないな。」

 

 「ワガママ言わないでください。というか直属の上司がアンタなんだから仕方ないでしょ。聞いてくださいよ。」

 

 ガープは、煎餅を貪るのをやめて、彼のトレードマークといえる笑顔をひっこめて、静かな面持ちになっていた。それを見て、海兵もはぁとため息を突きながらさらに話を続ける。

 

 「長らくお世話になって、不義理を働いてるってことは承知してます。」

 

 「そういうことじゃないわい……お前も、クザンと同じ口か。」

 

 「……そういうことです。私にはもう……背負う正義がわからない。前に言ってたでしょ、『迷う奴は、弱い』。今の私じゃ足手まといにすらなりゃしない。……ここにいたってしょうがない。」

 

 肩を落として目線を下げた海兵に、ガープは口を開く。

 

 「海軍の若きホープ、『鋼拳』のソル・D・ジーク准将……二階級特進で中将になったんじゃったか。」

 

 「中将の打診は勝手にされてただけで、私はまだ認めてませんよ。アンタが無茶通して居座っているとはいえ『中将』だ。そんなところに立てるなんて思っちゃいない。」

 

 「なぁ……お前まで辞めることないじゃろう……ずっと昔から……わしと同じかっこいい立派な中将になりたいと言っておったではないか……」

 

 ガープが纏う雰囲気、それは落胆だった。意気消沈といってもいいかもしれない。ジークにとって、ガープは元気の象徴。そのガープが明らかに気力を削がれている様を見ると、彼も引きずられるようにして気勢が弱まっていく。だからだろうか。海兵として引き締めたままでいるための力が抜けて、ずっと昔、彼が真っすぐで光り輝いていた眼差しを持っていたころの口調がよみがえってきた。

 

 「『俺』はやっぱり……割りきれねぇっすよ……嫌なものも一杯見てきた……守るべき市民が、天竜人に目をつけられてんのに手出しは出来ねぇわ、非加盟国に住んでるってだけで罪のない普通の人たちが踏みにじられてるのを見て見ぬふりしなきゃいけねぇわ……海兵が守れてねぇ場所をその旗と力で守ってたあの『白ひげ』を討ったことで多くの人民が犠牲になった……もちろん理屈は分かってますよ、理屈は。ロジャーの息子は生かしていたら最大の厄ネタになることは間違いない。彼がどういう考えで、どういう生き方をしていてもだ。だが……どうも割り切れねぇんだよ、全部。あの戦争で、俺も生きるか死ぬかの瀬戸際で、我武者羅に戦ったから、今更こんなこと言ってもしょうがないかもしれない。昔、なんとか飲み込んだことを蒸し返してもどうしようもないかもしれない。だけど……」

 

 彼はいつの間にか、拳を固く握って泣いていた。ガープは彼の涙を見て、肩を落として優しく言った。

 

 「もうええ。クザンがお前をわしに会わせた時点で、お前もクザンと同じようなもんじゃとはわかっておった……お前の気性では、サカズキの下で仕事はできんとも思う……」

 

 「すんません……ホント、情けねぇ……」

 

 床に手をついて謝るジークに、ガープはそっと寄り添っていた。

 

 「ええんじゃ……あの戦争で、いろんな者がきちんと物事を見つめ始めた。良くも悪くもな……海軍というこの組織も、それに応じて変わっていく……お前が、その中で、『迷う』ことを選んだことを……ワシは、誇りに思う。」

 

 ジークが見上げたガープの顔は、笑っていた。いつも以上の、満面の笑みで。

 

 「お前はまだ若い!若いお前の未来を守ってやるのが老兵の仕事じゃ!ここにいたくないなら、この広い海のどこかに、お前がお前らしく生きられる場所もあるじゃろう!見つけてこい、愛弟子!!!」

 

 「ありがどう……ございばす……!こんな俺でも……愛弟子と……呼んでくれで……!」

 

 彼が、海のように心が広く、自由で、破天荒な男の腕の中で泣き止むまでは、いくばくか、時間を要した。だが、誰の邪魔も入らなかった。たった二人だけの、そんな時間だった。

 

 「ぶわっはっはっは!ガキみたいに泣きおって!!」

 

 だが、彼が泣き止んだ頃には、ガープはいつものように腹を抱えて笑っていた。ジークは笑われた事に腹を立てて、大きな声で抗議する。

 

 「だーッ!掘り返すな!こっちは真剣だったのに!!!!」

 

 「ぷ……ぷぷ……昔の修行で泣いとったころを思い出したわい。」

 

 「もういいでしょそのことは……とにかく、私はやめます!いいですね!」

 

 「わかった。じゃが、中将昇格は受けとけ。なんだかんだ元中将っちゅう肩書は使えるからの。」

 

 「一日も中将として勤務してないんですけど……」

 

 「ま、ええじゃろ。わしが色々許されとるんじゃし。」

 

 「それはアンタだからでしょ……」

 

 「ぶわははは!まぁそうじゃけど!じゃが、お前だってわしほどじゃないが功績上げとるし。センゴクには話をつけておく!センゴクとサカズキの交代の直前で良かったわ!わははは!!!」

 

 「自由だな~ホント……」

 

 ジークは、今も憧れの英雄の姿に、自然と笑みがこぼれていた。

 

 「では、改めて……ソル・D・ジーク中将であります!私は、本日をもって、海軍を辞させていただきます!ガープ中将に教えていただいたこと、決して忘れません!今まで、お世話になりました!!!!」

 

 びしりと、敬礼をする。海兵として、ガープに師事したときに一番最初に覚えなおしさせられたこと。乱れぬ様に敬礼する海兵の姿こそ、市民が見て安心するシンボルの一つだということを、心に刻みつけた所作を、最後の瞬間にもう一度作った。

 

 「うむ。長年の働き、御苦労じゃった!……体をいとえよ、ジーク。」

 

 「ハッ!失礼いたします。」

 

 振り向いたとき、翻るコートはなかった。けれど、ジークの両肩は、まだどこか重かった。

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