幽霊って世知辛い。   作:パスタは旨いぞ

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生前だって世知辛かった。

一通り店を見て回って、日が傾き始めたころ。

夕飯の買い物客で混雑し始めた商店街を抜け、夕暮れの坂道をくだる。

 

「ふぃー、味わった味わった。」

「満足感ありますねー。」

 

空の端にかかっていた雲が、だんだんとオレンジ色に染まっていく。風が、さっきより少しだけ涼しく感じられた。

 

「次はどうするんです?」

「どうしようかなー。」

「行き当たりばったりってことですね。」

「なにさ、不満?」

「悪いとは言ってません。」

 

あてもなく歩いて、やがて、小さな公園にたどり着く。

子どもたちがちらほら遊んでいて、帰り支度を始める親の声が遠くに聞こえる。

滑り台のてっぺんから大声で笑う子や、ブランコの順番でもめる兄弟。

伸びる影に、僕らの物はない。

幽霊には影がないようだ。光すら、僕らの体を通り過ぎているんだろうか。

 

「……なんか、懐かしいですね」

「うん。小さい頃、たまにこういう時間帯まで粘って遊んでたなぁ」

 

公園の中に入る。随分と久しぶりのような、そうでもないような。

ふたりでブランコに腰掛ける。風に揺れて、錆びた鎖が、きぃ、と小さな音を立てた。

 

「……いろいろありましたね、今日は」

「ねー。まさか鯛焼きでも中華まんでもケンカすることになるとは思わなかったよ」

「味覚のセンスがないですよねー。」

「はい失礼~。まだどれも決着してないからね~」

 

くだらないやり取りが、すっかり板についてきた。

戯れに足を揺らしても、ブランコは動かない。腰かける、というよりも腰かける”ふり”でしかないな、と思った。

 

 

「……どうして先輩は、僕に声をかけてくれたんですか?」

 

ずっと疑問に思っていたことだった。先輩はしばらく黙って、走り回る子どもたちを見つめていた。

 

「……うん。まあ、ね」

「……」

 

「寂しかったんだよね、わたし。」

「――あ」

 

「生前ね、私ちょっと病気がちで。ずっと病院のベッドだったからさ、外に出るだけで新鮮でね。幽霊になった今のほうが、なんか、自由って感じがするんだよ。不思議だけど」

 

先輩は笑った。でも、声はほんの少しだけ小さかった。

 

「家族にはすごく心配かけたし、迷惑もかけた。だからこそ、この自由が嬉しかったんだけど。やっぱり、話し相手がいないって、ちょっときつくてさ。

そんな時に君を見つけて。びっくりしたよ。もう死んでるのに死にそうな顔してたから。」

「…どんな顔ですかそれ。」

「そりゃあ、もう、こんな顔だよ。」

 

そういって、先輩はくしゃくしゃな、変な顔をした。あんまりにも酷くて、ちょっと笑ってしまった。

 

「でも、思ったより元気っぽくて安心したよ。ほんとに。むしろ元気すぎるぐらいだったけどね。」

 

ぱっと明るい声に戻して、先輩は笑う。笑って、ちょっと気づかわしげにこっちを見た。

 

「もし、良かったら、だけど。何があったのか、教えてくれない?」

 

「正直、碌になにも覚えていないんですけどね。」

 

僕はブランコの鎖を見つめながら、そう言った。

すると、先輩はすこしだけ、首をかしげる。

 

「え、ほんとに?」

「はい。気づいたら、ここにいて……それで、先輩に会ってました」

「事故とか、病気とか、そういうのも?」

「多分、どれかだったんでしょうけど、いまのところは何も。」

 

ぽつぽつと話すうちに、先輩の顔からわずかに真剣さがにじむ。

けれど、無理に聞き出そうとはせず、黙って聞いてくれていた。

 

「……ただ、」

「うん?」

「不思議なんですよね。先輩と出会って、ものすごく、ほっとしたんです。」

「え?なんで?」

 

「先輩が、“はい幽霊ー”ってテンションで何でもないみたいに話しかけてくれた、ってのもあるんですけど。」

 

「ふふ。普通に話したつもりだったけどなー」

 

「うまく言えないけど……きっと、先輩と出会えて、救われたんです。あのまま一人だったら、どうなっていたか。本当に、ありがたかったんです。」

 

先輩が、一瞬だけ目を見開いて、それから、そっと笑みを浮かべた。

 

「ずるいなぁ、そういうの。

 じゃあさ、後輩くん。これからも、よろしくね」

「ええ。こちらこそ。」

 

風が、錆びた鎖を揺らす音だけが、小さく響いた。

 

「なんとなく、思い出したくない、って気持ちはあるんです。覚えていないくせに、変ですよね」

 

自分で言っていて、少しおかしくなってくる。

でも、それが本当の気持ちだった。

 

「ううん、変じゃないと思うよ」

先輩はやわらかく笑った。

「きっと、思い出す準備がまだできてないだけ。そういうことってあると思う」

「……だったら、少しずつ、ですかね」

「うん、少しずつ、でいいよ。いそがなくていい」

 

そう言って先輩は、夕焼け空を見上げた。

まるで、今日という日の終わりを確認するように。

 

「……じゃあさ、後輩くん」

「はい?」

「また、明日もいっしょに、歩こっか」

 

その言葉に、僕は思わず吹き出しそうになった。

 

「歩くんですか? せっかく空、飛べるようになったのに。」

「あー、たしかに。でもさ、ゆっくり歩くのも悪くないじゃん?」

「まあ……それも、悪くないですね」

 

心地よい沈黙が、あたりを満たす。

沈んでいく夕日が、公園の砂に長い影を落としている。

やがてそれも、ゆっくりと、闇の中に溶けていった。




書きたい場面が多いのに、全然話が進まないぞ!楽しいな!

センスあるタイトルにできる人憧れます。書き貯めしてまとめてつけたほうがいいのでしょうか。
文頭の空白、ないほうが読みやすいのかもしれませんね。読む側の時は気にしていなかったのに、気になるものです。
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